17 少女と球体関節の魔女
「・− −・ −−−・− ・・ ・・・
・−・・ ・− −−・−− 〜♫ シュコー、シュコー」
キンセンカちゃんの元へと行く途中、ガマズミちゃんはずっと上機嫌で独特なリズムの鼻歌を歌います――が、しかしこの鼻歌はお世話にもうまいとは言えません。
「繭氏……あの人形さっきから音痴デスネ」
「リリカちゃん、そういう事は思っても口に出したらいけません。それにガマズミちゃんは捕われの妹が解放されるのを喜んでああなってるんです、ですから暖かく見守りましょう」
「分かりましたデスヨ……けれどガマズミのあの鼻歌、なんか引っかかるデスヨ」
「――?」
「ここよ、ついたわ……シュコー、シュコー」
「この子が……キンセンカちゃんですか?」
「そうよ……お願い、この子を解放してあげて……シュコー、シュコー」
「こ、これはまた強烈なデザインの人形デスネ」
リリカちゃんの言うとおりです。キンセンカちゃは異質な姿の人形でした。姿はまるで顔の上半分をウサギのマスクで多い、服は道化師と衣装を組み合わせた普通じゃありえない格好をしています。
「……」
「……あの、さっきからキンセンカちゃんがぐったりして反応がありませんが大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫よ、ただ意識を失っているだけ……それと目覚めさせるには模様に触れる必要があるの……シュコー、シュコー」
「それは何処にあるのですか?」
「キンセンカの首の後ろに隠れているわ。そこに触れて頂戴……シュコー、シュコー」
「ちょっと大丈夫デスカ、目覚めさせた瞬間噛み付いて来たりしないデスカ?」
「……シュコー、シュコー」
「オイ、何か言いやがれデスヨ!」
「大丈夫よリリカちゃん、目覚めさせるのは私に任せてください」
「ダメデスヨ、なんか怪しいから私がやるデスネ、ダカラ繭氏は私の後ろにいて見とくだけで良いデスネ。(多分目覚めさせた人形が繭氏に興味を抱く可能性があるデスヨ。だからここは私がヤルデスネ。あ、あとは私の大好きな繭氏が人形とはいえ女の子に触れるのは見ていてイヤデスヨ)」
「そうですか、でしたらリリカちゃんにお任せします。(今日のリリカちゃんは私に対してだいぶ過保護ですね。私はそこまで頼りないのでしょうか)」
こうしてリリカちゃんがキンセンカちゃんを目覚めさせる事になりました。そして彼女は恐る恐るキンセンカちゃんの正面に立つと緊張した面持ちでキンセンカちゃんの首の後ろに触れました。しかし触れても何も起きません。
「……うん? オカシイデスネ。さっきから触ってるのに目覚めないデスヨ」
「多分触るところが違うわ……もっとキンセンカに近づいて触れる場所を確認して……シュコー、シュコー」
「分かったデスヨ」
リリカちゃんはガマズミちゃんに言われるがままに今度はキンセンカちゃんに密着するくらいに身体を近づけます。すると――。
「グァアオオオオオオッ!!」
「――ッ!!!!??」
意識を失っていた筈のキンセンカちゃんが獣のような雄叫びをあげます。そしてリリカちゃんを驚かせてしまい、床に勢いよくお尻を打ち付けさせました。それを見た私はリリカちゃんに声をかけましたが彼女は身体を震えさせたまま放心状態になって私の声に反応しませんでした。
「ガルルルッ、ガルルルッ……グァオオオオ!!」
「キンセンカ……もういいわよ、冗談はお終い。シュコー、シュコー」
「ヲ姉チャン、キンセンカ、トラ――タイガー。上手ニデキタ?」
「えぇ、あなたは見た目はウサギっぽいけどとっても上手な虎の鳴き声だったわ……おかげでイタズラが成功したわ……シュコー、シュコー」
「キャハハハハ! イタズラ成功! 嬉シイ、楽シイ!」
「ガマズミちゃん、これはどういう事ですか!? こんなイタズラはタチが悪すぎます」
リリカちゃんが身代わりになっていなければ多分私はこのイタズラでビックリして失神する事間違いなしです。というのも私はホラーがとても苦手なんです。
「ごめんなさい、確かにやり過ぎたわ……シュコー、シュコー」
「どうしてこんな事をしたんですか!?」
「それはキンセンカの能力を知ってもらう為よ……シュコー、シュコー」
「キンセンカ、実ハ目ガ視エナイ。ソノ代ワリ色ンナ音ガ聴コエル」
「えっ?」
「昔、私の妹――キンセンカは美しい眼球を嵌め込まれていたの。けれどそれを盗まれてしまい目が見えなくなったの。それから盗まれた眼球の代わりに遠くの音でも聞き取れる高性能の耳を与えられたわ……。だからさっき別の部屋でしていた会話は全てキンセンカに丸聞こえよ……シュコー、シュコー」
「虎穴ニ入ラズンバ虎子ヲ得ズ――ヲ前ガソウ言ッテ会話スルノヲキンセンカ聞イタ。ダカラ、ヲ姉チャント二人デ虎ノ真似シテ、ヲ前達ヲ驚カス事思イツイタ……クスクス」
「キンセンカの能力はどんな音や振動も聞き逃さない事、だから遠くからでも僅かな音を使って会話する事もできるわ……シュコー、シュコー」
「僅かな音を使って会話……あッ!? それじゃあもしかしてあの時の鼻歌は……モールス信号!」
モールス信号とは、私も簡単な知識でしか知りませんが電信と呼ばれるもので短音と長音を組み合わせて記号を作りそれを文章にして相手に伝えるものです。そしてモールス信号は軍事的なものから船舶などで使用される通信方法で訓練された人しか理解できません。それを彼女達はマスターしているのですから驚きです。
「ヲ前達、隠レンボシテル事モ聞イタ。ケド夢見鳥ミツケラレ無イ。ナゼナラ夢見鳥ズルシテ隠レテル」
「ガマズミちゃんも夢見鳥がズルをしてると行ってましたがそれとキンセンカちゃんの能力になんの関係があるんですか?」
「夢見鳥のズルは光を反射する魔法の素材で作られたマントを使用してる事よ。彼女はいつもそうしてズルをするわ……シュコー、シュコー」
「ダケド姿見エナクテモ平気。キンセンカガ夢見鳥ノ発スル小サナ音ヲ逃サナイ。ダカラ見ツケレル」
「なるほど……夢見鳥を見つけるのにキンセンカちゃんの協力は必須、だからここへ私達を連れて来たのですね」
「その通りよ……シュコー、シュコー。だから早く妹を解放して夢見鳥を見つけに行きましょう。私達も皆であなた達と遊びたいんですもの。シュコー、シュコー」
理由がわかりましたが少し考えた方が良さそうです。特にタチの悪いイタズラをするキンセンカちゃんは要注意人物ならぬ要注意人形です。果たして素直にこの子を解放して上げてもいいものかどうか……。ここはリリカちゃんに相談してみましょう。
「リリカちゃん、どう思いますか――ッて、リリカちゃんどうしたんですかその床にできた水溜りは!? まさか……」
「ハハッ……繭氏、そのまさかデスネ。私人形に驚かされた衝撃でチビってしまいましたデスヨ……グスッ」
「と、取り敢えず早く濡れたスカート拭きましょう。すぐにハンカチを出しますから……」
「ハンカチじゃ無理デスヨ、まだ止まらないデスネ……ヒック、ヒック、グスッ」
リリカちゃんはポロポロ泣きながら必死にスカートを抑えますが、それは無駄な抵抗で残酷な事に水溜りはどんどん広がって行きます。そして最後にやっと水溜りの広がりが止まると、もうその頃にはもうリリカちゃんの下半身はビチャビチャに濡れてしまいせっかくのゴスロリ衣装が台無しになってしまっていました。
「シュコー、シュコー……流石にこれは申し訳無い事をしたわ。お詫びに服の交換をするから私に着いて来て……シュコー、シュコー」
「ガマズミちゃんはそう言ってますが……リリカちゃん立てますか?」
「……ハイ、立てますデスヨ。ケド私情けないデスネ」
「そんな事ありませんリリカちゃんは進んで私の身代わりになってくれたんです。そしてその結果こうなっただけです、だから情けなくなんかありません!」
「し、しかしデスヨ、私この年になってオモラシして、今は汚いデスヨ、ダカラ繭氏も本当は私の事を嫌いになってるデスヨ!」
「そんな事ありません! それにもし私とリリカちゃんが逆の立場ならリリカちゃんは私を嫌いになりますか?」
「え、えええええっ!?(逆の立場という事は……繭氏がオモラシした場合って事デスヨネ? そんなの目撃してしまったらドキドキしてしまうデスヨ。だってあの普段可愛いくてしっかりしている繭氏がオモラシした自分を情けなく思って涙を流し私に頼ってくるところを想像するデスヨ……そしたらどんな女の子でもキュンとくるデスネ!)」
「わかりましたか? 今私はリリカちゃんが想像した事と同じ気持なんです(困っている親友を放って置くことなどできないですし、こんな事で絶対に嫌いになったりできません)」
「は、ハイ、分かったデスヨォ……(繭氏も私と同じ気持……これって繭氏が私のこの情けない姿をみて興奮してるって事デスカ!?)」
「シュコー、シュコー……何時までも濡れたままだと人間は風邪を引くと聞いたわ。早く着替えに行きましょう、幸いここには人形用のだけど衣装はいくらでもあるわ……シュコーシュコー(いつも不思議、何故人間は下半身から水を流すのかしら)」
……。
その後リリカちゃんはガマズミちゃんに連れられて衣装を換えに行きました。そしてこの場に私とキンセンカちゃんの二人っきりになってしまいました。
「……ヲ前、名前ハ真見繭。ハジメ来タ時ニソウ聴コエタ」
「私の名前を知ってるのであればお前って呼ばないでくれるとありがたいです……(そんなはじめのときから会話を聞かれていたんですね。少し怖いですね)」
「ダッタラ、キンセン、ヲ前ヲ繭ッテ呼ブ……繭、早速キンセンカノ拘束具ヲ解イテ」
「……ダメです、あなたはリリカちゃんに謝ってません、だから解放しませんし遊びにも参加させません」
「イヤ、イヤ! キンセンカ良イ子ニナル、ゴメンナサイスルカラ拘束具ヲ解イテ!」
「だめです。それとなんであなた達がなぜ拘束具で身動きを取れなくされていたか分かりました。きっとあなた達姉妹は普段から人を傷つけるイタズラをするからでしょう。それで罰として拘束されていたんです」
「違ウ、キンセンカ達ハ良イ子、誰モ傷ツケナイ。ダカラ繭達ト共ニ遊ビタイ」
「うぅ……」
キンセンカちゃんが必死な声で頼んで来ますが、どうも信用ができません。これは私が彼女の見た目や言葉の喋り方などで勝手に判断して怪しいと思ってるからでしょうか。だとすれば人形を見た目で判断するのいけない事なのでは……。けれど彼女の行動は理解できませんし……うーん。
「……ワカッタ、モウイイ。キンセンカ抜キニシテ皆デ楽シクスルト良イヨ」
「えっ、どうして急にそんな事を……」
「ダッテ……イツモキンセンカハ除ケ者。見タ目不気味、目ガ見エナイ。ダカラ邪魔者扱イ。ケレド、ガマズミヲ姉チャンダケ違ウ……イツモキンセンカニ良イ子良イ子シテクレル優シイヲ姉チャン」
「そうなん……ですか」
「ガマズミヲ姉チャンハキンセンカト違ウ良イ子。ダカラ一緒ニ遊ブト良イヨ……ソシテ悪イキンセンカハ抜キニスルト良イヨ」
「うっ……えーとキンセンカちゃん、気を悪くしたなら謝ります、ごめんなさい」
「ナンデ良イ子ノ繭ガ悪イ子ノキンセンカニ謝ルノ? 早クキンセンカヲ一人ニシテ、ガマズヲ姉チャン達ノ元ニ行クト良イヨ」
「ああっもう、そうやっていじけないでください。本当に私が悪かったです。見た目でキンセンカちゃんを差別してた事を謝りますし解放してあげます!」
私はキンセンカちゃんのネチネチした攻撃に心をが罪悪感でいっぱいになってしまい、彼女の拘束具を解いてあげる事にしました。
「……さぁ、拘束具を解きましたよ」
「フフフッ……ワーイ、久シブリノ自由。コレデ夢見鳥ト隠レンボシテ遊ベル。早速スグニ見ツケテアゲルネ」
「どうやるんですか?」
「シッ……静カニ……ジッートシテテ」
キンセンカちゃんは床に両手両足をつけると同時に私が飾り物だと思っていた頭に装着されている兎の耳をピコピコと動かし始めました。
……。
「ククッ……ワカッタ。夢見鳥アノ場所デ隠レテル……着イテ来テ」
「ちょっと待ってください、まだリリカちゃん達が戻って来ていません――待ってキンセンカちゃん!」
何なんですか一体。キンセンカちゃんはまるでウサギにでもなったかのように四つん這いで飛び跳ねながら移動しているのに動きが素早くて二足歩行の私が追いつくのがやっとのくらいです。もしかして私はとんでもない子を解放してしまったのではないでしょうか。
「ココ、ココ! ココニ夢見鳥隠レテル!」
「ここはいったい……えーと、ローズ・ガーデン?」
ローズ・ガーデン――薔薇の庭。
入口に英語でそう印された展示室の扉の前でキンセンカちゃんは止まりました。そして中に夢見鳥が隠れているから入って見て見るように言うのです。
「本当にここにいるんですね……仮にさっきみたいにイタズラであれば私は容赦しませんよ?」
「大丈夫、始メハ扉ヲ開ケテビックリスルケドイタズラジャナイ」
「扉を開けるとビックリするんですか? だったら開けません」
「ナッ!? 繭ノイジワル! キンセンカ信用シテナイ、ソレハ悪イ子」
「うっ……分かりました、そこまで言うのならキンセンカちゃんを信用して扉の中を確かめますよ」
ビックリする事が分かっていながら扉を開けるのは勇気がいります。だけどここでやらないとキンセンカちゃんは自分が信用されてないと思って心に傷を負う筈です……ええい、もうどうにでもなれ!
……。
こうして扉を開けると確かに私はビックリしました。それは悪い意味では無く良い意味で……。
「すごい、確かにビックリですこれは……」
「ドンナ風ニビックリ? 昔ガマズミヲ姉チャンニコノ部屋ハ誰モ驚くクスゴイ部屋ッテ教エテ貰ッタ、ケドキンセンカハ目ガ見エナイカラ中ノ様子ヲ教エテ」
「はい、勿論教えてあげますよ、えーと……まずはですよ、ここ室内な筈なのに扉の向こう側が中庭になってるんです!」
もう少し感想を述べると、扉の向こう側はまるで別空間に切り取られた感じがします。あきらかにこの展示会場に似つかわしくない中庭です。そもそもこの会場に中庭なんて存在していたでしょうか。それに先程から違和感を感じる事で、外のから見た時の展示会場の施設の大きさと中の室内の面積が噛み合って居ない様に感じます。
「……あとさらに驚く事があります」
「ナニ? 教エテ」
「アーチが中庭の真ん中にあってそのアーチには青い薔薇が咲き誇っています。それも真青な薔薇です。これは自然界にはない色です!」
現在、青色の薔薇は一応開発されてはいますが、本当に真青な色の薔薇は完成されていません。それがこんなにも咲き誇っているとは本当に驚きです。いったい誰がこの薔薇を完成させたのでしょう……。
「……――ッ!? ソコニ夢見鳥居ル、微カニソコカラ音ガ聴コエルヨ」
「えっ、でも薔薇のアーチ以外何もないですよ……あっ! もしかして透明化マントで姿が見えないから……」
「ソウダヨ、ダカラ行ッテ確認シテ――……ッ!? ウン……ウン……ワカッタヨ、ヲ姉チャン」
「あの、キンセンカちゃん、急に独り言を呟いてどうしました?」
「ナンデモ無イ……ハヤクアーチノ下ヲ確認シテ、キンセンカ嘘ツイテナイカラ」
なんか怪しい気がします。しかしここでとやかく言えばきっとまたキンセンカちゃんのネチネチ口撃が始まります。なのでここは何も言わずに薔薇のの中庭に足を踏み入れる事にしましょう。
こうして私が中庭に一歩足を踏み入れると薔薇のいい香りが私を包み込みました。
「すごい、何だかこの薔薇の香りを嗅ぐとすごく落ち着きます」
「……すぅ、すぅ……ムニャムニャ……すぅ、すぅ――」
「あら? 本当にアーチの下から声が聞こえている……どうやらキンセンカちゃんの言ってた事は本当のようですね」
私は振り返ってキンセンカちゃんに今まで信用してなかった事を誤りました。ソレをキンセンカちゃんはニヤニヤしながらイイヨと一言だけ呟いてその場でじっーと待機しながら私の様子を音と振動で感じています。
ううっ……何ででしょう、先程からちゃんとキンセンカちゃんは正しい事をしているのにどうにもキンセンカちゃんが信用しきれません。けど今はその事はあとにして夢見鳥を起こしましょう。
「夢見鳥、さぁ起きてください」
「―――ムニャムニャ、んっ、んーっ……えっ繭!? ――あっ、丁度マントの効果が切れちゃった!」
アーチの下の何も無い空間に声をかけると夢見鳥の寝起きで驚いた声が聞こえます。そして同時に何もない空間から夢見鳥が姿を表し、夢見鳥に覆い被さっていた透明化のマントが効力を失って地面に落ちました。
「夢見鳥みーけっ……さぁこれで隠れんぼは一旦終わりですよ。まったく、こんなチートアイテムで透明になるなんてズルいです。そのうえこんな人が近づかないような部屋にまで潜んで居眠りするとは……随分余裕だったんですね。こっちは見つける難易度が高かくて大変でしたよ」
私は地面に落ちて視覚認識ができるようになった透明化マントを手にとって調べて見ました。なるほどこのマントの本来の色は紺色で材質はビロードですかね、スベスベして肌触りが良いです。こうしてマントを調べた上で夢見鳥に質問をしてみます。
「夢見鳥……この透明になれるマントは一体何ですか? あとついでにこの中庭はどういう場所なんですか?」
「えーと……そのマントは夢見鳥のお母さんの作ったマントで身隠しのマントっていうの、あとここもお母さんが作り出した魔法の空間なんだよ」
「魔法? えーと……夢見鳥のお母さんって一体どんな方ですか?」
「えーと夢見鳥のお母さんはね――」
「――バァ!」
「――ッ!?」
話の途中でキンセンカちゃんが割り込んで来たので夢見鳥のお母さんが誰か聞きそびれてしまいました。けど、想像するに夢見鳥のお母さんという存在はおそらく彼女の創造主の事で性別は女性ということなのでしょう。しかし魔法というのわとても気になるワードです。
「ど、どうしてここにキンセンカお姉ちゃんがいるの!?」
「えーとですね……私が夢見鳥を見つけるのにキンセンカちゃんに協力してもらう為に解放してあげました」
「じゃ、じゃあキンセンカお姉ちゃんの拘束具を解いたのは繭って事?」
「そうですよ。あとはガマズミっていう人形の拘束具を解きましたが……えーと、どうして夢見鳥はそんなに怯えているのですか?」
「だ、ためだよお姉ちゃん達の拘束具を解いたら。だから繭――今すぐに逃げて!」
夢見鳥が尋常じゃ無い様子で叫ぶので私は状況をすぐに察しました。こういう時は苦手でも見てしまうホラー映画で色々とシミュレーションを済ましてあるのでは私の反応は良いです。しかしそうは言っても、もっと早く私は察しを良くしていたほうが良かったです。やはりどう見てもガマズミちゃんとキンセンカちゃんは危険な存在でした。確かに普通あんなあからさまに拘束されているのはそれなりの理由があるからで、ホラー映画ならば私は折角封印されている化け物を好奇心で解き放つ愚かな登場人物です。
「シュコー、シュコー……もう帰るの?」
「くっ……なるほど、ここでもホラー特有のお約束、化け物のたち塞がりですか」
「あなた、何をブツブツ言ってるの……シュコー、シュコー」
いつの間にか入口の前にガマズミちゃんが立ち塞がっていました。しかも何故か人が一人入れるくらい大きなダンボールを台車に載せて手で押しています。絶対にあのダンボールの中身はとてつもなくマズイ代物の筈です。
「……ガマズミちゃん、リリカちゃんと一緒では無かったのですか?」
「……シュコー、シュコー」
「何か言って下さい!」
「繭、ガマズミお姉ちゃんはね、都合が悪くなると黙るの……だからリリカはもう……」
「夢見鳥、リリカちゃんはどうなっているというのですか、言って下さい!」
「――モウ、ヲ人形ニナル準備ヲサレテルヨ」
「――えっ?」
「私達のお母さんがここに帰って来られた。そしてそのお母さんがリリカを人形にしてくれるわ……勿論あなたもよ、シュコー、シュコー」
「お姉ちゃん達、なんで繭達になんでそんな事をしようとするの!? 繭達は別人形になりたいだなんて一言も言ってないんだよ!?」
「そうよ……だけど夢見鳥、あなたはこの子達にお姉ちゃんになってほしいと言ったわね。だからその願いを今から叶えてあげるようと思うの……シュコー、シュコー」
「ガマズミヲ姉チャントキンセンカハ優シイ妹思イノヲ姉チャン達! ダカラ夢見鳥ノヲ願イノ為ニコイツラヲ人形ニスル。ソシタラ新シイ人形ノヲ姉チャン完成! 夢見鳥キット喜ブ!」
「そんな事しても夢見鳥は喜ばないよ、お姉ちゃん達のバカ大嫌い! 早く繭達を逃してあげて!」
「もう遅いわ……シュコーシュコー」
ガマズミちゃんの言葉とともに荷台に乗ったダンボール箱が大きく揺れ始めそれと同時にこの場の空気までもが揺れ始めます。その後、勢いよくダンボール箱の蓋が勝手に開くと中から細かい発泡スチロールの衝撃吸収材が拭き上げて、中から新たな人形の姿が現れました。。
「フゥ……あの弟子め、師匠である私をこんな安物の箱に梱包していい度胸だわまったく……しかも配送業者まで低ランクの物なんて最悪よ…って―――あらぁ?」
ダンボール箱から出てきた人形は美しい容姿と見事な銀色の髪を持つ美しい女性の人形です。そして格好は何も身につけていない状態で、スリムな胴体と艶めかしい四肢が顕になっており、思わず同じ女性の私でもハッとして目のやり場に困る程です。ですから早く何か羽織ってくれないでしょうか……。
「あらあら、可愛らしい格好をしたお嬢さんだこと、いったいあなたどなたかしら?」
「あっ、えっと……私は真見繭って言います。ここへは人形を見に友達と来ました――とっ、その前に何かを羽織ってくれませんか、そんな格好を目の前に見せられると恥ずかしいです」
「フフフッ……。恥ずかしいだなんて、美しい身体を持っていればそれを隠す衣服は邪魔で要らないのよ」
「そ、そうですか……(何なんでしょうこの自身満々で余裕の発言。向こうは痴女なのに何故か私が負けた気がします――って変な対抗意識を持ってる場合ではありません、まずはこの女性が誰か確かめなければなりません)」
私が目の前の痴女にどなたか尋ねると、痴女は私を無視して指をパチンと鳴らしました。すると夢見鳥が隠れんぼで使用したチートアイテム――身隠しマントが勝手に痴女の元へと向かって行きました。
「夢見鳥、また勝手に私の魔法の道具を持ち出して使用したわね……駄目と言わなかったかしら?」
「はい……ごめんなさい、お母さん」
「えっ、という事はこの痴女の人形は夢見鳥のお母さんなのですか!?」
「あらぁ? 今この小娘、私に何か失礼な事言わなかったかしら?」
「――ッ! (しまった、私とした事が痴女だなんて余計な事を口走ってしまいました)」
案の定、私が余計な事を口走ってしまったばかりに、目の前の女性の人形が不機嫌な様子になり、それから身体から目に見える程の青い色のオーラを放ちます。そしてそのオーラが僅かに私に触れると、途端に寒気がして力が抜けそうになるのを感じてしまいます。
「――あっ、えーと随分美しい姿なのですね、こんなお母様がおられるなんで夢見鳥が羨ましいです……あははははっ。(あぁっ、私の人生はこれできっと終わりです……世の中にはこんな超常の力を持った存在がいるんですね、最後にその存在を知れて良かったです)」
……。
「……あら、そんな事言ってくれるなんて嬉しいわね……○そうと思ったけどやめるわ」
「あ……(た、助かりました)」
人形の女性の身体からオーラが引いていきます。それと同時に私は安堵して思わず床にへたりこんでしまいました。そして下半身のとある部分の力が緩みそうになりましたが、リリカちゃんの失態が頭をよぎり、ギリギリのところで再び力を取り戻して失態を避ける事ができました。
「ふぅ……(危ないところでした、あそこで安堵して力を抜いていればきっと逃げることが出来なくなっていたでしょう)」
「あら、あなた以外とすごいわね、私のオーラに当てられて気力を保っていられる子はそうそういないのよ」
そういうと痴女もとい人形の女性はダンボール箱からふわりと飛び出して床に足をつけて着地し、それから次々と箱から衣服やアクセサリーなどを浮かび上がらせて見にまとい始めました。しかしその衣服も結局露出が高いので目のやり場に困ることに変わりはありません。
「……あらぁ?」
衣服を纏った最後に夢見鳥から取り上げた透明化マントを女性は羽織りましたが、その際、透明化マントは効力を発揮せずに実体が見えたままです。
「このマント、魔力がきれているみたいね。そこのお嬢さんが恥ずかしがってるようだから仕方なく私の美しい身体を隠そうとしたのだけれど……仕方ないわ、後で魔力を込め直しましょう」
「あ、あの……魔力と言う言葉があなたから出ていますが、もしかしてあなたは――(この人自分の事を美しいとか言ってます……まぁ、確かに美しいですが――決して羨ましくなんかありませんからね!)」
「フフフッ……その先は私が言わせて貰うわ――我が名はローズ・ゴレムガーデン。人型の魂なき者に魂を吹き込み使役する人形使い……人よんで球体関節の魔女よ」
球体関節の魔女、という事は彼女はやはり魔法を扱う存在、この科学が発展した世の中で魔法なんてありえないと思っていましたが目の前の超常の現象を目の当たりにすれば信じるしかありません。
「さて、これからあなたどうしましょうか」
「……えっ? どうするとは一体――」
「シュコー、シュコー……お母さん」
「あら、ガマズミ……それとキンセンカも、あなた達と夢見鳥の三体とも私が留守にしている間仲良くしていたかしら?」
「うん、していたわ……けれど途中で私達二体とも夢見鳥に寝ている隙をつかれて拘束されたわ、それからずっと動けなくされていたの……シュコー、シュコー」
「まぁ! 駄目でしょ夢見鳥、お姉ちゃん達に悪さをした事を謝りなさい」
「くっ……ごめんなさい、ガマズミお姉ちゃん、キンセンカお姉ちゃん」
まさか拘束具を施していたのが夢見鳥だったとは……。
「――ヲ母サンガ居ナイ間ニ、イッパイ外ノ女ノ子ヲ呼ビ寄セテ捕マエタヨ、ソイツラ人形ニシテ家族ヲイッパイ増ヤソウ!」
「もちろん新たに捕まえたこの子も人形にして頂戴……シュコー、シュコー」
「あら、そうなの、とても良くやってくれてお母さんはとても嬉しいわ! それじゃあ早速お母さん頑張ってその子達から魂を抜き取って人形に移し変えるわね、それであなた達の妹を増やしてあげる、ウフフフフ……それじゃあまずは――」
……。
三体の人形はとても自分勝手で不気味な事を話し合い盛り上がっています。私はその会話を聞きながら恐怖で震えていると、夢見鳥がこっそりと私に近づいて話しかけてきました。
「……あのね、夢見鳥がお姉ちゃん達を拘束具で動けなくしていたのは今までお姉ちゃん達が他所から女の子をここに連れ込んで監禁していたからで、もうこれ以上はいけないと思ったからなの」
「そうだったんですね……という事はもしかして最近この付近で発成していた少女の行部不明の事件はあの人形達の仕業ということですね」
「そうだよ……それとね、本当は繭達がここに来た時にすぐに助けを呼んで貰おうと思ったんだけどね……その、おかしいんだけど繭を初めて見た瞬間、何だか夢見鳥は胸がドキドキしちゃって……それで何となく繭と長く一緒にいたくなっちゃたの」
「…えーと、あなたは人形で心臓が無いからドキドキはしないと思いますよ。きっと気のせいです(あれ……こんな時におかしいですね。今はホラーのはずなのに気のせいか周りに百合の花が見えてきましたね)」
「あのね……こんな時に言うんのもアレなんだけどね……夢見鳥は繭の事が――好き」
「――待って……んんっ!?」
私は突然夢見鳥に口を塞がれました。そうです、これはキスです。しかも私にとってファーストキスですよこれ。けど待ってください、キスは男の子とするものなのでは!? なので女の子の夢見鳥とキスをおかしな事になるのでは!?
「……えへへ、繭……キスってとっても幸せな気持ちになるんだね」
「……(全然幸せな気持ちになりません、むしろ脳の理解が追いついて来ません)」
「何だかキスをしたあと夢見鳥の身体から力が湧いてくるの……これで多分お母さん達を止める事ができるよ」
「えっ!? (えーと、これってもしかして何かが覚醒しましたか?)
夢見鳥は私の前に立つと両腕を三体の人形の方へと向けます。そうすると魔法陣が発動し、その中から大きな青色に光輝く一体の幻想的な蝶々が現れました。そしてその蝶々は羽を羽ばたかせると部屋全体に強風を吹かせました。
「くっ、この現象は攻撃魔法! 夢見鳥……あなた母親に向かって反抗するつもり!?」
「違うもん、あなたは夢見鳥のお母さんじゃ無いもん! だって夢見鳥にはお母さんなんて居ないんだから!」
「シュコー、シュコー……それは禁句よ……シュコーシュコー!」
「うるさい、お姉ちゃん達だって本当はこの人がお母さんじゃ無い癖に!」
「違ウ! コノ人形ハ私達ノヲ母サン、夢見鳥デタラメ言ウノヨクナイ!」
「フンッ、夢見鳥知ってるよ……ガマズミお姉ちゃんとキンセンカお姉ちゃんはお父さんから捨てられてここに居るって……そして夢見鳥も同じ、捨てられてここにいる事を……」
どうやら人形は人形で複雑な家庭環境があるみたいです。
「ウウッ……ソレヲ言ッチャダメナノニ……ウウッ、ウガアアアアッ! 夢見鳥、悪イ子! ブッ○ス!」
キンセンカちゃんが激昂して夢見鳥に向かって飛びかかりました。しかし夢見鳥が召喚している青色の蝶々が強風を起こしてキンセンカちゃんを壁に吹き飛ばします。
「すごいです夢見鳥!」
「うん……でもそろそろマズイよ」
「どうしてですか?」
「お母さん――球体関節の魔女が本気になって怒ってるから」
夢見鳥の言葉通り、球体関節の魔女――ローズ・ゴレムガーデンの表情は怒りに満ちあふれています。しかも元が美人な顔ですからその怒りの表情に迫力がありさらに身体からどす黒いオーラを放っています……って、解説してる場合じゃありません。どうするんつもりなんですか夢見鳥!?
「繭……なんとか夢見鳥がここで食い止めるから急いで逃げて」
「分かりました、すぐにリリカちゃんも連れて逃げます」
「――そんな暇無いの! 残念だけどリリカの事はもう諦めて」
「できません、そんな事――」
「――ッ、良いからお願い、夢見鳥の言う事を聞いて! 本当にこれから魔女を止める事で精一杯なの、だから夢見鳥が必死に時間を稼ぐ間に逃げて……そして助けを呼んで」
夢見鳥の真剣な表情から彼女は本気でそう言っている事が分かりました。良いですよ、もうこんな所は懲り懲りです。だから逃げてやります……そして絶対に助けを呼んで来ます!
「ごめんなさい……リリカちゃん。それと……逃してくれてありがとうございます夢見鳥!」
そう言って私は後ろを振り返らずにこの場から逃げました。そして逃げる途中、展示されている人形が一斉に私の方に顔を向けて喋って来るのが聞こえてきました。
……スケテ……タス、ケテ……イヤ、人形はイヤ……人間に戻りたい。置いて……行かない……で……。
あぁ、ここにある人形全てにきっと行部不明になった女の子達の魂が宿っているのですね……そしてゆくゆくはリリカちゃんもこの人形達の仲間に……。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
無念な人形達に謝罪しながら必死に走り、同時に心の中で自分の無力さを呪いました。友達が酷い目にあっているのにそれを助けれない。しかもこうして一人だけ逃げる……本当に最低です。
「あっ、そうだ夢見鳥だけじゃなくて……あの時のアノ人がもしここに残ってくれていたら」
突然ふと最初にここへ来た時にリリカちゃんと一緒に出会った軍人風の男の人を思い出しました。その人もあの恐ろしい球体関節の魔女の雰囲気に劣らす、強そうな雰囲気を持っていました。もしもあの時、私達が彼を追い出さずにいれば今の結果が変わって居たかもしれません。もしかすればあの男の人ならこんな状況になっても私達を無事に生還させる事ができたかもしれません。何故か一瞬だけあっただけなのにあの男性からはそのような雰囲気が感じられました。
「グスッ……今居ない人の事を考えてもしょうがないです、逃げる事に専念しないと――うわああああん!」
……。
その後、私は涙で顔をボロボロにしながらやっとの事で人形展示会から抜け出して、そのまま交番へと直行して今あった恐ろしい出来事を警察に話しました。しかし警察は私を頭のおかしい子と判断して取り合わず、私の通う学校に通報してその日は私を保護させました。
しかし私と出かけた筈のリリカちゃんが当然帰って来ていないことで事で事件だと判断して捜査を開始しましたが、それは一日経ったあとの事で状況は絶望的でした。そして私は……。
「……あの恐ろしい事件から一週間です……そして私は一人だけ無事に脱出した卑怯者です」
事件のあと私は学校で孤立しました。なぜなら私がリリカちゃんを行部不明にした犯人だと疑われているからです。けれどしょうがないです。だって普通人形が誘拐事件を起こしているなんてバカな話を世間が信じる筈がないんですから。
「――けど……あれは確実にあった事です、なんとかして私一人でもあの場所を見つけてリリカちゃんや他に攫われた子を助け出さないと」
実この一週間、警察の捜査は一行に進んでいません。なぜならあの人形展示会場がどこにも見つからないからです。私はこれをおかしく思いリリカちゃんが残した展示会の地図と住所が載ってるチラシを頼りに事件のあった展示会場を探しました。しかし何故か私もそこに辿り着けないのです。おそらくあの魔女が何か魔法のような物を使用して人を寄せつかせないように工作をしているのかもしれません。
「はぁ……今日もあの場所に辿り着けない……ごめんねリリカちゃん」
ずっと学校を休んで一人で探していましたが限界です、何一つ手がかりが掴めません。そして諦めかけたその時、前から誰かを抱いた人が走って来るのが見えました。
「――警察に手を出すなんてやべえよ、逃げるぞ胡蝶!」
「あっ……あの人は!」
見間違う筈がありません。前から走って来たのはあの日、人形展示会で出会った軍人風の男の人。しかも前に抱いているのは……人形の女の子!?
男性はそのまま私の横を通り過ぎて行きました。ここで見失う訳には行きません、あの人は何か手がかりを握っている。
そう直感し私は急いでその男性のあとを必死に追いかけてましたが、男性は足が早く見失ってしまいました。それでもなんとか見失った付近をさがし続けて……ついに男性の居場所を突き止めました。
「お願い……どうか私に協力してくれる人でありますように」
こうして私は男性に期待しながら男性が住むアパートのインターホンを押しました………。
第二部 前編終わり。後編へ続く
後編は書き溜めて投稿します。お待ちください。




