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接敵、主人公 / 遭遇、貝森ちゃん(2)

本日3話目です。

「ええっ! 先輩だったんですか!?」




 貝森ちゃん、俺、主人公の並びで座り、彼女がお礼と言って奢ってくれたジュースを飲みながら俺たちはあらためて自己紹介し合った。そこでやたらと驚かれる。


 いやどう見ても主人公は年上だろ……。こいつ180cm近くあるんだから。貝森ちゃんの周りにはそんなに高身長が溢れているのだろうか。君、ひょっとしてバスケ部のマネージャーでもやっておられる?




 俺の気持ちが伝わったのか、貝森ちゃんはぱたぱたと手を振った。違う違う、と言いたいらしい。


「だって、あなたが小さいから……。あ、ごめんね! いや、ごめんなさい……」


 うるせー余計なお世話だ。病弱だから小さいし薄いんだよ、知らんけど。たぶん俺今150cmないしな。道理でだいぶ視界が低いわけだ。違和感半端ないわ。


「いいよ、仕方ないと思うから……」


「汐音先輩、って呼んでいいですか?」


「……ん?」


「あ、駄目……ですよね」


「いや別に構わんけど……あ。……いいよぉ……」


「なんで同じこと言い直したの!? ……あ。言い直したんですか? あっ……」


 ふふっ、と俺と貝森ちゃんはなんとなく顔を見合わせ、同時に笑った。そういや貝森ちゃんも言い直す癖、あったっけ。にしても、そうだよこれだよ。この子には元気に笑っていてほしい。プレイヤーを代表して俺は表明する。この子を曇らす奴は問答無用で無期懲役に処する。





「ねえそうすると崇高くんも先輩……だよねぇ。ほらもう少し喋りなよ」


 ほら崇高、崇高。お前ももうちょいなんか言えや。熊の置き物とか人体模型じゃねーんだからさ。俺は無理やりに主人公と場所を入れ替え、あとは貝森ちゃんと主人公のやり取りを見守ることとする。ところが2人はぽつりぽつりとしか話さず、いまいち会話は弾まなかった。



 ……すまんゲーム世界の俺よ。具体的な会話ってあんまりゲームじゃいちいち表示されなかったから俺は手助けしてやれん。お前のポテンシャルに期待するわ。……あ、でも。ここでペンダントの話をしたから彼女の家庭環境を聞くきっかけが生まれたはずだし、それは最低限やっておかないとな。






 しかしそれから10分経って、彼ら2人が発した言葉は信じがたいことになんと4つだけだった。4つて。3歳児同士でももうちょいなんか喋るぞ。……君たち、ひょっとして恥ずかしがり屋?



 ……いかん、見てるだけでも気まずい……。この世界の俺ポテンシャル低い。いやこいつもやる時はやる男なんだけど。ただ今もやる時のはず。だからさっさと発揮しろや。



 俺はいつの間にかこっちを向いている主人公にそんな念を送ったが、いまいち伝わっているような様子はなかった。この鈍感野郎。……こうなったら……。



 俺はじーっと貝森ちゃんのペンダントを見つめる。ほらお前も気になるよな。あれだよあれ。「なんであんなに一生懸命探してたの?」って言いたくなってきただろう。ほら言え。さっさと。



 俺の視線が少々血走っていたからか、少し引いた様子を見せたものの、主人公は貝森ちゃんのペンダントへ無事目を移した。よーしよしお前はやる男だと思っていたよ。思ったより遥かに手前でつまづいてたけどな。まあ許すわ。





 そして俺の期待通り、主人公は貝森ちゃんにちょっと遠慮気味に話しかけた。……よし。これで……。


「そのペンダント、貰えたりはしない……よな?」


 やっぱ許さん。何言ってるんだお前。今日会った他人に渡せるようなもんをあんなに一生懸命探すわけがないだろうが。崇高、お前後で補習な。


「えぇ、駄目だよう!? ……あ、駄目、ですよう……。だってこれは私の父の形見で……」


 あ、でもなんかルートに乗ったわ。あれでいいんだ。さすが貝森ちゃん、俺の推し№3だけあって心広いね。





 俺と主人公は神妙な顔をして彼女の身の上話を拝聴した。なんでも貝森ちゃんのお母さんは一生懸命働いてくれてるんだけど、そのせいで彼女は家で夜中までずっと1人なんだって。だから寂しいけど、そんなことを級友に相談することもなかなかできず。学校で笑って過ごせる一方で、家に帰って1人で沈黙の中でぽつんと過ごすそのギャップがきついらしい。知ってたけど、生で聞かされるとやはり悲しい。これを聞いたら、男なら何とかしてやりたいと皆が思うはずだ。




「なんだかですね、きっとただの我儘なんでしょうけど……その……私って今1人だなぁ、ってふとした時に強く感じちゃって……」


「そうか……」




 しかし貝森ちゃんの話を聞いた後、それだけ言って主人公は黙ってしまった。……マジか。さっきからどうしたこいつ。携帯ショップの店頭によくいるペッパー君の方がまだ愛想あるぞ。



 こらお前、「なら俺が一緒にいてやるよ」くらいはよ言わんかい。俺は主人公を貝森ちゃんの方にぐいっと向けた後、ごしょごしょとその背中に囁いた。


「なら俺が一緒に……!」


「なら……俺が……一緒に……?」


「いてやるよ」


「……いてやるよ……」



 声が遅れて聞こえるよ、みたいになってしまったけれどまあいいだろう。ちゃんと意図を読み取った主人公、偉い。ちゃんと貝森ちゃんを見ながら言えたのもポイント高い。お前はできるやつだと俺は信じていたぞ。





「いやでも……今日会ったばっかりの人にそこまでしてもらうのも……悪いですし……」


 あ、やばい。なんかでも貝森ちゃんちょっと引いてる。これ崇高の言い方に問題あったんじゃね? しかしこれはいかん。ここは任せろ。俺が手本を見せてやる。




「崇高くんは、『偶然でも事情を聞けたんだから、貝森ちゃんにはこれで言える場所が1つ出来たってことだ。だからこれからも、辛い気持ちを言えない時があったらどうか1人でため込まずに話してほしい』ってことが言いたいんだよ……ねぇ」


「え!?」


「……あ、そうだったんですか……。ありがとうございます。じゃあもし、また落ち込むようなことがあったら、聞いてくれたら嬉しいです」


 なぜかこちらを向いて言ってくる貝森ちゃん。お、おう、まあ俺も聞くけど。でもこいつにも言ってくれ。しかし俺の再三送った視線の意味を、貝森ちゃんはいまいち汲み取ってくれず。


 ……え、崇高って存在してるよな? 死んでない? 大丈夫? いやまあ教室で認識されてたから大丈夫なんだろうけど。これほどスルーされるとちょっと心配になる。そして理解する。このままだと貝森ちゃんはどうやら主人公には同じ言葉を言ってくれないっぽい。




 そこで俺は貝森ちゃんの向こう側に移動し、貝森ちゃんのほっそりした両肩を掴んで、くいっと無理やりに主人公の方に向けた。そしてその背中にこれまたごしょごしょと囁く。


「落ち込むようなことがあったら」


「……え? えーっと……落ち込むようなことがあったら……?」


「あなたにも聞いてほしいと思うんです」


「あなたにも聞いてほしいと思う……んです……」


 よし解決! ふう、これで貝森ちゃんルートには乗ったな。……多少無理やりとはいえ。崇高お前、貝森ちゃんのラストの海をバックにした一枚絵ヤバいからな。今から覚悟しとけよこの幸せ者。







「ありがとうございました! 汐音先輩! 竜造寺先輩!」


 今日の昼食を一緒に食べる約束を交わしたのち。そう言って手をぶんぶん振り、貝森ちゃんは去っていった。なんで俺が名前呼びで主人公が苗字呼びなんだ、と思われるかもしれない。しかしこれには訳があるんだよ。


 ……貝森ちゃんは、本当に信頼した相手は「センパイ」とだけ呼ぶのだ。苗字も名前もそこには関係ない。いやーしかしこうなったら、この世界の俺がそう呼ばれているところを早く見たいね。それにはいくつか通過しないといけないイベントがあるんだが、お前なら行けるさ。そう言う激励を込めて主人公に熱い視線を送っておく。




「汐音は、ひょっとして、中庭であの子が困ってるって知ってたのか? だから……」


「……」


 だーからお前はいちいちそういう余計なことばっか聞くなや。今せっかくいい感じだったんだからさ。とりあえず質問は普通に無視しておく。……あ、そうだそうだ。それよりも確認しておかんといかんな。





 俺は少し前を歩く主人公を追い抜き、振り返って思いっきりの笑顔で尋ねてみた。ふわりとスカートが舞い、不本意ながらちょっと可愛くなってしまったが、ここは必要な犠牲だと割り切ろう。


「さっきの子、すっごく可愛かったよねぇ!」


「あ、ああ……まあ」


「好きに、なった?」


「……いや俺、他にちゃんと好きな人いるからな!」


「…………あ、そう」


 この野郎。まあいい。貝森ちゃんの存在を認識したなら今日のお前は100点だ。この後の昼食でさらに仲良くなってくれたら十分。橋渡しはまあ俺に任せておけばいいからさ。

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― 新着の感想 ―
主人公がすでに他の女眼中にないうえ、ムーブが気持ち悪くて笑うw
[良い点] 既にロックオンされていた( ˘ω˘ )
[一言] >……多少無理やりとはいえ。 多少!! ごーいんぐまいうぇいな小さな女の子、いいと思います。
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