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20話 陰謀と欲望

「……ホント、疲れた」


 家に帰ったアニスは部屋に戻るなり、着替えることもなくベッドの上に身を投げ出した。

 令嬢にあるましき行動だけど、人目を気にする余裕はない。


 幸い、誰もいないが。


「……まずいわ……」


 ベッドに突っ伏したまま、アニスは小さくつぶやいた。


 アルティナがいなくなり、一月が経とうとしていた。

 たったそれだけ。

 たったの一月。

 それですでに破綻が生じ始めていた。


 アニスは日々、聖女としての務めに全力で取り組んでいる。

 しかし、アルティナほどの能力はない。


 アニスは器用で天才肌。

 1を知れば10を知り、なんでもそつなくこなすことができる。

 でも、それだけ。


 アルティナは凡人。

 1を知れば1しか知ることはできない。


 本人はそのことを自覚していて……

 だからこそ、努力を欠かさず、人一倍がんばってきた。

 結果、膨大な魔力と常識外れの結界を作り出すことができていた。


 アニスとアルティナの差は大きい。

 アニスは一日に一回、結界を張り直さないといけないが、アルティナは一ヶ月……いや。

 一年は放っておいても問題ない。

 結界と治癒魔法しか使えないとしても、アルティナの聖女としての能力はでたらめなのだ。


 そんな姉の代わりを務めることはできない。

 天才と言われたアニスもどうすることもできない。

 なんとか代わりを務めようと努力しているものの……


「まさか、アルティナ姉さまはこれだけの仕事をしていたなんて……予測が甘かったわ」


 たった一ヶ月で破綻しそうになるほど、アニスは疲弊していた。


「というか、聖女としての仕事だけじゃなくて執務も任せて、チェックもさせて、案も提出させるとか……あのバカ王子達、今までアルティナ姉さまにどれだけの仕事を振っていたのよ?」


 アニスは聖女としては優秀ではあるが、その他の能力は普通だ。

 それなのに、カイム達は執務などもするように、と仕事を押しつけてきて……

 そして、自分達は遊び呆けて……


「……やばい、殺意が湧いてきたわ」


 アニスは、乙女としても聖女としても人に見せられない顔になった。


「でも、色々なことがわかってきたわ」


 必死に仕事をこなす傍らで、アニスはアルティナ関する情報を集めていた。

 どんな些細な情報でもいい。

 彼女がなにをされて、今どのようになっているのか?

 ありとあらゆる情報をかき集めた。


 結果……


 アルティナは現在、魔族の国にいるらしいことが判明。


 意図はわからないが、イングリウムの上層部はアルティナの行方を探していたらしい。

 死体が見つからないことに焦りを覚えたのか、あるいは他の意図があるのか……どちらにしてもいい話ではないだろう。


 そして、もう一つ。

 ある日、カイムが王に呼ばれて……

 その後、ひどく険しい表情をしていたという。

 それからアルティナに関する情報を集め始めた。


 偶然とは思えない。

 この二つの情報はなにかしら関連しているだろう。


「アルティナ姉さまが魔族の国にいるというのはとても心配だけど……でも、生きていてよかった。本当によかった……絶対に迎えに行きますからね、アルティナ姉さま」


 姉に対する想いを胸に、アニスはそのまま眠りに落ちた。




――――――――――




「勝手なことをしてくれたな」


 ……数日前。


 招集を受けたカイムは、父親でありイングリウムの王でもあるゴルド・イングリウムに厳しい視線をぶつけられていた。

 ゴルドは玉座に座り、カイムはその前に膝をついて頭を下げている。


 カツカツカツ、とゴルドが玉座の肘掛けを指先で叩く音が響いていた。


「アルティナとの婚約を、よりにもよってパーティーの最中に一方的に破棄をする。さらに、その妹との婚約を発表する。そのようなことをして、後々、なにも影響が出ないと思っていたのか? 儂がどれだけお前の尻拭いに奔走させられたか、理解しているのか?」

「も、申しわけありません……しかし、アルティナは」

「言い訳をするな」

「っ」


 ゴルドはピシャリと言い、カイムの言い訳を遮る。


「なによりも腹立たしいことは、アルティナを捨てたことだ」

「し、しかし……アルティナは聖女としては無能もいいところ。それに比べてアニスは……」

「そういう問題ではない」


 ゴルドは再びカイムの言葉を遮る。

 その目には、怒りと呆れが宿っていた。


「アルティナが聖女でも、今まで国は問題なく機能していた」

「それは、アニスのサポートがあったからで……」

「だとしても、問題はなかったのだ。アルティナのことが気に入らないのなら、今までのように聖女としての仕事をだけをさせればいい。逆に、アニスのサポートをさせてもいい。そういう使い道はあっただろう?」

「そ、それは……」

「お前は自分勝手な感情で便利な道具を捨てたのだ。いい加減、そのことを自覚しろ」

「……」


 カイムは反論できず、しかし、拳を握りしめる。


 ゴルドが言いたいことはすぐに理解した。

 アルティナを捨てるのではなくて、妾にしろ、ということだ。

 正妻はアニス。

 そしてアルティナを側室にして、この国に縛りつけて、利用すればいい……と。


 ただ、それはアニスに対する裏切りではないか?

 真実の愛ではないのでは?


 そんなことを考えるカイムは、すぐに感情を昇華することはできなかった。


「まあいい。過ぎたことをあれこれ言っても仕方ない。これからの話をするぞ」

「これから……?」

「……アルティナを取り戻す」

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