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61 世界ぶっ壊すやつ


 言った、教えた、あの時感じた違和感をすべて告げた。

 確定したわけではない、だけどまるで懺悔をしてるような気分だった。


「蘇ったら増えていた、と?」

「――ああ。っていっても、北で何個か見ただけだ。関係ないかもしれないけど」


 黙って話を聞いていたリム様は難しそうな表情だ、良くない意味で。


「……何度死んだか、覚えておられますか?」


 その表情はこちらを向いてきた。二つの黒白目が、妙に恐ろしく感じる。

 何度死んだって? このこいつに記録されてるとも。

 そうだとも、開けば分かる。それなのに手が進まない。いやな汗を感じる。


『いちサン……? 汗、すごいよ……? 大丈夫?』


 短剣の声で気づく、顔に汗がどろりと伝っている。

 余計にも死に続けた日々が胸に蘇る。いや、俺は一体何を怖がってるんだ? 

 ああそうさ、びびってるよ。自分の生き死にと結びついてるなんて考えたくない。

 だからこそ――画面を開く。そこにはせいぜい「47」とある。


「……47回、死んでる」


 改めて自分の死と向き合うと、一人が負うには多すぎる気がした。

 だがそんなことはどうだっていい、47回だ。もし一回死ぬたびに一つ現れるとしたら今頃ボルタータウンの周りは――

 いや、待て、思い出せ。地上(ニルソン)の様子がおかしくなってる? 土地が豊かになって、この世界にあるまじき生き物がいて、水脈が戻った?

 目の見える範囲じゃなかった? この世界のいたるところにあるのでは(・・・・・)


「もしもですけれども。一度死ぬたびに世界が置き換わっているのなら、納得がいきます」

「……納得? どうしてだ?」

「ここに来るまでの間、この世ならざるものがいっぱいありましたから」


 つまり、こうか。世紀末世界の彼方此方に、あの現象が起きていると。

 この世界には俺が目にした以上に場違いなものがあるんだろう。


「例えばどんなものが?」

「色々ですわ。オークシティ近辺の森、ドワーフ鉱山都市の郊外の一部、りっちゃ……マスターリッチの街にあるカタコンベ、暴走した守護者の眠る遺跡に、私のじゃがいも畑……まだまだあるかもしれませんが、この世界に散らばっていました」


 いいさ、この際信じてやるとしよう。

 それで? お前がすべての原因だから死ぬなってか?

 俺だって死にたくはないし死ぬつもりもないさ。

 本当に死んじゃいけない理由もできた、でも、どうしろっていうんだ。


「……よく分かった。俺のせい、なんだな」

「……ごめんなさい、そうとしか言えませんわ。こちらに来る前、あちらでも見慣れないものが沢山現れていましたから」


 もしもだ、47回死んで47個の何かがこちらに移っていたら?

 あんな風に――巨大な塔やら森やらがいきなり荒野に現れる。それで周りの環境すら一緒に持ってきてしまったらこの世界はどうなる?

 納得がいく。遠変な化け物が出たり、環境が変わったり、たくさんのものを巻き込んで世紀末世界を滅茶苦茶にしている。

 それにミセリコルデ以外の誰かを引き込んでしまった可能性もある。最悪だ。


「他にも気になることがある」

「どうかしましたの?」

「タカアキたちがあの世界にやってきたのはいつだ?」

「今から三か月と十日ほど前ですわね、それがどうかしましたの?」

「ミセリコルデが言うには俺は二か月遅れてるらしい」

『……そう言えばそうだったね』

「イっちゃんだけ遅れて転移……?」


 自分がなぜかスロースタートしたことを伝えた。

 するとリム様は片腕にくくりつけた腕時計のようなものを調べ始めた。

 皮と真鍮で作られた歯車仕掛けだ。様々な針が時間から方角まで幅広く計っている。


「……なんだそれ」

「カッコいいでしょう? 歯車仕掛けの街で作られた出資者限定モデルですの。方位計測、魔力測定器、日付表示、いろいろついてしかも頑丈、これを持ってるのはおじいさまと私とリーゼルお姉さまだけですわ」

「まあ、デザインの良さはよく分かる。で、そいつがどうしたんだ?」

「時間の流れは変わってませんわ。ええと、つまり、2つの世界は同じ時間を共有していますの」

「……俺だけ二か月後スタートってことは確実か、理由は分からないまま」


 こっちと向こうで時間の流れが違うということはないみたいだ。 

 これだけは良く理解した。俺はクソとんでもないことに巻き込まれている。


「あいつ、気づいてたんだな」


 だけど少し嬉しかった、タカアキが俺のことに気づいてくれていたのだから。

 真っ先に気にかけてくれたんだろうか、ほんと世話焼きな奴だ。


「……たかちゃんのことなのですけれど」


 タカアキのことを考えていると、リム様がなにか差し出してきた。

 封蝋で封じられた手紙だ。なんとなく差出人は分かる。


「手紙を預かっていました、あなた宛てへの」

「あいつの手紙か」

「一緒に伝言も預かりましたわ。いつものクソみたいな文章だから気持ちの整理がつくまで読むなよ、と」


 どうせ開いたら怪文書でも書いてあるんだろう。

 分かってる、あいつはそういうやつだ、この気遣いはいつものあいつだ。


「良く分かってるやつだよ、あいつは」


 今の俺にとってはこの中身の文章より、この存在そのものが大事だ。

 手紙を受け取った。身の回りが落ち着いたら見よう。


「……そうだ、もう一つ気になってることがあった」


 ついでだ、魔法が効かないことについても聞いておこう。


「なんですの?」

「魔法が効かないんだ。回復魔法も攻撃魔法も」


 そういって実践してやろうと思ったが、リム様が「え?」と急に黙ってしまう。

 さっき会ったばかりの時に向けられたあの表情を濃くしたような感じだ。


「おい、どうしたんだリム様。ひょっとしてかなりヤバイとか」

「――嘘でしょう? どうしてあなたが?」


 口に手をやって信じられない、といった感情を抑え込もうとしているようだ。

 一体どうしたんだろう、俺を誰かと照らし合わせてるんだろうか。

 感覚がヒントを教えてくれた、ひどくショックを受けている。


「……ええと」


 だけどほどなくして立て直した。


「あっちの世界をぶち壊すぐらいマジでヤバイ能力ですわ」

「…………ん? んん?」


 そうして突き出された答えは穏やかじゃなかったようだ。


「一言で言い表せば超バランスブレイカーです。あなたに向けられた魔法、というかそれに類する異能、全部破壊されて無効化されますわ」

「おい、何をいって……」

「魔法で作られた武器も、魔法で強化された肉体も、魔法以外の異能力も、全部破壊して防ぎますの。魔女も殺せる力、ということにもなりえますけども」


 俺は足元で丸まってるガチョウに「マジか?」と首をかしげてみた。

 かくっとうなずいてきた、返事は「YES」だった。


「その……面倒くさそうなのが俺にあるって?」

「ええ」

「……聞いていいか? なんでそんなに詳しいんだ?」


 さっきより雰囲気が硬くなってしまった相手に尋ねてしまった。


「私たちの大事にしてた子が、あなたとそっくりでしたから」


 悪い選択肢だったのかもしれない、リム様の顔が一段と曇った気がした。

 よく分からないが、前例アリ、訳アリってことか。

 それで、俺はとんでもない爆弾を何個も抱えてるってか。

 死んでも死ねなくて、蘇るたびに世界が入れ替わり、魔法が効かないヤバイ能力があって……おい冗談だろ。


「……聞かなかった方が良かったな」


 せっかくいろいろ話してくれたのに聞いて後悔した。

 どこまで聞いたか知らないけどボスたちはものすごく話に割り込みづらそうだし、ミセリコルデは黙り込んでしまってる。


「キャンッ!」


 沈黙してるとびしょ濡れになったニクが酒場の中に入ってきた。

 それに続いて半裸のアレクとバスタオルを巻いたサンディが追いかけてきて、


「姉者、無理に洗わなくても良いのでは……」

「……だめ、ちゃんと洗わないと」

「クゥゥゥン……」

「おい! アレクにサンディ! うちの店に濡れた犬連れ込むな馬鹿ども!」


 泡まみれのシェパード犬は助けを求めながら、二人に連れていかれてしまった。


「おい、勝手に聞かせてもらったが……まあ、あんたらの話はどうだっていいさ」


 ニクは後で助けてやるとして、ボスが立ち上がる。


「おチビちゃん……いや、リーリムっていったかい? あんたさっき作物の種を持ってるって言ったね?」


 タカアキが持って行けっていってた植物の種のことか。

 きっとあいつのことだ、この世界に持ち込めば食糧事情をかなり改善できると考えてたんだろう。

 あるいは――


「ええ、もってますわ。あなたたちが欲しいものもいっぱい、ね?」

「そうかい。じゃあ話は早い」

「ふふ。まさかよこせ、とおっしゃいますの?」


 でも少なくとも、間違いなくこの魔女は理解してる。

 この世界でそういったものがかなり貴重だってことをよく分かってる。


「そういうわけじゃないさ。だがそいつがあれば――」

「この世界の食糧事情が改善される、と?」

「まあ、そうだね。お上品に譲ってくださいと頼もうとしてたところさ」

「……ふふ、もちろんいいですわよ。でもちょっとお話したいことが……」

「……なんだい」


 ボスと魔女がなにやら怪しい雰囲気になりつつある。

 ところが途中、二人があきらかに顔をこっちに向けた気がした。


「ちょっとこっちで話しましょう。大丈夫、魔女うそつかなーい」


 リム様はふらふらと酒場の隅へいって、こそこそ話し始めた。

 ぶっちゃけ少し気になる。

 集中して、身振り手振りや口の動きと一緒に声をかき集めてみると。


『本気かい? 悪魔と取引してる気分になってきたよ』

『大丈夫ですわ、魔女リーリムの名において約束します。だからどうか信じてくださるかしら?』

『ちっ……こういうクソみたいな取引は嫌いだよ。だがまあ、信用できる部分がある。そこを信じてやろうじゃないか』

『あら、会って間もないといいますのに。何か信じてくれる材料でもあったかしら?』

『犬だよ。あの子は他人の悪意に敏感だ、だがあんたに懐いてた、それだけさ』

『ふふふ、私が人間じゃないからかもしれませんわよ?』

『まあ、あんたの見た目は悪魔みたいだがね』


 ……話は案外簡単にまとまったみたいだ。


「ははっ、ボスが悪魔と取引してやがる。世も末だな――いや、元からか」


 ツーショットだけがおかしそうに笑っていた。


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