2話 国外追放
「アルティナ、お前と親子の縁を切る。今日から、アルティナ・アイスフィールドではなくて、ただのアルティナだ」
婚約破棄騒動の後。
家に戻った私を待っていたのは、両親の冷たい視線だった。
「親子の縁を切る……ですか?」
「当たり前だ。あれだけの醜態を晒しておいて、アイスフィールド家に残れると思っていたのか?」
「出来損ないだとしても、娘なのだから世話をしてあげたというのに……それなのに、あのような情けなく、無様な姿を見せるなんて!」
お父さまもお母さまも、とても怒っていた。
共にプライドが高く……
なによりも家の格式を重んじるところがあるため、大勢の前で婚約破棄された私のことは、どうしようもなく許せないのだろう。
「その点、アニスはさすがだ。聖女としての力を身につけるだけではなくて、殿下の好意をいただくことができるなんて」
「日々の努力の積み重ねがあるからこそ、ね。親として、アニスのことを誇りに思うわ」
「いいえ。私は、ただ自分にできることを地道に積み重ねてきただけですわ。なにも特別なことはしておりません」
アニスは私を見て……
一瞬、ひどく苦い顔をした。
ただ、それは一瞬。
すぐに笑みを浮かべる。
「アルティナ。お前のような愛想もなく、聖女としての力もない出来損ないを、伝統あるアイスフィールド家に置いておくわけにはいかない。今すぐに荷物をまとめて出ていけ!」
「その顔を見るだけで、私はとても恥ずかしい思いになるわ。ああ、なんて親不孝な子なのかしら!」
「……申しわけございません」
謝ることしかできない。
頭を下げることしかできない。
「あぁ……まさか、こんなことになってしまうなんて。お姉さま。私は、お姉さまが出来損ないだとしても、いつまでもお慕いしておりますわ」
「おぉ、なんて優しい……このような出来損ないのために泣くなんて」
「そこまで気にすることはないのよ。アニスのせいではないの、この出来損ないが悪いのだから」
妹が涙を流して、両親はそれに感動する。
そんな光景を見た私は……
特になんの感想も抱くことはなく、心は空っぽだった。
――――――――――
一週間後。
私は馬車に乗り、窓の外の景色をぼーっと眺めていた。
カラカラと車輪が回る音。
景色がゆっくりと後ろへ流れていく。
特になにも思うことはなく。
私は、ただただ馬車の窓の外を眺めていた。
「……」
あの時のお父さまとお母さまの言葉にウソはなかった。
二人は色々なところへ手を回して……
そして、私をアイスフィールド家から除籍して、国外追放とした。
普通、そのようなことはできないのだけど……
いったい、どのような手を使ったのか?
まあ、今更の話だ。
もうどうでもいい。
「そう……どうでもいいです」
ぽつりと、そうつぶやいた。
私は出来損ない。
そして、感情のない鉄仮面。
そんな者と一緒にいたくないと思うのは、当然のこと。
家族だとしても、そんな感情を抱いても仕方ない。
「仕方のないこと……なの、だけど……」
私は軽くうつむいて、唇を噛んだ。
追放が決定した時、私はなにも弁明していない。
抗議もしていない。
助けも求めていない。
そうすることが当たり前だと思っていた。
仕方ないと思っていた。
でも、本当は……
「……え?」
不意に馬車が止まった。
それから、馬のいななきがして、どこかへ駆けていく音が響く。
「なんでしょう……?」
不思議に思い、馬車を降りてみる。
あろうことか、御者が馬と一緒に消えていた。
当然、馬車を動かすことはできず、立ち往生だ。
「ここは……」
街道を通っていたのだと思っていたのだけど、違った。
街道から外れた獣道を無理矢理進んでいたらしい。
ぼーっとしていたせいで、そのことに気づかなかった。
街道は整備されているため、魔物や盗賊が出ることは少ない。
でも、街道から外れた場所は別だ。
どちらも出現率が高い。
「どうして、このような……まさか」
一つの可能性が思い浮かんだ。
これは……仕組まれたこと。
わざと街道を外れ、危険な場所で私を一人にする。
そうして、魔物や盗賊に襲われることを期待するという、間接的な殺人。
まさか、とは思うのだけど……
でも、そうしてもおかしくはないと思う。
だって……
私は、出来損ないの鉄仮面なのだから。
「でも……」
いくらなんでも、こんなことは……
ガサッ。
「っ!?」
その時、後ろで物音が響いた。




