27.思い出と答え合わせ
「おーい、トーク放棄すんなよ!」
「いやだって、みんな真白の写真見たいよね?」
見たーい!と、盛り上がるコメント。あと、ちゃんと俺の顔出しを待ってくれているコメントも。
やるしかないだろこれ!
「ええ……何それ、皆そんなに見たい……?」
かっこよくあり続けようとしている真白の努力は知っている。多分胸つぶすのとかこの季節めちゃくちゃ暑いだろうし、筋トレ頑張ってるのも知ってる。
だがしかし!俺へのこの仕打ち!やり返さずにはいられない!
せいぜいファンに「可愛い〜」って言われて頭抱えればいい!ちょっと恥ずかしい思いをするくらい良いだろ!
あ、エロい意味ではないです全然。ほんとに。
そして配信終了10分前。ほぼ空気と化していた俺が声を上げた。
「終わったぁ!」
「え、嘘マジで?」
真白にノートを差し出し、カメラのフレームに入る。
「お待たせ〜!終わった〜!真白に罰ゲームさせられる〜!」
「おい今なんつった」
はっはっは。何でもいいじゃん、やることは同じだ!
「じゃあ写真よろしく」
「えぇ……じゃあ、探してきます……」
なんだかんだ言っても約束は破らない。律儀なやつだ。しかし自分で可愛いと思う写真探すだけでメンタル削られそうだな。地を這うような声だったぞ。
その間、俺は一人でファンとやりとりだ。
『真白くんの可愛い写真に心当たりがある?』
「ないけど、顔はいいから子供の頃なら可愛いんじゃない?」
『リトルリーグで一緒に野球やってた頃、可愛いと思った?』
「えーと……小学生の頃ってまだあんま女子に興味なくて、可愛いとかピンときてなかったというか……」
『じゃあ小学生の頃好きな女の子はいなかった?』
「いなかったな……なんかクラスで人気の女子とかいたけど、近付きにくかったというか」
『中学生の頃は?』
「流石にね!気になる女子とかはいたけど、気になる止まりというか。告白とかつきあうとか、そこまではいかなかったな」
悲しいかな、俺も真白も、年齢イコール恋人いない歴である。いやまだ高校生だし、一応アイドルやってるし、いなくても問題ないんだけど。
たまにファンから恋愛相談されちゃったりするからな……。そしてそういうとき、実体験からのアドバイスが何1つ出てこないからな……。
いや、ファンもわかってて聞いてくるんだからそこは求められてないと言うか、背中を押してほしいとかそういうことなんだろうけど、なんか虚しくなるよな、うん。
そんな話をしている間に、真白がアルバムらしき冊子とデジタルフォトフレームを持って戻ってきた。すげー苦々しい顔で。
「……ちょっと自分で選ぶの辛いんで、颯真手伝って」
「お、おう」
辛いのか。そうか。そんなに嫌か。
……いやがらせのつもりで言ったんだけど、そこまでいやがられるとなんか罪悪感わいてくるな。
「えーと……髪長い頃がいいんじゃないか?」
「あぁ……まぁ、いいけど……」
「……これ何年生?」
「さぁ……あぁ、弟が小学生になってるから、3年生か4年生くらいかな……」
いやいや、まだ配信中なのにそのテンションやべーぞ。そこまで嫌かよ。ごめんて。
「こ、これでいいんじゃね?」
「え?……まぁ、うん、いいけど」
俺が示した写真に、真白は一瞬意外そうな顔をしたけど、いいじゃんもう。選んでる最中の死んだ目がヤバ過ぎるんだよ!
「というわけて、過去一で可愛い真白です!」
コメントの勢いがすごい。可愛いとか良い写真とか、反応は上々だ。
俺が選んだのは、リトルリーグの試合に勝ってチームメイトみんなで抱き合っている写真だった。データで残っていたので他のメンバーの顔もぼかせたし、笑顔だし、俺も写ってるし、帽子取ってたから真白のポニーテールも見えるし、いい写真だよな。
……まぁ、可愛いとはちょっと違うかもしれないけど。
『真白くんは颯真くんのことどう思ってた?』
「え、そんな話してたの?あー、まぁ、男子にしてはいい奴というか、人をからかったり悪戯したりってのがあんまりなかったから、付き合いやすかったかな。アホはアホだけど」
「本人眼の前にしてそれ言う?」
『ポニテ可愛い!似合ってる!また髪伸ばしたりしないの?』
「予定はないな……手入れ面倒くさいし」
『いつからショートカット、というか、男装始めたの?』
「最後に髪長かったのは……中学一年の頃?中一の終わりくらいに切ってからは伸ばしてないな。服もまぁ、そのあたりから徐々に」
『好きな人ができたことはある?初恋は?』
「あのー……恋、まではいかないけど、憧れの存在?みたいなのは、いるかな」
「え、いるの?」
やっといつもの調子を取り戻してきた真白が、俺に嫌そうな顔を向けてきた。何だその反応。
「鳥頭。お前の両親だよ」
「えっ、お袋も?」
いやその前に鳥頭て。確かに親父が憧れって聞いたの忘れてたけど。ていうかお袋は何で?
「え、だってニコイチというか、セットで理想の夫婦な感じだから」
「そうか?まぁ仲は良いけど……」
うーん、なんか納得いかない。と、首をひねっている間に配信終了の時間になってしまった。もっと写真が見たい!ってコメントもあったけど、こういうのは小出しにしろと黒沢さんから言われているので、またそのうちと期待を煽って配信を終えた。
いやー、ほとんど課題やってたけど、最後盛り上がって良かった。後でSNSに他の写真も載せちゃおう。そうしよう。
そんなノリでアルバムを捲っていて、ふと思い出した。
「そういや真白、小学生の時も一回髪切ったよな」
「あぁ、あったな」
「その後伸ばしたのは何で?」
本人も気に入ってたはずなんだよな、髪短いの。ミューにはこっちのほうが似合ってるって、皆言ってたし。
「……まぁ、覚えてないか。『もったいない』って言われたからだよ」
「へー。なんか、そんなん言われたら怒りそうだけどな、真白」
「んー、第一声がそれだったら怒ってただろうけど。ちゃんと似合うって褒められた後だったしな。だからまぁ、もう一回伸ばしてもいいかなって」
そんなもんか。うん。まぁ、そんなもんかもな。同じ内容でも聞く順番とか言い方とか、言った相手によって受け取り方違ったりするし。
「で、その後切ったのは何で?」
「……お前の無神経さを舐めてたわ」
えっ、そこだめだった?
「……中学入ってしばらくして、髪伸びた頃にリトルリーグの友達に再会して。制服のスカートも髪も似合ってないって笑われて」
「えっ。嘘。俺じゃないよな?!」
「しばらくしてって言っただろ。違うよ。けどその当時俺に同じこと聞いて怒られたことを憶えてないのはどうかと思う」
「えっ、あ、すいません」
えー?そんなことあったっけか?あったかも……いやきっとあったんだろう。でも多分、そのとき真白は答えてない。聞いてたら流石に俺も覚えてるだろうし、言ったやつのことはちょっと、見る目が変わってたと思う。
「まぁ、笑われただけで切ったわけじゃないんだけど。その辺から女子らしくするのが面倒くさくなったのもあって」
「はぁ……なるほど?」
女子らしくするのが面倒くさい……わかるような、わからんような。まぁ、男よりは面倒くさそうだもんな、女子。
アルバムを片付けた真白と、機材の片付けを終えた俺は真白の部屋に戻った。……うん、課題、俺が解き終わっただけで答え合わせがまだなんだよな。
「んじゃ答え合わせして解説したら晩飯食いに行くか」
「おー。腹減った!今日は何食いに行く?」
「答え合わせが先な」
「へいへい」
色気より食い気の俺は「もったいない」と言ったのが誰なのかなんて気にもしなかったので、答え合わせはずっと先になってしまった。




