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31.煩悩との戦い、何度目だ

真白の露出を忘れるべく、別のもので上書きしようとして見事失敗した。

具体的にはエッチなあれこれを楽しもうとしたんだけど勝手に真白の顔やパーツがカットインしてきて駄目だった。真白はこんなにおっぱいないよなとか、真白なら多分うっすら腹筋割れてるだろうとか、見てないとこまで生成するのはやめて欲しい。これじゃアイコラおじさんと一緒じゃん……いやほんと、やめて欲しい。自分のことだけど。

もちろん、真白の顔が浮かんだ時点で申し訳無さが襲ってきてお楽しみ気分が半減してしまったので、使()()()はいない。とは言え、罪悪感はすごい。


その辺を気取られないよう一緒に過ごすのはめちゃくちゃ難しい。というか無理。どう頑張っても挙動不審になる。女扱いしてもいいとは言われたが、もちろんこういう扱いのことではないだろう。んじゃどーすんの、という答えは出ないまま、いつも通りを貫くしかない。それが難しい。



そんな感じで、朝、登校だけで精神力を使い切った俺に、クラスの友人が話しかけてきた。情報通の……ファン、って言っていいんだろうか。まぁ、俺たちの情報を集めている友人だ。


「あのさ、夏休みに、なんかあった?」

「何かって?色々あったっちゃあったけど、俺としては目の前のことで精一杯というか」


夏休みなぁ。アイコラ事件と事務所のイベントだな。しかし目下昨日のあれこれで手一杯の俺は、夏休みが明けて数日経ってからのこの質問に疑問を持たなかった。


「……そっか。いや、なんかほら、真白の親が反対してるとかあったから、急にどうしたんだろうって。今日はなんか、お前が朝から疲れてるし」

「あー、それが目の前の問題っていうか……?お前こそなんかあった?」


質問には疑問を持たなかったが、そういや夏休み明けてから挨拶以外でこいつと話すの初めてだなとか、夏休みの件と今日の俺のお疲れ具合に関係あったけ?という違和感は持った。

そしてなんか、友人の目が泳いでいる。


「えっ?いや、俺は別に……」

「そうか?」

「…………」

「……?」


なんかすごく気まずそうにしてるけど、こいつにこんな態度を取られるのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。

ただ、立ち去るでもなく俺の前にいるから、なんか用事があるのだろうと待っていたら。


「……俺なんだ、事務所に通報したの。だから、お前たちがどうなってんのか、気になって。俺のせいで解散とか、困るし」


ため息の後、そんな台詞が出てきた。

通報。悪いことを知らせた。事務所。つまり。


「え、真白のアイコラ見付けたのお前なの!?」

「声がでかい!ちょっとこっちこい!」


そうだな、そもそもそんなもんが存在すること自体知られたくないよな。いや、普通に話す声量だったから、誰も気付いてないとは思うけど。むしろお前の声のほうがでかい。


肩を組まれて教室の外、周りに人がいない一角で頭を寄せて話し合う。


「真白のエゴサしてたら引っかかっちゃったんだよ……」

「なんでエロサイトまでエゴサしてんだよ……ていうか何でお前そんなに俺等のこと調べてんの?」

「……そりゃ……応援してるから……」


それは有難いんだけど、別にこいつ、アイドル活動する前とかそんなに仲良くなかったし、そもそもなんで応援してくれてるのか謎なんだよな。


「なんで?」

「なっ、何でって、もともとアイドルとか好きっていうか興味あったし、それが身近にいるから応援してみようかってだけで、男装キャラとかどんだけ売れるんだろうとか、そういう興味本位、で」


ストレートに聞いたらめちゃくちゃ喋るじゃん。でもまぁ、わからなくはない。面白がってくれてんのは、まぁ、嫌な気分でもないし。


「なるほど。それよりお前……見た、んだな?」

「……あぁ、うん……」


年齢的にアウトとか、んなこと友達に言う気はない。問題は、俺の親友で相方で、同じ学校に通っている真白の、フェイクとはいえそういう画像や動画を見た、ということだ。


「颯真は……」

「見てない」

「そうか……うん、まぁ、その方がいいよな」


しばしの沈黙。

聞くべきか、聞かないべきか。ある意味核心に触れるこの質問、いや聞いたところで俺が何かするわけじゃないし、悪影響を受けそうな気もする。気もするけど、ものすごい好奇心も湧いてきて、一方では真白に申し訳ないとも、思うわけで。


「……ぶっちゃけ」


言っちゃうのかよ!?俺が聞いてないのに!?


「作りが甘くてイマイチだったけど……普段のあいつを知ってるだけに、ギャップが、こう……」

「ストップ!聞かない!聞きたくない!」


話の流れ的に、使()()()ことはわかってしまった。あとはもう、詳細聞いたら俺が困る。これ以上エロ妄想を自動生成する脳味噌AIに学習させてはいけない。

声を上げた俺に、友人ははっとしてから頷いた。


「え、あ、そうだな。真白のこういう話題だめって言ってたもんな」

「あぁ、わからなくもない分、聞かないほうが良いと思う。俺のために」

「……あれ、でも真白のことは女とは見れない的なこと言ってなかったか?」


言ってたよ!わずか2ヶ月ほど前に!真白は真白っていう生き物だから、とか、わけわかんないこと言ってましたよ!当時の俺は!

それがちょっと足とか下着姿とか見ちゃってコロッと変わっちゃったんだよ!単純で悪かったな!


「俺にも色々あるんだよ……!」


それはもう、色々と。

……いやほんと、処理しきれないくらい。女扱いするとかしないとか、エロ妄想しないようにとか、親友として付き合うとか、なんかもう難易度高すぎて無理なんだって。

そんな苦渋の台詞に、友人はひとつも同情してくれなかった。


「なんだやっぱ意識してんじゃん」


はい、その言い方はカチンときましたよ。今までも意識してたんだろみたいな言い方すんな!今まではなかったんだよ!ちゃんと親友やれてたんだよ!


「やっぱりってなんだよ!俺だってあんなん見なければまだ」

「あんなんって何?何見たの?」


聞かれてすぐに、鮮明に浮かぶ昨日の真白の姿。

濡れた服を脱いで現れた、肌も露わな後ろ姿。下着の張り付いたお尻。

寛いで無防備な姿勢で見えた、足の付け根。

瞬間、かっと熱が上がった気がして、頭を抱えた。

……彼シャツとか余計なこと吹き込んでくれたやつに言える訳がないし、誰にも言いたくない。


「……やっぱだめだ、お前と話してると悪い流れが来る」

「え、ひどくない?ていうかなんか本格的にやばいとかじゃないよな?」

「だいじょう……ぶだ、とりあえず」

「え、なんかダメそう」


だめとか言うな。ほんとにそうなりそうだから。

上書きしようとしてもだめ、思い出さないようにしてもだめ、どうしたって消えてくれない。

これが、相手が「好きな女の子」なら、こういう状況も受けいれられるんだろう。多少の罪悪感はあっても、それ自体は自然なことだから。

でも、真白は親友、だから。その先を求めてるわけでもないし、こっち方面で傷付いたばっかだし。俺がこんなんだと、それこそ一緒にいられなくなる。


「……どーすりゃいいんだよ……」


昨日も溢れたボヤキが、もう一段深刻になって溢れてきた。

何か友人が言いかけたが、予鈴が鳴って席に戻った。

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