表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/28

17話 ふざけないで

 アニスがカイムの婚約者となり、国を代表する聖女となり、しばらくの月日が流れた。


 アニスは精力的に活動した。

 イングリウムを支えるため、カイムを支えるため。


 ただ、なかなか思うようにいかない。


 聖女としての務めは、なんとかこなすことができて、魔物や瘴気の侵入を防いでいる。

 怪我人、病人の治療も行えている。


 だがしかし、それも限界に近い。

 アニスは聖女としての才能がある。

 一を教えられたら十を覚えることができる。


 ただ、あくまでも常識内のことしかできない。


 アルティナは常識外のことを連発して……

 周囲はそれが当たり前と誤認するようになって……

 その常識外をアニスにも求められていた。


 今のところなんとか応えられているものの、体や精神を削っているため、そうそう長くは続かないだろう。

 対策を考えないといけない。


 問題はそれだけではない。


 アルティナは聖女としての才に優れているだけではなくて、非凡なる知識を持っていた。

 その知識を活かすことで、イングリウムの発展に繋げていた。

 カイムの執務をほぼほぼ代行さえしていた。


 それもまた、アニスに求められて……


「あー……死んじゃう。過労死しちゃう……」


 アニスは自室のベッドで横になり、死んだ魚のような目をする。

 乙女としてあるまじき姿だけど、そうなってしまうくらいの激務だった。


「ダメダメ……これくらいでへばっていたら、アルティナ姉さまに笑われちゃうわ。私ががんばらないと!」


 アルティナに不憫な思いをさせないために、今の立場を望んだのだ。

 一年も経っていないのに音を上げるわけにはいかない。


「でも……アルティナ姉さまは、どうしているのかしら?」


 カイムの非常識ぶりを知っているアニスは、アルティナが国に留まれば、下手をしたら逆恨みで命を狙われるかもしれないと考えていた。

 だから、両親が追放を言い渡した時は賛成した。


 追放といっても、一時的な退去。

 国外の別荘で生活することになる。


 そう聞いていたから賛成した。

 でも、その後、なんら連絡がこない。

 手紙の一つや二つ、あってもいいはずなのに。


「よし。この後、問い詰めてみよう」




――――――――――




「アルティナ姉さまが行方不明!?」


 公爵令嬢としての品位を忘れ、アニスは大声を出す。

 そして、バンッ! とテーブルを強く叩いて、対面に座る両親を睨みつけた。


「どういうことですか!?」

「……そのままの意味だよ」

「アルティナは隣国に出したのだけど、その途中、魔物に襲われたらしく……」

「遺体は確認されていないが、現場の状況を考えると、生きていられるとは思えない。仮に魔物から逃げられたとしても、あそこは魔族の国の領土だ。無事でいられるとは……」


 両親は沈痛そうな表情を浮かべているが……

 それにしては、やけに落ち着いていた。


 我が子が生死不明なのだ。

 絶望的な状況なのだ。

 時間が経っていたとしても、普通、もっと慌てるものではないか?


 そもそも……


 事件が起きたという頃を思い返してみると、両親に変わった様子はなかった。

 いつも通りに過ごしていた。


 アルティナの件について、まったく悲しんでいる様子がない。

 むしろ、その生死はどうでもいい、という感じだ。


「どうして、そんな大事なことを今まで黙っていたんですか!?」

「アニスはこの国の聖女で、そして、殿下の婚約者だ。余計な心労をかけたくなかったのだよ」

「余計? 大事な家族の生死が余計なことだって言うんですか!?」

「その通りだ」

「っ」


 あっさりと肯定されて、アニスはカッと頭に血が上る。

 父親の頬をはたいてしまいたい気持ちになるけれど……そこは、ぐっと我慢した。


「……捜索はしていないんですか?」

「もう打ち切っている」

「……っ……」

「生存が絶望的な状況で、そして、迂闊に魔族の領土に踏み込むわけにはいかないからな」

「アニス、お父様も苦しいのよ」


 苦しい?

 なら、なぜそんなにも平然としていられるか。

 わずかに嬉しそうにしているのは、どういうことなのか。


「……そう」


 ここに来て、アニスは理解した。

 両親は……アイスフィールド家はアルティナを捨てたのだ。


 元々、アルティナと両親の仲は良くない。

 鉄仮面と揶揄されて、出来損ないと勘違いされている娘のことを疎ましく思っていた。

 それでも親子の絆を切らなかったのは、カイムの婚約者だからだ。


 しかし、アニスが代わりになったことで……


(私のせいで、アルティナ姉さまが……私の!!!)


 冷酷な両親に怒りを覚えた。

 ただ、それ以上に、アニスは自分自身が許せなかった。


 よかれと思ってしたことが裏目に出て、アルティナを追いつめてしまった。

 ここに刃があれば、迷わず自分の胸を突き刺していただろう。

 それほどまでに深い後悔があった。


「……でも」


 簡単に死ぬことはできない。

 許されない。


 アニスには、やるべきことが二つある。


 一つは、アルティナの生死を確かめることだ。

 生死不明ということは、まだ生きている可能性もあるということだ。


 それはとても少ない確率だろうが……

 しかし、なにもしないうちから諦めたくはない。

 全力でアルティナの行方を追いかけて、その生死を確かめる。

 そして、もしも生きているのなら絶対に助けてみせる。


 そして、もう一つのやるべきことは……


(アルティナ姉さまは魔物に襲われたというけれど、偶然にしてはできすぎているわ。仕組まれたことのはず。そんなことができるとしたら……)


 両親が関わっていることは間違いない。

 それと、カイムも関わっているだろう。

 アルティナを疎ましく思っていた彼のことだから、よからぬ企みを持ちかけられたら、即座に飛びついたはず。


 アニスは拳を強く握る。


(絶対に、このままじゃ済まさないんだから……!)


 アルティナを助ける。

 そして、ふざけたことをしてくれた家と王家に鉄槌を下す。


 アニスはそう誓い、わずかに唇を噛んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この先の展開は行かほどになるのか・・・?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ