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tokyo転生者 北区に住んでる光の勇者 第二部  作者: 氷川泪
第四章 アプリコットチェイサー
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人質

 新たに手配した車にあんずと刑部明奈を収容(しゅうよう)した。大型のバンで、窓には目張(めば)りがしてある。


 二人を拘束(こうそく)しようとは思わなかった。あんずは逃げないと言ってるし、明奈は父親を人質に取られているのだから逃走の可能性は(きわ)めて低い。


 バンの荷台を施錠すると、鳴倉は助手席に座り、運転手に車を出すよう指示をした。南条が追尾(ついび)してくることも考えて、見通しのいい大通りを中心に移動した。


 新大宮バイパスに入ってすぐのラーメン屋の駐車場にバンを停めた。24時間営業のチェーン店で、トラック運転手が利用できるように駐車場を広く取っている。


 ブラックホエールはそこに駐車していた。全長21m、40輪ある大型のトレーラーだ。


 トレーラー後部を(てのひら)で叩くと扉が開き、ボルグとサントスが顔を見せた。ボルグは黒髪のロシア人で、サントスは金髪のスペイン人だ。どちらも腕が立ち、頭も切れるから小僧犬に重用(ちょうよう)されている。


 あんずと明奈を伴って鳴倉はトレーラーに乗り込んだ。トレーラーの中は空調が効いていて、間接照明が(やわ)らかな光を落とす洋室に作り替えられている。 インテリアのつもりなのか、部屋の奥には古い大型バイクとスポーツカーまで置いてある。


「ボスは?」


 鳴倉が(たず)ねると、サントスが箸で麺を(すす)るジェスチャーをした。つまり小僧犬は、店でラーメンを喰っているということだ。


 部屋の暗さに目が慣れたのか、明奈がパイプ椅子に拘束(こうそく)された刑部を見つけて息を()む。


「生きてるんだろうね?」


 無表情なボルグを無視してサントスに(たず)ねると、サントスは鳴倉ではなく明奈に向けて親指を突き出した。冬の番人のようなボルグと、真夏の案内人のようなサントスの組み合わせは奇妙に見えるが、この二人は仲がいい。


「セニョリータ、心配ないです」


 サントスが明奈の手を取り、刑部の元へ誘導(ゆうどう)する。走行時に(つか)まれるよう、部屋の中には何本ものポールが取り付けてあるせいで、部屋の奥まで進むには迂回(うかい)する必要がある。


「パパは大丈夫。ちょっと怪我(けが)してるけど、大丈夫。安心して」


 親し気(したしげ)に明奈に話しかけているが、刑部を痛めつけたのはサントス自身だ。女とみれば誰でも口説くが、陽気な顔とは裏腹に、サントスは本物のサディストだ。


 ()け寄って膝を付くと、明奈は父親の肩を揺さぶった。


「お父さん、お父さん」


 明奈の声に刑部が目を開く。(うつ)ろな目で明奈を見つめると、刑部は大きくしゃっくりをした。


「お父さん、酔ってるの?」


 信じられないと言わんばかりに明奈の声が大きくなる。


「飲まされたんだよ、あいつに。鉄砲玉()けたお祝いだってよ」


 刑部の足元に、チューハイの空き缶が転がっている。キャビネットには高級な酒が並んでいるのに、わざわざコンビニで缶チューハイを買ってきて刑部に飲ませたのだろう。お祝いなどと言いながら、つまらないところで金をケチるものだ。


「オヤジは痛いですか?あんずは痛くないのですよ?」


 (かたわ)らにいたあんずが刑部の口元の傷に指を()わせる。


「オヤジを叩いたのはどいつですか?あんずはお(かしら)に言いつけるですよ」


「あのガキが3発。そこの野郎が12発だ」


 顔を上げて刑部がサントスを(にら)む。罪のないいたずらを(とが)められた子供のようにサントスが首を(すく)める。


「仕事なのですセニョリータ。仕事はしなきゃならい。解りますよね?」


「それにしちゃ随分(ずいぶん)と楽しそうだったぜ」


 笑いながらサントスが刑部の頭を叩く。


「わたしでよかった。あの男なら2発であなたを殺せる」


 ボルグを指差しながら、サントスが明奈に笑顔を向けた。親し気に近寄ってきたサントスの頬を、明奈が平手で叩いた。


「触らないで」


 明奈の言葉などサントスは訊いていなかった。無造作(むぞうさ)に明奈の髪を掴むと、薄笑いを浮かべながら拳を(かま)える。


「口の中火傷(やけど)しちゃったよ。ダメだな背油系は。湯気(ゆげ)立たないから熱さがわかんねぇ」


 部屋の入口に小僧犬が立っていた。


「チャーリー、女の子は殴るな。殺すのはいいけど痛めつけるのはダメだ。可哀想(かわいそう)で見てらんねぇ」


 サントスが明奈の髪を離した。それでも納得(なっとく)がいかないのか、明奈はサントスを睨みつけていた。



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