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25.説得

「……アイドル活動ってさ、結構、地味なんだよ。しかもネットアイドルなんて、動画や配信が活動の殆どで、なんならレッスンと動画編集がメインで」


俺と真白で隣に座り、対面には真白のお父さんとお母さん。

今後のことで話があると、席についてもらった。

緊張の面持ちで、ぽつぽつと、真白が話し始める。


「あんなの見たら、辞めろって言いたくなるのはわかる。心配してくれてるのも。でもさ……」


真白らしくない、繋がらない文章。でもそれは、それだけでも、本心だとわかる。

叱られた子どものように下を向いていた真白が、顔を上げる。両親の顔を、しっかり見つめながら、思いを紡ぐ。


「楽しいんだよ。颯真と一緒に作ったものを見て、沢山の人が喜んでくれて。なんなら、颯真と下らないこと話してるだけで、楽しい、幸せって言ってくれる人がいて」


うん。俺も、楽しい。嬉しい。

恥ずかしいとか、ムカつくとか、そういうこともなくはないけど、圧倒的に楽しい。

ただ真白と遊んでるだけじゃ、こんなふうには思えなかったと思う。沢山の人が関わってくれて、応援してくれてるから、余計に楽しくて、頑張ろうって思える。

それでも、真白の受けた傷の生々しさを、一番理解しているだろう真白のお母さんは、否定的だ。


「……それは、傷付いてまでやりたいことなの?」


それは、俺には「真白を傷付けてまでやりたいことなのか」と聞こえた。その傷の深さを理解できない俺に、答えられるはずもない。

いや、聞かれているのは真白だ。そして真白の答えは決まっている。


「やりたい。どうせ期限が決まってることなんだし、そこまでは精一杯、やりたい。ファンの皆をがっかりさせたくない。それに」


真白の視線が、俺に向いた。


「颯真が、いっしょにやりたいって、言ってくれてるから」


二人で頷く。

そう。二人とも、辞めたくないんだ。

真白のあとを俺が繋ぐ。


「……その。真白が傷付いたのは、俺もショックでした。こんなん、もう二度とされたくないと思うし、でも、防ぐ方法とか、わからなくて」


真白よりずっとたどたどしくて、頼りないと、自分でも思う。今回のことについても、その前のアンチのことについても、俺にできることなんて何にもなくて。

真白を守れるなんて、口が裂けても言えないけど。


「ただ。ずっと、隣に居ますから。一人にはさせませんから」


それだけは言える。

真白にとって、俺より黒沢さんが頼りになる場面が多いのもわかってる。俺には言いたくないこと、知られたくないことがあるのもわかってる。

でも、一人にはしない。一人で膝抱えて泣くなんてことは、させない。

肩を抱くのを嫌がられるなら、道化になっても良い。アホだなって笑ってくれればいい。

それに、辞めたら悲しむ人が沢山いる。


「あ、それと、これ。今日の配信で、その……すいません、真白がご両親にアイドル活動反対されてるって言ったら、ファンのみんながたくさんコメントくれて」


今日のコメント、その後届いたDM、その他にも、これまでにもらった感謝のコメントや手紙の一部を、黒沢さんとまとめたものを、テーブルに載せる。

辞めないで、ってストレートなものも、配信なくなったら何を楽しみにすれば、って嬉しいコメントも、なんなら、俺たちのメンタルの心配してくれるコメントまである。

これだけ沢山の人に必要とされてる、心配してもらってるって、少しでも前向きに受け止めてもらえたら。


二人が静かにそれらを読むのを、緊張しながら待つ。

一通り目を通して、ため息を付いた真白のお母さんは、苦く笑った。


「私達もね、昨日は頭ごなしに言い過ぎたって、反省したのよ。私達親も覚悟が足りなかったわ。それに配信も、今日悠介に教えてもらって初めて見て……こんなに沢山の人が、応援してくれているのね」


伝わった。その手応えだけで頬が緩みそうになるけど、まだだ。お父さんは何も言ってない。

その顔色をうかがっていたのは、俺たちだけではなかった。真白のお母さんも、隣に視線をやって、お父さんがそれに気付いて顔を上げたのを確認してから、続けた。


「この子が自分で決めたこと、曲げるとも思えないし。いい?お父さん」

「……美結にその覚悟があるなら、認めるしかないだろう。颯真くんも支えてくれるようだし、こういう事態も含めて、最初に許可したのは私達だ」


ほっと、真白と二人で息を吐く。真白の頑固さもたまには役に立つんだな。あと、俺も少しは力になれたようで良かった。ふわっと、テーブル周辺の空気が緩む。

そして、真白のお父さんの顔つきが……いっそう険しくなる。え、なんでここで。


「それと、犯人はなんとしても挙げるから、任せておきなさい」


あ、そういうこと。

そう。真白のお父さんは、警察官。ついでにうちの親父も、警察官。一時期職場が一緒だったご縁で、リトルリーグで同じチームに所属することになった。

今の所属は知らないし、直接捜査に携わるわけじゃないだろうけど、それでも心強い。

よろしくお願いしますと頭を下げて、俺もお暇することにした。

玄関先で、真白と肩を並べる。


「颯真。ありがとな。正面突破も援護射撃も、俺だけじゃ出来なかったし、助かった」

「いいって。俺だって真白に抜けられたら続けられねーもん。俺になんかあったら頼むぜ、相方」

「なんかって……ガチ恋が嫉妬に狂って刺しにくるとか?」

「こわっ!なんでそんな極端な!」


本気で血の気が引いた俺の前で、真白は笑って恐ろしいことを続ける。


「じゃあホモ向けエロビのディープフェイク出演」

「キモっ!だからなんでそんな…………あ、そうか」

「うん。そういうことだ」


真白が味わった恐怖や嫌悪感の一部を、今、ようやく理解した。そういうことだよな。俺には起こらないとは、言い切れない。

いや怖い。ほんと怖い。体を傷つけられるのも、心を傷つけられるのも。こういう怖さと向き合って、それでも真白は進むって決めたんだよな。

覚悟を決めた相方は、からりと笑う。


「でもさ、ある意味、交通事故みたいなもんじゃん?外に出れば可能性は0じゃない。でもそれを怖がってたら外に出れない、何もできない。同じだよ。顔出してたらこういうこともある。それでもやりたいことがあるから、顔出して声出して、皆と話す」

「……うん。そうだな」


やっぱ強いな、真白は。でも、うん。傷付いてないわけじゃないって、わかってるし。


「でも、傷付いたら。苦しかったら、怖かったら。頼ってくれよな」


そんなにヤワじゃないとか、大丈夫とか、心配すんなとか、そんな返事が来たらどうしようか……という心配は、杞憂に終わった。


「うん。そうする」


肩の力が抜けたような、穏やかな笑顔は。

いつもとそんなに変わりない、はずなのに。

どこが、って言われても、うまく説明できないけど、なんか、こう。

……眩しく、見えたんだ。

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