16.俺にとってはご褒美ではない
「何でそうなった?今まで一度もなかったよな?」
「いやなんでって……おっぱ、じゃなくて、今日クラスの友達に色々、昨日のことで……彼シャツとか色々言われて」
「それで?」
それでって、それだけだよ!それ以上でも以下でもないよ!
強いて言うなら見ちゃった……見てないけど!見てないけど!真白のささやかなおっぱいの存在を視認してしまった、それが原因と言えば原因だけど、それこそ本人には言えない。
ていうかめちゃくちゃ目が据わってる。これビデオ通話じゃなかったら逃げ出すレベル。逃がしてくれないだろうけど。
「いや、それだけ、で。その、真白になんかしたいとかして欲しいとか、そういうのはなくて、ほんとに、ただ頭に浮かんできちゃって、それが申し訳ないと言うか気まずいと言うか!」
「……ふーん?」
うっ。怖ぇ。真顔で首傾げてもいっこも可愛くねぇ!顔が良い分圧がすごい!すいませんもう他に言えることないです!これで全部です!
「……とりあえず、わかった」
「そ、その、悪い……」
これ以上詰問されないとわかって、長く息を吐いてから、謝る。いや、ほんと申し訳ない。アホな男子高校生の脳みそを叱っていただくしかない。
ほんとに、これが下心に直結しなくてよかった。どう頑張ってもノリノリでコスプレする真白は生成できず、イヤイヤやってる感じの想像しかできなかったからな。それで燃え上がるほど俺の癖は屈折していなかった。せめて照れてるとこでも映像化できたら……いやいかん。ここで解像度を上げるな。消えてくれ!
「……で、どうする?」
「へ?どう、って?」
「その程度のことで俺の顔見れなくなったり挙動不審になってたら、今後活動できないだろ」
たしかに。
いやなんとか、なんとかなるはず。あの友だちが弄ってくることは多分もうないだろうし、あとなんか掲示板とかエゴサとかしなければ真白がエロいとかそういうのも目に入らないだろうし、そういうとこ気を付ければ大丈夫な、はず。
……ということを、必死に真白に説明した。いやなんで必死になってんだ俺。浮気が見つかったみたいな必死な言い訳っぷりだな。
でもまぁ、お互いそれなりに覚悟決めて活動続けるって確認したばっかりだしな。それをこんなんで駄目にするってちょっと情けないよな。
「……まぁ、颯真が大丈夫だって言うなら一応は信じることにする。けどじゃあ、直近はどうする?ゲームやる分には目を合わせなくても近付かなくても大丈夫だから違和感無いだろうけど、コスプレはやめといたほうがいい?」
「えっと……いや……うーん……」
別に脳内で着てたようなアレなコスプレするわけじゃないし、大丈夫だとは思うんだけど……。この自動生成が俺の意志で止められる自信がどの程度かと聞かれると、ひじょーに危ういんだよなぁ……。とはいえ他にいい案があるわけでもなし……。
考え込んで無言になった俺と同じく、モニターの向こう側で、真白も何か考えているらしい。
「……カナタさんにお願いしてみるか。男装メイク」
「え、いいの?」
真白の提案に、思わず聞き返した。
なんかこの前女装させられそうになって揉めてたし、カナタさんとは会いたくないかと思ったんだけど……
「まぁ結果うちの数字も伸びたし、お礼になるかはわかんないけど……この前と同じ時間帯なら空いてるかもだし、夏休み入れば編集の時間も取れるから、撮影がちょっと遅くなっても何とかなりそうだし」
「そっか。たしかにカナタさんとコラボならおもしろくなりそうだな」
「まぁ……普段から男装してるから、意外性はないし、カワイイ要素ないから、前回の女装ほどはウケないだろうけど……」
「いや、お前の男装の完成度ならけっこーイケるんじゃね?」
男装に関してはいつも自信満々の真白らしくない、弱気な発言に首を傾げる。
「そう思ってたんだけどなぁ……お前に女と認識された時点でなぁ……」
あれ、なんか俺のやらかし、こっちまで影響してる?
「いやだってあれは、風呂上がりだったから男装してなかったし、関係ないだろ」
「まぁそうなんだけど……」
はぁ、とため息をつく真白の落ち込みようが、なんだか引っかかる。そんなに男装しきれなかった?のが、気になるのか?俺のやらかしが許せなかったとかだと、責任感じるな。
……しかし頭抱えて前髪かき上げるのも絵になるな。
「まぁいいや。んじゃ、カナタさんに連絡してみる。アプリ探すの頼んで良い?」
「あぁ。あとイラストレーターさんの確認な」
「うん。じゃ、おやすみ」
打ち合わせは終了、と通話を切ろうとした真白に待ったをかける。
「あ、ちょい待て。お前夕飯食べたか?」
「出たよ颯ママ……。ちゃんと食った。はい、おやすみ」
「ママやめろ。ん、おやすみ、また明日」
とりあえずちゃんと飯食ったみたいで安心した。あいつ一人暮らしになってから、たまに飯抜くからな。それで心配してるのネタにされて、不本意なあだ名が付いたけど。
とりあえず俺のアホなやらかしについては、今後挙動不審にならなければ許してもらえるようだ。もう極力思い出さないようにしようと決意しながら、お袋が持ってきてくれた洗濯物を仕舞おうとして、真白に貸したTシャツが目に入った。
彼シャツ…………
とりあえず、このシャツは目に入らないところに仕舞うことにした。
実際に目にした光景を思い出すだけならともかく、なぜかハーフパンツまで消えていたのでもうダメだった。
「はい、それでは本日の配信始めていきまーす」
「よろしくお願いします!先日はお騒がせしました!」
初手で謝る。取りあえず謝る。ファンの皆さんは非常に温かくそれを受け入れてくれたっていうか、大半はちゃんと、俺と真白には何もないとわかってくれているので、謝らなくても、って感じだった。
「はい、俺と颯真のお母さんとマネージャーさんで叱っておきましたので……え、俺に叱ってほしい?」
「何で!?」
いやほんと、なんで?怖いよ?けっこう年上相手でもビビらせるくらい怖いよ?
「ご褒美?なるの?褒めるんじゃなくて?」
「え、俺は叱るのとか苦手だから勘弁……」
なんだかゲームやる前に、褒めるとか叱るとかでコメントが沸いて、結果として。
「あのー、じゃあ、今日はとりあえずゲームやるけど、次かその次あたりでね、叱ってほしいとか褒めてほしいとか、俺か颯真か選んでもらって、内容も教えてもらってね」
「やんの!?叱るとかどうすりゃいいんだよ!」
「頑張れ。さて、それじゃーゲーム始めていきまーす」
なんか、そういうことになった。
前に、言ってほしい告白台詞の読み上げとかいうめちゃくちゃ恥ずかしいネタやったことあるけど、これはこれでアドリブだしキツいぞ!
いやしかし、そう、真白の言う通り頑張るしかない。なんなら真白から俺に乗り換えてもらえるかもしれないし!
……自分で言っててかなり厳しい気がしてきたが、やってやるぞ!




