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13話 どうして?

 グレスハウトに来て数日が経過した。


 魔族の国。

 人間を敵視する恐ろしいところで、足を踏み入れたら生きて帰ってくることは難しい。


 そんなことを聞かされていたのだけど……


「おや、アルティナ様。こんにちは」

「いいりんごが入ったんだ。よかったら、持っていっておくれ」

「ああ、そうそう。ウチの息子の怪我を治してくれたんだって? ありがとうな!」


 街を歩くと、たくさんの人から声をかけられる。

 誰も彼も笑顔を浮かべていて、それと、とても優しい。


 鉄仮面の私は無表情のままで、ぺこりと頭を下げて挨拶をすることしかできない。


 なんて失礼なのだろう。

 カイム様や家族が呆れ、怒るのは当然の反応だった。


 でも……


「またいらしてください」

「今度は、とびきりの商品を用意しておきますからね!」


 彼ら彼女達は怒らない。

 不快な様子も見せない。


 私の鉄仮面に慣れた……なんてことはないだろう。

 ここに来て浅く、そして、誰も私の感情を見抜いたことはない。


 それなのに、どうしてここまで優しくしてくれるのだろう?

 私の鉄仮面は、人を不快にさせるだけなのに……


「皆の者、元気そうだな」


 ふと、私の後ろから聞き覚えのある声が。

 慌てて振り返ると、ジーク様の姿があった。


「これはジーク様……!」

「このようなところに、どうされましたか?」


 街の人は慌てて膝をついて頭を下げた。


 当たり前だ。

 ジーク様はグレスハウトの王だから、これくらいのことはしないといけない。


 いけないのだけど……

 ジーク様は苦笑する。


「やめてくれ。アルティナの前だから、そうやってかしこまっているのか? 俺は気にしないから、いつも通りで頼む」

「そうですか? まあ、ジーク様がそう言うのなら……」

「ジーク様はどうしたんですかい? うちの野菜、持っていきます?」

「それはまた今度にしよう」

「ジーク様! 俺、ジーク様のために花をとってきたんだ!」

「私達でがんばったの」

「そうか。素晴らしい贈り物だな、感謝する」


 ジーク様は街の人や子供達と触れ合い、笑顔を浮かべている。


「……」


 ありえない光景だ。

 一国の王が民と並び、気さくに笑い合うなんて……

 そんな光景見たことがない。


 仮にイングリウムで同じようなことをすれば、即刻、民は不敬罪で首を刎ねられるだろう。


 王とは敬われるべきもの。

 民からの親しみなんていらない。

 必要なのは敬意と忠誠のみ。


 それなのに、ジーク様はこんなにも……


 ありえない光景。

 ありえないのだけど……でも、不思議と私は、この光景を良いと思ってしまった。


 温かくて。

 優しくて。

 私は……


「アルティナ」

「……」

「アルティナ?」

「あっ……は、はい。なんでしょうか?」


 慌ててジーク様に応える。


「散歩か?」

「はい」

「この後、少し時間はないだろうか?」

「お仕事でしょうか?」

「いや。単純に、君をお茶に誘いたいと思ってな。どうだろう?」

「私を……ですか?」


 鉄仮面を誘い、なにが楽しいのだろう?

 イングリウムでは、好き好んで私に話しかける者はいなかった。

 婚約者だったカイム様でさえ、必要最小限だった。


「とても光栄な話ですが、私などをお茶に誘っても、ジーク様を楽しませられるとは……むしろ、不快にさせてしまう可能性が高いと思われます」

「それを決めるのは俺だ。俺は、アルティナの都合だけを聞いている」

「えっと……はい、問題ありません」

「決まりだな。では、行こうか」


 強引な方だ。

 でも……不思議と心地よくもあった。




――――――――――




 城へ戻り、そのままジーク様の私室へ。

 テラスに出ると、すでに紅茶とクッキーが用意されていた。


「おかえりなさいませ」


 アン様が丁寧なお辞儀で迎えてくれる。

 全部、彼女が用意したのだろう。


 すごい。

 完璧な仕事だ。

 彼女のようになりたい、と憧れさえ抱いてしまう。


「アンに憧れるとは、アルティナはおかしな娘だな」

「え? その……」


 私の感情を見抜くだけではなくて、考えていることまで理解してしまうなんて。

 どうして、ジーク様はそのようなことが可能なのだろう?


 不思議。

 不思議の感情でいっぱいだ。


 でも、それだけじゃなくて……

 少しだけ、ジーク様のことを知りたいと思うのだった。

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