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22話 グレスハウトの暗部

「ふぅ」


 私に与えられた部屋で、ソファーに座り吐息をこぼす。


 今日も一日、ジーク様の仕事のお手伝いをした。

 それと、聖女としてできることをした。


 どれだけの力になれたか、そこは不明なのだけど……

 少なくともマイナスにはなっていないのではないか?


 そう、少しだけ自信を持つことができた。


「とはいえ、さすがに少し疲れました」


 朝は書類のチェック。

 お昼ごはんを食べた後、聖女としての務めを。

 夕暮れから夜にかけて、再び書類のチェック。


 イングリウムといた時と同じくらいの仕事量だ。

 ここに来てずいぶんと楽をさせてもらっていたから、久しぶりに仕事をしたという感じがある。


「そういえば……ジーク様もアン様も、その他の方々もなぜか驚いていましたが……どうしたのでしょう?」


 仕事をしすぎだ、とか。

 どうしてそこまでの量をこなすことが? とか。

 聖女としての能力も破格だ、とか。


 よくわからないことを言われていた。


「私なんて、役に立たない鉄仮面なのですが……」


 でも。


「……少しは自信を持ってもいいのでしょうか?」


 この国のために。

 そして……ジーク様のために。


 少しは役に立っていると、そう胸を張ることができるのだろうか?

 だとしたら嬉しい。


「あ……はい?」


 ふと、扉をノックする音が響いた。


 このような時間に誰だろう?

 不思議に思い返事をする。


「どうぞ」


 相手の声はない。

 扉が開くこともない。


「どうぞ……?」


 もう一度返事をするのだけど、やはり反応はない。


 気のせいだろうか?

 そんなことを思った時、再びノックの音が響いた。


「えっと……はい」


 もしかしたら相手は手が塞がり、扉を開けることができないのかもしれない。

 声が出せない事情を抱えているのかもしれない。


 そう考えた私は立ち上がり、扉へ向かう。


「はい、どちらさまでしょうか?」


 扉を開けて……


「っ……!?」


 いきなり手が伸びてきて口を塞がれてしまう。

 部屋の中に押し戻されて、そのままソファーに押し倒されて……


「……ぁ……」


 淡い光と共に、意識が暗転していく。

 おそらく……魔法、を……つか、われ……




――――――――――




「ふむ……寝たか?」


 襲撃者……ドーグは、ソファーの上で穏やかな寝息を立てるアルティナを見る。


 顔の前で手をひらひらさせて。

 短剣を取り出して近づけてみせて。


 それでも反応がまったくないことを見て、ようやくアルティナが本当に寝ていると確信が持てた様子だった。


 ここまでしなければ安心できない。

 彼の器を示しているようでもあった。


「さて。後は私の魔法を使い、彼女を指定の場所に運べばいい。そうすれば私は……ふっ、ふふふ」


 この後のことを考えて、ドーグは自然と笑い声をあげた。


 ……数日前。

 彼のところにイングリウムからの使者がやってきた。

 人間を警戒するドーグではあるが、おいしい話があると聞かされて、ついつい耳を傾けてしまう。


 おいしい話というのは、ドーグがグレスハウトの王になるというものだった。

 とある仕事を引き受けてくれれば、そのための手助けをしよう、とのこと。

 そのための計画、兵力はすでに整えているという。


 ドーグは少しだけ迷った。


 人間を信じていいのか?

 裏切られたりしないだろうか?


 いや。


 信じるのではなくて利用すればいい。

 うまくコントロールをして、こちらがおいしい思いをすればいい。


 大丈夫、自分ならできる。

 なぜなら、自分は誇り高き貴族のドーグ・ハンヘルドなのだから。


 そしてドーグは仕事を引き受けた。

 アルティナを拉致するという仕事を。


「これでほぼほぼ依頼は完了なのだけど……」


 ドーグはソファーで寝たままのアルティナを見る。

 魔法で眠りに落としたため、よほどのことがない限り、あと数時間は眠ったままだろう。


 イングリウムでは鉄仮面と揶揄されていると聞いた。

 しかし、それは嫉妬の裏返しなのだろう、とドーグは考える。

 それくらいアルティナは美しく、魅力的だ。


 その魅力は魔族にも通じる。


「そうだな……少しくらい味見をしても構わないだろう。そう、これくらいの約得があってもいいさ」


 ドーグは下卑た笑みを浮かべ、そっとアルティナに手を伸ばした……


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