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71 アドバンストレーニング


「聞いたぜイチ、アルテリーの奴らにご挨拶しにいくらしいな」

「ああ、北の方で陣取ってるってさ」


 俺は――いや、俺たち四人はニルソンの西側を歩いていた。

 散歩じゃないし、周りにはあの時見知った仲間がいる。

 機銃手のアーバクル、小銃手のドギーとシャンブラー、それとニクもだ。


「あいつら盗賊(レイダー)けしかけといて自分たちは北でこそこそしてんのかよ。いけすかねえな、あの変態ども」

「でも西からあのミリティアが来るって言うんでしょ? 早く手を打たないと挟み撃ちになっちゃうわよ、私たち」

「まあ戦力の逐次投入がまずいことは分かってるみたいね。足踏みを揃えた数の多さの価値を知ってるあたり、それほど馬鹿じゃないみたいだけど」


 荒野の険しい道はあの話でにぎわっていた。

 ニルソン総攻撃を匂わせるあの手紙の内容はもう誰もが知っている。

 ボスやサンディたちが北方面で偵察をはじめ、その一方で俺たちは西側のパトロールに来ていた。


「今のうちにお前らに謝っとくよ。俺のせいでこうなった」

「はぁ? なんで謝るんだ? 俺からすりゃビッグチャンスだ、人撃ち放題だ」

「確かにあなたが呼び寄せたかもしれないけどね。でも、むしろいい膿抜きになったと思うわ。因縁だったヴェガスの賊どもに痛い目見せれるんだから」

「私としてはそういうの抜きで言わせてもらうとすごく楽しみ。銃が撃てて刺激的で、生きてる実感がするわ。それにミコさんみたいな面白い子と会えたし」

「呪いかなんかで元の姿に戻れないとか聞いたぜ、ミコさん。早く戻れるといいなあ」

「違うわよアーバクル、魔力だとかなんかが切れたからでしょ」

「呪いだったら王子様のキスが必要ね。もちろんアーバクル、あんた以外の」

「何だとぉ? 俺は一生独身を貫くんだ、ガルフィーがいれば良いんだよ!」

『あ、あはは……呪いじゃないんだけどなー……』


 この三人とはなんやかんや良く付き合える。戦力的にもバランスがいいというか。

 最近は暇があればこんな風にまた賊がいないか見に来てるのだが。


「そういえばお前らっていつもつるんでるよな。仲がいいっていうか」


 俺はふと思ったことを口にした。

 こいつらはプレッパータウンでも一緒にいるのを良く見かけるからだ。

 

「まーな、俺たち幼馴染なんだ」

「そうよ、ボスに誘われる前からずっと一緒でね」

「それからヒドラも幼馴染よ、ほんとなら四人なんだけど……」


 意外な答えが返ってきてしまった、ヒドラも幼馴染?

 言われて想像してみたが、この場にヒドラがいたら確かに当てはまりそうだ。


『ヒドラ君が……ですか?』

「おうよ。俺達ってもともとはシェルター育ちだったんだよ」

「シェルター……? ハーバー・シェルターのことか?」

「違うわ、もっと遠くにあった別のシェルターのことよ」

「西の方にあるマウンテン・シェルターっていうところ。文字通り山の中にあるんだけど、そこがまあすごい場所だった。クソみたいな意味でね」


 驚いた、あそこ以外にまだシェルターがあったのか。

 任務のことを忘れて、三人の話をもっと聞きだすことにした。


「どんなところだったんだ?」

「あんたは黒いジャンプスーツだけど、うちらは違う緑色。意味分かる?」


 ドギーにいきなりこの服の色がどうこう言われた。意味が分からなかった。


『……戦争生活者(グリーンカラー)のことですか?』


 ところがミコがぽつりと放った。グリーンカラー、緑色ってどういう意味だ?


「そうよ、ご名答。軍服の緑色、つまり軍事色の強いところよ」

「つまり軍服みたいなジャンプスーツを着てたわけね、クソだったわ」

「ただの軍事マニアの集まりだったぜ、あそこは。飯はまずいし住居は狭い、なのに銃だけはいっぱいあるんだ。ガキからジジィまでみんな銃持ってんだぜ?」


 なるほど、軍人……もどきの集うシェルターだったか。

 三人ともとても嫌そうな顔で思い出してるようだ。ハーバーでよかった。


『こ、子供からお年寄りって……そんなの危ないですよね?』

「当たり前だろ、十歳の頃からマシンガンのお勉強だぜ? 何かあればすぐ銃を向け合うんだ、やべえぞ」

「私たちが思春期になるころには限界が来てた。火薬庫の前で焚火やってる気分だったわ」

「毎日上官様にいびられて地獄だったの、あそこは。派閥もできてみんないがみ合って、私たちはその兵隊扱い」

「そしたらヒドラがキレてその火薬庫に火をつけたんだよな、物理的に」

「そうそう、それに便乗して私たちも上官にお礼参りして」

「インフラ設備も火炎爆弾で破壊したんだっけ。良く脱出できたわね私たち」

「あんだけデカい焚火だからな、そりゃボスも俺たちを見つけてくれるわけよ」


 ……三人は笑い出した。こいつら想像以上にやべーぞ。

 ひどい話だがこうして笑い飛ばせるだけいいだろう、こっちは惨殺と爆破だ。


「なあイチ、お前はどーよ? ハーバー・シェルターってどんな感じだった?」

「ああ、いや……そんなに記憶はないけど、あそこは――」


 仕事も忘れて俺たちが盛り上がってると、ニクが「ウゥッ」と唸った。

 楽しい会話はおしまいだ。各々銃を手にして警戒態勢をとる。


「……見つけた。道路に車が止まってる、この前と同じようなヤツね」

「様子を見るわよ。少しでも怪しいところがあったら先手必勝で」


 ドギーとシャンブラーはすぐに気づいたようだ。

 追えば遠くの道路にいた。機銃を積んだトラックが一両、既に何名か降車してる。

 双眼鏡で様子を見てみると――近くの物陰に機関銃やらを運んでる、つまり。


「確認した、敵だ。荷台から機銃を運んでる、待ち伏せの準備中らしい」


 俺はそう確定した。するとがちゃりとハンドルを引く音が聞こえて。


「おっと……敵だぜ皆さま! 任務開始だァ!」


 アーバクルが隠す気のない叫びと共にぶっ放し始めた――状況開始だ。



 今日も朝食を食べ、山を登り、それから特別な武器の訓練を受けていた。


「……さて、お前は大体の銃は扱えるようになったが、選択肢はもっとあったほうがいい。そういうわけでこういうのはどうだ?」


 訓練に付き添うのはツーショットだ。こういうのは得意らしい。


 いつもの射撃台の上にはごつい武器がいっぱいだ。

 一つを除けばほとんどがいわゆる重火器(ヘヴィガン)というやつで、鎮座しているだけでもひどく殺意を感じる。

 こんなものの訓練をさせるということは、そういうことなのか。


「……今日はずいぶんと派手だな」

「いわゆる特殊な武器さ。使い方には気をつけないといけないが、ちゃんと扱えれば一人で何十人分もの火力を持つことができるぞ。さあ、まず一番左のやつからだ」


 最初に手作りの武器じゃない、いかにもハイテク兵器だと分かるそれを掴む。

 持ち上げようとするとかなり軽かった。

 プラスチック系の感触がして、芯が重たいということを覗けば玩具みたいだ。


「……これはなんだ?」


 アイテム名は『アフターマス』というらしい。

 ライフルからグリップ周りをトリガーガードごと引っこ抜き、自動拳銃のスライドを乗せて角ばった銃身を伸ばしたようなものだ。

 黒色と土煙色が混ざった見た目のそれは、おそらくは戦前の品なんだろう。


「戦前に作られたアフターマス・レーザーピストルだ。そこのプラズマセルっていう電池を挿入すれば撃てる。威力も悪くないが銃を撃ってる感じがしないのがつまらないな」

「レーザーピストル? ずいぶん近未来的な銃もあったんだな……」

『は、ハイテクなんだね……』


 少なくとも元の世界じゃ実用化されてないレベルの代物だ。


「ツーショット、こいつはどうやって撃つんだ?」


 銃の形を確かめていると、近くに置かれたものを「そいつだ」と促された。

 太ってしまった単三電池を白く染めて、五割増しに延長したようなものだ。

 親指を追い越すそれに触ると『プラズマセル』と出た。これが弾らしい。


「自動拳銃と同じだ。撃鉄のあるところが挿入口になってて、スライドを引くとカバーが開く、あとは分かるよな」


 言われたままにカーキ色のスライドを引くと、かしっと後ろの部分が開いた。

 その空間にプラズマセルを差し込んでみるとかちっと音がして、


「おっ……おお?」


 銃本体からかすかな振動、そして『30』という数字と照準が浮かぶ。

 こりゃすごい、軽い上に装弾数が自動で表示されるのか。

 俺は15mほどの場所にあるシルエット向けてトリガを引いた。


*zbom!*


 火薬のそれとは違う鼓膜にじわっと響くような銃声。

 反動は少し震えるぐらいだが、標的に焼けたような痕が刻まれていた。

 何発か撃つとすんなり当たる。実弾より使いやすいかもしれない。


「……いいなこれ、初めて打つのに良く当たる」

「火薬抜きの銃なんていけすかないが音だけは最高だ。さあお次は?」


 次はドラム式の弾倉を差し込まれた巨大な散弾銃みたいなものだ。

 結構重い、弾倉を抜くと50口径弾より大きい橙色の弾が詰め込まれている。


「ずいぶんデカい弾だな」

「そいつは25㎜オートランチャー、十二発入りのドラムマガジンつきだ。細かい仕事をこなすにはそれが一番、ボルトを引いてドッグマン型の標的に撃ってみろよ、気に入るぜ」


 側面のボルトを引いて『25㎜オート』をしっかり構えた。

 50mほど離れたドッグマンに似せたターゲットを狙って発射。

 ばしゅっという音がして遠くで弾が小さく爆ぜた。

 木製の怪物の半身がはじけ飛んでいる。実戦だったらワンキルだ。


「……うわっ、爆発しやがった。本物だったら即死だな」

『ひえー……』

「25㎜はじゃじゃ馬だがいいもんだぜ。さて次は……お待ちかね、40㎜だ」


 続いて、キャラバンからボスが購入していた巨大な単発銃だ。

 MT9という名前のシングルショット式のグレネードランチャーらしい。


「そいつはすげえ便利だぞ? 堅牢で、使いやすくて、手軽に高い火力をぶち込める。弾は至近距離じゃ爆発しないようになってるから安心しな」

「……25㎜よりやばそうだなこれ。俺が使っても大丈夫なのか?」

「今回使うのは訓練用の弾だ。自爆の心配はすんなよ?」


 本体は三連散弾銃ぐらいずっしりしてるが、弾の重さが明らかに違う。

 もし誤射しようものなら痛い目見るような類のシリアスな弾だ。


「水平二連と同じ感じで装填しろ。レバーを操作して留め金をいじれば開いて、撃鉄がオンになる。弾を込めたら後は撃つだけだ、さあ楽しめ」


 言われた通りに銃身をかちっと折って、40㎜の訓練弾を慎重に詰め込んだ。

 そして戻した、発射準備完了、遠くの車の影にいる人型を狙う。


「……構え心地はライフルみたいな感じだな」


 木製ストックを肩で受け止めて、トリガを引いた。


*Pom!*


 てっきりものすごい銃声が来ると思ったら、大きなコルクが開くような音がした。

 弾は――当たったんだろう、車の残骸からバキっと音がした。


「今のが実戦だったら敵が死んでたな。そいつにはあだ名がある。サンパー、ブルーパー、グレネーダーとかな。さて次だ」


 お次は……なんというか、切断した鉄パイプに発射装置を組み込んだような粗末な作りのロケットランチャーだ。

 すぐ隣に置いてある手作り感溢れるロケット弾には『NOOB』と書かれてる。


「それはウェイストランドでよく使われる手製のロケットランチャーだ。材料はインスピレーションと敵への憎悪と排水管に使われる金属パイプ、俺たちはパイプランチャーって呼んでる」

「なあ、これ……撃っても大丈夫なのか? 暴発とかしないよな?」

『て、手作り感いっぱいだね。本当に撃てるのかな……』

「大丈夫、今回は炸薬抜きだ。まず本体後部の栓を開けて50㎜ロケットを差し込め」


 一メートル以上はあるランチャーを持ち上げてみると、案外軽かった。

 しかし本体に対してロケットが重い。

 一発だけならまだしも、これを何発も持つとなると大変そうだ。


「50㎜ロケットの産地は戦前の無人兵器の腹の中だ、運が悪いとこっちに向けられる機会もあるだろうな。もし撃たれる時があったら急いでその場から離れろ、止まってたら死ぬぞ」

「あってたまるかそんなチャンス」


 パイプランチャーの後尾を引っ張ってスライド、装填口に弾を慎重にねじり込む。

 準備完了。担いで、備え付けられた粗末な照準をあわせた。

 標的は距離50mのドラム缶だ。砲身の上の発射ボタンを握った。


*BashM!*


「うおっ……!」

『にあっ……!?』


 思った以上に強烈な反動が襲い掛かる。

 ロケット弾は鈍い音を立てながら標的に命中、べこっと貫通してしまったようだ。


「……当たったな」

『すごい……当てちゃったんだ』

「お見事! こういうデカブツに使う弾にはゲン担ぎで必ず敵に向けた"メッセージ"を刻むんだ。サプライズプレゼント、とか、これでも食らえ、とか好きなセリフを書いておけよ」


 物騒なオモチャだ、こいつをアルテリーどもにお見舞いしてやったらさぞ効くだろう。

 さて、お次は――握りこぶしよりも大きくて赤いジャガイモだ。

 大ぶりで栄養いっぱい、煮崩れしにくいので煮込み料理にもぴったりらしい。


「……ツーショット、このじゃがいもはなんだ?」

「じゃがいも? そんなもん置いてないぞ?」

「いや置いてあるんだよ。なんでこんなとこに芋が――」


 一体どこのリム様がこんなものを置いたんだろうか。

 用途不明のじゃがいもを手に射撃場の中を見ると、


「――私にお投げなさい」


 ……近距離用の人型ターゲットに混じって、ご本人がいた。

 エプロン姿の小さな悪魔は、すべてを受け入れる包容力の高い笑顔を浮かべている。


「……おい、なんだあいつ」

『なにしてるのりむサマ!?』

「ありゃ魔女様だな、位置的に標的の一種だ」

「いやそうじゃねーよ。なにしてんだよあいつ」

「さあ、私にお芋を貢ぎなさい」


 奇行に走る魔女は俺に向かって両手を広げだした。


「……だとさ。イチ、そのジャガイモを投げてやれよ」

『……ほんとに投げちゃうの?』


 もうこれ投げないと帰らないパターンだろう。

 よく分かった、そのご期待通りに俺の投擲をお見舞いしてやる。


「オラッ! 食らえッ!」


 ジャガイモを拾って遠慮せずリム様へとぶん投げた。おでこにべちっと命中。

 ごろっと芋が落ちるが、本人はさしてダメージも受けていない様子で。


「きさまはそこくをうらぎった!」


 それどころか謎の言葉を向けながらジャガイモをぶん投げてきた。


「いてっ」


 額にべちっと当たった、痛い。


「ひゃっはーーーーーーーーーーッ!」

「あっおい! 待てこの野郎!」


 リム様は町の中へと逃げて行った。じゃがいもだけを残して。

 何がしたかったんだよあいつ。


「魔女様ってほんと変わったやつだよなあ。予測不能で見てて楽しいぜ」

「おいミコ、魔女ってみんなああなのか? あいつジャガイモぶつけてきやがったぞ」

『……あんな感じとは言わないけど、みんな濃い人だよ』


 その日は重火器の取り扱いをじっくり練習した。


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