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先輩と修羅場と彼氏。

「えーっと、で、高宮城先輩って誰なんですか?」


 丘に向かっている途中、こそこそと貝森ちゃんが俺に囁いてきた。いや、別に隠すことじゃないんだけどな。まるで高宮城先輩が名前を読んではいけないあの人みたいな扱いに。しかし……高宮城先輩がどんな人か、かぁ……。




 俺はもう1度、高宮城先輩ルートを思い出す。ラストで襲い来る危機の中、立ち向かうため、果敢に立ち上がった彼女の姿を。あの時の先輩は、文句なしにヒーローだった。ヒロインなのにこう言うのもおかしいんだが、間違いない。


 だから俺の中では推しって感じじゃないんだよ。それよりは……そう。俺は彼女のファン、なんだ。





「高宮城先輩は、私の知る中で一番かっこよくて……空が好きな人。えへへ、それでね。背が高くてね、すらっとしてて。あとは、冷たいように見えるけど、とってもあったかい人。で、実は意外に笑い上戸だったりもするんだよ。それでその人とね、崇高くんを会わせたいんだ。どっちみち会うなら、早い方がいいかなって。できれば仲良くなってほしいしね」


 いかん、つい熱が入ってしまった。早口で。まだ全然言い足りないけどな。無意識のうちに、両手を合わせてもじもじしてしまう。おお、俺の高宮城先輩愛が体にも伝わってしまったか。今の俺の姿が汐音ちゃんだから許されるなこれ……。



 ところが俺がべた褒めに近い評価をしたはずなのに、なぜか貝森ちゃんはそれを聞いてやたらに目を泳がせた。俯いたり、後ろを歩いてる主人公の方を何度も振り返ったり、明らかに挙動不審。


 ……なになにどしたん? ひょっとして貝森ちゃんも空嫌いな人? あんまそういう人見ないけど、それってさ、ちょっと生き辛くない?




「……えーっと……それあたし立ち会っていいやつですか? ちなみに竜造寺先輩はその人のことは……?」


「崇高くん? 実はね、今朝初めて会わせに行ったんだけど。なんか2人は一言も話さなくて。よく思い出してみると、目すら合わせてなかった気がする。もう、何しに行ったんだ、って感じだよねえ」



 俺が朝の惨状を思い出して呆れたように少し笑うと、貝森ちゃんはさらに顔をひきつらせた。さらになぜか小刻みに震えながら、目を閉じ、天を仰ぐ。そして、ぶんぶんと頭を振った。……いや貝森ちゃんマジでどした……。あ、こういう感じで廊下歩いてたからペンダント飛んで行っちゃったの?




「めっちゃくちゃ修羅場じゃないですか……え、あたしこれ行っていいやつですか?」


「貝森ちゃんそれ2回目。もう、大袈裟だよぉ」


「……行っていいやつですか?」


「どこまで心配なの貝森ちゃん!? 大丈夫! 先輩いい人だから!」


「そうなんでしょうけど、そこじゃないんですよね……。あー、油断した……なんで軽く来ちゃったかなぁ……」


 なんだか下を向いて、急激に元気がなくなっている気がする貝森ちゃん。うーん……高宮城先輩と貝森ちゃんはけっこう相性いいと思うんだけどなぁ。



 ……あ、そうだそうだ。どうせなら先輩の好きなものでも貢物として持っていくか。お近づきの印に、ってやつだ。ついでにそこで貝森ちゃんのテンションの上がるものを補充しよう。



「ちょっとお菓子屋さんに寄っていくね。先輩にお土産買っていかなきゃ。……貝森ちゃん、何か食べたいものある? 今日も付き合ってくれてるお礼に、お姉さんが何か1つ買ってあげよう」


「いやそんなのいいですから……それよりこの後のことをですね……」











「で、ここにいるのか? その先輩」


「えーっと……」


 丘の頂上付近までやってきた俺は、あたりを見まわした。小さな丘だが、ここら辺だと一番高台になっている。先輩はここでよく放課後過ごしているのだ。ここが、空が見える面積が一番多いから。……あ、いたいた。




 一応という感じで設置されている小さな展望台。その外に設置されたベンチに座って、先輩は本を読んでいた。……絵になっておられる。さすがだ。何してても絵になるんじゃないだろうか。



 とりあえず3人でそろりそろりと近づいてみる。しかし、先輩は本から顔を上げない。多分こっちには気づいてると思うんだけど。まあ、今日の目的ってたった1つだからな。ここにいる理由、それを聞いて、返事が返ってこればそれでOK。




 しかし俺が意気揚々と歩き出そうとした瞬間、ぐいっと後ろから腕を掴まれる。……ん? 貝森ちゃん? どしたの?


「いや高宮城先輩って女性なんですか……!?」


 え、そこから……? まあでも言われてみたら確かに言ってなかったか。そうだよ、と頷くと、貝森ちゃんはへなへなと崩れ落ちた。……今日は貝森ちゃん、奇行が目立つね。調子悪いん? 大丈夫?


「もー……汐音先輩が『大好き』みたいに話すから、てっきり彼氏に会いに行くのかと……」


「彼氏ぃ!? そんなものが! 私にいてたまるかぁ!!」


「そうだ! いないぞ! ……まだな!」


 テンションが上がった俺と主人公に左右から責め立てられ、貝森ちゃんはうろたえて2歩下がった。視界の端で、高宮城先輩がちらりと一瞬だけ顔を上げたのが見える。……あ、うるさくてすみません。




「……ご、ごめんなさい。……あの、じゃあ……なんであの人に会いに来たんですか? あたしよくわかってなかったです」


「それは、崇高くんの……」


「俺の?」




 ……まずい。俺が『崇高くんの彼女になってほしいから』と答えるとする。すると貝森ちゃんは鋭いから『じゃああたしにもそういう目的で近づいてきたの……?』みたいな感じになってしまう可能性がある。せっかく知り合えたからには俺も貝森ちゃんとどんどん仲良くなりたいのだが、そんな受け取りをされちゃうとその後進展するのって難しいのではないだろうか。それは困る(←ここまで0.5秒)






 俺はその場を誤魔化すために両手を広げ、くるりくるりと何度か回った。それとともにふわっとスカートが舞う。とりあえず、回っている間は会話が止まるからな。……しかし、回ったらスカート舞うのこれ汐音ちゃんの特殊技能なの? まあいい。俺は回るのを止め、ビシッと主人公を指した。




「崇高くんに知見を広げてほしいなと思って。私の知る限り、一番物知りなのは高宮城先輩だからね!」


「知見?」


「うん。高宮城先輩には夢があって、勉強してるの」


「……今なんで回ったんですか? いやめっちゃくちゃ可愛くはありましたけど」



 ちなみに夢とは、飛行機のパイロットになって全世界の空を飛び回るというものだ。母がキャビンアテンダント、父が航空管制官、という家族構成から、幼少期に空に憧れを抱いた先輩。その気持ちは確かに先輩の胸の奥に、今も大事にしまいこまれているはずだ。


 女性もパイロットになれるのかどうかは俺は知らないが、先輩ならなれそう。現実世界の俺よりあの人男らしいもん。そして貝森ちゃんの質問は聞こえないふりをしてスルーしておく。




「じゃあさっそく、仲良くなりに行くよ! 今度はちゃんと崇高くんも自己紹介してよね」


「……お、おう」


「……そこからなんだ……」







「こんにちは! 朝もお会いしましたね!」


 俺がベンチの前まで行き、まずは笑顔で先輩に挨拶する。主人公のコミュ力の低さは貝森ちゃんとのファーストコンタクトで既に分かっているので、俺が会話をしてから途中で登場する、そういう手はずになっている。



 一瞬振り返って後方の様子を確認してみた。すると、貝森ちゃんと主人公は、ちょっと離れたところの柱から、顔だけ出してこちらをうかがっていた。……いやいや君たちさ、丸見えだから。ちょっと怪しすぎない?





 パタン、と本を閉じ、先輩はじっと俺を見つめた。その瞳には疑念が僅かに浮かんでいる、気がする。俺が疑われてるのは背後の連中のせいだと信じたいところだが……。さて。何せ先輩が一番仲良くなるの難しいからな。まあ、そうは言ってもゲームの全てをクリアした俺に不可能はない。ここは任せておきたまえ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まんま思考がサロナさん( ˘ω˘ ) 実は汐音ちゃんの中の人サロナさんや莉瑚ちゃんの血族だったりしない? [一言] そりゃあ警戒もされる気がする(゜ω゜) 飛行機はいいぞ! Flight…
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