7話 とんでもない
「……ん」
ふと目が覚めた。
目を開けると、白い天井と白いカーテン。
それと、優しい花の匂い。
「えっと……?」
体を起こして周囲を見ると、知らない部屋にいた。
病院……だろうか?
ただ、やけに豪華な部屋だ。
「あっ」
扉が開いて、見知らぬ女性が。
魔族みたいで、小さな角が見えた。
「目が覚めたんですね、よかった!」
「えっと……?」
「少し待っていてください。すぐに王を呼んできますから」
慌ただしく立ち去ってしまう。
王というのは……ジーク様のことだろうか?
それは理解できたけれど、なぜ寝ていたのか、それがわからない。
「えっと、確か……」
倒れる前、私はなにをしていたのか?
それを思い出そうとして……
「目が覚めたのか!」
すぐにジーク様がやってきて、思考が中断されてしまう。
とても早い。
もしかして、すぐ近くで待っていたのだろうか?
「大丈夫か!? 気分は悪くないか!?」
「え、えっと……」
「王よ、落ち着いてください。そのように強く出られては、彼女も驚いてしまいます」
さきほどの女性がそうなだめてくれた。
「あ、ああ……そうだな、その通りだ。すまない、つい興奮してしまった」
「いえ、それは構いませんが……えっと、私はどうして寝ていたのでしょうか?」
「覚えていないのか?」
「はい……頭がぼんやりしてて、どうにも記憶が曖昧で」
「そうか……それも仕方ない。なにしろ、あれだけの結界を一人で展開したのだからな。疲労や魔力の消耗の影響があるのだろう」
「結界……?」
その言葉に引っかかるものを覚えた。
結界、結界、結界……
あっ!?
「そうでした、この街の結界が壊れ、魔物や瘴気の脅威が……」
思い出した。
ジーク様の言葉がきっかけとなり、曖昧になっていた記憶が鮮明に色づいていく。
「それなら問題ない」
「え?」
「忘れたのか? アルティナ、お前のおかげだ」
「私の……」
と、いうことは……
私は、うまく結界を張ることができたのだろうか?
よかった。
肝心なところでも失敗していたら、本当にどうしようもない。
そんな最悪の事態はなんとか避けられたみたいだ。
「本当に助かった。アルティナは、この国の恩人と言っても過言ではない。ありがとう」
「そんな、私なんて……」
大したことはしていない。
たまたま、結界をうまく張ることができただけで……あ。
「あの、私の他に結界を張れる方はいないのでしょうか……?」
「結界を? それは難しいな。我が国に聖女はいない。結界の機能は塔で補ってきた」
「その塔の修復は……?」
「しばらく時間はかかる」
「そんな……」
「どうした? なにか懸念事項が?」
「……私は、国を追放されるような聖女です。大した力を持っていません。なので、私の結界はいつまで保つか……いえ。それ以前に、きちんと機能するかどうか……」
「「……」」
ジーク様と女性が怪訝そうに顔を見合わせた。
それから、なにを言っている? というような目をこちらに向ける。
「なにを言っている?」
実際に言われてしまった。
「アルティナの張った結界は完璧だ」
「え?」
「強度、範囲、持続力……どれをとっても問題はない。というか、素晴らしい。塔が作る結界の百倍は頑丈だな」
「王、それは過小評価かと。私は、三百倍は強固であると考えています」
「それもそうだな」
「えっと……」
私の結界がすごい?
そんなことありえない。
でも、二人に嘘や冗談を言っている様子はない。
いったい、どういうことだろう?
「どうしたんだ?」
「いえ、その……お二人の話を疑っているわけではないのですが、しかし、そのような強固な結界を私が展開できるはずがなく」
「現に展開しているが?」
「なにかの間違い? いえ、そうでないのなら奇跡が起きた……?」
わからない。
なぜ、こんなことができたのだろう?
「ふむ」
混乱する私を見て、ジーク様は考えるような顔に。
ややあって、気遣うような顔に。
「アルティナの戸惑いはわかった。念のため、もう一度、結界を調査してみよう」
「お願いいたします」
「まあ、問題はないと思うけどな。だから、そう不安そうな顔をするな」
「……え?」
今、この方はなんて……?
「どうして……不安そうな顔、だと……?」
「なにを言っているんだ?」
ジーク様は、心底不思議そうな顔をして言う。
「そんなことは見ればわかるだろう?」




