34.急変
毎度閲覧ありがとうございます!
胃腸炎と過呼吸で丸一日何も出来ず、貴重な週末を無駄にしましたがなんとか投稿できました(笑)
「え、と……あの……」
視線が泳ぎ、落ち着かない手元がエプロンの裾を握る。いつもは切れ味鋭い真白のツッコミがない。というか、見たことがないほどたどたどしくて……俺のせいで悪いなぁ、とは思うのに、なんだかこう、むずむずする。
「……俺も、ごめん。そういうの、颯真が避けてるのはわかってたんだけど……別に、俺の……が、頭に浮かんでも、そのくらい、どうにでもできるもんだと、思って……うかつだった」
うっ。なんかもう、ほんと、どうにもできないメンタル脆弱な相方で申し訳ない!自分でもびっくりがっかりしてるんだよ!
「あの、ほんと、俺が悪いだけだから。なんか他のもので上書きっていうか、気を逸らすとか、色々やってはみてるんだけど……」
「そ、そっか。そんな苦労……してるとは、思わなかった」
「うん……こう……考えないようにしてるのが逆効果な気はしてるんだけど……うまくいかなくて……」
沈黙。
お互いの顔が見れない、気まず過ぎる時間が続く。
ううっ、きっかけは真白の爆弾だけど、俺だよな、原因は。どーしよ。どーすんだこれ。
……ていうか想定外なんだよ真白のリアクションが!
「こう、怒られるというか、呆れられると思ってた……」
「え」
なんでそこで意外そうな反応するんだよ。自分で言ったんだろ。
「いや、さっきもこう、なんで?とか、そういう反応になるだろうって言ってたし……」
「あ……うん……それ、は、そういうのも、あるんだけど……」
そりゃそーだよな。今までこんだけ一緒にいて、何にもなかったのに。何でかなんて、俺にもわからん。
……で。それもあるんだけど、それだけじゃないと?
「……びっくりして」
言い淀んで、多分言葉を探して、出てきたのがそれって。小学生か。
……なんかさぁ、こう、真白っぽくないんだよ、その反応が。いつももっと頭良さそうっていうか冷たいって言うか、そういう感じじゃん。こんなんなんか、言いたくないけど、ちょっと……可愛い、かもしれない。いやこの可愛いは子供っぽいって意味であって、あれじゃない。あれってなんだ。
「あの、アイコラとかあって、あれは嫌だったけど、そういう趣味の人だからって、納得……できたんだけど。颯真は……俺には、そういうの、ないと思ってた、から……」
ますますはっきり、頬が染まっている。いや、あの、そんな反応されちゃうと、俺も困る……。
ていうか、アイコラおじさんと同列だと改めて自覚してしまった。
「ご、ごめんな?やっぱ嫌だよな?なんとか、なんか方法、探すから……」
「嫌じゃない」
えっ。
頬が赤いだけじゃなく、瞳が潤んで見える真白が、俺に視線を向けていた。
ばちりと、視線がぶつかって、火花が散ったように思えた。
嫌じゃない?俺に、そういうモノを向けられても?
……受け入れて、くれる?
どくどくと心臓が鳴る。これは高揚、なんだろうか。
「……っあ、まぁ、想定どおり?そんなに、イヤってほどじゃないから、気にすんなって話!」
急にいつもの調子でまくし立てた真白は、くるりと背を向けてキッチンに足を向けた。
「とりあえず飯食いながら、どーするか決めようぜ。今日の配信乗り切らないとな!」
「……ああ……」
さっきまでの、狼狽えて、恥じらっているように見えた真白は、幻だったんじゃないかと思うような変わり身の速さ。圧倒された俺は気の抜けた声で返事をして、真白の背中を眺めることしか、できない。
このままでいいんだろうか。真白の言う通りにして、気にしてないって、それだけ受け取って……なんとか二人で配信乗り切って、それで、いつもどおりに戻って?戻れるのか?
戻れるわけねーだろ。
なんだよ、俺にそういう目で見られて嫌じゃないって。そういうの、俺からはないと思ってたからびっくりしたって。
それじゃなんか、まるで。
……望んでた、みたいな。
そこまで考えて、今度は俺の顔が真っ赤になったのを自覚して、顔を背けた。いや、そもそも真白が背中向けてるから、見られてるわけじゃないんだけど。でもあまりにも、その想像が恥ずかしくて、真白の方を向けない。
それこそ俺に都合がいいと言うか、自意識過剰な考えだと思う。そんなわけないって思う、のに、そうかもしれない、が捨てられない。
落ち着け。
真白はただ嫌じゃないって言っただけだ。それ以上は何も言ってない。好きだとか嬉しいとか、そんなこと一言も言ってない。
……でも、エロい目で見られても嫌じゃないってことは、そういうことじゃないのか?
顔も知らないアイコラおじさんは嫌だけど、俺ならいいって、そういうことじゃないのか?
「……わっかんねー……」
真白の気持ちも、もしこの想像が当たってたとして、どうすれば良いのかも。
十分も経たないうちに、豚キムチ丼大盛りと味噌汁が眼の前に置かれた。
料理して配膳までしてくれた真白に、動揺は見えない。いつもの真白だ。
「ほらよ。コメント返し終わったたか?」
そうだな。いつもの俺なら、SNSにコメントを返して時間を潰していただろう。でも今はそれどころじゃない。
「いや、まだ……」
「じゃ飯終わったらレス……の前に、これ撮る?メニュー聞かれてただろ」
「あぁ、うん」
そうだな、聞かれてた。真白が作ったもの、見たい人もいるよな。料理してる姿だけ見て終わりってのも……。
「だめだ」
「は?」
だからぁ!裸エプロンとか言われたの思いだしちゃったんだよ!お前は何であの会話のあの態度からうってかわって平然としてんだよ!
頭を抱えた俺に、おおよそ何が駄目なのか気付いたのだろう。真白はため息をついて向かいの椅子に腰を下ろした。
「今日の配信、休むか?あぁ、お前だけな。配信自体は俺が一人で回すから」
これ以上ない助け舟だが、俺は反射的に顔を上げて否定を口にしていた。
「いや、それは」
「いつもどおり。無理だろ?」
「無理に決まってんだろ!なんでお前はいつも通りなんだよ!」
しまった。怒れる立ち場じゃないのに声を荒げてしまった。
真白はすっかり呆れて……ないな。なんか悲しそうな顔してるのを目にして、俺はぐっと息を呑んだ。
「そりゃ動揺はしてるけど……そんな俺、誰も求めてないだろ。颯真だって、いつもどおりのほうが良いだろ?」
そう、なんだけど。いや、求めてるとか求めてないとか、そういう話じゃないと……思うんだけど。なんて伝えたら良いんだ?これ。
「ほら。さっさと食って今後の方針決めるぞ」
箸を渡され、真白の顔をまじまじと見る。
いい男に見える。でもやっぱり、放っといちゃいけない顔にも見える。
でも何を言えば良い?真白の言う通り、無理矢理でもいつもの調子に戻ったほうが良いのか?
「……ファンに嫌な思いさせたくないだろ?」
ずるいな。そりゃそうだよ。そのために色々気を使ったり、真白の両親説得したりしたんだよ。でも……。
「真白。ファンの前ではいつも通りが良いんだと思う。でも二人の時まで無理しなくて良い」
そうだよ。おれら親友だろ。……親友にあれな視線向けたり妄想したりしてる俺が言うことじゃないかもしれないけど。隠したり取り繕ったり、そういうのは嫌だ。
「……無理しなきゃ、一緒にいられないだろ」




