表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

18話 ダウン

 ジーク様のところに身を寄せて、しばらくの月日が経った。


 ジーク様の執務をお手伝いして……

 それと、聖女としての務めを果たして……

 私は、とても穏やかな日々を過ごしていた。


 ただ、その穏やかな時間に違和感を持っていた。


「私は……このように、のんびりと過ごしていいのでしょうか?」


 鉄仮面。

 役に立たない聖女。

 存在する意味がない。


「……」


 イングリウムにいた頃、そう言われていたことを思い出した。


 ダメな私。

 役に立たない私。

 存在意味のない私。


 それなのに、こんなところで平穏を味わうなんて……


「失礼します」


 アン様がやってきて、暗い思考のループから脱却できた。


「お食事の準備ができました」

「ありがとうございます。わざわざ呼びに来ていただいたのですね」

「私はアルティナ様のお世話係ですから」


 アン様は優しい。

 ジーク様も優しい。


 どうしてだろう?

 こんな鉄仮面に優しくするなんて、どうして……


「おや?」


 ふと、アン様が怪訝そうな顔に。


「アルティナ様、もしかしてお加減がよろしくありませんか?」

「え?」


 予想外のことを言われ、私は首を傾げた。


 体調が悪い?

 そのようなことはないのだけど……


「こちらをどうぞ」


 アン様は細長い棒のようなものを差し出してきた。


「これは……?」

「これは体温を測る道具です。音が鳴るまで脇に挟んでください」

「こう……でしょうか?」


 言われるまま棒を脇に挟んだ。

 少しして、ピピピという音が鳴る。


「渡してください」

「はい……?」


 今の短時間でなにができたのだろう。

 不思議に思いつつ棒を渡す。


「……」


 棒を見たアン様は険しい表情に。


「やはり熱がありますね」

「どうしてわかるのですか?」

「見てください。棒の後ろが赤くなっていますね? ここの色が赤くなると熱がある、ということになります」

「すごい仕組みですね……」

「色が濃ければ濃いほど熱が高いので……アルティナ様は、かなりの高熱ということになります」

「そう……なのでしょうか?」


 確かに、言われると体は少しだるい。

 でも、それだけ。

 王国にいた頃は、こんなことは当たり前だった。

 むしろ、これくらいで弱音を吐いたら、


『聖女という者が甘えるな。君の肩には王国の平和がかかっているんだぞ? たかが熱くらい、なんとかしてみせろ。そもそも、体調管理も仕事のうちだ』


 と、カイム様に怒られていた。


「しかし、お仕事をさせてほしいと申し出たのは私の方。それなのに、勝手に休むなどということは……」

「休んでください」

「は、はい……」


 有無を言わせない迫力。

 普段は優しいアン様がとても怖かった。




――――――――――




「……ん……」


 ふと目が覚めた。


 あれから強引に寝かされたのだけど、熱は思っていた以上に体を蝕んでいたらしい。

 気絶をするようにすぐに寝て……

 目を覚ましたら窓の外はすっかり暗くなっていた。


「起きたか」

「……ジーク様?」


 ベッドのすぐ隣にジーク様がいた。

 椅子に座り、なにをするわけでもなくじっと私の方を見ていた。

 明かりも点けず、ただただ優しい瞳を向けてくれている。


「あの……どうされたのですか?」

「アルティナが熱を出したと聞いてな」

「もしかして……私の様子を見るために……?」

「それ以外になにかあるか?」

「……」


 さも当然のように言われてしまい、困惑してしまう。


 私は役立たずの聖女。

 気にかけてもらうことなんてなくて、その価値もないはずで……


「アルティナ、あまり自分を卑下しないでくれ」

「え」

「アルティナがいなければ、結界が壊れた時、甚大な被害を受けていただろう。あるいは、そのまま国が滅んでいたかもしれない。アルティナのおかげだ、改めてありがとう。心の底から礼を言う」

「あの、その……」


 思わぬ言葉に戸惑いを覚えてしまう。


 でも……


 こんな私でも、誰かの役に立つことができた?

 少しは聖女らしいことができた?

 今になって、ようやくそんな実感が湧いてきた。


「それと、無理をさせていたのかもしれないな。すまない。熱が出たのは、そのせいかもしれない」

「いえ、私は……」

「慣れない環境に移った影響もあるだろう。とにかく、今は休んでほしい。腹は減っていないか? なにか飲むか?」

「えっと……」

 

 甘えても……いいのだろうか?


 私は迷い、考えて……

 それから、そっと口を開く。


「手を……」

「手?」

「……手を繋いでくれませんか? その……そうしていただけると安心できる気がしまして」

「こうか」


 ジーク様がそっと、私の手を握ってくれる。

 温かい。

 熱いくらいだ。


 でも、今はその熱が心地いい。


「……ありがとうございます」


 再びまどろみがやってきて、私はゆっくりと目を閉じた。


「おやすみ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて、ここまで一気に読みました。 何だかいろんな作品を並行していて「こんなに大丈夫かな・・?」とも思ってます。 どうぞ自身のペースで、でも最後まで完結をしてくださいな!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ