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13.提案

 龍王国に戻ると、リゲルは見合い話を全て断るよう王帝の元へと向かった。

 王帝の自室に入ると、一礼をした後、椅子に腰をかける。


「それで、どうするのだ?」

 王帝はしょうがない、と言った風に眉に手を置き、盛大にため息を吐く。


 無理もない。

 年頃の王族の男子が見合いをしないと言い出したのだから、後継者争いが落ち着かないと言うことを意味するので、悩みの種が消えないのだから。


 まるで言うことを聞かない。これが子育てなのか、と王は頭を抱えた。


 リゲルは腰につけている漆黒の玉と碧玉を取ると、王帝の手に恭しくのせる。

「これを霊亀国のスピカ姫にお渡しください」

「それは、何を意味するのかわかっているのか?」


 王は無理やり渡された玉をきつく握りしめ、リゲルの瑠璃色の瞳を真偽を問うように、じっと見つめる。


「わかっています。婚姻の申込(プロポーズ)ですよね」

「年齢が随分と上のようだが、その、子作りはどうするのだ?」

「随分とというほどでもありません。5歳かその程度でしょう。なんとかなります」


 なんとかって、その間はなんだ、と王は言いたいのだろう。王のほんの少し変化した表情を見てリゲルはそう思った。

 だか、そんなことは面倒だから口にしない。

 

「サンドルで何かあったのか?」

「気づきはありました。ある種、思惑もあります」

「他の考えは?」


 思惑について何にも言わないのはこのシリウス王の良いところだろう。

 リゲルは話を続ける。

「そもそも私が知っている女性の存在は少ないですし、その中で政治の話ができる女性はもっと少ない」


 王は察したのか、テーブルにあるグラスで喉を潤した。


「私はこの国の王になるのですよ? 政治や社会情勢に興味があるのです。私の妻は国母となるのに政治の話ができないような女性は論外です。私の知る限り、最も適しているのがスピカ姫だった、それだけです」


 シリウス王はグラスをテーブルに戻すと、深く息を吐いた。

 考えるあぐねているのだろう。

「そうは言っても、苛烈な国の姫だ。他の鳳国や凰国の姫でも良いではないか」


 リゲルはゆっくりと首を横に振り、否、と応える。

「王族にしかかからない病というのをご存知ですか? 我が国以外はその病に罹患しているそうですよ」

「なんだ?」

「そうですよね、我が国は側室を置いてますし、陛下には私がいる。私だけが」


 リゲルは龍王国以外が直面している問題をシリウス王に伝えた。

 きっと鳳国、凰国どちらもしばらく子が生まれていないこと、生まれても女児であること、貴族の男児が生まれないから、生まれた子は短命の可能性があることを淡々と話す。


「生まれても短命であり、王妃の意志に関わらず、子供を連れ去られれば、この国には残らないでしょう。側室を置いているからお前の国は良いではないか、と言われた場合、我が国の戦力では戦えません。国民が納得するかは別にして、そんな話が生まれる懸念もあります」

「お前の思惑はそれか?」

「はい」


 シリウス王は王妃のことを考え、息を吐いた。なるほど、合点がいく。


「それに、そこまでの状況であれば、両国はほっておいても滅びましょう」

「だが、霊亀国の姫というのも」

「混乱を生むやもしれません。ですが、彼女の母上は霊亀国の貴族出身ですし、彼女の兄や弟を産んでます」

「それと、国民が受け入れるかは別ではないか」


 王帝が気にするのも無理はない。


「領土が最も小さいといえ、たった1日で一つの国の民を根絶やしにできるほどの力を、ロイヤルスターといえど、持ち合わせてはいません」


 何か確信があるのか。

 シリウス王は食い下がりたくなったが、リゲルの性格を考えるともう出てこないだろう。


 王帝は手に握った玉に視線を落とし「わかった。伝えておく」と応えた。


「よろしくお願いします」

 リゲルは深々と頭を下げ、部屋を出ていった。


 リゲルも確信があるわけではないが、スピカにロイヤルスターがついていて、ロイヤルスターは己が定めし王にかしづく。

 傍若無人な振る舞いをするような者にとつくのか、と思ったがそうではない。


 異様に少なかった麒麟国の国民は食糧難になっていた。自国の侵略を知りながら、スピカにはロイヤルスターがついていながら、ただ漫然と捉えられているだろうか、そのことが頭をかすめた。


 あのように、砂漠だけの国土の民を彼女はゆっくりとバレないように自国に移動したとしか思えない。

 そうでなければ根絶やしにすることなどできないし、あれだけ栄養失調だというのに街中に死人がなかった。

 誰かがそっと手助けをして移動させた、と考えるのが自然だ。

 どんなに文明が発展しようと、人は動物だから、食べ物がなければ生きていられない。

 太陽と共に生きなければ、命は耐えてしまう。


 自国の苛烈な思惑を知りながら、ロイヤルスターを従者に据えながらなぜ、逃げれないのではなく、逃げなかったと考える方が自然だった。


 だから、リゲルは知りたいと思ったのだ。

 スピカをより近くで、知りたい。


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