表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/28

11話 仕事、がんばります

 ジーク様の国は、グレスハウトという。

 古い魔族の言葉で、『偉大なる光』という意味らしい。


 そんなグレスハウトを、アン様と一緒に改めて見て回ることに。

 これから暮らすところなので、しっかりと見ておいた方がいいだろう、とジーク様に言われたのだ。


 なるほど、その通りだ。


 私も納得して、アン様と一緒に街に出た。

 そして……大きな衝撃を受けることになる。


「これは……」


 当たり前のことだけど、魔族の国なので、たくさんの魔族が暮らしていた。

 右を見ても魔族。

 左を見ても魔族。

 角が生えていたり翼が生えていたり尻尾が生えていたり……

 形態は様々だけど、魔族としての印が体のどこかにある。


 でも……


 みんな、笑顔だった。


 楽しそうに。

 幸せそうに。

 満ち足りた様子で。


 それは、私の知る魔族とは違う。

 魔族は混沌の使者で、各地で破壊を撒き散らしている。

 魔族によって奪われた命は数知れない。


 そう教えられてきたのだけど……

 この光景を見ていると、それは間違いだった、誤った情報だということがわかる。


 でも……

 イングリウムは、どうして、魔族は悪という誤った情報を教えていたのだろう?


「アルティナ様、どうかされましたか?」


 立ち止まる私を見て、アン様が不思議そうな顔に。


「いえ……なんでもありません」


 これからはここで暮らすことになるのだから、驚いてばかりではいられません。


 ジーク様に拾ってもらった恩を返すため。

 微力ではありますが、聖女として一生懸命がんばらないと。


「どうでしょうか? グレスハウトは」


 ゆっくり歩いて街を見ていると、アン様がそんなことを訪ねてきた。


「はい、そうですね……とても素敵なところだと思います」


 本心からの言葉だった。


 魔族とか人間とか、そういうことは関係なくて……

 ここには『笑顔』があふれています。

 それは、とても素敵なことだと思いました。


「ありがとうございます。そう言っていただけると、とても嬉しいです」


 このような素敵なところで人生をやり直せるなんて、夢のようでした。

 改めて、ジーク様に感謝を。


「あっ」


 ふと、楽しそうに駆けていた子供が転んでしまうのが見えた。


 膝を擦りむいてしまい、血が流れる。

 それを見た子供は我慢できず、大きな声で泣いてしまう。


「大変です!」

「アルティナ様?」


 私は急いで子供のところへ駆け寄る。


「うぅっ、うあああああぁん、痛いよー!」

「大丈夫ですか?」

「ぐす、ひっく……お姉ちゃんは?」

「私は、アルティナと言います。あなたは?」

「……ユク……」

「ユク、とても良い名前ですね。かっこいいですよ」

「そう、かな……?」

「はい、とても」


 こんな時は、笑顔の一つでも見せて安心させてあげたいのだけど……

 あいにく、私は鉄仮面だ。

 こんな時でも無表情で、笑顔を浮かべることができない。


 そんな自分に苛立ちを覚えつつ、やるべきことをやる。


「じっとしててくださいね」


 子供の膝に両手をかざして、治癒魔法を使う。


 ただ、私は魔力が低い。

 精度も練度も低く、治癒魔法を発動させるのに五分くらいかかってしまう。


 妹は数秒で発動させていたのだけど……

 改めて、私はダメな聖女だったと思い知る。


 とはいえ、落ち込んでなんていられない。

 今は、この子の傷を癒やすことだけを考えないと。


「お姉ちゃん、なにをしているの……?」

「痛くなくなるおまじないですよ。ただ、少し時間がかかってしまうので、えっと……その間、私とお話をしませんか?」

「……うん」

「ユクは何歳なのですか?」

「……五歳」

「なるほど。体を動かすことが好きなのですか?」

「……うん」


 あまり会話が弾まない。

 こんなところで、人と接してこなかった弊害が出てしまうなんて。


 必死になって話題を探す。


「えっと……」

「……」

「その……」

「……」


 ダメです。

 なにも話題が思い浮かびません。


 気まずい沈黙。

 ああ……私は、本当にダメですね。


 ただ、なんとか治療は完了した。


「はい、これで大丈夫ですよ」

「あ……」


 なんとか治癒魔法を発動させることに成功した。


「どうですか?」

「すごい、全然痛くない……わぁ、すごいよ!!!」


 子供はぱあっと笑顔になって、勢いよく立ち上がる。

 そのまま、足の感触を確かめるように何度も飛び跳ねた。


「お姉ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして。もう転ばないように注意してくださいね?」

「うん!」


 子供は何度も手を振りつつ、この場を立ち去った。


「ふう……」


 時間はかかったけど、うまくいってよかった。


「……アルティナ様……」

「アン様、申しわけありません。勝手なことをしてしまい……ただ、あれも聖女の仕事だと思い……」

「い、いえ。その想いはとても素晴らしいもので、決して咎めるようなことはしないのですが……今のは、いったい?」

「え? 治癒魔法ですが……」


 なぜ、アン様は驚いているのだろう?


 ……ああ、そうか。

 私の魔法があまりにも拙いから、唖然としているのだろう。

 これほどまでに発動が遅く、効果が薄い治癒魔法を使う聖女なんていない。


「……そのような治癒魔法、見たことがありません」

「そうですね……このような拙い治癒魔法は……」

「拙い? なにを仰るのですか?」

「え?」

「普通の治癒魔法は傷口を塞ぐだけ。痛みは残るし、すぐに動くなんてもっての他です。それなのに、あの子はとても元気そうにしていて……そもそも、小さな怪我とはいえ、この短時間で傷跡まで完全に消してしまうなんて、ありえません」

「えっと……」

「確かに発動までの時間は遅いですが、あれだけの魔力を練り上げるとなると、それも当然なのかと」


 気のせいでしょうか?

 私の拙い治癒魔法が褒められているような気がするのですが……


 ああ。

 アン様はとても優しい方だから、私を傷つけないように配慮してくれているのでしょう。

 でなければ、私の魔法が褒められるなんてこと、ありえませんからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ