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26話 なにをしている?

「……!!!」


 もうダメだ。

 思わず目を閉じてしまい……


「……?」


 しかし、いつまで経っても痛みはやってこない。

 恐る恐る目を開けると……


「なにをしている?」

「ぐっ、あああ……!?」


 いつからそこにいたのだろうか?

 突如としてジーク様が現れて、カイム様の手を捻り上げていた。


 カイム様は苦痛に顔を歪めて剣を落とす。

 それでもジーク様は彼の手を離すことはない。

 むしろ、より強く締めつける。


「き、貴様!? この私を誰だと思って、ぐあ!?」

「誰なのか教えてくれないか? あいにく、俺は貴様のことなど知らん」

「や、やめっ……ぐ、ううう! それ以上は、このっ、やめろおおお!!!」


 カイム様は必死の形相でジーク様の腕を振り払い、なんとか脱出に成功した。


 そんなカイム様を、ジーク様は絶対零度の目を向ける。

 あんなに恐ろしい顔を見たことがない。

 とても優しい方なのに、今は普段とまったく違う、冷たい表情をしていた。


「アルティナ、大丈夫か?」

「あ……はい。大丈夫です」


 そう問いかけてくるジーク様はいつも通り……いえ。

 いつも以上に優しくて、ほっとするような声だった。


「ところで、そちらの女性は?」

「妹です」

「え、と……」


 突然現れたジーク様に困惑しつつ、アニスは丁寧にお辞儀をした。

 この子は聡いから、ジーク様の優しさを本能的に理解したのかもしれない。


「良い妹のようだな」

「はい、自慢の妹です」

「あ、えと」


 アニスが照れていた。

 可愛いです。


「二人共下がっていろ」


 ジーク様は私達を背中にかばい、カイム様を睨みつけて……次いで、冷たい視線をドーグ様に移す。


「さて……ドーグ・ハンヘルド。なぜ、貴様がここにいる?」

「そ、それは……」


 蛇に睨まれた蛙。

 ドーグ様は顔を青くして震えた。


「まあ、答える必要はない。この状況を見て察せないほど、俺は愚かではない。ただ……」


 ジーク様は、今度はカイム様を見る。


「まさか、イングリウムの王子が関わっているとは思わなかったがな」

「な……なんなんだ、さっきから!? 貴様、いったい何者だ!? この私を誰だと思っている。イングリウムの王子だ、伏して控えろ!」


 カイム様は強く叫び……

 しかし、ジーク様は一笑する。


「貴様がイングリウムの王子だという証拠は?」

「そ、それは……」

「仮に本物だとしても、それはそれで笑うしかないな。ここはグレスハウト……魔族の国だ。イングリウムとは戦争を行っているわけではないが、しかし、敵対国であることに変わりない。その国の王子だというのなら、色々な利用方法がありそうだな」

「そ、そのようなことをして、タダで済むと思っているのか!? 王国を本格的に敵に回すつもりか?」

「……お前こそ、アルティナに手を出してタダで済むと思っていたのか?」

「ひっ」


 ゴウッ! と、そんな音が響いたような気がした。


 ジーク様の表情はとても冷たい。

 ただ、その奥に激しい怒りを感じた。

 噴火直前の火山の奥でマグマが荒れているような、そんなイメージ。


 どうして、ここまで怒っているのだろう……?


「わ、私はイングリウムの王子で……アルティナは、わ、我が国のものだ……。そ、それを取り戻そうとしてなにが悪い!?」


 カイム様は震えつつ、そんなことを言い放つ。


 あのようなジーク様を前にしてこのようなことが言えるなんて、ある意味、とてもすごい人だと感心してしまう。


「……なるほど。どうやら、貴様がアルティナを歪ませ、傷つけた張本人のようだな。詳細は聞いていないが、アルティナと貴様の様子を見ればだいたいのことは理解できる」

「な、なんだと……?」


 カイム様は悔しそうに唇を噛んで、それから同行する騎士達を見る。


「ええいっ、なにをぼさっとしている!? 斬れ! あの魔族を殺せ!」

「し、しかし……」

「彼が魔族の国でそれなりの立場にいるとしたら、大きな問題に……」

「いいから殺せ! この私の命令が聞けないのか!?」

「「……」」


 説得は無駄。

 そう理解した騎士達は剣を抜いてジーク様と対峙した。


「ジーク様!?」

「大丈夫だ。アルティナ達は俺の後ろにいろ……必ず守る」

「……はい」


 とても危険な状況なのだけど、でも、ジーク様の言葉はとても頼りになった。

 彼に任せて問題ない。

 心配は消えて、絶対的な安心感を受ける。


「覚悟!」


 剣を手に騎士達が突撃した。

 左右から挟むこむような連携を披露しつつ、刃を突き出して……


「児戯だな」

「「なっ!?」」


 騎士達の剣はジーク様の手で止められた。

 素手で剣を掴んでいるはずなのに、ジーク様に怪我は一つもない。

 逆に剣にヒビが入り、そのまま砕けてしまう。


「剣を素手……で? そ、そんなバカな……」

「ありえない、ありえないぞ……我らの剣はミスリルで鍛えられているはずなのに……」

「ミスリル? そのような軟弱な鉱石でなにをしようという? 魔王を討ちたいのならば、オリハルコンやアダマンタイトでも用意するんだな」

「なっ……」

「ま、魔王だと……!?」


 ここにきて、ようやくジーク様の正体を悟ったらしい。

 騎士達に……そして、様子を見ていたカイム様にも動揺が走る。


「そう、俺はジーク・グレスハウト。魔族を束ねる王だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 要約みたいなら下へどうぞ アダマンタイトはどちらもとにかく硬い事を意味する言葉です。アダマンタイトはダイヤモンドが元ネタかもしれないとか言われています。オリハルコンは希少なだけ。そしてミスリ…
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