11.まさかの凸
女装動画はなかなかの再生数を記録した。女装ダンス動画も、今までのダンス動画より良い感じだ。カナタさんとのコラボってのもあるだろうけど、初めて見たって人もけっこういるみたいで、俺達は手応えを感じている。
つまりそれだけ、俺の残念な女装が拡散されているということである。
いや、顔の完成度は高かった。さすがカナタさんだった。しかしその分体との落差が激しい。動くとなお身体のゴツさが強調されてキツイ。隣にいるのが真白とカナタさんなのもキツイ。
これがカナタさんやそのグループのメンバーだと、動きまできっちり女子になってるからすごい。本職は流石だと、今さらながら感心する。
……まぁ、とにかく。思ったより好感触で、ファンにも喜ばれて、良かった良かった……とは、ならないのが世の中だ。
「あの!Alice blueのお二人ですよね!」
学校の帰り道に現れたのは、女子中学生らしいファン二人組。
……これが噂の凸ってやつか?
こういう場合ってどういう対応が正解なんだ?無視、はないよな?子供だし……
きゃあきゃあと声を上げる二人を前に、俺は固まり、真白は少し考えてからにこりと営業スマイルを浮かべた。
「そうだよ。二人は○○中の子かな?」
「はいっ!颯真くんがここの高校って書き込んでる子がいて、近くだからひょっとしたら会えるかもって!」
「そっか。一昨日の配信は見てくれた?」
「見ました!あとあれ、颯真くんの女装ダンス、あれめっちゃ可愛かったです!」
うっ、その感想は嬉しいけど嬉しくないやつ。
そして真白は二人から情報を得つつ、自然と歩きだす。
駅とは違う方向だな。多分近くの公園に向かってる。
「あの、ふたりはいっつも一緒に帰ってるんですか?」
「そーだね。だいたい一緒かな。二人も?」
「あ、いえ、わたし達は家は逆方向なんですけど」
思った通り、真白は公園に向かい、自販機でお茶とジュースを買って二人に渡し、俺に耳打ちした。
「黒沢さんに連絡してみる。とりあえず俺らの昔話でもして引き止めろ。このまま帰していいか、判断できない」
「わかった」
真白はちょっと電話しなきゃいけない用事があって、と二人から離れ、黒沢さんと対処を相談してくれるらしい。ということは俺はここで二人の相手をしなきゃいけないわけで、昔話ってつまりリトルリーグ時代のこと?
何を話そう、と悩んでる間に、向こうから質問を浴びせられた。
「二人は小学校の頃からずっと仲良しなんですよね?」
「ん?うんまぁ、そうだね」
「高校が一緒になったのはたまたまですか?」
「いや、俺が特に行きたいとこなくて、どうせなら真白といっしょがいいかな、と」
「えーっ!すごい!ほんとに仲良し!」
「やっぱあの書き込みは嫉妬だったんだ!」
あの書き込み?なんだろ。
「嫉妬……って誰に?」
「えっと、颯真くんのファンに、真白くんに嫉妬してる人がいて、二人が仲良いのは嘘だって、仕事でやってるんだって言ってる人がいて」
「そんなわけないって、私達二人で話してて、プライベートで一緒にいるとこ確かめたらわかるんじゃないかって」
なるほど?ただ会いたいってわけじゃなく、俺たちの仲良しアピールが本物か確かめたかったと。
……いやいや、あれ疑うってかなり捻くれてんな。仮にもファンに言うことじゃないけど。むしろ付き合ってると誤解するほうが自然まであるぞ。
「それってSNS?」
「そうです。でもあの、中学生がメインの、小さい掲示板サイトみたいなやつですけど」
「俺の学校のことも?」
「そう……です。すいません。ほんとはこれ、いけないことですよね……?」
ひとしきり話して落ち着いたのか、二人も反省したような雰囲気だ。うーん。まぁね、現時点ではそんなに困ってないけど、同じ掲示板ってことは、その捻くれたファンの方が来てた可能性もあるわけで。そうなると困るのは……俺というより、真白か?
うーん。まずいな。なんせあいつ、今一人暮らしだし、一応女だから、俺よりは注意しておかないとな。
考え込んでしまった俺は眼の前の二人のことを忘れていた。
おかげで二人はすっかり意気消沈している。
「大丈夫。良くないことってわかってくれてるなら、今日のコトは秘密にできるでしょ?」
何時の間にか戻ってきた真白が声をかけると、ふたりはハッとして頷いた。
俺もハッとした。そうそう、まずは秘密保持。わかってる。大丈夫。
「は、話しません。でもあの、学校のことは、掲示板に……」
「そっちはうちの優秀なマネージャーさんが対応してくれてるから大丈夫。もう少しだけ話したら、二人は秘密を守って帰ってくれたら、それでいいよ」
真白が黒沢さんと話して出した結論がそれなら、俺に口を挟む余地はない。
それから、真白が言ってたとおり、リトルリーグ時代の話や、最近の配信や動画の話をして、二人は帰っていった。
「……で、黒沢さんはなんて?」
「あの二人については言ったとおり。その掲示板ってやつ、小、中学生が使うようなやつらしいんだけど、善意の通報者がいて黒沢さんも今朝知ったらしい。学校についての書き込みは昨夜で、閲覧数も少ないから、今日削除してもらえばそんなに目に触れることはない、って思ってたみたいだけど」
「ばっちり近所のファンが見つけちゃったと」
「しかも会いに来る理由までそこで見つけちゃったと」
公園のベンチで残りのお茶を流し込みながら、ここまでの経緯を整理する。
まずはその掲示板に、俺のファンというか、真白のアンチというか、そういう子がいた。それを見たあの二人は、それに怒っていた。そこにたまたま、俺の通う高校の情報が書き込まれた。それを見た二人は、裏づけを取ろうと会いに来た。
「問題は高校がどっからわかったのか……お前は本名で活動してるし、在校生の可能生もあるけど」
「だったらもっとでかい掲示板とかSNSを使いそうだよな」
「ってことは、犯人はその掲示板を利用するような、子ども」
「……まさか」
ちらりと、弟二人の顔が過る。いや、あの二人がそんなこと。したって何の得にもならないし、するはずがない。
「お前んトコじゃないと思うし、うちの弟もないと思う。お前んトコはそういう掲示板とか、そもそも使ってなさそうだし、うちのは逆に、俺のこと隠したいだろうから」
それはそれでどうなんだと思うけど、まぁ、真白の言う通りだ。身内の線は薄い。
「でもじゃあ……あ」
「うん。……考えたくないけど、後輩かな」
リトルリーグ時代に所属していたチームには、アイドル活動を始めるまでちょくちょく顔を出していた。
そして、今もうちの末っ子が所属している。
俺のことを知っていて、小、中学生向けの掲示板に書き込みして、知り合いなんだ、って自慢しそうな奴。いるわ。一人二人じゃないわ。
俺と真白は深く息を吐き、激怒するだろう監督とコーチの顔を思い浮かべた。
「で……ちょっと俺は、黒沢さんに呼ばれてるんだけど……颯真は、帰って大丈夫……」
「いや行くだろそれは」
「……だよな……じゃ、行くか、事務所。おばさんにはちゃんと連絡しとけよ」
「おう」
真白の保護者への連絡、だろうな。だったら俺も一緒に行かないと。
なんせアイドル活動始める時「俺も一緒なんで心配しないでください」って、なんの考えもなしに言っちゃったし。




