6話 私、やらかしました……?
「なんだと!?」
ジーク様が険しい表情に。
それも当然だ。
結界というものは国防の要。
魔物の侵入を防ぐだけではなくて、魔物が生み出していると言われている瘴気を防ぐ役割も兼ねている。
瘴気に触れたものは病にかかり……
草木は枯れて、大地は腐ってしまう。
それを結界が阻んでいるのだけど、破壊されたということは……
今、この国は完全な無防備に陥ってしまったということ。
例えるなら、なにも装備を持たず、極寒の雪山にいるようなもの。
放置すれば、すぐに終わりを迎えてしまうだろう。
「どういうことだ? 今、破壊された、と言ったな?」
「はっ……人間の軍が攻めてきて、勇者を名乗るものが一部の塔を破壊して……」
勇者?
それはもしかして、カイム様のことだろうか?
あの方は王子だけではなくて、勇者も兼任している。
「人間の軍はどうなった?」
「塔の破壊が目的だったらしく、撤退しました」
「我が軍の被害は?」
「それほど大きなものではありません。しかし……」
「結界を維持するための塔が破壊された……か」
ジーク様はとても苦い表情に。
こういう時、上に立つ者は焦りを隠し、堂々としていなければいけないのだけど……
それができていない。
ただ、それはジーク様が悪いわけではない。
結界が破壊されるということは、それほどまでに深刻な事態なのだ。
「塔の修理はできそうか?」
「全壊というわけではありませんが、大きなダメージを受けているため、数週間は必要かと……」
「まずいな……数週間も結界がないなんて、下手すると国が滅びるぞ」
ジーク様は小さく舌打ちをした。
それでいて、必死に頭を巡らせている様子だ。
あぁ……と、納得した。
きっと、この方はなによりも国を大事にしているのだろう。
そこに住む人々を宝物のように思っているのだろう。
だからこそ、ここまでの焦りを覚えている。
魔王と呼ばれているらしいけれど……
とても優しく、実直な人なのだろう。
そんなジーク様のことを見ていたら、なにか力になりたいと思った。
「あの……」
「うん? どうした?」
「私は聖女です。力が足りず、追放された身ではありますが……一応、結界を張ることができます。私ごときの力では足りないでしょうが、それでも、少しは補強できるかもしれません。手伝わせていただけませんか?」
「それは……いや。確かに、アルティナならば……」
ジーク様は少し考えた後、私の顔をまっすぐに見つめてきた。
「頼む。力を貸してほしい」
「わかりました」
追放されたダメな聖女だけど……
それでも、今、できることはしたい。
私も覚悟を決めて、しっかりと頷いてみせた。
「では、結界を発動するための儀式の準備を……」
「いえ、そのようなものは必要ありません」
「……なんだと?」
「恥ずかしい話ですが、儀式の準備をされても、私は、それらをうまく扱うことができないので……なしで問題ありません」
「バカな。儀式なしに結界を展開するなど……」
「ただ、ちゃんとしたものとなると、発動まで一時間ほどの時間がかかってしまうので……」
「……わかった、一時間だな?」
ジーク様は、報告をしてきた魔族に視線を戻す。
「聞いたな? 一時間、なんとしても被害を最小限に抑えろ。四天王にも準備をさせておく。必要とあれば、すぐに呼べ」
「はっ!」
私に任せて大丈夫なのか?
……と、疑うこともなく、魔族の人は迅速に行動をする。
人間の私を信じてくれる。
優しい人なのかもしれない。
それに……
街で見た他の魔族や子供達を思い返す。
失敗したら、あの人達が危ない。
「……がんばらないといけません」
私は、そっと両手を合わせる。
そして目を閉じて集中。
体中の魔力をかき集めて、結界を展開するのに必要な手順をこなしていく。
「これは……」
なにやらジーク様が驚いているが、今はそちらを気にしている余裕はない。
私は無能だ。
ダメな聖女だ。
集中を切らせてしまうと、結界の発動に失敗してしまう。
集中。
集中。
己の心を無にするかのように、深く深く集中する。
心を研ぎ澄ませて。
魔力を蓄えて。
術式を組み立てていく。
そして……
「神よ、あなたの奇跡をここに」
一時間ほどかけて、ようやく結界を展開することができた。
私の体を中心にして光の柱が立ち上がる。
それは遥か上空にまで伸びていって……
途中で弾けて、光のシャワーとなって国を覆う。
この光が魔物を退けて、瘴気の侵入を防ぐ。
結界の完成だ。
私はダメな聖女だけど、なんとか失敗することなく、成功したようだ。
本当によかった。
「よか……った……」
「アルティナ!?」
ジーク様の声が聞こえたような気がしたが、私は、意識を保つことが難しく……
私はゆっくりと倒れた。
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