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15.信じられない発言

「……は?」


俺のうっかり投稿があった、その日の夜。翌日の配信の打ち合わせのため、真白とビデオ通話を繋いで、黒沢さんとのやり取りを聞いた俺の第一声だ。

信じられない、という驚きと呆れの「は?」だ。


「だから、社長がめっちゃ喜んでるって。なんならこれからもどんどんやれって」

「おいおい……勘弁してくれよ……」


いやもうほんと、それに尽きる。

付き合ってる云々のときに、たしかにそういうこと言われて、俺もそれで良いって言ったけどさ。あのときは分かってなかったんだよ。

ファンががっかりするとか離れるとか、それだけじゃなくて、悪意が向かってくるってことが。


「真白のコメ欄荒れてたけど、他にもなんか来てるだろ?大丈夫か?」

「んー?まぁ、もともと俺のこと敵認定してるような人はミュートしてるから、そんなには」


マジかぁ。ミュートするほど嫌なこと言われてたんか、今まで。それすら知らなかった俺は本当に親友名乗って良いのか?

あ、ちなみに親友に不要な雑念はなんとか消した。「真白っていう生き物」という説明に爆笑した友人も、それ以上聞いてこなかったのでなんとかなった。何より今の真白はいつもの真白である。おっぱいなど存在しない。絶壁じゃなくて鉄壁の男装だ。


「で、どーする?どんどんやる?颯真がうちに泊まったときとか……」

「駄目に決まってんだろ!お前一人暮らしなんだし今回以上に騒がれるだろ!」

「そこ強く出るのに寝落ちして泊まってくの何なの?」

「すいません以後気を付けます」


いやだってさ、うちと違って風呂とか飯とか競争にならないし、動画編集に集中すると時間忘れちゃったりするし……

いや、そこはとりあえず置いておいて。


「えーっと、じゃあ、今回の火消しは大丈夫として、真白があんまり気にしてないってのもわかったけど、リアルイベントはどーすんだよ」

「え?どーもなにも、普通にやる気だけど」

「いや普通って。気をつけるとかなんとか、黒沢さんと話してたんだろ?」


それ聞いて俺はようやく危機感持ったんですけど?

普通にやっちゃだめなんじゃないの?


「直接接触するのはチェキと握手のときだろ?握手はお前と隣で連続してやるわけだから、変なこと出来ないし、チェキのときは荷物預かるようにするって」

「うーん……なら、大丈夫か?」

「だと思う。それより明日の配信と、今週の動画の話!」


なーんか話逸らされてるような気もするんだが、明日の配信が取り急ぎ問題なのは間違いない。


「泊まりについては淡々と対応するとしても、雑談だと流石に墓穴掘りそうだし、ダンス……の、ネタってなんかある?」

「えー。無理すんなよ。今からじゃ振り入んないだろ」


そう。これはちょっと真白に勝てるとこなんだよな。振り付け覚えるのは俺のほうが得意だ。身体に覚えさせるのが上手いって、ダンスの先生が言ってた。つーか頭で覚えるのは真白のほうが得意なので、ここで勝てないと勝つとこないんだよな。

そこがどうにも不服らしい真白は、びみょーに頬を膨らませてダンスを諦める。


「そうだけど……じゃあゲームでもする?」

「そうだな。配信の枠内である程度できそうなやつ……」

「人生ゲーム系は?ライトでわかりやすいじゃん」

「あぁ、いいな。対戦できるやつで……ぶっつけで初めてのアプリ?」

「うん。その方が面白いだろ」


こうして翌日の配信内容は決まった。次は動画なんだけど……。


「うーん。カナタさんのおかげで少しは視聴者増えたけど、動画で数字稼ぐって難しいな」


真白の意見に激しく頷く。俺たちの売りって「キャラクターと関係性」で、それってサムネや動画に落とし込むの難しいんだよな。それこそ配信とか日常を投稿したSNSで稼いでるようなもんだし。

カナタさんとの動画でわかったのは、やっぱり「流れに乗る」のと「パッと見のインパクト」が大事だってこと。そして視聴者の多くは「可愛い」を、求めている。

流行りの可愛い振り付けと、顔だけは可愛い女装、この2つのお陰でたくさんの人の目に止まったわけだ。

とはいえこれ、俺たちだけでできるかというと難しい。


「そりゃな。わかったのは『可愛いは正義』ってことくらいだけど、俺等苦手だもんな」


俺には可愛い要素なんて存在しないし(年上の人から可愛がられる要素はある)、真白に至っては毛嫌いしている。やっぱ「カッコイイ」路線で頑張るしかないかなと諦めそうになったのだが、真白は打開策を見つけていたらしい。


「というわけで、苦手を補う提案です」

「お?」

「二次元に落とし込んでもらいます」

「???……イラスト描いてもらうってこと?」

「せいかーい」


なるほど?顔出ししてる人でも、アイコンやサムネにイラスト使ってるもんな。イラストなら俺たちが頑張らなくても可愛いのが出来そうだし……。


「いいんじゃないか?えーと、依頼先?は?」

「俺たちの活動経費内でやってくれそうなイラストレーターさん、何人か探してみたから見といて。契約関係は黒沢さんがやってくれるって」

「おー。ありがたいな」


頼りになるぜ、黒沢さん。イラストかぁ。グッズも増えたりするんかな?どのくらい売れるのか、全然予想つかないけど、事務所にも儲けが出て、ファンも喜んでくれたら良いな。


「まぁすぐにってわけにはいかないから、次回のネタは別に考えなきゃいけないんだけど」

「そうだな……なんだっけ、ASMR?とかは?」

「うーん。やったことないしな。出来るかわからん。ファンからのリクエストでなんかあったっけ?」 


過去の配信やDMでもらったリクエストを、真白が一覧にしておいてくれたらしい。できる、できない、費用や時間、協力者の必要の有無なんかもメモしてある。抜け目ない。

その中からすぐにできそうなものを拾ってみる。


「あー、前にコスプレ?とか、私服見たいとかあったし、ファッションショー的なのやる?撮影にちょっと時間かかるけど、編集は簡単そう……颯真?」

「あー、うん。じゃあ、なんか衣装、揃えないとな」


しずまれ煩悩ぉおおおお!

違う!そういうコスプレじゃない!

足とか胸とか見せる感じのあれじゃない!

あと背景がおかしい!ベッドと観葉植物とインテリアの感じ、なんか見たことある!


「じゃあ明後日買い出しかな。とくに用事はない?」

「お、おう、大丈夫」

「予算は……今月使ってないし、経費から結構出せそうかな。衣装兼私服も買っちゃうか」

「ん、うん」

「……なんで挙動不審なの?」

「んんっ」


なんでって、煩悩消すのに忙しいんだよ!本人眼の前にして気まずいんだよ!

言えるわけねーだろ!


「……?なんか、今回のプチ炎上、まだ気にしてる?」

「いや、その、それもそう、なんだけど……」


真っ当な心配をされてしまった。ますます気まずいと言うか申し訳ないというか。

うああああ、誤魔化せない!嘘がつけない!素直すぎる俺の精神、今だけ歪んでくれ!


「なんだよ。コスプレ嫌ならそう言うよ」


あああ、今度は企画に不満があると思われてしまった!違う、そうじゃないけど、いやある意味避けたいんだけどそうじゃなくて!

俺が何も口にできずに黙っているので、真白がイラッとしたのがわかった。わかったけど……!


「俺に隠し事するとはいい度胸だな。納得できる返事するまで切らないぞ」


ひっ。ファンには「ドSっぽくていい」とか言われる真白の俺様な部分が出てしまった。

ちが、だって、言えない、けど、こいつを納得させるには、嘘、なんかついたって、どうせすぐバレる……!


「おい、なんとか言え……」

「お前の!えっちなコスプレが頭に浮かんで消えてくれねーんだよ!」

「……は?」


……う、吐きそう。その重低音とめちゃくちゃ怪訝な顔、やめてくれませんかね……。

Q.颯真くんが見たことある背景ってなんですか?

A.真白くんの部屋……ではなく、いかがわしいアレのアレです。

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