表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/37

プロローグ

突然だが、俺の趣味は恋愛シミュレーションゲームというやつだ。いわゆるギャルゲーというか、ストーリー仕立てになってる、可愛い子がたくさん出てくるあれ。ちなみに新作は必ずその日に買うのが俺のモットーだったりする。



 そんな俺は、今日も大学からの帰り、新作を小脇に抱えて家路を急いでいた。今日は金曜日、土日は休みという絶好のシチュエーション。まあ、大いに浮かれてたわけだ。





 ところが、家に帰って俺がウキウキしながら鞄を開けると、ゲームと一緒に見覚えのない物が出てきたんだ。黒い、石のような……?なんだろう。日本史の教科書で見る、矢じりの先とかについてる……そう、黒曜石とかいうあれに似てた。なんだこれ。まあいい、後だ後。



 そして俺はそれを脇に置き、ゲームのプレイを開始した。……そして、3徹後の月曜日朝。選択肢に一喜一憂し、時に展開に涙し。俺はおそらく最速に近いペースでエンディングに辿り着いた。個性的で可愛いヒロインの数々と、街に伝わる「願いが叶う」という古い伝承を絡めたストーリー。その全てが俺の好みにピッタリと嵌まる。きっと俺の今までのゲーム遍歴は、今日このゲームに会うためにあったんだ、そんなことさえ思った。


 目を閉じ、しばらく余韻に身を委ねる。プチっと何か頭の後ろで切れるような音がして、じわっと温かい何かが広がっていく気がした。きっと体も感動を表現してくれているんだろう。




 ……そうだ。この状態で寝たら、夢の中でゲームの続きが見られたりするのでは? 世界最速クリアの賞品として贈られる、俺だけのアフターストーリー。それが見られる可能性が一番高いのってまさに今この時なのでは? うんそうだな。そうに決まっている。間違いない。




 てなわけで、ウキウキでベッドに潜り込むと、すぐに眠気がやってきた。もう1度、さっきのゲームを思い出す。夢のような時間だった。……ああ、あんな世界が、あんな学生生活が。俺にもあったら……。あんな世界に、俺も行けたら良かったのに……。








「――聞き届けました」


 意識が途切れる前。最後に、そんな知らない声が聞こえた気がした。















 ぱちっ、と目が覚めた。長時間眠った後特有の気だるさ。だが、眠気は全く残っていない。3徹の割にこの爽快な目覚めとは……。ははは、俺もまだまだ若いな。そのまま体を起こすと、なぜかふわりと甘い匂いがした。……ん?


 さらさら、と茶色がかった俺の髪が首を動かすとともに肩に触れる。……俺、の……? ていうかまず疑問なんだけど、なんか俺、着てる服違わない? なぜかやたらファンシーなパジャマになってるんですけど……。



 自分の服をまじまじと見つめていると、結構な量の髪が視界の両側からだらりと垂れ下がった。……記憶より遥かに茶色いそれを、引っ張ってみた。痛かった。……痛い? 痛いって……何これ? どういうこと?




 訳の分からないまま、部屋の中を見回してみた。……うん。見知らぬ部屋だった。白を基調とした、ファンシーな部屋だ。でもなんか机の上にぬいぐるみとか置いてある。


 ……いやこれ明らかに女の子の部屋じゃね? え、俺って無意識のうちに女の子の部屋に忍び込んじゃったの? それってヤバくね? 絶対ヤバい。




 とりあえず、ベッドから降りてみる。嫌な予感がするというか。なぜか伸びている髪+この部屋+俺の着ているやたらファンシーなパジャマ。ていうか俺の視力が極端に低下していなければ、明らかにちょっと胸がある。部屋の様子が見えるということは視力は下がっていない気がするが、そうするとじゃあ一体どういうことなんだ。




 混乱した状態で机に近づくと、何枚か写真が飾っているのに気がついた。そしてそれは、なぜかどれも見た覚えのあるものだった。というのも、ゲーム内でイベントスチルとして描かれた一枚絵。それと同じ構図、内容のものだったからだ。いや、でもなんで? しかもゲームじゃなくてこれ実写だし。でも完全に人物には面影があるっていうか……。





「ゲームの世界に行けたらなあ……」




 寝る前に俺自身が呟いた言葉を思い出して、ちょっと嫌な予感がする。……いや、待ってほしい。確かに、言ったよ。そう言いましたよ。でもね。あれって恋愛シミュレーションじゃないですか。行きたい=主人公になりたい、なんですよ。ここ重要。あの流れで女キャラになりたい、って思う野郎はあんまりいないと思う。少なくとも俺は違った。


 いやいや、でもまだ慌てるような時間じゃない。だいたい人がゲームの世界に行くなんてそんな非現実なことが起こるわけが……。






 部屋の隅にある鏡を発見したので、そっちに行って全身を映してみた。しばらく眺め、俺はもう1度ベッドに戻って、どさりとうつぶせに倒れた。


 ……鏡の中には、茶色がかった、肩より下くらいまで伸びたふわふわの髪。大きな瞳。気弱そうに下がった眉。透き通るような白い肌。ヒロインの1人、夜桜汐音(よざくらしおね)がいた。


「なにこれ……」


 確かに俺の喉から出たその声は、明らかに少女のもので、普段より1オクターブほど高かった。









 あれからしばらく現実逃避していたものの。母と思われる人物に起こしに来られてしまったので、俺は不本意にも登校しながら頭の中を整理していた。



 ――夜桜 汐音(よざくら しおね)。幼馴染+病弱キャラ。原因不明の病を患っていて、よく倒れる。そのせいか気弱でいつも自信なさげでおどおどしているが、その一方で他人のことを一番に考え、相手の辛さに寄りそう優しさを持つ。~だよ、~だよぉ、という口癖あり。甘いものが好き。料理上手。俺的には推し№2。



 正直、これだけ挙げても俺との共通点は「人間」というくらいしかない。どうなってるんだ。これ夢にしても理不尽すぎないか? というか着替えとか化粧とかなぜかスムーズにいったんだけど。そっちも明らかにおかしい。


 まあ俺の思うままにさせたら福笑いにしかならないので、それはいい。俺もキャラが俺の手で汚されることを良しとするわけではない。あの世界の登場人物として振舞い、他のキャラと触れあうのも、いい。というか本望ではある。これが夢なら俺の望んだものにほぼ等しい。しかし……。




「いやでもやっぱ無理だわ無理」


 だってこれあれだぞ? 机の写真を見る限り、これってこれから汐音ちゃんルート進む感じだぞ? このままだと下手すると主人公と俺が? でも主人公って野郎だろ? いやプレイしてた時は俺だったけど。そうじゃない。俺は可愛い女の子を愛でるのは好きだが、可愛い女の子として野郎に愛でられるのは好きじゃない。だがかといって、俺が拒否した場合……バッドエンドに流れるとすると……。




「バッドエンド、意外にえぐいからなぁ……」


 いやなんか、みんな幸せになりませんでした! って感じのやつなんだこれが。そんな世知辛い現実をゲームに導入しないでいただきたい。


 この汐音ちゃんも療養とか言って外国行ってそのまま消息不明になるしさ。個人ルートに進んだ場合は選ばれなかったヒロインもなんだかんだ幸せになってるのに。それが主人公が誰とも結ばれないだけで全員不幸に。なんだ主人公の野郎は。黒魔術師?




 ここになんで俺がいるのかはまだ全くわからない。まあ実際のところ、普通に夢だろう。しかし、しかしだ。夢の中でヒロインになっていたからといって、俺がヒロインになるのはお断りだ。しかもここが汐音ちゃんルートを歩んでいる世界の場合、今日にでも野郎とキャッキャウフフな展開になる可能性がある。それは御免こうむりたい。



 だが、これが夢だからといって……キャラが不幸になるのも俺の良しとするところではない。そして机の写真を見る限り、まだ個人ルートに進んではいない。全員集合して写真を撮った際に、主人公とただ1人、並んで写ったヒロインのルートに進むはずだが、その写真はまだなかった。ということはまだ共通ルート。ならば残されている手段は……。





「他のキャラのルートに今から変えてみるか?」


 これなら俺は被害に遭わないし、キャラも不幸にならない。みんな幸せ。よしこれで行こう。主人公と幸せになる権利は君たち他のヒロインに譲らせてくれ。なに、礼には及ばない。


 ……まあまだ行ける。CG100%が無理になっただけだ。ここは2周目に頑張ってもらうとしよう。まあ、他のキャラを近くで見れるという意味では楽しいのかもしれないしな。ただ……残る問題が1つ。







 ちょうどその時、登校する俺を追い抜いたクラスメイトらしき女子生徒が振り返り、俺に笑いかけた。


「汐音ちゃん! おはよ! 今日は体調大丈夫?」


「…………おはよ~。うん、大丈夫……だよ。ありがとう」


 歩様を緩め、隣に並んだクラスメイトに俺は微笑んだ。……これ。


 俺がもし「おっす、ところで誰だよお前」とか返したらその瞬間個人ルートがどうとかいう以前に世界観が崩壊してしまう気がする。それは俺も(略)。よって、汐音ちゃんのキャラを壊さないようにしながら他のルートへ導かないといけない。これがきつい。精神的にゴリゴリ何かが削られていく気がする。


 そっと、歩きながら溜息をついた。俺はただこの世界のキャラのやり取りをそっと見守る、そんな存在になれるだけで良かったのに……。






「こんなことならいっそのこと、校庭に生える木に生まれたかった……」


「いきなりどうしたの!? 明らかに大丈夫じゃなくない!?」

えー、あっちを書いてよと言われる方もいらっしゃると思うんですが。はい、煮詰まりました。いえ、書きたいんですが、さっぱり浮かばないので箸休めというか。はい、箸休めなので性癖丸出しです。


解釈違いかもしれないのですが、こういうシチュで私が読みたいのはあらすじみたいなやつかなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] > こんなことならいっそのこと、校庭に生える木に生まれたかった…… あっ、いつものうちうちさんだ。 [気になる点] 三徹とは随分なボリュームのゲームだったんだな [一言] > プチプチっと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ