9話 追放されて、でも、求められて
私に、この国に移住してほしい?
そんな話、ありえない。
冗談としか思えない。
だって……
私は、追放されるような出来損ないの聖女なのだから。
「それについては、俺から話をしよう」
「王!」
今度は、ジーク様が姿を見せた。
途中まで話を聞いていたらしく、内容は理解しているみたいだ。
「すまないな。ダメとわかりつつ、少し立ち聞きをしてしまった」
「いえ、それは問題ありませんが……」
やましい話をしていたわけではない。
「その……移住してほしいというのは、どういうことなのでしょう?」
「そのままの意味だ。アルティナことを家臣達に話したんだが、ぜひ我が国に迎え入れよう、という声が次々と上がってな」
「私なんかを……?」
「自分を卑下しないでくれ。アルティナのおかげで、この国は救われたと言っても過言じゃない。もっと誇っていいことだぞ?」
「そう言われても……」
困惑してしまう。
だって……
今まで、褒められたことなんて一度もないから。
「すまない、アルティナ。お前の許可なしに、ある程度の素性を話してしまった。隣国の聖女で、追放されたことを」
「いえ、それも問題ありませんが……」
追放されたことは事実。
事実を話されたとしても、特に問題はない。
気にすることでもない。
「……やはり、それだとしたら、なぜ私を欲するのか理解できないのですが」
このような落ちこぼれ、お金をもらってもいらないと言うのが普通ではないか?
「なにを言っているんだ?」
「なにを言っているんですか?」
ジーク様とアン様が、同時に不思議そうに言う。
「この国は聖女がいない。塔が結界の代わりを務めていたが、そこを狙われると弱いという問題がある。だから、前々から聖女を探していたんだ。しかし、国全体を覆うほどの結界を展開できる力量の持ち主なんて、普通はいない」
「たくさんの聖女を集めることでカバーするのですが、この国は魔族の国だからなのか、聖女が一人もいませんでした」
「そんな時、アルティナ……お前が現れた。都合が良い……というと、ひどい話になるが、所属する国はない。そして、類まれなる力を持っている」
「アルティナ様がいれば、この国は、最低でも100年は安泰でしょう」
「えっと……」
確かに、聖女は貴重な存在だ。
誰でもほいほいとなれるものではない。
でも、私は最底辺の聖女なのに……
どうして、才能があるという嘘を吐くのだろう。
「……」
どうしよう?
この先、行く宛はない。
お二人の好意に甘えるしかないのだけど……
「……申しわけありません。とてもうれしいお話なのですが、お受けすることはできません」
「なぜだ? 魔族の国の民になりたくはないか?」
「いえ、そのようなことはありません」
まだ少ししか見ていないけど……
この国は活気にあふれている。
民が笑っている。
魔族の国だとしても、とても素敵なところだと思う。
魔族も……
偏見があったのかもしれない。
破壊と混沌を望む種族だなんて、到底思えない。
それは、ジーク様やアン様を見ていればわかること。
求められているのなら……いえ。
この人達のために、役に立てることがあるのなら、微力だけど全力でがんばりたい。
でも……
「……私は、命を狙われている身です」
国を追放されて……
そして、命も狙われることになった。
「聖女ではなくて罪人です。そのような女を受け入れれば、この国がどうなるか……」
「我が国を心配してくれているのか。アルティナは優しいな」
「え? いえ、その……」
思わぬ言葉をかけられて、ついつい動揺してしまう。
私が優しいなんて、そんなことは……
なぜだろう?
動悸が勝手に早くなってしまう。
「だが心配することはない。元々、我が国と人間の国は対立をしていた。人間の国でいう罪人を受け入れたとしても、今更、大した問題にはならない」
「そういうもの……なのですか?」
「そういうものだ」
「それに」と間を挟み、ジーク様は言葉を続ける。
「例え問題になったとしても、俺は、アルティナを我が国に迎えたい」
「……え……」
「聖女ということを抜きにしても、だ」
「それは……どうして、ですか?」
「アルティナを好ましく思っているからだ」
「……え?」
数秒間、頭がフリーズした。
見ると、アン様も「え?」というような顔をしている。
「アルティナは、今まで俺の周囲にいなかったタイプだからな。一緒にいるとおもしろい」
「あ……はい、そういうことですか」
なるほど。
私のような鉄仮面は、そうそういないだろう。
そういう意味で興味があるということ。
なるほど。
理解した。
したのだけど……
「……」
「どうした、なぜ照れている?」
「……照れてなんていません」
今だけは、ジーク様に私の鉄仮面が通用しないことを恨んだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
執筆の励みになるので、ブクマや☆評価で応援していただけると嬉しいです。




