16話 誰かと食べるごはんはおいしい
「アルティナはなにを食べたい?」
「えっと……」
食堂で食べるとは思っていなかったため、未だ思考がフリーズしたままだ。
いえ。
別に食堂が嫌というわけではない。
イングリウムにいた頃は、よく食堂を利用していた。
聖女としての仕事をしていると、そういうところで食事をするのが手っ取り早く、簡単なのだ。
ただ、まさか、一国の王が食堂を利用するなんて……
警備の点とか、色々と大丈夫なのだろうか?
そんなことを考えてしまい、どう応えていいかわからなくなってしまう。
「ああ、そうか。なにがあるかわからないか」
「えっと……」
「メニューならそこの壁にあるが……ふむ、どういう料理かわからないかもな」
「そう、ですね……」
「なにか好きな食べ物はあるか?」
「お魚……でしょうか」
「わかった。なら、魚料理を注文してこよう。すまないが、アルティナは席を取っておいてもらえるか?」
「わかりました」
ひとまず、言われるまま席を確保した。
そこでジーク様を待つのだけど……
「なんだか、私の常識がガラガラと崩れていきますね……」
王が食堂で食事を取る。
そんなこと、普通に考えてありえないのだけど……
いえ。
それを言うのなら、王に食事を取ってきてもらう私もありえないですね。
色々なことがイングリウムと違っていて、カルチャーショックを受けてしまう。
その度に行動不能なっていたら、どうしようもないのだけど……
「……ふう、ままならないものですね」
この身はジーク様に拾われたもの。
ジーク様のため、グレスハウトのため、落ちこぼれの聖女ではあるものの、がんばらないといけないのだけど……
このままだと、役に立つどころか足を引っ張ってしまいそう。
「……失敗するわけにはいきません」
この国のために。
ジーク様のために。
全力でがんばらないといけません。
そうやって、私が役に立つことを示さないと……
私は……
「待たせたな」
振り返るとジーク様が。
考え事をしていたせいで、気づかなかったみたいだ。
ダメだ。
暗いことを考えていても仕方ない。
「ここで一番人気の魚料理を選んでみたのだけど、どうだ?」
魚の切り身がこんがりとおいしそうに焼けていた。
ほんのりとバターの匂いが香る。
「おいしそうです」
「そうか。なら、よかった」
「ジーク様は……」
隣に座るジーク様の料理を見て、私は言葉を失う。
肉。
肉、肉、肉。
そして、肉。
これでもかというくらい、大量の肉が山積みされていた。
その隣に、同じく野菜の山。
セットと思われるスープの器は特大サイズ。
「……」
「どうした? おもしろい顔をしているが」
この時ばかりは、私の鉄仮面も崩れていたかもしれません。
「いえ、その……それがジーク様の食事ですか?」
「ああ。ここの料理は絶品だからな、うまそうだろう?」
「はい、おいしそうですが……いえ、気になるところはそこではなくて」
その量はなにかの冗談でしょうか?
そう尋ねそうになってしまうものの、なんとか我慢した。
さすがに失礼なのと……
あと、ジーク様が子供のようにキラキラした表情をしているものだから、そういうものか、と納得してしまうのだった。
ジーク様は健啖家。
それならそれでいいではないか。
「なぜ笑っている?」
「え? 私、笑っているのですか?」
「俺には、そのように見えるが」
鉄仮面のままだけど……
ジーク様には、違うように見えている、ということか。
本当に不思議な方だ。
「ジーク様の意外な一面を知ることができたから、かもしれません」
「うん?」
「そろそろ、いただきましょう。せっかくの料理が冷めてしまいます」
「ああ、そうだな」
そのまま二人で一緒にごはんを食べる。
食堂で食べるごはん。
ジーク様は肉特盛。
色々と規格外のことが多いのだけど……
でも、これはこれで楽しいと思うことができた。
場所が食堂なので談笑が聞こえてくる。
料理を作る音も聞こえてくる。
イングリウムにいた頃は静かで冷たい食事で……
いつも一人で……
だからこそ、とても新鮮に感じるのかもしれない。
「うまいな」
「はい」
今は、隣にジーク様がいてくれる。
それは、とても幸せなことのように思えた。




