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恋愛ゲームの世界を願ったらなぜかヒロインになった俺は、今日も攻略を回避するのに忙しい  作者: うちうち


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26/37

文化祭1日目

 俺たちが登校すると、そこはもういつもの学校とは違っていた。綺麗に掃除されて何も余分なものがない普段とは違い、どこか雑多で、ざわざわと活気に溢れている。



 あちこちに手作りであろう色とりどりの看板が掲げられている。校庭には、屋台や催し物のテントがあちこちに並んでいて、わっせわっせと生徒が何やら大きな荷物を運び込んでいる。校舎の陰を覗いてみると、そこには何やら椅子と机が積み上げられ、やがて訪れるであろう自身の出番を待っていた。



 ……文化祭がこれからやってくるのだ、ということを実感する。いやー、しかしやっぱこういう雰囲気っていいね。なんかこう、場がエネルギーに満ち溢れてる、みたいなさ。



 俺は自分の教室に入り、中をぐるりと見まわした。ここも他の場所と同じく、いつもとは様子が違う。いくつか置かれた丸いテーブルと綺麗な白のテーブルクロス、カーテンで隔離された奥に設置された大きな冷蔵庫と電気ポット、窓際に並ぶ謎のお洒落っぽいオブジェ。なんでも我がクラスは、コスプレ喫茶をやるらしい。俺は重要ミッションがあるゆえ手伝えないが、頑張っていただきたい。






「あ、汐音はこっち」


「えっ……? な、何か準備まだあったっけ?」


 ところが教室に入るなりモブにぐいぐいと引っ張られ、女子更衣室の方に連れて行かれた。俺も裏方として、(低い部分の)飾り付け、配線のセッティング(主に足元)、家でのクッキー増産(作成協力:貝森ちゃん)などなど、事前の準備ではけっこう働いたので、今日は他の面々に任せることになっていた。なんだかんだで当日接客組もわいわい言いながら手伝ってくれたけどな。……ふむ、あらためていいクラスだ。



 だから俺がやることなど、何か準備を忘れていたとかでない限りないはずなのだが……。






「今日は竜造寺くんと校内回るんだよね。……頑張ってね! もう今日で決めてきな! ……で、これこれ、せっかくならこのタスキをかけててほしいんだ。ほら、宣伝宣伝」


「うん、今日はね、そのつもり! タスキもいいよ。準備も手伝ってもらったしね」


 

 『2-B コスプレ喫茶やってます』と大きな字で書かれたタスキを「はい」と手渡された。決めてきな、に対して俺が笑顔で腕を振り上げると、更衣室にいた裏方女子たちが一斉にキャーっと騒ぐ。ははは、ありがとう。それにタスキくらいお安い御用さ。



 ……俺なんて昔、文化祭ではガチャピンの着ぐるみ着て立札持ちながら校舎中を練り歩いたことすらあるからな。ただ、あれも別に恥ずかしくはなかったな……。みんなに注目されてちょっとテンション上がってしまったくらいだ。それに比べりゃタスキがなんぼのもんじゃい。しかし、俺がよいしょとタスキをかけようとすると、なぜかそれは制止された。





「あ、待って待って。そのままだとコスプレ喫茶ってわからないでしょ」


「いや、それは日本語が読めたらわかるんじゃ……? ここにほら、でかでかと書いてあるじゃない」


「ということでこれよ!」



 話を聞かないモブ女子によってじゃん、と広げられたのは、黒を基調にしたワンピースドレスだった。ほぼ黒一色だが、すそと首元の縁取りだけが白い。そしてひらひらとやたらにフリルがついている。さらに、黒い日傘、黒ニーソとどんどん手渡されたので俺はとりあえず受け取り、それらに目を落とした。……黒っ。なんじゃこら。こんなん全部着たらコナンの犯人くらいに全身黒くなるぞ……。




「……えっと、なにこれ?」


「クラスで会議して投票した結果、汐音にはゴスロリが似合うってことになりました」


「え、なにそれ私知らない」


「正確にはこれはゴスロリではないんだけどね。濃いメイクをするわけじゃないし、退廃的なメッセージを織り込んでいるわけでもない。ただだからこそ、コスプレっぽく格好そのものを楽しむという僕らのクラスのコンセプトを宣伝できると踏んでいるんだ」


 くいっと眼鏡を押し上げながらモブ女子の横で解説してくれる眼鏡男子。……ほーん、熱弁サンキュー。でも全然わからん。退廃的なメッセージってなんだ……? ……ん? 男子?



 俺がもう1度視線を上げると、眼鏡男子は女子一同からボッコボコの袋叩きにされて、廊下にポイっと放り出されるところだった。袋叩きに参加していたモブ女子は扉を閉じて施錠した後、手をぱんぱんっ! と払った。そしてにっこりと微笑む。


「わかった?」


「……いや私って裏方じゃ……?」


「だから教室の当番には当ててないでしょ? 当日自由にしていいかわりに、裏方として宣伝してもらわないと。ほら、最前線は教室でしょ。宣伝は後方支援だよ。後方支援っていったら裏方だよ」


「……そ、そっかぁ……でも、恥ずかしいから普通の恰好がいいなあ……」


 制服のスカートですらいまだに抵抗あるのに、こんなひらひらしたのを身に着けたりしたら俺は羞恥で死んでしまうぞ。ガチャピンの方が100倍マシだ。露出部分はそこまで多くはないとはいえ、そんな問題ではない。



 しかし、モブ女子はさらに冷酷な宣言を俺に突きつける。


「ちなみに着ないなら、教室の当番をやってもらざるをえないんだけど」


「なんで!? 私けっこう貢献したでしょ!? クッキーとか美味しいって言ってくれたじゃない!! 今日回れないとマジで困るんだよ!? 今日の文化祭はね、私にとっては言うならば桶狭間! ううん関ヶ原! いや、本能寺みたいなものなんだよぉ!!」


「でも……他の裏方も全員こういうの着て校舎を回るのに、汐音1人だけやらないって言うならそりゃねえ……」


 ふーやれやれ、とモブ女子は腰に手を当て、首を振って大きなため息をついた。同時に、「え゛っ」という感じで一斉にこっちを見る裏方女子一同。モブ女子が笑顔のままで周りを見渡すと、彼女らはみなこくこくと首を縦に振った。……マジ? 裏方の比重大きすぎない? ま、まあ当日フリーになるのはそれくらい大事なのかもしれんが……。


「裏方って思ったより大変なんだね……」


「でも私たちも教室で頑張るからさ。ほら、みんなでガッツリ稼いでばーんと打ち上げ行っちゃお!」


「ちなみに利益は……?」


「当然、全員で折半よ!! さあ、じゃあスタイリスト班、準備しなさい! 汐音を完成版に!」


「「ラジャー!」」


「……完成版?」








 待ち合わせ場所は校門の前。俺が広げた日傘を上げてちらりと周りの様子を窺うと、校庭では既に屋台が呼び込みを開始し、テントでも催し物が開催されている。……あ、射的やってるじゃん。後で寄ろう。


 そして校門からは既に外部からの客らしき人々がぞろぞろと学校の中へひっきりなしになだれ込んで来ている最中で、そこにチラシを配るべく突入していく大勢の生徒たち。朝だというのに、校門周りは既にだいぶしっちゃかめっちゃかだった。あちらこちらで叫び声が上がり、大きな生物のようにうねりながら進む人混み。まるで合戦場のようだ。


 ……ここを待ち合わせ場所にしたのは無謀だったかもしれん。しかしあれも裏方? こここそ最前線っぽいんだが……。最前線の教室っていったいどうなってるんだろ……。




 俺はとりあえずささっと校門脇の壁に張り付き、日傘をパタンと閉じて、老若男女で混み合っている周囲を見回した。うーん……。この中から待ち合わせ相手を探すのは骨が折れるな……。



 しかし、次第に、周囲から俺に視線が集まった。ざわざわひそひそと囁き声も聞こえる気がする。それを感じた俺はささっと日傘を再び差し、その陰に縮こまった。かぁっと顔が熱くなるのが自分でもわかる。やけに足元がスースーしてる気がする。制服とそんなに変わらないはずなのに。むしろニーソだからいつもより露出面積少ないまであるのに。


 ……北辻さんお願い、早く来て……。この恰好で俺1人は無理だって。この際主人公でもいい。ヘルプ崇高。ていうか俺の方が先に来てるとか。あいつホンマ、主人公としての能力低いな……。せめて北辻さんより早く来てほしいものだが……。





 やがてやってくる人混みの中に北辻さんの姿が見えたので、俺は合図にと日傘を振った。どうでもいいけど、この傘もふちにフリルついてる。やたら軽いし、台風の日にこんなんさしてたら一瞬でバキバキになりそう。しかしこれがなかったら俺は衆目の中で晒されていたと考えると、相棒と言っても過言ではないな。貢献度では既に崇高を超えている。




 遠くにいた北辻さんは幸いにも俺に気づいてくれたらしく、信じられないことに人混みをかき分けながらも原付くらいのスピードでダッシュして、ぐんぐんと視界の中で大きくなった。そしてその勢いのまま俺の目の前までやってきて急ブレーキをかけたかと思うと、なんだかキラキラした目でこちらを見つめる。……いや、今どうやってここまで来たん? 途中で3人ぐらい撥ね飛ばして来てなかった?



「何よその髪型!? 何その服!? いつもよりさらに可愛くない!?」


「えーっと、クラスの子がやってくれました……うう、あと、あんまり見ないでください……」


 今の俺の髪型は、茶色がかったふわふわの長い髪をツインテールにして、リボンでそれぞれ纏めたもの。……あざとい。大変あざとい。さっき鏡で見たらヤバかった。黒いひらひらの服が白い肌に映えるし、西洋人形みたい。そしてそれ故に、恥ずかしい。思わず顔を両手で覆ってしまう。



 ちなみになんでリボンがついてるのかというと、以前商店街で、リボン装備の俺を目撃していたクラスメイトがいたらしい。そいつが眼鏡をくいっとさせながらクラス全員の前で熱弁した結果、この恰好に落ち着いたとのことだった。いったい誰だそいつ。見つけ次第ボッコボコにしてやる。


 しかしこの恰好ヤバい。何がヤバいって、原作汐音ちゃんを外見の可愛さだけなら超えてしまったかもしれん……。我がクラスおそるべし。それが証拠に北辻さんを待っているこの15分間、ほぼ日傘に身を隠しているにも関わらず、声をかけられること9回、写真を撮られた数に至っては数えきれない。やめて、俺の黒歴史を記録化するのお願いだからやめてぇ!





「じゃあ行きましょうか」


「あ、ごめんなさい。私の友達がまだ……。もう、崇高くんは何やってるの……? 早く行きたいのに……」


 ちっ、と思わず小さく舌打ちをしてしまう。あいつ何しとるんや。お前が来ないとこの地獄のような場所から動けんやんけ。デートで相手を待たせて相手をイラつかせるとか。宮本武蔵かな? あ、俺と北辻さんとダブルデートするから二刀流とかそういう意味? 馬鹿。馬鹿野郎。今そんなエスプリの効いたメッセージはいらないんだよ。だいたいこの文化祭、お前は四刀流だ。



 北辻さんは、こちらに視線を注ぐ周囲と、日傘の陰に隠れて小さくなる俺をしばらく見つめた。そして、急にふと上を見上げる。俺もつられて空を見上げるが、そこには何もない。あるのは上空でゆっくりと右から左に流れる薄い雲だけだ。





「ねえ、今日って風冷たくない?」


「……え、ええ……。まあ……?」


 急になんでそんなことを言い出したのかはわからなかったものの、とりあえず同意しておく。すると、俺の右手がそっと温かいものに包まれた。俺が自分の手元に目を落とすと、いつの間にか北辻さんと俺の手は繋がれていた。崇高と違って、さりげなく、自然に。そして、彼女はふわりと笑う。



「こうしてたら、寒くなくならない? 代わりに少し恥ずかしい思いをさせてしまうけどね」


「いえ、恥ずかしくなんて」


「なら胸を張りなさい。見たい人には見せつけてやればいいわ。今日の貴女はね、このあたしの隣にいてなお主役を張れるくらい、文句なく可愛いんだから」


 そう言って視線から守るように俺より少し前に立ち、手を広げて微笑む北辻さん。今日の彼女はふわりとした白ニットに青のデニム、黒のブーツに黒い毛皮のコートを羽織ってちょっぴり男っぽい恰好だ。ていうかデニム履くとこの人足なっが!




「言い遅れてしまいましたけど、今日の北辻さんの恰好も、素敵です」


「あら、ありがとう」


 その時、はっはっと大きく息をつきながらこちらに走ってくる人影を俺は人混みの中に発見してしまった。お前おせーよ! 何しとったんやいったい。


「ごめん汐音、近づこうと思ったら何かに撥ね飛ばされて……」


「あー、うん……見てた。あれ崇高くんだったんだ。うん、いいよ、とにかくこっち来て」









「ってことで、今日一緒に回ってくれる友達の崇高くんです。こう見えてとってもいい人なんですよ! 人生の伴侶に最適です。どうかよろしく! 末永くよろしくお願いします! ほら、崇高くんも今日はきちんと挨拶してね。ゆくゆくはご家族にも挨拶しないといけないかもしれないんだから」


「あ、ああ……? どうも、竜造寺崇高です。汐音の幼馴染です」


「はじめまして。北辻です」


「いや、はじめましてじゃなくて……俺2回目……」


 ま、まあ、これから親交を深めてくれたらそれでいいさ。ではでは、出発!






 北辻さん、俺、崇高の3人で並んで校内を回る。ボケとツッコミの間に通訳が入っているみたいな立ち位置に俺がいるのは遺憾なのだが、最初は仕方あるまい。客は校庭や運動場の屋台の方に主に流れているらしく、校内は比較的人が少なかった。まずは理科室で行われていた「果たしてどの調味料が一番電流を通すのか」という実験を見終え、次にどこに行くかを俺たちはプログラムをめくりながら考える。


 ……というか出し物と展示と屋台どれもめっちゃくちゃ多いな……。ゲーム内だとここまでなかったけど。プログラムもちょっとした教科書くらいに分厚い。北辻さんの評価が上がるのは体育館で行われている劇なので、それを崇高には提案してほしいのだが……。




 と、俺がチラッチラッと劇のページだけを何度も見ていると、それに気づいたらしき崇高が、じっと何かを考え始めた。……お? それでそれで? 


「……この創作恋愛劇『白雪姫VS七人の小人』って面白そうじゃないか?」


「あら、いいじゃない」


「崇高くん! それだよそれ!! やっとわかってくれたんだね……っ! ううっ……成長したね……」


 主人公の思いもよらない進化にちょっと涙してしまう俺。だって過去のこいつだったら絶対気づかなかったもん。「他にもページはあるんだぞ?」とかとんちんかんなこと言ってきそうな気配しかなかったのに。それがすぐに察してくれるとか。コイキングからギャラドスくらいの変貌っぷり。もうこいつ覚醒しただろ……。




 ところが、俺がほめ過ぎたのがまずかったのか。主人公は突然テンションを上げ、なんと俺たちを置いてダッシュで体育館の方へ走り出すという暴挙を見せた。


「じ、じゃあ早く行こうぜ!」


「崇高くん、ちょっと待っ……あっ!」


 階段を駆け下りる主人公を追いかけようとした俺は、ガクンと階段を踏み外した。しかしさっと腕を伸ばして北辻さんが支えてくれる。彼女は溜息をついた後、プログラムに目を走らせた。


「もう、あと20分もあるじゃない。そんなに急がなくても大丈夫よ。ほら、あたし達はゆっくり行きましょ。今度は足元に気をつけて、ね?」


「あ、ありがとうございます」





 いや、崇高、崇高よ。お前は文化祭が楽しみなの? それともヒロインと回るのが楽しみなの? 後者であってくれ。なぜ真っ先に駆け出すんだ。そして俺たちが後をついてきていないのに気づき、戻ってきてちょっと北辻さんに説教される崇高。……こ、これ評価上がってる? 上がって3倍くらい下がってない? 大丈夫かな?

いつの間にか総合評価が1000を超えてる! わぁい!

ブクマや評価していただいた方、ありがとうございますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 団長も騎士クンも提督も先生も競馬に行ったまま帰ってこなかった……うちうちさんも?あとサロナさんも?? [一言] 文化祭も長丁場になりそうだな( ˘ω˘ )
[一言] 調味料の電気抵抗とか地味に気になる
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