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10.相方の勘違い(真白視点)

半田真白です。本名は半田美結。

男装して、アイドルやってます。相方は親友で、ふつーの男。

いや、ふつーでもないか。野球選手としてのあいつはかなり有望だった。中学時代に故障してなければ、野球推薦で強豪校にいってただろうし、スタメンも取れたと思う。それくらい、あいつには才能と、それを伸ばす愚直さがあった。

軟式ならやらなくていいや、硬式の女子チームは近場にないしと、あっさり諦めた俺とは情熱のかけ方も違う。

だからまぁ、故障はショックだったと思う。本人はそう見せない明るい奴だから、余計に周りが気を揉んだ。

そんでなんか、おばさんに頼まれて、一緒にメシ食ったり野球見に行ったりしてるうちに、同じ高校を受けることになり、腐れ縁はいまだに続いている。クラスと言うか、学科が違うから四六時中べったりってわけでもないけど、帰宅時にはなんとなく合流している。


親友、なのは間違いない。あいつより話の合うやつもいないし、わかり合えるやつもいない。大事な存在なんだけど、まぁ、俺が女だから、そうは見てもらえないことも多い。


あいつは顔も性格もいいから、女子からの人気も高い。なんなら欠点が「素直すぎてちょっとアホ」と「親友が女」くらいしか思い当たらない。

そんな親友の青春の邪魔にならないように、女子からの接触の邪魔にならないようにと、気を使って距離を取ってみれば、向こうから近付いてくる。

いわく、寂しいと。

ふざけんなよお前コミュ力高いんだから男子の友人だっていくらでもいるし、女子だって向こうから声かけてくれるだろ。何贅沢言ってんだ。

そう毒づいたら、だってミューの代わりはいないから、とか言う。


脱力した。

そして無理に距離を取るのをやめた。


んでなんか、野球やめて暇だけど身体動かしたいって言うから一緒にダンス始めて、ふざけて投稿した動画がきっかけでアイドルやることになった。

素直で万人受けするあいつと、キワモノの俺のコンビはけっこうウケた。でもここでもやっぱり「男女」であることが問題になった。

いっそそういう勘違いをさせておけという事務所の方針に、思うところがなかったわけじゃない。でもまぁ、存外楽しく活動してたし、続ける以上上の方針に従うことにした。


結果、俺へのヘイトが高まった。

まぁそーなるよな。黒沢さんもそれを懸念して「真白くんの負担が増えるけど大丈夫?」と心配してくれてた。素直なあいつは「俺がSNSの投稿を増やすこと」の負担と勘違いしてたけど。

そもそもさ、単純なファンの数は俺のほうが多いけど、その分アンチは何倍も多いんだよな。

だってあいつ、異常にガチ恋が多いから。

わかるわかる。あいつ普通すぎるし、ファンとの距離感も近過ぎるから、クラスメイトくらいに感じちゃうんだよな。

だから、いつも一緒にいる俺が許せないんだよな。


「颯真くんの邪魔になってるのに気付いてない、勘違い女」

「痛過ぎる。さっさとソロで活動してほしい」

「本当は自分のこと美少女だと思ってる。ダルい」

「颯真くんにベタベタしてんのほんとキモい」

「ファン相手にマウント取って調子に乗ってる。性格悪すぎ」


などなど、俺個人の性格や言動より、颯真の相方だから、というディスりが激増している。

いや。そもそもあいつ、俺とコンビじゃなかったら活動してないと思うけど、なんて本音は火に油を注ぐので飲み込んで、静かに静かに、ミュートする俺であった。


そういやあいつ、なんか俺にガチ恋がいないはずないとかムキになって変な方向に悩んでたみたいだけど、あれは本当に無意味だ。

恋、したいと思ってないし、されたいとも思わないし。


一応恋愛対象は男だと思うので、女子に騒がれたところでそれを本気にするわけでもないし、徹底的に女を出さないようにしている俺に、男性ファンがつくとも思えない。


もし俺が誰かと付き合わなきゃいけないんだとしたら、それは現時点では颯真しかいない。

でもあいつが俺を女として意識することはないだろうし、俺も女らしさを見せるつもりはない。そんなの、わざわざ親友って関係を壊すようなもんだから。

親友という関係の現状維持のためにも、アイドル活動のためにも、俺は慎重に、わずかながら自分の中にある「女らしさ」を隠している。


だからそれは、聞きたくない台詞だった。


「こーゆーのとか、颯真好きそうじゃない?真白も俺の手にかかれば、颯真好みのふんわり美少女に」

「やめてください!」


違うんだよ。俺はそんなの望んでない。

あいつとは今のままがいい。変えたくない。女としてなんて、見てほしくない。

そんな気持ちが、溢れて声になって、はっと息を呑んだ。

衣装片手に笑っていたカナタさんも、びっくりしている。

マズい。先輩相手に、やってしまった。

何事かと慌てた様子で戻ってきた颯真は、俺とカナタさんを交互に見て、ほっと息をついた。


「カナタさん、本人がやんないって言ってるんで、無理やり女装はさせないでくださいよ」


そうじゃねぇ。

いやそうなんだけど、そこだけが問題じゃなくて、それはカナタさんも気付いたみたいだけど、飲み込んでくれた。


「そーだね。素材がいいとつい、もったいないと思っちゃうんだよねー。やっぱ真白くんには男装メイクお願いするわ」

「それもいいとは言ってませんけど」


それから、動画の投稿スケジュールやサムネの扱いについて打ち合わせて、カナタさんのところを後にした。


「はー……やっと終わった」

「終わってねーしこれからだろ」


肩の荷が下りたとばかりの颯真につっこんで、動画編集と投稿後の対応についてあれこれ予想を聞かせてやると、思いっきりしょっぱい顔をしていた。

大丈夫だ。たぶん受けはいい。ファンにも喜ばれるだろうし、新規開拓にもなると思う。カナタさんの腕に感謝しろ。多少は俺との差も縮まるだろう。ただし入口が女装だから、固定されるかはかなりアヤシイ。先週あたりから始めた野球ネタの方が、地道だけど確実かもしれない。


夏休みにやる事務所のオンラインイベントの呼び水にはなったかな。

秋には活動一周年。Alice blueとしては初めてのリアルのイベントが控えてる。流石にちょっと身の危険を感じるし、黒沢さんとヘイト管理について打ち合わせておこう。

春になったら高校3年生。夏には受験が本格化する。

Alice blueはそこで解散か活動休止になる。


大学は流石に同じとはいかないだろうから、颯真と毎日のように顔を合わせる日常もそこで終わりだ。


もう少し俺たちが大人になって、距離が離れて、俺が女であることを自然と見せられるようになったら。 

そのときには、お互いに「理解して、思いやってくれる異性」がそばにいるといいな、と思う。


それが今の相方だといいなんて、贅沢は言わない。

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