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72 正規の軍じゃないにせよ


 数日もしないうちに例の件で招集された。

 集合時間まで暇だったので、ふとあの手紙をライターで炙ってみたのだが。


【シューヤ、成し遂げたぜ。念願の単眼美少女がいっぱいいる。もううれしくて最初の日にキュクロプスちゃんのスカートめくったけど速攻で衛兵に捕まって牢屋ぶち込まれた。キュクロプスの子ってなんかこうみんなお尻デカくてむちむちしてるけどそこがまたいい。毎日ムラムラするわこんなん。それからサキュバスのお姉ちゃんたちによる性的被害が蔓延しててちょっとヤバイわこの世界。マジでやばいぜあいつら。お金払うから今晩一緒にどうとか普通にいってくるもん。でも大丈夫、俺が童貞を散らすときは王道を往く単眼(略)】


 …………。

 この世に存在してはならぬ怪文書を破って、通路のゴミ箱に突っ込んだ。


『いちクン……? 今お手紙やぶっ……』

「呪われてた」

『のろ……えっ? な、なにがあったの……?』


 この世に平穏があらんことを祈りながらブリーフィングルームへ向かった。


「ワウンッ」


 黒いシェパード犬も「どうしたの?」とこっちを見上げてる。

 「知らないほうがいいこともある」と頭をなでてあげた。


「さて、行くか」


 左肩に上向きにつけた銃剣の鞘、腰に鞘を新調した物言う短剣。

 ベルトには差せるだけ差した即席ナイフがずらりと。

 改修した三連散弾銃は背中にホルダーで固定した。

 そして尻尾を振りながら付いてくるモフモフボーイ。フル装備である。


「うーん、なんなんだこりゃ……」


 その途中、一階の廊下の途中にヒドラショックがいた。

 悩ましい視線の先には槍でぶち抜かれた装甲板が壁に飾られている。

 しかもご丁重に『作者:イチ』とある、ツーショットめ。


「なにしてんだヒドラ、そろそろ集合だぞ」

「なあイチ……こりゃなんだ? この前からずっと飾ってあるけどよ」


 今回の作戦に参加するらしいが、その作品とやらを気にしてるようだ。

 説明するのも面倒なので自分が作った芸術品ということにしよう。


「あー……これ? たぶん現代アートかなんかだ」

「アート? 確かに深いものを感じるよなぁ……どんなに頑丈なものもいずれは穿たれる、とか、槍は例え壊れても槍である、とかそういうメッセージ性を感じるぜ。ところでどうやって作ったんだこれ?」


 厳つい金髪の男はここで勝手に芸術性を付け足してしまっている。

 スクールカーストで支配者階級に身を置くような見た目の彼は、どうにかこのアートからメッセージを読み取ろうと頑張っているようだ。


「そんなの後で教えてやるから早く行くぞ、ボスにぶっ殺される」

「おう。今回はすげーことしてやるからな、楽しみにしとけよ」


 俺は犬とヒドラショックを連れて部屋に入った。


「おっ、きたか。二人とも、そろそろいつものが始まるぜ」

「こんにちはペネトレイター、またあんたと組むなんてね」

「またよろしく、今度は戦車でも貫くの?」

「今日はヒドラも一緒だなんてな、こいつは楽しみだぜ!」

「へへっ、楽しみにしてろよアーバクル? 派手な花火上げてやんよ」


 中にはツーショットに前回の作戦で会った二人の小銃手、赤毛の機関銃手がいた。

 そこに俺たちが加わって部隊の完成ということらしい。

 一体このメンバーで何をするのやら。


「集まったか。さっそくお仕事について説明しとくよ」


 全員が席に着くと早速ボスが勢いよくやってくる。

 リムさまのパンを食べたせいかいつにもなく気力に満ちてらっしゃる。


「前回のレイダーどもがアルテリーからの手紙を持ってたみたいだ。どうもミリティアの連中も絡んでるみたいで、そのうちここにやつらが一斉に来るようなことを匂わせる内容だったわけだが」


 説明が始まると、ボスはボードに広げた地図をさした。

 ここから北西に向けてだいぶ離れた場所にある山のふもとだ。

 どうやらアルテリーの支配地域になってるようだ。


「サンディたちに調べさせたら北西方面にアルテリーどもの野営地を発見した。それだけならいいんだが、かなり戦力を蓄えてるみたいだ。まるでこれから戦争でも始めるってぐらいにね」


 話を聞いていると、隣に座ったヒドラショックが手を上げた。


「そのかなりってのはどれくらいなんすか?」

「あんたの好きそうなものがいっぱいさ。迫撃砲数台にジャンクドレス、ヴェガスの技術屋が作った武装車両もある」

「ワオ、俺の欲しいもんだらけだ。で、何かヤバイのでもあったんですかね?」

「多連装ロケットを積んだ車両が二つもあったそうだ。あんたなら分かるね?」

「"カチューシャ"か、最大射程は5㎞ぐらいとして……地形的にもこっそり近づいて、うちらを狙って爆撃する分には十分っすね」

「そういうことさ」

「この前の仕返しにロケット弾でもぶち込む気なんすかね、いやそれだったらとっくの昔にぶち込んでくるよな……」


 話を聞いて分かるのはアルテリーの連中もマジになってきたってことか。


「あいつらがそこまでする理由は何だと思う、ボス?」


 二人の会話と地図をずっと見ていたツーショットも手を上げた。

 俺も気になってた話題だ、何せ自分があいつらに深く絡んでるからだ。


「……あの人食い共は私怨でお前さんに執着してるもんだと思ったんだがね」


 そう思い悩んでいるとご指名されてしまった。

 周りからの視線が何気なく集まる、そりゃそうか。


「……俺、ですか?」

「あんた一人のためだけにそんな町吹っ飛ばせるほどの武器を集めると思うかい?」


 言われてみれば俺を捕まえるためにわざわざ町ごと消し飛ばす必要はないか。

 そもそも向こうは俺が死んで生き返ることを知っているわけだし。

 となると……もう不死身の人間なんてどうでもいいのか?


『……それどころじゃなくなった、とか?』


 考えていたところにミコがそう口にした。

 見れば、ボスはその通りだといわんばかりにうなずいて。


「そうさ。あいつら、いまさらになって大きな予定ができちまったのさ。西側のミリティアのクソども、北のヴェガスのレイダー、そいつらと結託してとうとう手がつけられなかった地域に攻め込もうってわけだろうね」

「まともな戦略やロジスティクスのノウハウが失われたウェイストランドにしちゃよくまとまった計画だな」

「アルテリーが使い捨てられるってことを含めてね」

「つまり三大クソ野郎どもが仲良く手をつないでここに来るってことか、泣けるね」


 話を聞いているとツーショットまで割り込んで来た。


「あいつらはずっと南のヒュマってところを中心に信者を増やしながら北西経由でここまで来たようだが、思えば巡礼をしてたんだろうな。二つの組織への顔合わせってことか」

「しかし考えてみたら組織のボスがじきじきにここまで遠出をする理由になるのかい、これは。ハーバーダムからヒュマへの距離は300マイルぐらいは離れてるってのに、一族総出でわざわざ迂回までしてここに来る価値はなんなんだろうね」


 聞いた話だとアルテリーというのはここからはるか南、500㎞以上離れた場所にある『ヒュマ』という廃墟が拠点だそうだ。

 いくら魔法の力があるとはいえ、弱小の集まりから成り上がった連中が指導者を連れてこんなところまで遠征する理由とは一体。


「いや、あり得る話だぜボス」


 俺がそう思っているとツーショットは続けた。


「何がだい?」

「南はこっちと違ってかなり荒んでるからな。大体、ずっと昔から人肉食文化が根強く続いてるんだぜ? ちょっとしたきっかけで進出することもありえるさ。貧しい土地を捨てて心機一転! みたいにな」

「古代の蛮族よろしく、ゆく先々で略奪でもしながら北上したって言うのかい」

「どんどん仲間を増やしながら土地を荒らしまわる、よくあるやつだろ?」


 ……アルテリーの謎の行軍に頭を悩ませると、急にドアが開いた。


「……分かりましたわ、その"あるてりー"とやらがそんな回りくどい方法で、しかもここまで来た理由が」

 

 いつものリム様が話に割り込んできたようだ。ガチョウを連れて。


「……なんだ、聞いてたのかい」

「お邪魔かと思って待ってたのですけれど……もしかしたら」

「おいおいリム様、何が分かったっていうんだい?」


 どうしたんだろう、リム様は。

 遠い未来のことまで分かり切ったような表情を浮かべていて。


「あちらの世界から転移してきたものを回収しつつやってきた、としか思えませんわ」


 割ととんでもない答えを出してきた。

 つまりあいつらは向こうの世界のものを集めてたってことか?


「どういうことだい? 説明してくれ」

「少し端を折らせていただきますけれども。向こうの世界からの流れ着いたものはいっぱいありますの。それはもう、この世界に幅広く」

「……つまり?」

「独り占めしながらここまで来たってことですわね! 誰よりも早くその有用性に気づいて、目ざとく見つけながら各地を転々としてたのでしょうね。魔法を覚えるための道具だとか、そういったものを集めて自軍を強めつつここまでやってきた――ということもあり得ますわ」


 ということはアルテリーの連中は拠点を捨てる覚悟でここまで片道遠征したってことにならないか、それ。


「つまり、俺が言ってた「RPGみたいにレベルアップしながら進軍する案」を採用して行き当たりばったりの旅をしてるってか?」

「おチビちゃん、確認したいんだが奇跡の業(まほう)ってのは何かしらの手段で簡単に覚えられるもんなのかい?」

「覚えられますわ。それに、魔法を使うために必要な魔力(マナ)もこの世界に流れ込んでいますもの」

「あの青いジュースか。じゃああいつらは道中そういったものを拾い集めてあんなオカルト集団になったわけかい?」

「で、まずはこの辺りに住まいを構えてお引越し完了という感じか。賊どもがうじゃうじゃいるヴェガスに一番近いところだからアクセス最高だったな、そういや」

「ここを潰せばサーチタウンまでの橋頭保もできるしね、最高の立地条件さ」

「更にどう取り入ったのかはともかく西の傭兵どもも介入か。あいつらがアルテリーを唆した可能性もあるなこりゃ」


 ボスとツーショットは頭を悩ませている。


「……ふん、そうかい。だったら話は早いさ」


 けれどすぐに我らがボスは立て直した。ボードの地図を叩いた。


「まず敵の目的は単純だ、東側の土地に進出するのにうちらが邪魔なだけさ。それにアルテリーどもの私怨、同盟の結束力のためという理由もあるだろうね」

「でもミリティアの連中からすれば成り上がりのカルト集団なんざ気に食わないだろ。使い捨ての駒ぐらいの扱いだろうさ」


 と、今度は赤毛の男が目の前で立つ二人に向けて挙手した。


「ボス、質問いいすか」

「なんだいアーバクル」

「あいつらは今どんな状態なんすかね。士気は?」

「そいつについてたが何度か偵察してたら内情も分かった」

「奴さん、どんなご様子で?」

「武器はあるんだけどね、食糧不足みたいだ。人員の多さに補給が間に合ってなくて飯の確保に努めてたよ。白昼堂々ドッグマンだとか狩っていたんだからね」

「敵前なのに腹ペコってことか。ちょうどよくないっすか?」

「そう、だからやるなら今ってわけだ。アイツらが成り上がりの無能なうちにさっさと片を付ける」


 ボスは地図の上に表示された場所をまた示した。

 場所的には――アルゴ神父のいた教会と、プレッパータウンの中間にある。


「ここから北西方面に11㎞ほど離れたニルソン・ヒルにやつらの拠点がある。戦力は数十人ほどでアルテリーとレイダーの混合ってところか」


 聞けばそこに戦力が集まってるらしいが、大丈夫なんだろうか。


「イチ、ツーショット、ドギー、シャンブラー、アーバクル、ヒドラショック、それからミコとニク。早朝にご挨拶してきな」

「へへへ、ちょっと面白い作戦を考えちまったんだ」

「だそうだ、ツーショットの指示に従え。全員思う存分暴れてこい」


 ツーショットとボスがにやにやしている。

 たぶん、ろくでもないものだと思う。


「目的は挑発だ、できるだけめちゃくちゃにしてこい。今回は私とサンディ、それからアレクで敵キャンプの南側の丘から援護する」


 ヒドラが「そういうの大好きだぜ」と口をはさんだ。

 そこにボスは「それから」と付け足して。


「ヒドラショック、今回は特にお前さんの知識が必要だ。頼りにしてるよ」

「任せてくれよボス、久々に暴れたくて仕方ねーんだ!」

「この魔女のお嬢ちゃんも作戦の要になる。あの時の借りを返してやりな」

「あっ今日のお夕飯はばーべきゅーさんどにしますわ!」


 ……相変わらずすぐ終わったが、今回の作戦はこれで大丈夫なんだろうか。


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