表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
世紀末世界のストレンジャー
97/580

10 サーチタウン(2)

【あいつら馬鹿か!? 仲間の頭上に砲撃しやがった! だがおかげで立て直せた、これより街の中央に後退する。そっちに生き残りが向かったから気をつけろ】

【了解、こっちも後退しながら応戦する。いいか、これ以上街に被害を与えるな】


 雨が降り、視界が悪くなり始めていた。

 無線を耳にしつつ進むと巨大な何かが街の方へと歩いているのが見えた。

 大きな人間の下半身がずんずん歩いている。最初見たときはそう思ったが、すぐにその正体はつかめた。


「ミコ、あれって……まさかと思うけど」

『……あの歩いてるのって、もしかして』


 そのあとを追いかけて、丸焦げになった装甲車両の陰から様子をうかがう。

 雨の音をかき分けるような足音と機械の駆動音を鳴らしながら、それはミリティアの連中を引き連れて歩いていた。


「急げ! 立て直される前に進め! ウォーカーを突っ込ませるぞ!」

「ちくしょうどこのどいつだ味方吹っ飛ばした馬鹿は!」


 有り体にいってしまえば、全長五メートルほどはある二足歩行ロボットだ。

 といっても俺たち日本人が良く知る形のものじゃない。

 使えそうなものはすべて使った、とばかりの雑多な部品で修理され、補強され、幅の広い足でずんぐり立ち上がる人の下半身を模した脚部。

 その上にそこらへんの廃車の車体を乗せた何かというべきか。


 両腕には俺たち人類が使っている自動小銃を何倍にも大きくしたような銃が直接取り付けられ、今こうしてる間にも街にめがけて砲弾をばらまいている。

 背中には銃座が設けられていて、そこで誰かが街へ重機関銃をぶっ放していた。

 そんな鉄の化け物を守るようにミリティアたちは進んでいく。


「おい……マジかよ! ミコ、ロボットだ! ロボットが歩いてるぞ!」


 そして俺は感動していた。

 2030年の世界ですらまだ実現不可能だったロボットが、まさかこうして元気に動いて実戦中とは。


『な、なんかわたしたちの知ってるロボットより無骨だねー……』

「――あれ乗りたい!!」

『こんなときになにいってるのいちクン!?』


 市街地を前に暴れまわる姿を見送りながら「どうやったら奪えるか」まで考えていたが、すぐ引き戻される。

 どうしよう、追いかけて後ろから襲ってもあの数じゃ返り討ちだ。


「さーて。こういう時、ボスだったらどうする?」


 落ち着いて周囲を見渡す。

 ここは先ほどの道路を下った先にある街中だ。

 すぐ近くにあるのはバリケードを設けられたカジノの姿で、ミリティアにやられたのか死体が山を築き上げてる。

 その脇を通過してあいつらの部隊は東、つまり市街地中央に向かった。


『いま、わたしたちは敵の真後ろにいるってことだよね……?』

「ああ、でも俺だけで奇襲したって……」


 せめてグレネードランチャーぐらいあれば嫌がらせぐらいはできたはずだ。

 いやないものねだりしたってだめだ、今の俺にできることをしよう。

 そう考えていると――カジノからハイウェイを南に辿った先でエンジン音。

 感覚で発生源を辿ると道路を抜けて、車両が街へ向かうのが見えた。


「……あいつらをやるか。ニク、狩りに行くぞ」

「ワンッ」


 ニクを連れて車を追いかけることにした。

 幸いにも雨がもたらす音の阻害と視界の悪さがあってスムーズにいけた。

 あの車は広い道路から民家のある狭まった通りへと入っていったようだ。


「ワゥッ」


 民家の間をお邪魔して進んでいると急にニクが控えめに吠えた。

 一時停止。すると側面、詳しく言えば南側から足音が聞こえてくる。


「くそっ! シエラ部隊のやつがいるとはツイてねえ!」

「愚痴ってる場合じゃねえだろ、早く街の南から侵入しねえと」

「ウォーカーの時間稼ぎはアテにならねえ、俺たちで決めるぞ」


 どう聞いてもミリティアとしか思えない男どもが街の中心へ向かっている。

 民家の壁から身を乗り出して姿を確かめてみた。

 雨の中を突っ切り、素早く道路を横断して隠れながら進むやつらが6人ほど。


 見る限りこの街の南方面は手薄になってるようだ。

 そして重要なのはあいつらはそこを狙っていて、ちょうど俺は迫撃砲誤爆事件以上に想定外な存在だってことだ。


「しかけるぞ。ミコ、ニクに何かあったら魔法で援護してやってくれ」

『う、うん……いちクンもわんこも気を付けてね?』 

「ワゥンッ」


 俺は自信満々に見上げてくるニクの頭を撫でてから後を追った。

 だんだん見えてきた。小さな部隊が民家に張り付くように移動していて、次の道路を横切ろうとしている。

 車の陰に隠れて、背負っていた弓を取り外して矢筒から矢を抜く。


「あいつら俺たちには気づいてないみたいだ。急げ!」


 やがて一人が仲間に合図をして壁から道路へと飛び出す。

 身を乗り出す、無防備な側面へと弓を構えた。

 距離は30mもないだろう。矢をつがえて、ぎりりと絞って――少し先を狙って人差し指と中指を離した。

 いっぱいに引かれた弦が手製の矢をぼっ、と蹴り飛ばして、


「シエラのやつらに感づかれる前に――ぎぇっ!?」


 視線の向こうで、先走っていた一人が喉と胸の間を押さえて転んだ。

 命中した、次の矢を構えてぐぐっと引っ張る。


「どっ……どうした!?」

「どうした、じゃねえ! 敵だ! 待ち伏せされてたのかよちくしょう!」


 雨の音にかき消されたのか向こうはまだこっちを特定できていない。

 倒れた仲間を見て戻ろうとするやつをエイム、腰のあたりを狙って矢を放つ。


「戻れ! 敵が見てやがるぞ! ここはもうぎゃぁぁっ!?」


 走り出すところで足に命中したようだ、膝を手で抑えながら転倒。

 次の矢を装填、何とか這いつくばって戻ろうとするところを狙っていると。


「――いた! あそこだ! 車の陰に居やがる!」


 さすがに気づかれたみたいだ、向こうの民家の方から連続した銃声が響く。

 放置された車両がかんかんと音を立てて着弾の衝撃で揺れる、だが問題ない、あっちはまだ完全に場所を割り出せちゃいない。


「ニク、行くぞ」


 慌てずに弓を解いてクナイを抜く、そして黒い犬と目で話した。

 眠そうだが戦う気満々のニクが小さく吠える、ゴーサインだ。

 抜いたクナイを――地面に思いきり叩きつける。


*Pam!*


 触媒が弾ける音の直後、身体は完全にサーチタウンの風景に溶け込んだ。

 銃剣を抜きながら飛び出す。

 雨が降り注ぐ道路へと駆け込んで、民家の近くに密集するやつらへと接近。


「射撃中止! 何か妙だぞ!」

「やったか!?」

「これくらいでやれるわけねぇだろ! グレネードをぶち込め!」

「くそぉぉぉぉッ! 俺の足をやりやがって! 許さねえぞ!」


 ちょうど手榴弾を投げ込もうとしていたやつがいた、お前に決めた。

 周りの人間を押しのけ、そいつの肩を抑え込みながら銃剣を喉に滑らせる。


「おっ、おいなんだ!? 誰だ今押しやがったの!?」

「全員伏せろ、いまからお見舞い……くひゅっ……!?」


 皮や血管をぶつりと絶つ感触のあと、そいつの血液があたりに噴き出す。

 あふれる血を避けるようにかがんで、次は異変に気づいて銃を構えたやつを狙う。

 銃剣を両手で握る、ボディアーマーに覆われた脇腹めがけて先端をねじり込んだ。


「おっ………ああああああああああああっ!?」

「なっ……!」


 獲物が握っていた短機関銃を苦し紛れにぶっ放し始めるが、構わずぐるりと柄を捻って大人しくさせた。

 にぎやかになってきたところで残りのやつらが気づく、が。


「ガウッ!」

「はっ!? あああああああっ!? やめろっ! 離せェェッ!?」


 気づくのに遅れたやつがニクに首を噛まれて押し倒される。

 そのタイミングに重なるように『ニンジャバニッシュ』の効果が切れた。

 ようやく姿を現した俺に、この状況で唯一まともに戦えるであろう一人がホルスターから拳銃を抜くが。


「なんだこいつは!? どっからきやが」

「オラァッ!」


 左手で銃ごと腕を掴んでねじ上げて、すかさず顔面に肘を叩きこんだ。

 顔のパーツを潰す感触がしたあと、そいつはだらりと地面に崩れた。

 続けざまに喉へとブーツの底を全力で叩き込んだ。おそらく死んだ。


「はっ離してくれ頼む降参する……ッ!?」


 ニクの下敷きになってたやつも動脈を食いちぎられて沈黙したようだ。

 黒い犬が慣れたようにぺっ、と肉と血の混じったものを吐き出す。


「よし、よくやった相棒」

「ワンッ」


 「どうだった?」と見上げるわんこを撫でて、転がっていた未使用の手榴弾を拾った。

 さて残りは――道路で足を射抜かれた奴に視線を向けると。


「ひっ……ひいいいいいいいいいいいいッ!」


 太ももから矢を生やしたまま、最後の一人が街の方へと逃げ出していた。

 すぐに追いかける、そいつの背中を指してニクに先行させた。


「ニク! あいつを逃がすな!」

「ワンッ!」


 逃げる兵士の向かう先は小さな民家だった。

 必死に逃げるそいつはやがて黒い犬に追いつかれると理解したのか。


「くっ……やられて、たまるか! くそっ! くそぉぉぉっ!」


 家の壁を背に拳銃を抜いて、我先にと迫るニクへと構えた。

 距離は微妙だ、どう見たって犬が噛みつくには遠すぎる、が。


『――セイクリッドプロテクション!』


 実にいいタイミングでミコの『防御魔法』が決まる。

 同時に拳銃がぶっ放されるが、つくられたマナの壁がぱきっと弾を弾いた。


「……なっ……!? このッ止まれ……!」

「ガァァウッ!」


 一瞬の隙が生まれた。ひるまず突っ込んできたニクに腕をかまれて引かれる。

 動きが止まった、このまま俺も続く。


「うおぉぉらぁぁぁッ!」


 全速力で追いついた俺は荷物を捨てながらそいつに迫った。

 それと同時に身体を横に捻りながらジャンプ、両腕でバランスを取って飛び込む。


「ぐ、ぁっ――――!?」


 無防備な腹めがけて――必殺のドロップキックをお見舞いしてやった。

 内臓やぶち抜くような弾力を感じた。敵が面白いように吹っ飛んでいく。

 ただ予想外だったのは威力がありすぎたことだ、民家の壁をぶち破ってダイナミックにお邪魔してしまう。


「あっやべっ」


 受け身をとって横から地面に着地。

 一方で運悪くボールとなった彼は壁材を突き破り、家具を巻き込みながらリビングにたどり着いてしまった。


 まあ、それだけならまだいい。

 ちょうどその先で屈強な身なりの連中がいて、今まさに動き出そうとしたところだった。

 いきなり自分たちの目の前に転がってきたものを見て困惑している。

 こっちだって困惑してる。どう見てもカタギじゃない連中がいるのだから。


「あー……ひょっとしてここに住んでおられた?」


 俺は倒れたミリティアに近づきながら、そいつらの様子を確かめる。

 ぱっと見て絶対に西側の連中じゃないとは思った。

 まず装備が明らかに良すぎる。使い古されてはいるが戦前の防具を身に着けて、デカくてごつい銃を手にしている。

 そして全員が筋肉質だ。顔も体つきも、男女隔てなく平等に『ドッグマンを素手で殺せる』ような逞しさがある。


「おいテメェ、俺たちがここの住人に見えるってか? だったらお前の感性を疑うぜ、マジで」


 俺の質問に最初に答えたのは、そこにいた鋭い顔の嫌味のある声だった。

 短い金髪に――オタクいじめが好きそうな厳つい顔、あれをもっと意地悪くすればこうなると思う。


「やめなカーペンター、こいつは少なくとも敵じゃないみたいだよ」


 そんな食いかかってくる相手に、筋肉質すぎる黒人の女性が止めに入る。


「あぁ? じゃあなんだ? 通りすがりのヒーロー様かなんかか?」

「さあね、でもミリティアを蹴り飛ばしてくれるやつなんてそういないでしょ」


 カーペンターと呼ばれる嫌味な男よりは話が分かりそうだが、歴戦の猛者さながらの落ち着いた表情だ。

 ただどう見ても「おまえそれ車に乗せて使うやつだろ」としか思えないベルト給弾式の機関銃を手にしている。

 そんな二人が目を合わせていると、


「で、結局こいつは誰だ? 敵じゃないんだよな?」


 回転弾倉式のグレネードランチャーを持った角刈りの男が割り込んでくる。


「知らねぇよ、シド・レンジャーズにこんな変なの入れた覚えねえだろ」

「待ちな、イェーガー。こいつ……黒いジャンプスーツよ。てことは――」


 三人の視線が一斉に向けられてくる。

 ところがそれを遮るように、バンダナを巻いた男が無言でこっちに近づいてきた。


 感覚はすぐに働いた。なぜならそいつはどう見ても強すぎるからだ。

 無精髭の生えた顔はただのオッサンではなく、今まで数々の死地を潜り抜けて、その上で立ちふさがる敵をなぎ倒してきたようなものがこもっている。

 でも不思議と怖くはない、ボスのあの顔立ちに近いものを感じたからだ。 

 ただし手にしている銃剣つきの突撃銃は、少しでもおかしな真似をすればためらいもなくこっちに向くだろう。


「俺……なにかやっちゃいました?」


 そんな相手に恐る恐る尋ねると、


「いいや、好都合だ。さっさとその馬鹿にとどめを刺せ」


 バンダナ男は淡々と目の前に転がる男に向けて行動を促してきた。

 黙って銃剣を抜いて喉元を裂いた――男たちにじっくり観察されながらだが。

 だめだ前言撤回する。やっぱり怖い、決めた、ここから離脱しよう。


「……じゃあ、俺はこれで」

「待て、お前はどこのどいつだ」


 ところが離れようとすると後ろから肩を掴まれた。

 見た目通りの力だ。このまま俺を地面に押し倒して首をねじるぐらい簡単だろう。


「ここに来たばっかの通りすがりだ。ついさっきこいつらの敵になった。あんたらは?」


 俺はビビってるのを悟られないように答えた。


「奇遇だな、俺たちもついさっきこいつらの敵になった。だから単刀直入にいう、悪者退治に手を貸せ」


 ところがそう答えるとリーダー格の男はすぐに手放してくれた。

 なんとなく、その強く培われた顔つきに信用してくれる余地があるのを感じた。

 なら話は早い、手伝おう。


「分かった、何すればいい?」

「西側から増援が来る、俺たちと仲良く挟み撃ちだ。馬鹿どもを叩き落とせ」

「了解。どこに叩き落とせばいい?」

「地獄の底だ。こっちの邪魔をしなけりゃ好きにやっていい、頼んだぞ」


 俺はうなずいて、犬と一緒にその場を離れようとした。

 ところがそこへもう一声。


「――待て、お前まさかストレンジャーか?」


 バンダナ男がそう尋ねてきた。

 この名前を知ってるってことはもしかして……。


「ああそうだ。哨戒任務中のな」


 振り向いて答えると、屈強な四名はやっと驚いてくれた。


「お前があの噂の奴か。てことは……」

『はい、わたしがイージスです』

「ワンッ」


 犬と物言う短剣の自己紹介を耳にするとバンダナ男はもっと驚いたようで。


「……あのばあさんが喋る短剣と黒い犬がメンバーに加わったって言ってたが、まさかマジだったとはな。どうかしてやがる」

「おい今の見たかよ!? マジで短剣が喋りやがったぜ!」

「てことはこいつがカルトのボスをやったってやつ? なんか頼りなさそう」

「ヴァージニアばあさんのいう通りすごい目だな。まあよろしく頼む」


 たった四人の部隊は俺たちを受け入れてくれたみたいだ。

 どちらかといえばその反応は見世物を目にして珍しがるようなそれだが。


「だったら話は早い。俺たちは西側で敵を受け止める、お前はミリティアどもに一泡吹かせて来い、行くぞ!」


 バンダナ男の声をトリガに俺たちは動いた。

 こっちも再び街の南西に向かうが、背後から厳つい声が飛んでくる。


「ようこそ、シエラ部隊へ」


 振り向くとそいつらはいつのまにか姿を消していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ