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14. 婚約

 霊亀国の姫スピカが婚約のために龍王国へ訪れ、シリウス陛下に挨拶をしたのは、アルデバランが来てから3回目の春が過ぎた頃だった。


 賓客をもてなす準備で宮廷内がばたついていた。

吏部にいるポルクスも宮廷内を駆けずり回っており、祭事を司る礼部と頻繁に会議をしていた。


 誰を招くか、だけではなく、祭事に使う蝋燭、装飾品、紙、筆、炭などを用意しなければならないらしい。


「祭事の前の準備段階で既にお祭り騒ぎですね」

 アルデバランは呆気に取られながら、廊下を闊歩する官吏や侍女にぶつからないよう、サッと避けつつ、リゲルの後ろを歩く。


「養子とはいえ、皇子の婚約ですから国をあげてのお祭り騒ぎです。ましてやお相手は一国の姫とあって、粗相があれば外聞も体裁も困るらしいのでしょう」

「リゲル様が何にも言わないのは珍しいですね」

「言っても変わらないですから」

 リゲルは成人の儀の派手な衣装に髪にたんまり簪を刺されたことを覚えている。

 派手にするな、金をかけるなと散々言ったが、予算がどーのと言って、結局、予算を目いっぱい使って飾り立てられた。

 この経験から、張り切っている官吏に文句を言うのをリゲルはやめた。


 金の無駄と思うし、その分、治安整備や土地開拓等に費用を回したいのが本音だ。

 だが、王族の建前と威厳を他国に見せることもまた大事であることを理解している。


 廊下を抜け、自身の執務室に戻ると、リゲルは机の上に置かれている祝いの品を見た。

 国の貴族からの品物は全て礼部宛に届き、リゲルは目録だけ目を通すというものだったから、執務室に直接置かれていることにひどく違和感を感じた。

 そもそもリゲルの執務室を訪れることができる者は限定されているから、余計に際立った。


「どうしました?」

 執務室の入り口で棒立ちする主人にアルデバランは静かに聞いた。

「申し訳ない。机の上の品が気になりまして」


来れる者などそうそういないはずの部屋に置かれたその品が、なんなのかをリゲルは気がついた。


「レグルスが来たのかな? それともカルトスが?」


 アルデバランは眉根をキュッと寄せると「レグルスでしょう」と答えると、机の上にある箱を持ち上げる。

「私が礼部に持っていきますよ」

 敢えてにっこりと微笑んだアルデバランを見て、リゲルは執務室の窓を開けながら「すみません」と小さく応えた。


 執務室から出ると、スピカが従者を連れてリゲルの部屋を訪れようとしているのか、すぐ側に立っていた。

「スピカ姫、リゲル皇子にご用ですか?」


 スピカはニコリと笑って「ええ。明日の婚約発表前に話しておきたくて。悪いけどハウト、席を外してちょうだい」と従者に下がるよう促した。


 レグルスはニコリと笑って「では、()()()()()()()()は私と出かけませんか?」と言って手を出した。

「………いいよ。聞きたいこともあるし」


 離れていく二人を尻目に、スピカはさっとリゲルに挨拶して、執務室に入ると、ソファに腰を下ろした。

「薄々知ってはいたけれど、やっぱりロイヤルスターなのね」

「そうだな。こちらも確認が取れて良かったよ」


 リゲルはスピカと向かい合うようにソファに腰を下ろし、話をするよう促した。


「どうして、私をあなたの妃にしようと思ったの? 私はあなたより随分と年上だし」


「年齢は関係ないよ」

「関係あるわよ。それに!」

「私はスピカの人となりを知っているつもりだ。政治のことに興味のない伴侶より、同じ志のある人と人生を歩きたいと思ったからだよ。それが、身を焦がすような想いとは違っていても、穏やかな安寧があると思ったんだ」

「………」

「あなたの懸念しているあの病ですが、貴方は関係ないでしょう?」

 スピカの母は王宮務めの侍女だったため、スピカは庶子だった。だが、王家の病のせいで子を宿せない王妃がスピカを姫として育てたのだ。

「霊亀は麒麟国を滅ぼしたのよ、怖くないの?」


 神妙な面持ちでスピカがリゲルを見つめた。

「全く気にならない」

「なぜ?」

 リゲルはスピカの目をじっと見つめ、幼子を説得するようにゆっくりと話した。

「あの短時間で国民をせん滅することなど不可能だ。だから、君がロイヤルスターをつけながら、なぜ、あんなに長期間いたのか、そう考えたら簡単に答えが出た。キミは、麒麟国の国民を、霊亀に逃がしていただろう」

 スピカは答えなかった。答えず、窓の方へと歩いて行く。

「年齢は?」

 スピカの頬を風が撫でた。


 リゲルは息を吐いて、ゆっくり話した。

「私は先王の子供で、現王帝の養子という立場です。姉上にも子供が沢山いますし、後継は問題ありません。それより、私は貴方と結婚したいと思った。不確定な子供というものに振り回されるよりも、あなたと共に人生を歩みたいと願っているのです」


 立場のある人物の考えとしてはなんて微妙なものだ。危うい。

 危ういけれど、とてつもなく嬉しい。


「わかったわ。ありがとう」

 スピカの心は満たされていた。


☆彡☆彡☆彡


「なんで呼び出したのよ、アル」

 不機嫌そうにアルデバランを睨みながら、応急の屋根の上で、アルデバランとフォーマルハウトは座っていた。

「お二人で話すのにらあなた私がいなかったら盗み聞きするつもりだったでしょう」

「だって! 気になるじゃん」

 フォーマルハウトはうずうずしながらそう言ったので、アルデバランがまあ、まあ、と宥めた。

「待ちましょうよ」


 渋々納得したからか、フォーマルハウトは頬を膨らませている。

「それより、その箱何?」


 アルデバランの持っている箱にフォーマルハウトは目をやると、アルデバランがバツが悪そうに「ああ」と言って「必要無くなったものです」と応えた。


☆彡☆彡☆彡


 龍王国の皇子リゲルが、霊亀国の姫スピカと婚約したというしらせは、国中を駆け回り、すぐに隣国に伝わって行った。


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