17.片岡家の食卓
凸やらやらかし投稿やらで波乱のスタートだった一週間は、なんとか無事乗り切った。
金曜日の雑談配信では、もう泊まりについてのコメントも入らなかったし、一安心だ。
「書き込みした犯人、特定できたって」
事務所で黒沢さんにそう言われても、俺たちは驚かなかった。
「俺達にも連絡きました。監督から。あと親御さんからも」
「俺の方には監督からだけ」
そう。予想通り、リトルリーグの後輩の仕業だった。オレの先輩アイドルやってるんだぜ!的な、自慢したい気持ちからだったらしい。で、うちに親御さんから連絡きたのは、弟が同じチームに所属していて、親同士が顔見知りだったから。大事にする気はないし、うちに謝罪にくるって話はお断りした。
「そう。とりあえずあと一日、夏休みに入るまでは送迎するけど、そこで一段落ね」
「はい。お騒がせしました」
「いいの。真白くんのせいじゃないでしょ。ああ、そういえば、またカナタ君とコラボ動画撮るんだって?」
「はい。男装なんで前回ほどは反響ないかと思いますけど……」
「そうかしら?カナタくんが女装じゃないメイクするなんて珍しいから、案外面白がってくれるかもよ?」
「だと良いんですけど」
真白と黒沢さんの会話が一段落したところで、俺も聞いてみる。
「で、その――社長は、俺のあれについて、もっとやれとかなんとか、言ってるって聞いたんですけど……」
黒沢さんは困った顔で笑ってみせた。
「まぁ、ああいう人だからね。決定的な事実がないならどんどんやれって感じだけど、当然反発もあるし……二人に任せるわ」
「わかりました」
社長、ほんとヤベー人だな。マネージャーが黒沢さんでほんと良かった。
などと安心していたら、逆に黒沢さんに突っ込まれた。
「むしろ颯真くんは大丈夫なの?」
「え?何がですが?」
「真白くんの彼シャツがどうとか」
「ぶっ、そ、れはもう、大丈夫ですすいません掘り起こさないで下さい」
真白ぉ!なんで報告した!いや報告大事だけど!
そういう俺の抗議の視線も、真白にはどこ吹く風。
「今後似たようなことがないように、情報共有しといた。あの社長なら契約内容曲解して俺に女装とかさせかねないし」
くぅっ、否定出来ないしガチで女装されてしまったら太刀打ちできない……って太刀打ちってなんだ。
いや待て、脳内生成はなんていうかアレな成分が多かったから挙動不審になったけど、ファンにお見せできる範囲の、いわゆる普通の女装なら動揺しないで済むんじゃ……いややっぱ駄目だわ、違和感すごくて受け入れがたい。違う方向の挙動不審になりそうだ。
ともあれ事務所での打ち合わせも終わり、ボイトレも終わり。いつもなら次の日に動画撮影なんだけど、それはカナタさんとの調整の結果明後日になったので、あとは明日の配信で例の叱るとか褒めるとか、に備えるだけだ。
つってもアドリブだからなー。備えるも何もないんだよな。
ボイトレからの帰路、お袋からのメッセージがあり、別れて帰る予定だった真白に声をかける。
「真白、うちで夕飯食ってけってお袋が」
「え?いいの?ラッキー」
「明日はどーする?配信の前にどっか食べに行く?」
「いや、外出るとバタバタするからうちで食おう。どっかで買ってきてもいいし作ってもいいし」
明日何を食うかは今日の夕飯次第だな、なんて話しながら、俺は思いついてしまった。
「……料理動画は、やったことないよな」
「あー。確かに。んー……やるなら、うちで、かな?長時間颯真んちの台所借りるのは厳しそうだし」
「まぁそーだな。真白も自分ちの方がやりやすいだろ?」
「それを言うなら颯真もな」
「え?」
「ん?」
お互い、何言ってんの?の顔で見つめ合う。
すれ違いの原因に気付いて口を開いたのは、真白が先だった。
「お前まさか俺にだけやらせるつもりだった?」
「え。いやだって、俺料理とか出来ないし」
「出来ないからやるんだよ!そっちのほうが面白いだろ!」
「えっ、マジで!?」
なんか墓穴掘った気がする。
そんな話を夕飯の席でしたところ、弟二人は完全に真白の味方で、お袋は心底心配そうな顔をしてこういった。
「食べられないもの作って真白くんに食べさせるようなことにならないかしら。今からでも練習する?」
なんかすげー評価低いけど、その通りの腕前なので何も言えねー。いや、さすがに丸焦げの消し炭みたいなのはないと思うけど。
「大丈夫です。失敗した方が動画としてはおもしろいですし、相方の作ったものは責任もって食べますんで」
それフォローになってねぇな?失敗前提だな?
「つーか真白さ、俺の評価基本低いよな」
まぁ毒舌キャラなとこあるし、これも身内扱いと思えば……なんて思ってたら、真白がソッコーで否定してきた。
「んなわけないじゃん。颯真の良いとこなんてわざわざ言わないだけだし」
「……え」
真白は、からかうでもなく、しごく真面目に、俺の良いところを挙げてくれた。
「素直なのも努力家なのも知ってるし、人当たりがいいのも……優しいのも、知ってるし、助かってる」
やば。なんだ、これ。恥ずかしいし、嬉しいし、家族の視線が痛い。
「颯真にーちゃん、ちゃんとミュー君に優しくしてんの?」
おい末っ子。なんだその心配そうな口振りは。むしろ俺がぞんざいに扱われてる側だぞ。
「ミューじゃなく真白な。たまにやり方間違えるけど、優しいとは思う」
「そっか。じゃあ大丈夫だね!」
真白の返答に、ニッコリ笑う可愛い末っ子。
いやだから、何が大丈夫なんだ?
ていうか三男、ずっと生暖かい目で見てくるのは止めろ。
あとおふくろの笑顔……はいつもどおりだけど、なんか感激してるのは気のせいか?
「真白くん、今後も颯真のことよろしくね。ほんとこの子、考えなしだしデリカシーが足りないところはあるけど、いい子なの」
「えっと、はい、知ってます。とりあえず卒業までは面倒見ます」
お願いされるのも恥ずかしいしこの歳(十七歳)でいい子呼ばわりも恥ずかしいし知ってますとかも恥ずかしいけど面倒見るってなんだ。俺そんなに真白に面倒みてもらって……るか。うん。アイドル活動についてはみてもらってたわ。
「あら、卒業までなの?困ったわね。できればずっと仲良くしてくれると嬉しいんだけど」
「友人関係が切れるわけじゃないとは思うんですけど、進学とかで多少疎遠になるかと……」
「あぁ、そうねぇ。颯真の成績じゃ同じ大学は無理だもんねえ」
なんかこう、色んな意味で居た堪れないんだけど、これ何なの?
「おふくろ。そのへんでストップ。別に真白がいなくても俺は大丈夫だし、友達ではいられるんだからそれでいーの」
「あら、真白くんと一緒がいいからって高校選んだのに?」
「それは……他に行きたいとこもなかったし」
その、中学最後の一年に関しては、野球から離れるストレスとか、将来への展望が消えたとか、メンタル弱ってて、ほんと真白に助けられたから、頼ってたのは事実なんだけど。
流石にそれから二年近く経ってるし、いい加減俺のこと、もうちょっと信用してくれてもいいと思うんだけど。
「颯真は大丈夫ですよ。むしろ俺と離れたほうがいいと思います。一緒にいたら、ずっと彼女出来ないだろうし」
ぽんと放り込まれた真白の台詞に、俺含め、うちの家族は絶句した。その意味合いは、それぞれ違ったみたいだけど。
片岡家四兄弟、恭真(大学一年生)、颯真(高校二年生)、優真(中学三年生)、透真(小学四年生)。嫁に似た可愛い娘が欲しかった(父談)。




