エルフ達の恋愛事情
他種族は一目見るだけで心を奪われてしまうと言い伝えられるほど、絶世の美男美女揃いのエルフ達。彼らのめくるめく恋愛事情を妄想して、既に何千冊もの小説が各地で出版されていますが、その実情は残念ながらあまりロマンチックとはいえません。たとえば……
「昨日のミスヒューマングランプリ観た?」
「あれは酷かったな。もし俺が司会者なら我慢できずに候補者全員、開始前に追い返していただろう」
「本当にその通りね。本人達も一体どこから根拠のない自信が湧いてくるのか不思議で仕方がないわ。ひょっとして生まれてから一度も鏡を見たことがないのかしら?」
「……多分……昨日の審査員が君を見たら……その……目が潰れるんじゃない……かな……う……美しすぎて……」
「……ま……まあ……そうね……下等な人間の視界に入るのを想像するだけで不愉快だわ……だから……見つめられるのは……あなただけで……十分よ……」
信じられない事に、これがエルフの恋人同士における一般的な睦言なのです。天から授かった並外れた美貌は、彼らの性格を大きく歪めることになりました。鏡を見れば誰よりも美しい存在がそこに佇んでいるのです。自然とプライドも天高くそびえるようになり、素直に相手を褒めることすら憚られるようになったのでしょう。
つまり捻くれまくって拗れはてたナルシストの種族差別主義者、何が好きかではなくて何が嫌いかで不器用に愛を語る厄介なツンデレ。それこそがエルフの本質なのです。
幸か不幸かエルフ以外のあらゆる種族をとことん見下している彼らは、直接他種族と交流することが滅多にありません。そのため歪み切った性格や価値観が露呈することなく、今もなお神秘的な気高く美しい種族として語り継がれているのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ……何を書いているの? ……ねえ! ……無視しないでよ!」
「昨日言っただろ? ちゃんと謝らないと、もう口を利いてあげないって」
「だって……私は悪くないわ! 事実を言っただけだもの。あんな似たり寄ったりの人間を集めて美しさを競うなんて馬鹿げているじゃない」
「はあ……他の種族を見下したりしちゃだめだって言ったよね?」
「でも……」
「言い訳しない。もう二度と褒められなくてもいいの?」
「それだけは嫌! ………………ごめんなさい、アラン」
僕の前で目を潤ませ、駄々っ子のように口を尖らせて謝ったのが、婚約者であるエルフのイザベラ。自尊心の塊であるエルフにとって謝罪のハードルがどれ程高いかは言うまでもありません。にもかかわらず彼女が折れたのは、褒められる喜びにプライドが勝てなかったからでしょう。
彼女達は他人を褒めるという行為が非常に苦手です。だからこそ言葉を尽くして絶賛されると、にやにやが止まらなくなり威厳などかなぐり捨てて、その場でスキップや小躍りを始めてしまうくらい、本来褒め言葉に弱いのです。言い換えればある意味超チョロい種族ということになりますが、実際はそう簡単ではありません。
数年前、エルフの森に迷い込んだ僕は、そこで出会ったイザベラに一目惚れしました。どうにかして彼女に近づきたいとアプローチを重ねたものの、彼女は人間の男なんて全く眼中にありませんでした。ただ、ある時、ふと気まぐれに僕が送ったラブレターに目を通してみたらしいのです。
その文章を読んだ途端、得も言われぬ高揚感に包まれたイザベラ。きっと何かの呪術に違いないと決めつけ、すぐに手紙を焼き払ったそうです。しかし、一度味わったその感覚が忘れられなかったらしく、手紙を読んでは燃やす日々が続いたのだとか……何とも失礼な話です。
ついには直接会いたいという僕の願いにも応えてくれたのですが、イザベラの美しさを称える僕の言葉が彼女の胸を躍らせるやいなや、魅了の呪詛に違いないと魔法で文字通り口封じされそうになりました。
結局、誤解がとけて彼女と交際するようになるまでは1年以上掛かりました。全く、エルフというのはどこまでもチョロくて面倒臭い種族ですが、好きになってしまったのだから仕方ありません。
僕は今、ちゃんと謝ったことを褒められて有頂天になり、小躍りしている愛しい婚約者を眺めながらこの本を書いています。
エルフの真実について記すのは、彼らの神秘性を台無しにする行為なのかもしれません。それでも僕は、近づきがたい孤高の気高き種族としてではなく、捻くれて面倒で自惚れ屋で、それでいてチョロくて可愛い生き物として世界に受け入れられ、彼らが世界に歩み寄る日が訪れることを願っているのです。
もし、あなたがエルフと恋に落ちたのなら、たとえ何通恋文を燃やされても、何度魔法で口にチャックを付けられても、どうかめげずに褒め続けてほしいのです。いつか、きっとあなたに心を開き、デレてスキップを始めるその日まで。




