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24.健気な相方……健気?

事務所に着いてまず最初に、黒沢さんに「仲直りできたの?」と言われて驚いた。どうやら真白は黒沢さんに昨夜のことを話していたらしい。

……真白はけっこう、黒沢さんのこと頼ってるんだな。俺は事務連絡的なことが多くて、相談するとしても真白が一緒だから気付かなかった。

いや別に、寂しいとかではなくて、真白もそういう、弱いとこを見せられる人がいるんだなって、安心したというか、俺じゃダメなんだなというか……や、そこは関係ない。ないない。


「俺が女扱いを嫌がる理由について、よく理解したようなので大丈夫です」


なんだその、俺に問題があったかのような言い方。めんどくせーのはそっちだろ。

……まぁ、それもこれも、俺と一緒にいるためだとわかってしまうと、強く言えないというか……むしろなんかこれ、いや、違う、なんか真白っぽくないし。


「そうなの?こんな健気な相方、なかなかいないわよ。颯真くん。面倒くさい子なのも間違いないけど、大事にしなきゃね」

「……うす」


健気!けなげ!?真白のイメージに一個も掠りもしないけど!?面倒くさいのとこだけめちゃくちゃ同意するけど!?けなげ!?


「大事にしなくてもいーけど、よろしく頼むぞ、相方。俺も大事には出来ないし」

「こらこら。お互いちゃんと相手を大事にしなさい。でないと続けられないわよ」

「はーい」


これだよこれ。このふてぶてしい感じが真白だよ。健気とか似合わん。却下。

……でもそっか。俺と一緒にいたいから。ひょっとしたら、アイコラで傷付いてないフリしたのも、いや、本当にフリだったのかも、わかんないけど。本当は目茶苦茶嫌で、でもそれ言ったら間違いなく俺が心配するし親にも活動止められるだろうし、だから平気なフリしてた、とか……だとしたら、目茶苦茶、健気……だよな。

思わずじっと真白を見つめてしまい、訝しげな視線を返された。


「黒沢さん。なんかこいつ余計なこと考えてません?」


指をさすな。俺の感傷を返せ。


「そう?相方の努力に今さら気付いて感極まってるんじゃない?」

「努力ってほどのこともしてないですけど……男装自体は好きでやってるし、多少男らしさで盛ってるとこはあるけど、ファンが喜ぶかなーと思ったら反射的にそうなっちゃうだけだし」

「あら。ヘイト集めても文句も言わず、学業と両立させてる時点で、颯真くんよりは苦労してると思うけど」

「え」


言われて初めて気が付いた。いや、どっちも、それ自体はわかってたけど、そうか、俺がしてない苦労を、真白一人がしてたんだな。

やっぱ健気……なんて感動してたら、思いっきり真白らしくぶった切られた。


「その分俺のほうがファン付いてるんで、給料に反映して下さい」


こいつ……マジでこいつ、ほんと、負けたくねぇ。


「グッズ販売始まったら考えておくわ。はい、それじゃ配信頑張ってね」




配信の前に、いつものSNS投稿。機材設置してテストして、配信内容の打ち合わせ。着替えて化粧して、いよいよ本番だ。

今日は事務所のイベントの告知と雑談なんで、そんなに難しいことはない。

ただ、俺はここで勝負に出ることにした。


「はい、そろそろ時間かな〜。それじゃ今日の配信は……」

「ちょっと待って。俺から皆にお願いがあります」


真白はまだ気付いてない。なんならグッズ買って下さい!のお願いでもするんだろうとか思ってる。多分。それはそれでやりたいけどな。やりたいけどな!


「真白がちょっとね、家族にアイドル反対されてるみたいなんで、活動継続出来るように、応援のメッセージお願いします!」

「ちょっ……いやあのね、親も心配して言ってくれてるだけだし、辞めるって決まったわけでもなんでもないから……あああスパチャありがとうございます!いやほんと、コメントだけで大丈夫だから!」

「ありがとうございます!ここのコメントと一緒に、真白のご両親説得してきます!」

「颯真ぁ!勝手なことすんな!コメントありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


配信終了後、めっちゃ怒られた。真白と黒沢さんに。


「真白くんのご両親が悪者になっちゃうでしょ!」

「あ、それは考えてなかった……すいません」

「ていうか俺には言っとけ!フォローするにも限度はある!」

「すまん。でもファンは慌てたお前が見れて喜んでたから悪くなかったと思う」

「悪いよ!」


いや、これはワンチャンナイスプレーだったのでは?俺じゃ真白に読まれずドッキリしかけるとか無理だし、ファン間では語り継がれる名シーンになったのでは。

しかしまぁ、俺の狙い通り、コメントと投げ銭はめちゃくちゃ集まった。投げ銭目的とか言われたら困るから、集まったお金は衣装とか小道具とか、イラスト発注とかに使うとして。


「よし。これで戦えるぞ」

「うちの親とだよな?」

「もちろん。最初の約束通り、来年の夏まで活動させてもらえるよう説得するぞ」

「はいはい。まずは俺が話すから、颯真の出番はその後な」

「おう」


なんて、やる気に満ちた俺の後ろで、うーんと唸っているのは黒沢さんだ。


「ごめんね、真白くん。私も伺いたかったんだけど」

「大丈夫ですよ。事務所は出来るだけのことしてくれてますし。颯真にも言われたんですけど、あとはきっと俺のやる気と言うか、覚悟次第なんで」


最初の報告のときはもちろん、黒沢さんが真白の両親に説明したらしい。俺達は口頭で説明を受けただけで、年齢的に見せられてないけど、真白の両親はアイコラの画像も、ディープフェイクの動画も見たらしい。口頭で聞いただけでもアレだったから、自分の子どものそんなん見ちゃったら止めるのもわかる。

その怒りや憤りを最初に受け止めたのは黒沢さんなわけで、なんつーか、仕事ってやっぱ大変なんだな。


「……待てよ。そのときは真白も同席してたんだよな?ってことは見……」

「見ないように配慮したわよ。まさか颯真くん、見てないわよね?」

「ないない、ないです!探してもいません!」


いや、その、一瞬確認したほうが良いのかとか思ったけど、真白が嫌がるのわかりきってたし、一応年齢的に見ちゃまずいことになってるし、そう、ほんとに一瞬だ。見たいとかはない。見ようと思えば見られるけど、相方を傷付けてまで見ようとは思わない。


「そう。ならいいけど。真白くんは女の子扱いを嫌がってるんだから、そういう情報に触れないほうが颯真くんのためでもあるのよ。……影響されやすいみたいだし」


うぐっ。確かにな、コスプレ妄想で迷惑かけた前科がある以上、余計な情報に触れるべきじゃない。

そう。真白はイケメンな相方である。エロいとか可愛いとか、そういうのは当て嵌まらない。よし。


「……なんかムカつく」


なんでだよ。何一つ声に出してないぞ。




「颯真くん。久しぶりだね」

「はい。お久しぶりです」


真白の家のリビングは、普段は俺と真白しかいないから、ある種ホームグラウンド的な感覚でいたのだが、そこに本来の主がいると、一気にアウェー感が増す。

真白の親父さんは、うちの親父より理知的で、眼鏡の似合うおじさんだ。転勤前から仕事で忙しくて、年に一度顔を合わせるかどうかという間柄だ。


「少し背が伸びたかしら?ますますお父さんに似てきたわね」

「いやぁ、流石に身長は止まりましたよ。親父ほどはデカくならないみたいです」


真白のお母さんはおしゃべり好きで世話焼きだ。転勤で引っ越す前、特にリトルリーグ時代はお世話になった。いつもにこやかだけど、真白に言わせるとそんなことないらしい。お袋と仲がいいので、二人で出かけたりもするらしい。


「……うす」

「おー、悠介こそでかくなったじゃん」

「まぁ、成長期なんで」


真白の弟、中学生の悠介。たまに家に遊びに来たときに顔を合わせたり、一緒にゲームしたりする仲だ。真白と違って毒が少なく口数も少ない。大人しいやつだ。

悠介は挨拶だけして二階の自室に戻っていった。


さぁ、ここからだ。

いつになく緊張して顔色の悪い真白の、背中を叩く。


「大丈夫だ。俺がいる」

「……よけい心配だよ」


ぎこちなく笑う真白と、まだ一緒にいたいから。

マウンドに向かうときの緊張と高揚を思い出していた。

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