33.妄想の行方
なんとか書けました。毎週月曜日更新を目指します。
そう。なんか安心しちゃったけど、なんも解決してないのである。
妄想が止まらなくて、申し訳なくて、挙動不審に陥るという現状は、変わっていない。
いや、妄想してもそういう目で見ても、真白本人はそんなに気にしない、ってのはわかったけど、だとしてもだぞ?身体くっつく距離で配信やる間、俺は平静でいられるのか?答えは否!もちろんNO!どう考えても無理!
……いや、元気よく言い切ったところで何も解決しないんだが、せめて勢いだけでもね、こう……。
多分だけど、俺が挙動不審になれば、真白はさっきの会話を思い出すだろうし、それを口に出すのは……配信中はないだろう。そうすると俺は挙動不審のまま配信を終えるわけで、社長はともかくファンの皆には何があったのかと心配されてしまうだろう。
しかもこれ、数日後の次回の配信も大差ないからな、多分。
ええ~。どうすんだこれ。なんとかならんのか俺。何度となく繰り返した念仏作戦だがもう一度やってみるか。
平常心平常心……真白はイケメン、女の子にキャーキャー言われるアイドル、カッコつけ……。
などと考えているところでドアが開いて、俺は思いっきり身体を硬直させて相方を迎えた。
「……何、どしたん?」
「いや、その……考え事してて……」
あ、そう。なんて、サラリと返す真白はちゃんと、隙なく男装している。そうだ。そう、これ、これだから、真白って。こういう生き物だから!
「よし。大丈夫」
「ほんとかよ」
これこれ、このツッコミが真白だ。そう、いつもどおり、いつもどおり。
やはり脳内で生成された映像より、目の前の現実の方が強いな。一人で悶々とするより、いつもどおりの真白を目に焼き付けていたほうが安定しそうだ。
「飯どーする?うちにあるもんで何か作る?買いに行く?」
「え、ああ、出かけると時間かかるしなんか作ってくれるならそれで……」
「あー、料理動画、企画詰めておけばよかったな。流石にぶっつけで撮影は無理か」
「何怖いこと言ってんだよ」
うん。いつもどおりの鬼畜な真白だ。大丈夫……うん、大丈夫な気がしてきたぞ!
「じゃあてきとーに。早めに食って配信の準備するか。その間遊ばせとくのもなんか癪だし……」
「癪ってなんだよ。ちゃんと動画編集やっとくって」
「うん。じゃ、任せた」
真白が飯作ってくれてる間は、なんとなく遊んでると怒られそうな気がして動画編集したり配信の準備したりすることが多い。今日もそのパターンだなと思いつつ、ふと真白の台詞で思いついた。
「料理してるとこ撮っていい?」
「別にいいけど」
うんうん。ファンに見せたことないよな、多分。これは喜んでもらえるかもしれない。
良い思いつきだと自画自賛しつつ、真白と一緒にキッチンに向かう。撮影用の衣装が汚れないように、シンプルな紺色のエプロンをかけた真白が冷蔵庫を漁り食材を取り出す。
「豚キムチ丼と味噌汁でいい?」
「おっけ。大盛りよろしく」
「はいよー。レッスンない日は米減らしたら?」
「うち帰ってから筋トレするからいいんだよ」
「あっそ」
なんて、いつもの会話をしながら、料理に勤しむ真白の後ろ姿を撮影し、SNSに投稿する。
「んじゃ上で編集してくる」
「そんなに時間かからないぞ?味噌汁も……まぁ多少ネギ硬くてもいけんだろ」
てきとーだな。でもまぁ、食えればいいが基本スタンスの俺に不満はない。夕飯ができるまでダイニングで待つとしよう。
次の動画のネタでも探そうか、流行りのダンスの振りでも眺めようか、そんなことを考えながらスマホをいじっていたら、早速さっきの投稿にコメントがついていた。
配信がある日は告知も兼ねて必ず投稿するようにしてるから、ファンもチェックしてくれてるんだよな。どれどれ……。
「『真白くんのエプロン姿!レア!』『晩ごはんいっしょに食べるのかな?メニューは何?』『後ろ姿がセクシー』『同棲してるの?なんなの?ごちそうさまです!』『腰ほそっ!いつも隠してるけどやっぱ細いのね』……」
……おーけー。大丈夫だ。俺は問題ない。セクシーではないと断言できるし、腰が細いのも知ってる……腰が……。
「っなんなんだよこのトラップぅ!」
「何。なんかゲーム実況でも見てんの?」
違う。そうしときゃよかったと思うけど違う。
玄関先で見たお前の腰が頭に浮かんできてどうしようもないとか言えるわけがない。
しかし俺が答えられずにいることを不審に思ったのか、真白が料理を中断してスマホを覗き込んできた。
なおテーブルに突っ伏していた俺はスマホを見せないという選択肢すら思い浮かばなかった。
「なになに……エプロンってセクシーなの?」
「知らん。俺に聞くな」
「あー、紐緩めに縛っておけばよかったな」
「……そうだな」
きっちり腰に巻き付いた紐は確かに、くびれの存在を際立たせていた。いつも衣装選びでその辺を気にしている真白からすると、失敗ってことになるんだろう。
しかし真白の最大の失敗は次の台詞だった。
「うーん……これがセクシーなのか。裸エプロンとかならともかく……」
「お前が爆弾投下すんなよ!」
「えっ、何?ごめん?」
もう無理。やめて。後ろ姿に関しては完全に脳内再生できちゃったから。さっきの後ろ姿と、この間の玄関でのアレが、完全に融合しちゃったから。
両手で顔を覆った俺に、真白も戸惑いつつ謝っているが、謝られても困る。というか俺のほうが謝るしかない。もうだめだ。無理。ほんとに。
「だから!お前のエロい姿とが頭に浮かんじゃうんだよ!ほんとごめん!」
言ってしまった。
いやもう、隠し通せる気がしないし、真白も悪気なく煽ってくるし、どうしようもなくて。
あー、顔が熱い。恥ずかしいし申し訳ないし、情けないし。あと、嫌いになったりはしないって言ってたけど、やっぱ嫌われたり怒られたりしたらイヤだなとか、そういうのも頭をよぎる。
……返事がない。
おそるおそる顔を上げて、真白の様子をうかがうと。
「……え、あ」
目が合って、ようやく声を発した真白は、ぽかんとした顔で……俺と同じくらい熱くなっていそうな、赤い頬をしていた。
「あ、えと、真白?その……こういうの、その、やっぱり嫌……なんじゃ……」
想定と違いすぎる反応に、俺の方もどう返したら良いかわからない。俺の場合、何でそうなるんだって、不思議に思う方が先にくるって、そう言ってたはずなのに。
「いや、えっと……なんか、そういう方向で困ってるのかなって……うすうす、気づいてはいたんだけど」
気付かれていた。恥ずかしすぎるし居た堪れない。
「まさかその……直接、言われるとは思ってなかったというか、ほんとにそうなんだって……そんなことあるんだ、って……」
な、なんかすげー墓穴掘った感がすごい。そりゃそうだよな。面と向かってんなこという馬鹿いないよな。そんな馬鹿が俺だよ。すいません。
うろうろと視線を彷徨わせる真白までこんな目に合わせてしまって申し訳ない。巻き込まずに自分でなんとかしたかったんだけど、止めを刺しにきたのが真白だったしな……。
本人は全然その気なそうというか、まだ自覚してないっぽいけど。
「いや、あの……悪いのは俺なんだけど、真白の一言が俺の妄想の燃料になっちゃったわけで、そこは少し……ほんと、俺のせいなんだけど」
「え……あっ、そ、そういうこと!?」
慌てた声は、自分のどんな姿が想像されてるのか、ようやく理解したんだろう。……いや、ほんとアホでごめんなさい。そんなん知りたくないよな。そして俺も恥ずかしい。……どうすんだこれ、この空気!




