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24話 婚約破棄

「あ、アニス……?」


 突然、怒りを爆発させたアニスを見て、カイムは戸惑う。


 そんなカイムをキッと睨みつけながら、アニスは口撃を始める。


「黙って聞いていれば、好き勝手で自分本意なことをペラペラペラペラと……あーもうっ、いい加減に我慢の限界よ。あなたのくだらない話を聞いていると耳が腐ってしまいそう。黙ってもらっていい?」

「な、なにを怒っているんだ……?」

「わからない? わからないの? だからあなたはバカなのよ!」


 アニスの心は怒りに燃えていた。

 激しく燃えていた。


 ここで感情に任せたらいけない。

 今までコツコツと積み上げてきたものが崩れてしまう。

 邪魔者を排除して、敵を消して、姉が安心して過ごせる環境を作る。

 その努力が消えてしまうのだけど……


 それでも我慢できなかった。

 最愛の姉を『道具』扱いして、それを当然と言い切る厚顔無恥な王子に我慢ならなかった。


「アルティナ姉さまに酷い仕打ちをしておいて、都合が悪くなると連れ戻すとか、よくもまあそんな恥知らずなことができたものね。アルティナ姉さまのことをあれこれ言っているけど、その前に自分の行動を振り返ってみたら?」

「な、なにを……」

「そもそも、聖女としての力は、圧倒的にアルティナ姉さまの方が上なのよ! 私なんて足元にも及ばないわ。だから今、王国は揺らいでいるの! 今までなにもかも全部、アルティナ姉さまに押しつけておいて、それなのに、自分で追放しているんだから!」

「そのようなことは……」

「それとなに? アルティナ姉さまはつまらない女性? 男性を立てることをしない? なにそれ、くだらない。そういう前時代的な考えがいつまでもこびりついているから、王国の貴族はどいつもこいつもバカばかりなのよ! 新しい価値観をインプットしなさい!!!」

「しかし、これは……」

「それとこの際だから言わせてもらうけど、私、あなたのことなんて好きじゃないから。好意なんて欠片もないわ。アルティナ姉さまを助けるため、婚約者になっただけ。バカな国とバカな王子から解放するためにしただけ。好きじゃないし、むしろ、大嫌い!!!」

「なっ……」


 絶句するカイム。

 呆然とする彼に向かって、アニスはトドメの一撃を叩き込む。


 特大の一撃を。


「愛想がないからダメとか、あなたの目は節穴? アルティナ姉さまは妖精のように可愛らしくて、女神のように綺麗でしょう? 同性の私も羨むほどの美人じゃない。それがなに? 愛想がない? 笑わない? くだらない。そんなことで愛がないとか、バカじゃないの? 元々、あなたの方に愛がなかったんでしょう。だから、あんなにも簡単にアルティナ姉さまを捨てることができた。というか、公の場で婚約破棄をしたのはなぜ? あれ、さすがに私も予想外だったんだけど。あなた、王子でしょう? 婚約は家と家が決めたものでしょう? 個人の感情だけじゃなくて政治も絡んできているの。それなのに自分勝手な都合で婚約破棄をして、そして真実の愛を見つけたとかドヤ顔をして、バカ、ここに極まれりね。周りがぜんぜん見えていない証拠じゃない。その場の思いつきで行動して、どれだけアルティナ姉さまが振り回されてきたか。そして、どれだけサポートをしてきたか。それもまったく気づいていないわよね? だから今になって仕事ができなくなって困り始めた。どう? 実は自分の方が無能で、可愛げがないと言っていたアルティナ姉さまに助けられていた事実を知って、どんな気持ち? ねえ、今どんな気持ち? あれこれ言っているけど、さすがに少しは自覚しているんでしょう? アルティナ姉さまに助けられてきた。だから、また取り戻そうとした、っていうことが証拠になるものね。ああ、そうそう。ついでに言わせてもらうけど、私も同じ気持ちなので。あなたのように頭が空っぽで思いつきで行動して、そのくせ失敗したら責任転嫁するようなバカ王子、好きになるわけないわ。きっと、アルティナ姉さまも辟易としていたでしょうね。常に表情が同じだったのは、我慢していたからじゃないかしら? 普通、あなたのバカさ加減に呆れたり嫌悪しそうだもの。そう。何度も繰り返すけど、あなたは本当にバカなのよ。王子という立場に甘えて成長することをしないで、周りに甘えてばかり。問題が起きても自分で対処しようとせず、やはり周りに甘えてばかり。少しは自分でなんとかしようと思わないの? なんとかできないの? できないんでしょうね。なにも知らないから。あなたはなにも知らない。そして、なにも見ようとしていない。自分に都合の良いことしか受け入れず、心地いい言葉しか耳を傾けない。子供ね。自分の思い通りにならないと癇癪を起こす子供よ。自分が正しい、間違っていない、間違っているのは相手の方だ。そうやって駄々をこねているだけ。いい加減、そのことに気づいてくれない? そんなバカの相手はしていられないの。本当に辟易としているの。だから……」


 一気にまくし立てて。

 そして、最後にアニスは、ありったけの声で言い放つ。


「あなたのような方と一緒になるなんて、まっぴらごめん。婚約破棄します!!!」


 最愛の姉がそうされたように。

 アニスはカイムに対して婚約破棄を宣言した。


「なっ……あ……」


 カイムは放心状態だ。

 愛しているはずの女性からこのようなことを言われたら、誰でもこうなるだろう。


 ただ、ずっとこのまま、というわけじゃない。

 時間が経つにつれて、どうにかこうにか心を整理することができた。

 そしてアニスの言葉の意味を理解して……


「き、貴様っ……よくもこの私にそのようなことを言えたものだな!?」


 怒りに顔を真っ赤にした。

 腰に下げている剣の柄に手を伸ばして、そのままアニスに斬りかかりそうな勢いで彼女を睨みつける。


「私の寵愛を受けておきながら、そのようなことを……!!!」

「その寵愛、まったくいらないので返します。あなたと一緒にいること、苦痛でしかなかったので」

「貴様!!!」


 ついに我慢の限界に達したらしく、カイムは剣を抜いた。

 同行している騎士がなだめているが、怒りが収まる気配はない。


 そんな光景を見て、アニスは内心で笑う。

 計画通り……と。


 カイムがアルティナを隣国からさらってくるという暴挙に出ることはさすがに予想できなかった。

 起きてしまったものを覆す方法はない。

 ならば、これからのことを考えないといけない。


 アルティナが魔族の国でどう過ごしてきたのかわからないが……

 こうして無事でいるところを見ると、問題なく過ごしていたのだろう。

 アルティナは魔族の心も虜にしてしまったに違いない、とシスコン気味のアニスはそう判断した。


 ならば、アルティナを助けに来る人がやってくるはずだ。

 それまでの時間を稼げばいい。


 例えば……カイム達を煽り、ヘイトを集めることで自分を囮にする、とか。


 効果は抜群だ。

 これなら狙った通りの囮ができるだろう。


 もちろん、タダでは済まないだろう。

 殺されてしまうかもしれないし、それ以上に酷い目に遭うかもしれない。


(でも、アルティナ姉さまが助かるのなら……!)


 そう考えると、アニスの心から恐怖が消えた。

 がんばろう、という気持ちになれる。


 ただ、そんなアニスにも誤算があった。


「ええい、どけっ!」


 カイムは同行している騎士達を振りほどいた。

 そして剣を抜く。


「アニス、貴様を不敬罪で即刻処刑にしてやろう!」

「っ……!?」


 まさか、カイムがこんなにも短絡的だとは。

 剣を抜くにしても、その前に警告などがあると思っていたアニスだったが、そこが彼女のミスだった。


 怒りの形相でカイムは剣を振り上げて……


「させません」

「なっ」


 ギンッ! という甲高い音と共に、アニスに向けられた剣が弾かれた。

 それを成し遂げたのは、


「アルティナ姉さま!?」


 アルティナだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなにも超超長文なアニスの怒りが続く言動は見て「長いな〜」と思いました。 レイン達の方でもカナデ達がアリオスにこれだけ言ったことないのに。 よっぽど鬱憤が溜まってたと見える。
[一言] 長い、20文字以内にまとめなさい。 ↑????????????(何言ってんだこいつ) あと自分の実力に誇りを持って生きなさい 生きることが出来ているだけでそれは素晴らしい事でしょう ↑???…
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