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恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、今日も攻略を回避するのに忙しい  作者: うちうち


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捕獲、野生動物!

 さて、文化祭2日目。俺は今日もクラスで働く級友たちに敬礼してエールを送った後、さっそくグラウンドに赴いた。そして待ち合わせて集合した俺たちの視界いっぱいに広がるのは、所狭しと校庭に並ぶ色とりどりの屋台。鉄板焼き、やきそば、からあげ。くじ引きに射的、季節外れの金魚すくいなんてのもある。




「ほら見て、あの屋台の数々。さてさて、どれから回る……? うへへへ……じゅるり」


 俺がついワクワクを抑えきれずにつま先立ちでぴょんぴょん跳ねていると、横から貝森ちゃんがくいくいと袖を引っ張ってくる。なんか貝森ちゃんも心なしかテンション高い。


「センパイセンパイ、わたあめからにしましょうよ!」


「亜佑美ちゃん昨日からわたあめ推しだよね。……頭軽いから親近感湧いちゃってるのかな? ふふ、おかしい」


「うるさいなー柚乃は」


「シュークリームが食べたいわ」


「馬鹿、屋台って言ってんでしょ!」


 なるほど……。わたあめ派1、保留1、シュークリーム派1、反シュークリーム派1か……。全員の意見を総合した結果、まずはわたあめを買うこととなり、俺たちは屋台に並んだ。近づくにつれて砂糖が少し焦げたような匂いがふわりと鼻を突き、柚乃ちゃんが興味深そうに前の方を覗き込む。


「へえ……あんな風に作るんですねえ」


 柚乃ちゃんの見つめる中、透明の囲いの中で雲みたいな白いわたあめが魔法のように次第に大きくなっていく。……あれだよな、こういうのって出来上がるのを見るのも楽しいよな。




「汐音、その……俺にも1口くれないか」


「じゃあもうそれあげる」


 1人だけ買わなかった崇高がなんと早速たかり行為を働いてきたので、優しい俺はわたあめを手渡してやった。それに汐音ちゃんの胃の容量から考えて、ここは温存しないといけないかもしれんからな。あ、これ気づかい? サンキュー崇高。そういうさりげなさって大事よ。



 しかし俺がニコニコ笑ってうんうんと頷きながら奴を見つめると、顔を赤らめて目を逸らされた。なんてシャイなやつなんだ。褒め言葉は素直に受け取っとくが吉だぞ。口に出してはねーけど。


「ねえ、次あれ行きましょうよ! 射的だって射的! 的を倒したらそれが賞品として貰えるんですって! ……高宮城ぃ! 勝負よ!」


「賞品にシュークリームは……?」


「真面目な顔で聞くな! ないわそんなもん! ぐっちゃぐちゃになっちゃうでしょ!?」


「はいはい、じゃあ次は射的ということで。しゅっぱーつ!」


「はーい!」



 その後も俺たちは、屋台やイベントを巡った。一緒に創作たこ焼きを熱いうちに頬張り、映研の作成したオリジナル映画に手に汗握り。大食い選手権に参加した貝森ちゃんには主に俺と北辻さんで最前列から熱い声援を送ったし、準優勝した際にはそっぽを向きつつ柚乃ちゃんも小さく拍手をしてくれたり。高宮城先輩は表情変わらないから楽しんでるのかどうなのかなと思っていたのだが、気が付くと頭にお面を斜めに被っていた。……どうやら満喫しておられる……。





 そして午後になったあたりでようやく俺は重要な任務を思いだした。そうだそうだ、遊ぶのも大事だが。リネットを探さねばならん。まあ昨日来てたから今日も来てるとはならんが、いちおうな。俺は手に持ったからあげ串をもぐもぐと頬張って処理した後、腹に力を入れた。


「……全員集合ー!」




 指揮棒のように串を掲げた俺の掛け声に合わせて、何も言わず律儀にさっと並んでくれるヒロイン4人。あれ崇高は? と思って見回してみると俺の隣にちゃっかりと立ち、目を閉じて腕組みしている。なに側近気どりしてんねん。そこは貝森ちゃんの席やぞ。……まあいいや。側近は最終話付近で自爆特攻するのがセオリーだからな。その役目だけお前に命じよう。辞世の句を今から考えておくように。……さて。




「突然ですが、人探しをします!」


「また鬼ごっこですかぁ……?」


「昨日は逃げる側だったけどね」


 あまり乗ってこない1年生2人に対し、北辻さんはやれやれ、といった顔で俺を見つめた。そして苦笑しつつ口を開いてくれる。


「で、今日は誰を探したいの」


「銀髪に緑の目、15歳くらいの女の子を探してください! 名前はリネット。えーっと、どんな顔かというと……」


 俺はちょうどそのへんを通りがかった子からスケッチブックを借り、似顔絵を作成してみた。すると、俺のイメージよりやや少女趣味だったが、さらさらとイラストが描かれていく。




「この子です! 極度の怖がりなので声をかけると逃げるから、発見したら私に教えてください。ちなみに見つめても逃げます。なので、あくまで気づいていないふりを心がけてください」


「野生動物みたいですねぇ……」


「で、なんで探すんです?」


「いろいろあるけど、最終的にはあわよくば崇高くんのお嫁さんにしたい」


「……は?」


 ……いかん。ちょっと願望出ちゃった。まあそう、最終的にはそうなんだが、とりあえず彼女にはまず聞きたいことが2つある。それは、俺がここにいる理由、そしてオリジナル汐音ちゃんの行方について。どっちもあの子ならきっとわかるはずだ。だってあの子、バリバリ現役の魔女だし。1人だけ生息してる世界観が違う。フィジカルの高宮城先輩、ファンタジーのリネット。ちょっとメンタル面に不安を抱えているとはいえ、戦力としては最強格。あと可愛い。めっちゃいじらしい。良かったな崇高、俺の推し№1だぞ№1。




 ……おっと。訂正訂正。俺はてへへと笑い、仰々しく咳払いして仕切り直した。そして重々しい声で真実を告げる。


「コホン、間違えちゃった。……実はね、彼女こそ、私の悩み事を解決してくれる子だと思うんだよ」


「これ、言い直せてますかねぇ」


「同じこと言ってるよね」


「……えーいそこの1年生2人組! だまらっしゃい!」


「『だまらっしゃい』とかリアルで言う子初めて見たわ」


「江戸っ子ね」


「はい上級生組も騒がしいですよー汐音先生にはばっちり聞こえてますからねー」


「よし、俺は汐音と同級生だから大丈夫だな」


 安心したように頷く崇高。……お前、そろそろ辞世の句できた? ならきちんと清書して懐に入れておくように。




「では捜索開始! ……あと別件ですが、無表情な私を見つけた場合もご一報ください。そちらも重大なキーパーソンですので」


「無表情なセンパイ……? ちょっと想像しにくいですね……」


「少し怖いわ」


「……そちらもおそらく逃げますので、見つけたら黙って教えてください」


「うちの学校野生動物多すぎでしょ」


「ていうかそれただの真顔な夜桜先輩なのでは……逃げないでくださいよぉ」



 と、ここまでは案外とんとん拍子に話が進んだのだが。俺がある提案をしたあたりから、なんだか雲行きが怪しくなり始めた。


「じゃあばらばらだと遭遇した時に危ないかもしれないから、2人1組で回ることにしよ」


「……え……危ない……? なぜ……?」


「戦闘力だとリネットはたぶん高宮城先輩とタメ張るから。不思議な力で教室丸々吹き飛ばすくらいはできると思う」


「あのぉ、その子、野生のゴリラか何かなんですかぁ……?」


「こら柚乃! めっ! それ高宮城さんにも失礼……あ、すみません……」


「ということで、2人組を作らないといけないわけだけど……」


「それ2人いたら何とかなる問題なのかしら」



 俺はもう1度全員の顔を見渡した。……でもこれってチャンスだよな。崇高の相手は別にリネットじゃなくてもいいわけだし。ピンチはチャンスとは昔の人の言葉だったか。とすると、一番くっつけたい人間と崇高をセットにしたいところだが……。接点の薄い子を絡ませていくか……それとも可能性の高い子を押していくべきか……? いや、そもそも誰だよ可能性の高い子って。けっこう贔屓目に見たとしてもいる気がしねぇ……。



 俺が1人1人と崇高を何度も見比べながら考え込んでいると、なぜか崇高を除くみんなは次第に俺から目を逸らし、何やら互いに目配せをし合った。あと崇高がなんか悲壮な顔をずっとみんなに向けている。なんじゃこいつ。未来でする自爆の予行演習かな? ……うむむむむ。





 俺はしばらく悩んだ末、結論を出すこととした。よし、ここは可能性を広げていこう。


「じゃあねえ、崇高くんと柚乃ちゃん……」


「高宮城先輩! わたしと組みませんか!?」


 と、いつの間にか高宮城先輩の隣に移動していた柚乃ちゃんが熱烈に先輩の手を握っていたので、俺は渋々その組み合わせを諦める。うーん……どうやら昨日の逃走劇で意外なところに友情が生まれてしまったらしい。ということは置きに行くか?




「ならここは、貝森ちゃんと崇高くんか……」


「えっあたし!?」


「ねえ、貝森さん? あたしと回ってくれない?」


 今度は間の悪いことに、北辻さんが俺の視線を遮るように手を広げ、貝森ちゃんに勧誘をかけていた。……ふむ。なるほど、ラーメン好きと中華料理屋の娘か……両者良識的なのでバランスもいい。ゲームではこの2人の絡みはあまりなかったが、悪くないかもしれん……。




 とすると崇高を誰と組ませるかだが……。俺はもう1度全員の顔を見回した。柚乃ちゃんと高宮城先輩、貝森ちゃんと北辻さん、で、残りが俺と崇高。ここから誰を崇高と組ませるか……? ってあれ?


「じゃあ、2時間後にここに集合ってことでいいかしら」


「では、また何かあれば連絡します! お気をつけて!」


「みんなちょっと待って」


「ご健闘をお祈りしますぅ」


「待ってってば!」




 俺の懸命の呼びかけにも関わらず、みんなは振り向かず、すごい勢いで走り去っていった。その場には俺と崇高だけがぽつんと残される。そして何か後ろで動く気配がしたので俺が振り向くと、なぜか崇高が嬉しそうにガッツポーズをとっていた。


「な、何が嬉しいの」


「いや、意外にうまくいくもんだなって……」


「何一つうまくいってないんだけど」


「よし、じゃあ行くぞ汐音!」


 声を弾ませて、俺の手を取りゆっくりと歩きだす崇高。優しく引いてくれるその手にほんの少しだけ成長を感じ、俺は仕方なくついていくこととした。……しゃーない、今日だけだぞ。






 しかし、その後も校舎中を巡ったというのに、リネットも汐音ちゃんも、とんと見当たらなかった。廊下も、教室も、何なら非常階段も上ったり下りたりしたというのに。ただただ疲れた……。


 そして人目につかないところでいったん休憩しようと、俺たちは屋上にやってきた。よいしょと陰になっている端に座り、しばらく背中を壁に預けていると、グラウンドでの喧騒が風に乗って遠くから聞こえてくる。時折吹きぬける涼しい風が、今は少しだけ心地よかった。隣に崇高も腰を下ろす。



「にしても2人とも全然いない……」


「汐音、大丈夫か? ……そもそもいたのかな? 見間違いかもしれないだろ」


「うーん、でもリネットを見間違う訳がないし、無表情な私も目撃者がいるし」


「……目撃者?」


「母上殿が見たって」


「え゛っマジで!? どこで……!?」


「なんか昨日、教室の扉から中を覗いてたって」


「……なるほど」


 第三者の目撃情報を聞いて、崇高も真剣な顔になった。そのまま思案しながら頭上を見上げ、不意にぶんぶんと首を振る。そしてふと、大人びた笑みを浮かべた。それは、俺がこれまで見たことのないこいつの表情だった。


「どしたの崇高くん」


「ならほんとにいるのかもなって。正直、そっちの方は半信半疑だったから」


「なんだよー、私の言葉だぞー。疑うなんて駄目だぞー」


「疑わないよ」


 真剣な顔の崇高。あまりにきっぱりと言うので、俺はさっきの会話を思い出してみた。いやいや。お前、つい5秒前やぞ。


「今、半信半疑って言ったばっかりじゃない……」


「俺は汐音の言葉を疑わない。それは確かだ」


「そうかなぁ」


「そうだとも」


「……え、なんで?」


 ……しまった。言ってしまった後でなんだが、これやばいかもしれん。屋上、2人きり、「なんで私を疑わないの?」って問いかけ。こんなの告白一択じゃん。「それはな、お前が好きだからだよ!」みたいな。墓穴。なぜ反射的に理由まで聞いてしまったのか俺。俺は反射的に立ち上がり、両手を左右に振ってさっきの発言のキャンセルを要求した。俺、3秒ルールは会話にも適用されると思うな。されてお願い!


「やっぱりいい! さっきのなし! 冗談!」


「……なんでかって? それはな」


 お前俺の話聞けって。ヤバいヤバいヤバい。こいつもうルート乗っちゃってるよ。もうこうなったら聞こえないふりして乗り切るしかねえ。俺はいつでも耳をふさげるよう、両手に力を入れて次の展開に備えた。……しかし、穏やかな声で聞こえてきたのは、予想とは少し違う台詞だった。





「……俺が汐音とずっと一緒にいたからだよ、たぶん。だからだいたいわかるんだ。汐音の気持ちも、何に困ってるかも、俺に何を望んでるのかも。だからこそ俺は、何かできることがあればしてやりたかったんだ。……たとえ……」


 そこで口をつぐみ、むにゃむにゃと呟いた後。崇高は空を見上げて、ゆっくりと目を閉じた。しばらく待ち、続きが無さそうだと判断した俺は、同じように視線を上に向ける。青い空を見上げ、ゆっくりと動く雲をぼーっと眺めていると、不意になんとなく、続きが聞こえた気がした。それは俺にというより、自分自身に言い聞かせているような口調だった。




「……たとえ、お前のそれが、恋じゃなくても」










 なんか、思ってたよりみんな色々考えて生きてるのかもしれん……。急に真面目モードになった挙句に黙り込んでしまった崇高の横顔をこっそり盗み見ながら、俺は認識をちょっと改めた。そうだな、油断してはいかん。いかに俺がゲーム知識で優位にあるとはいえ、相手も相手で何か考えてるのは当然だからな。



 俺は気合を入れなおすべく、立ち上がってその場でくるくると回った。けっこう唐突だったにもかかわらず、崇高はそれを見ても何も言わない。それどころかなんだか納得した表情をしていた。


「そういえば、汐音って急に踊りだすことよくあるよな」


「そ、そう……?」


「ほら、ちょうどここで、夏前くらいだったかな……文化祭の話をしてた時、いきなり1人で踊り出したことあったろ。確か、ほら、マイムマイム。しかもフルで踊ってたぞ」


「フルで!? ……そ、そうだったっけなあ……」


 夏前ってそれオリジナルの方だろ。てことはこれ汐音ちゃんのデフォルト設定なの? 俺もさすがに文化祭の話をしてる時に唐突に踊ろうとは思わないと思うが……。なんだ? 夢で見たあれがオリジナルだとしたら、汐音ちゃんはおそらく聡明だ。なら何か理由がある、のか……?




「ちなみにその時って、どんな話してた?」


「いや、別に普通の話。楽しみだね、とか」


「うーん……」


 何の手掛かりにもならん……。さっきちょっと見直したのに。




 俺は屋上のフェンス越しに、何か見えないかきょろきょろとあたりを見まわした。ここからだと、グラウンドがよく見える。その真ん中あたりには、ファイアーストーム用の木が組まれ始めているところだった。遠くから見ても大きなかがり火になるであろうことが既に予想される。……でももうなんか混んでるな……。人、人、人ばっか。あんな所に行ったら俺と柚乃ちゃんがぺちゃんこになってしまうぞ。北辻さんに爆走してもらって撥ね飛ばすのも限度があるし……。




「……そうだ! ここでみんなで踊ればいいんだよ」


「汐音?」


「だから、ここなら音楽も聞こえるし。火もよく見えるじゃない。きっと人もいないよ。だってここ普通は立ち入り禁止で鍵かかってるもん」


 ちなみにならなぜ俺たちが入れているかというと、誰とは言わないが空好きな先輩が入学して早々、ちょっと力を入れてノブを回したことにより鍵は壊れているのだ。掛かっていてもガチャガチャと揺らせばすぐに開く。これは高宮城先輩ルートを制覇した者なら常識であった。


「それ、いいかもな」


「でしょ! ……ん?」


 突然、ブーン、とスマホが震え、LINEでメッセージが貝森ちゃんから届いた。俺はそれを見て、即座に走り出す。後ろから慌てたような崇高の声が聞こえた。


「ど、どうしたんだよ!?」


「いいからついてきて!」



 端的に。貝森ちゃんからのメッセージは1行だった。





『――野生動物、捕まえました』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 貝森ちゃんやるぅ!
[良い点] 貝森ちゃんやるやん!
[一言] 野生動物w センスあるなぁ
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