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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
The Witch's Hound (魔女の猟犬)
580/580

4 堂々たる憩いの姿を、それがフランメリア(4)

~修正パッチ~

・主人公が拾った資料が掲載されました。

・ブルヘッドの終盤に【DLC:レッドカジノ】を追加。

・クリューサ先生が強化されました。

・それに伴いブルヘッドの話を修正、調整。

・ウォーカーの設定を大幅変更、百鬼を強化しました。

・ウォーカーの起動プロセスなどを大幅変更。

・ウォーカーに高速移動装置を実装。

・アクイロ准尉の化け物化。

・主人公の女装潜入案を採用しました(いつもの人ありがとう)。

・冒険者の名前の変更など。

・白き民を倒すと世界がアップデートされるようになりました。

・今後冒険者ギルドあたりの話にちょっとした冒険が追加予定。

・デスモモイで抜きました。

・あと大量の誤字を修正する苦行(現在進行形)

・ミッドナイトノベルに何かが…?

・そうそう、ミッドナイトノベルにR18版行くかも。

・フェルナアアアアアアアアアアアアアアア!

 エレベーターと倉庫まで続く地下通路を作って大正解だった。

 台車で運べば地上まであっという間だ。これで無駄な肉体労働が減った。

 倉庫もコンクリート壁に置き換えてエレベーターを包むように増築した。

 キリガヤとメカを連れて使ってみたが、以前の三分の一ほどの手間で片付いてびっくりだ。文明の利器万歳。


 それから要望通り食堂を拡張したりして――


「ちょっと待てや! この脱衣所窓ねえぞォォ!?」

「もっと構造大きくせんか! こういうのは大胆に作らんと狭っ苦しくて使えんぞ! やり直し!」

「ねえ君たち。今後のために学ばせたい気持ちは分かるけども、本格的な建築図面じゃなくハウジング機能に則った図面通りに作らせた方がいいんじゃないかな? その方がやりやすいし自信もつくと思うんだけど」

「おいおいヌイちゃんよ、こいつの絶望的な建築センスは知ってんだろ? 俺たちのおんぶにだっこがなきゃまともなもん作れませんじゃ勿体ねえじゃん? 今のうちに矯正しねーと駄目だぜこりゃ」

「なーに甘いことぬかしおる! こやつがわしらの顔色伺っていちいち確認しなくなるまで荒治療じゃ。その甲斐あってか屋根の構造を自分で考えて作れるぐらいにはなっとるじゃろ?」

「クラフト系ゲームにおいてこの世の終わりみたいな豆腐建築しか作れなかったシューちゃんがちゃんとした屋根を……!? 馬鹿な私のデータにはないぞ!?」

「んもー注文細かいし好き勝手言う……」


 タカアキとスパタ爺さん(とヌイス)の監修のもとで浴場建設をやっと終えた。

 食堂と宿舎の合間の先で生まれた試行錯誤が存在感を一際放っていた。


「にしても、まさかこんなでっかい風呂作るはめになるなんてな……」


 一度疲れた目で大きなそいつを見渡す。


 木の壁の暖色と白い壁材が混ざった木造建築がほのかな和風を漂わせていた。

 玄関を抜けると休憩所兼広間があって、そこから男湯と女湯に通じる左右対称の構造だ。

 広間の最奥は機械室だ。建物から飛び出た区画に温水器やポンプが並んで、そこで湯を沸かす。


 ……言うには簡単だろうが、このために費やした努力は大変だった。

 風呂の構造なんざよく分からない状態から「配管はこうだ」「換気はああしろ」「湯船はこうしろ」と叩きこまれた。

 ここの冒険者たちを収められる規模の浴場にはなった……はずだ。


「風呂好きな日本人には大事なもんだろ? んじゃお湯張ってみっかー」

「最後に湯船の状態も確認せんとな。内装とかも忘れず撮影するんじゃぞ、今後作る時の参考にしとけ」

「今日一日でここの文明レベルが著しく上がっているね。やっぱりシャワーじゃ疲れは取れないものだし、お風呂があると私も嬉しいよ」

「みんな風呂入りたいって言うから頑張ったよ。あとは湯加減チェックだな」


 ここまできたらお湯をはるだけだ、全員で大浴場に向かった。

 脱衣所から引き戸を開けば、大浴場という大げさな名に相応しい空間が広々としていた。

 タイルが小奇麗に張り巡らされていて、木の屋根の下で青灰色の湯舟が利用者たちを待ち構えてる。


「……浄化の魔法を要所要所に刻んでおいたわ。これでこのお風呂場は私の支配下よ」


 ところが先客がいた。青白い肌の巨大なお化……レージェス様だ。

 浄化の魔法をかけてもらって使用済みの水をきれいにしてもらう寸法である。


「どうもありがとう。ほんと助かってるよ」

「いいのよ、イチちゃんの頼みだもの。お風呂の準備が整ったらさっそく湯浴みをさせてもらうわ――ところでそこの陽の気漂う金髪眼鏡の知的そうな子は誰かしら?」


 手伝ってくれたレージェス様は人見知り混じりに乳をどっっっしり乗せてきた、首が重苦しい。


「イチ君、そちらの時々現れる胸がやたら大きな八尺様めいたお方はもしや噂のレージェス様かい?」

「なーにおどおどしとるんじゃレージェスめ。ヌイスよ、こやつがわしらがたびたび口にしとった浄化の魔女じゃぞ」

「この人の頭におっぱい乗せてるのがまさに魔女様だよ。で、そこの頭良さそうな金髪眼鏡はヌイスだ。大丈夫こわくなーい」

「相変わらず背でっけえよなレージェス様。ヌイスは俺たちの……まあ家族みたいなもんだぜ、つーかイチの保護者?」

「そうだね、彼の家族みたいなものさ。リム様には以前からお世話になってるよ、こうしてこの国が誇る魔女様に会えるとは光栄だね」

「いや保護者ってなんだよ。あと重いからおっぱい降ろしてくれ」

「あら、そうだったのね? どこの馬の骨かもわからぬ陽キャだと思ってずっと警戒していたわ。私こそが浄化の魔女レージェスよ、以後お見知りおきを」

「里のところどころに貴女の魔法が使われていて実に興味深いものだったよ。なるほど、一筆入れただけで浄化の作用が働くのか……この国の衛生事情が著しく上がるのもうなずけるよ」

「一番国に貢献しとる魔女といや間違いなく魔女レージェスじゃろうなあ……ほれ、注水せんか」


 自己顕示欲が満たされて嬉しそうなデカ魔女を背に、PDAで浴場の機能をオンにした。

 少しするとぢょろっと湯が出始めた。みんなで見守ろう。


「今起動した。うまくいくといいな」

「にしてもすげえよなあ、ここの水回りの課題ことごとく潰してくれてるもの。アサイラムがここまで発展してんのもレージェス様のおかげだな」

「うむ。本来こーゆーのは使った湯を回収して、ゴミを何度かわけて掬いとって、そいつを消毒してろ過してまた温めてのくっそ面倒な工程がいるんじゃがそーゆー工程省けるんじゃぞ? これで都市の衛生事情がどれだけ改善されたことか……」

「それだけじゃないよ、工業廃水すら飲めるほどの水にしてしまうんだ。フランメリアの産業から自然環境までレージェス様によって守られてるといってもいいほどさ」

「お褒めの言葉が心地いいわ。でもね、私の浄化魔法は万能ではないのよ」

「そうなのか? こんなに至れり尽くせりなのに?」

「いやもう十分万能すぎんだろレージェス様」

「そういえば里のみんなが言ってたね。精密な機械に丸ごと付与したら部品ごと浄化してしまうとか」 

「おーそうじゃったな、ずっと前にわしらの作った鉱山廃水を処理するからくりに直接書き込ませたら、丹精込めて作ったちっちゃい歯車が128個も消えてどえらいことになったそうじゃの」

「そう、私の魔法には気が遠くなるほどの制限がいっぱいあるの。それをこまごま考慮しないといけないのだから、使い勝手の悪さはあなたたちの思う以上よ」

「とはいえおかげで国が助かっとるよ。魔法一つかけるのにえらく財布の中ふんだくられるがの」

「私は安く見られたくないの。それに稼ぎの七割はフランメリアの水環境保護費用に回しているわ、この国の豊かさを守っていると思ってくれないかしら」

「ちなみになイチ、レージェスの浄化は本来えらく金がかかるんじゃぞ。この湯船一つで百万メルタはふっかけられると思え」


 挟まる話に「百万メルタ」なんて値が出てびっくりした。

 嘘だろレージェス様。つい指で「これが?」と湯船を指してしまった。


「百万って何かの冗談? びっくりさせようとしてない?」

「おいおいすげえ数字がぽんと出てきてるぜ。えっマジで言ってんの?」

「本当よ。でもイチちゃんのためだったらお安い御用、気にしなくていいわ」

「とんでもないことを聞いてしまったよ私は。なるほどね、つまり今のアサイラムは既に数百万メルタ以上の価値が付与されてるのか」


 本当らしい。ずっっしり重いドデカ乳圧がそう語ってる。


「ちゃ、ちゃんと返した方がいい……?」

「どうして返したかったら身体で払ってもいいのよ? ふふ……♡」

「おいさらっとセクハラに移るな――おっと、お湯出てきた」


 また一つ借りを作ってしまったがお湯がどばどば溢れてきた、成功だ。

 みんなで風呂の成り行きを明るく見守ろうとするも。


「お風呂できたのカ! 一番風呂はワタシが貰うゾ!」


 ばーん。

 盛大に空いた引き戸からメーアがぺたぺた突入してきた。

 しかも機能性重視の水着一枚で一番風呂をもらう気満々だ。気が早すぎる!


「わーいボクも入る~♡」


 またなんか来やがった。後追うピナがとことこエントリーだ。

 早すぎる判断力で服を捨てながら一直線である。せめて脱衣所で脱げ馬鹿!


「あっこらお湯張ってる途中だぞ!? 勝手に入るなお前ら!」

「気が早すぎんだろこのロリども。あーあ、女湯になっちまったな」

「わはは、元気なこった。湯加減チェックはあやつらに任せるとするかの」

「さっそく利用者が現れたね、大浴場はいい滑り出しみたいだ。次は発電機の設置に取り掛かろうか、私たちは倉庫へ向かってるよ」

「まあ、なんて無遠慮な子たちなの。これだから陽の者は恐ろしいわ……」


 鳥ッ娘&魚ッ娘が元気に入浴をキメるとレージェス様が退散してしまった。

 風呂の調子はあの二人に任せようか。俺たちも各々女湯から引くことにした。


「なんかおっきいお風呂できてる! いちくんが作ったの!?」

「もうなんでもありですねあにさま……ていうかピナねえさまとメーアちゃん、もう入ってるんですか? いろいろ早すぎません?」

「ピナ様のお召し物が散らばっておりますね……はしたないです」


 脱衣所を後にすると九尾院の三人、キャロルとコノハとツキミとばったりだ。


「鳥ッ娘と魚ッ娘なら一足早く入浴中だ。お湯溜まってから入れって叱っといてくれ」

「もう入ってるんだ……なんだかいいお出汁でそうだね!」

「ああ、鶏ガラと魚介ってところだな。植物系のヒロインも入ればいい具合になるんじゃないか?」

「スープじゃないんですよあにさまがた」

「ただいまお着換えを持ってまいります……」


 二人から出た味も浄化魔法ですっきりするはずだ。脱衣所前に【女湯】とサインを立てておいた。


「うわほんとにお風呂作っちゃったの!? イチ君ありがとね、団長さっそく入りま~す♡」 

「あーしも入っちゃおー! いっち大好き~♡」

「お前らもかフランとチアル!」


 するとフランとチアルも女湯に引き寄せられていった。気の早いやつらめ!

 オープン間もなく大盛況な浴場を後にすると――


「おま……ほんとに作りやがったこいつ。いや確かに風呂に入れるのは嬉しいがな……」

「マジかお前。すげえ、入浴施設ができてら……」


 立派な佇まいにつられたであろうタケナカ先輩とシナダ先輩が驚いてた。

 数少ない男性陣もより集まって興味津々のまま驚き喜びざわめくほどだ。


「アサイラム温泉へようこそ。ただいま試運転中だ、男湯は入って右だから間違えないように」

「ここを観光地か何かにするつもりかお前は。だが久々に熱い湯にゆっくり浸かれるなんて嬉しい話だ」

「うんうん、日本人はやっぱ風呂だよな――じゃあ次はサウナ作ってくれ」


 が、シナダ先輩がさらっとサウナ作れとか言い出した。

 冗談かと思ったらなんかもう「作ってくれるよな?」みたいな眼差しだ。


「サウナも作れるんですか!? いやあこんな場所でサウナに入れるなんて最高ですね、何かお手伝いすることはあります? 木材が必要なら伐採してきますよ?」


 おいミナミさんも便乗してきたぞ。しかもすごい食いつき方だ。


「ほう、サウナですか。それでしたら私からもご助言できるかと思います。こう見えて各地のサウナを渡り歩いてきたものでして」


 七三分けの黒髪をきりっとさせた筋肉強めなおっさんも突如として現れた。

 前に東側の調査に参加した日本人パーティのリーダーだ。ブロンズのシートと白輝きする歯がきらっと眩しい。


「サウナは心身にいいものなんだ! 俺も入りたいぞイチ!」


 キリガヤも暑苦しく混ざった。お前もか……。

 それどころか「俺も」「私も」とぽつぽつ手が上がる――結構いるなオイ!?

 そもそもサウナの構造から美点まで分からないんだぞこっちは。


「そんなにご希望なら作ってやるよって返したいけどな、えーと……」


 サウナの「サ」あたりで困ってると、特に存在感の強い七三分けはニカっと輝かしく笑んできて。


「コウジと申します。サウナのことならなんでもお尋ねください」

「コウジさんか。そもそもサウナって何ってレベルからだ、その辺手助けしてくれると作れると思う」

「では今から図にしますのでそちらをご参考にしてください。なに、仕組みはとても単純ですよ」


 コウジと名乗るおっさんは人当たりのいい笑顔で協力を申し出てくれた。

 速やかに大浴場の広間で図面に取り掛かったようだ。どんだけ入りたいんだ?


『ミナミさん、やはりここは薪を使ったサウナというのはいかがでしょうか? 高温でさっぱりとするにはやはりあの火力が……』

『薪……いいですね、元の世界じゃ贅沢なものですよ。あ、でしたらこんなデザインはどうです?』

『シンプルかつメンテナンス性も良さそうで素晴らしいです。となれば外気浴と水風呂も――』


 おっさんどもはストレンジャーには理解できない話を熱く展開してる。

 いや別にいいけどさ、あんな蒸し焼き拷問の何がいいのかさっぱりだ。


「ってことでこだわりのサウナも作っとくよ。みんな楽しみにしててくれ」

「いいねえ、久々のサウナだぜ。ちゃんと水風呂もつけとけよ?」

「お前らなあ……」

「なんだよタケナカ、サウナ嫌いか?」

「いや別に嫌いじゃねえがな。俺が言いてえのはせっかくの休みだってのにイチにあれこれ作らせんなよってことと、こんなもん建てちまっていいのかってことだ」

「ちょっとした勉強にもなるしどうせ指先一つで片づけられるから気にすんな。その代わり過去も未来もクソ重い俺と末永く付き合ってほしい」

「おいどうしたいきなり意味深なこといいやがって」

「へっ、サウナ作ってくれるならどこまでも付き合うぜ俺は」


 こうして今後の付き合いのためにサウナも作った。それから水風呂もだ。



 大浴場の建設が終わったあと、今度は西の川に来ていた。

 タカアキとスパタ爺さんの三人がかりで、横二メートルほどの重たい長方形を支えたままざぶざぶ彷徨ってるところだ。


「この辺でいいか? もっと奥か?」

「おっっも……! なあ、素直にパワフルなやつに頼んだ方が良かったんじゃねえの? ノルベルトとかさぁ」

「この程度オーガの手を借りるまでもないわ。ほれ、もっと下側に運ぶぞ」

「深さからして排水管から少し下がったところがいいかもね。ゆっくりと川の中へ降ろしてくれたまえ、不安定な場所に置かないようにね」

「ここならどうだ!」

「そうだね、もうちょっと奥に置いてくれないかな? 川の流れを可能な限り受け止めたいんだ」


 排水パイプから下ったあたりでそいつをずっしり重たく降ろした。


「こいつが今朝言ってたなんかすごい発電機か。スクショ見てなかったら特大サイズのゴミ箱と間違えそうだな」

「あー重かった。にしても川の中に置くだけでいいのかよ? 水力発電ってのはもうちょっとこうお気楽じゃなかった気がするぜ?」


 川の流れの中で見た目以上にクソ重かった発電機が横たわってる。

 金属とプラスチックでこしらえた先進的なブルーの外観は傾き方次第でゴミ箱にも見える。


「うむ。試作型小型水力タービン、その名も『ケルピー』じゃよ。環境にうるせえエルフどもが文句つけれんよう里のもん総出でこだわり抜いてやったわ」

「ところどころ改良が加えられてるね。というか水の中に引きずり込む魔物の名前を授けるとはいささか悪趣味じゃないかな? 事故死でも起きそうなネーミングだよ」

「それだけ強力なもんと受け取ってくれんかの。こいつはすげえぞ、こんなナリしてちょっとしたディーゼル発電機ばりの出力じゃよ」


 二人が饒舌に話してる矢先で、ゴミ箱寸前のそれは川に溶け込んでた。

 設計者の意図通りに取り込み口の奥で丸いブレードがぐるぐる回ってる。


「うん、いい場所だね。それじゃ取っ手横にあるレバーを引いてくれるかな? 固定用のアンカーでそこに留めておくれ」


 最後に仕上げだ、ヌイスの頼み通り「こうか?」と上面のレバーを引くと。


*がしゃんっ!*


 発電機の四隅から豪快な音が立った。川底に何かが撃ち込まれた感じもする。

 スパタ爺さんも黒くて太い杭を川辺に打って、頑丈そうなケーブルと発電機を繋ぐ。

 すると杭の平たい頂点でいかにも「充電中です」という緑のランプが光った。


「これで良しじゃな。ほれ、ちゃんと発電しとるみたいじゃぞ」

「作り物の水流より調子はいいみたいだね。発電量を測ってみようか」

「うまくいったか。ところでこれってどういう仕組みなんだ?」

「こんな見た目のくせしてすげえ機能積んでやがんな。ファンタジー世界だよなここ?」

「カッコいいじゃろ~? これはな、このぶっとい杭と発電機に仕込んだアンカーで流されんように固定するんじゃよ。そんでこの杭は蓄電池の役割も兼ねとるわけじゃ。どや? すごいじゃろ?」

「発電機本体には水の流れに反応する魔法の結晶を中に組み込んでいてね。これが入り込んでくる水流を()()()してくれて、中にある数枚のブレードを強く回すんだ。大きなゴミや魚が入っても素通りする仕組みさ」


 思った以上に英知が詰まったそれはごーっと優雅に水力発電をしてる。

 言われてみれば川の流れに対して羽根の動きが早い。科学と魔法の合いの子は頑張ってるらしい。


「わはは、いい感じに動いとるわ! で、発電状態はどうかの?」

「一時間あたり13kwってところかな。15は出ると思ってたんだけどね」

「そんなもんか~。ちょっと期待外れじゃのう」

「でもねスパタさん、このサイズの水力発電でこれだけ電気を生み出せるのは過ぎた代物だよ。これでも申し分ない結果さ」

「その点、試作型の小型風力発電機はご機嫌な時21.2kw叩きだしおったろ? ただいかんせん風の結晶が効きすぎてベアリングやらすぐくたびれちまうから、ありゃ長持ちはせんじゃろうな」

「うーん、やっぱり発電量が大きくなると部品の消耗が激しくなってしまうからね。かといって部品の質を上げるほどコストも維持も大変になっちゃうし、ある程度の妥協は必要なんじゃないかな」

「けっきょくわしらが無理なく持続して運用できんと意味もないか。変な背伸びは止して堅実に次を探るかの」


 なんかすごい発電機を介して出てきたのは、今どきのドワーフ味のある小難しい会話だ。


「タカアキ、なんか難しい話してるけどこれってすごいのか?」

「すげえしやべえぞこれ……このサイズで川の中に突っ込むだけで10kw越えってありえねえレベルなんだぞ? 水の力だけで燃料発電機ばりの出力を叩きだしてやがる」

「ワオ、要はすげえエコってことなんだな」

「G.U.E.S.Tのとんでもテクノロジーのせいで剣と魔法の世界に数段すっとばしな新技術をもらたしちまってんだよ。俺たち責任重大だぜ」

「日に日に責任が増してるんだなよーく分かった。四割ぐらいあのゲームの開発者に押し付けていい?」

「俺が四でお前が二でもいいぜ。くそっ、他に送りたいのあったけどセールだからって全DLC込みでお前に送っちまったばかりに……」


 タカアキと一緒に向こうの二人を少し遠くしていると。


「さて次のテストだ。これをハウジング・システムと結び付けられないか試してくれるかい?」


 今度はヌイスの指先がパワフルに稼働するそれを促してきた

 なるほど、俺を呼んだ理由は拠点との互換性チェックか。


「ここの持ち主的にどう認識されるかお確かめくださいってか?」

「あーそういうことね……ハウジングで設置してねえやつだからなあ、いけるかね。いや、おじいちゃんどもが勝手に増設したブラックプレートで発電量増えてるしいけるかもしんねえな?」

「もしお前さんの支配下にあるこの土地にこんなもんを置いたらハウジングとやらにどう認識されるか気になったのよ。ちと試してみんか」

「そうだね、君の持つ力がこれにどう干渉するのか調べてほしいんだ。ああもちろん壊したりはしないように細心の注意を払ってほしいんだけども、いいかな?」


 ドワーフの里が生んだ英知の塊を試してほしいそうだ。

 お望み通り電力制御図を立ち上げるとすぐ変化に気づく。

 リストに【ケルピーMark3】とあるし、発電状態の確認やハウジングとの同期もできるらしい。


「……なんか普通に認識されてるな。ちょっといじればこのまま蓄電器からテーブルに電力送れるみたいだ、なんだったらこいつからも直接お届けできるぞ」


 そう答えると二人は期待と不安半々で「は?」な顔つきだ、タカアキもだが。

 でも確かにこの発電機が13.2kwを生み出して、杭に電力が溜まる様子もゲージで可視化されてる。


「あのさあお前……ドワーフのお爺ちゃんたちの作った発電機おもっくそ取り込んでね?」

「お前さん冗談いっとる? 一応聞くがそいつの正式名は分かるかの?」

「ケルピーMarkⅢだってさ、三回ぐらい自分磨きしたみたいな名前だな」

「うわ改良回数もしっかり把握されとる……変態じゃ、変態の力じゃ」

「私たちの生んだ発電機が当たり前のようにシステムに組み込まれてるじゃないか……懐が広いというか見境ないというかまさか本当に同期できちゃうとはね」

「無節操な機能だな。どうする? このままそっとしておくか?」

「まあ同期しても大丈夫じゃねーの? したところでぶっ壊れるこたーないだろうし」


 どうしようこれ、と尋ねると総意は「まあ試してみろ」って顔だ。

 物の試しにこの黒い杭をハウジングと同期してみた。

 するとケルピーMark3は当然のように取り込まれて拠点の発電量が上がった。


「はい同期完了――おっ、PDAから遠隔修理もできるぞ。えーと金属にコンポーネントに電子部品とプラスチックと……万能火薬?」

「良かったなみんな、メンテナンスするのに業者呼ばなくていいみてーだ。便利すぎて笑うわこんなん」

「里のみんなが知ったらどんな顔するんだろうね。しかも見事に製造時に使った素材の一部も見破ってるよ、部品の製造に使用した万能火薬すらバレてるし」

「うわマジかお前さん……転移してきたもんから回収した電子部品つかっとるせいか……? ド変態じゃ、ド変態の力じゃ」


 この実験は三人が軽く引くほどの結果に至ったそうだ。

 そうこうやってるうちに広場の方から賑やかさをざわざわと感じた。

 遠くで並ぶ露店が一区切りついてるし、揚げ油の香ばしい香りが漂ってる。


「ご主人、お昼ごはんできたって」

「お昼ご飯の時間でーす……っていちクン、何してるのかな……?」


 そして木陰からニクとミコがこそこそっと昼飯を告げにきた。

 もうこんな時間か。俺も拠点いじりを切り上げようと足が移ったが。


「ちょっとした水遊びだ。ところでその格好どうしたんだ?」


 川を後にしながらも我がわん娘の格好が気になった。

 今は実戦的な濃い緑のジャケットが上半身を守ってる。

 黒スカートとあわさって美少女(男)の風貌そのままにほんのりミリタリー路線だ――太ももに肉がついてニーソ上でむっちり!


「ん、露天の人から買った。どう?」

「ニクちゃんとお店を巡ってたら、行商人さんに勧められて買っちゃったみたいなの……でも、似合ってるよね?」

「本人の意思で買ったならいいんじゃないか? いいイメチェンだ、似合ってる。よしよし」

「んへへへ……♡ もっと褒めてー……♡」

「ふふっ、ニクちゃん喜んでるし良かったかも。わたしも色々買っちゃった」

「俺も後でなんか買うか。ボディアーマーに合うズボンとかあるかな」

「行商人のやつらほんといろいろ仕入れてんなぁ。つーかこのごろ巷で質のいい現代的な衣装が増えてるけどよ、スキルの裁縫ってのが上がるとなんか影響するのかねえ?」

「おや、可愛いね。ちなみに裁縫スキルというのはどうも製作した服にいい効果をもたらすみたいなんだ、数値が高いと頑丈にしたり火に強くしたりとね」

「わはは、よく着こなしてるじゃないの。そういやスキル欄見たらそんなのあったのう、里のもんで試したら確かに品質に影響しとってて驚いたもんじゃ。ならバーンスタインのやつはどんくらいあんだか、あやつなら80、いや90いっとるか?」


 この世界に転移した連中がスキルで生み出した商品ってことか、みんなけっこう順応してきたんだろうな。

 さあ昼飯だ。凛々しく可愛くなったわん娘をもふもふ撫でてから離れた。



 食堂の機能性を良くしたからか昼飯はずいぶん気合がこもってた。

 変に気取らず味よし栄養価よしの品々が揃う光景は今やおなじみだが――


「皆様、本日はオリスさんたちがお持ち帰りになられた『ストライクリザード』のお肉で天ぷらを作ってみました。薄く塩をまぶして引き締めたものを一晩寝かせてからっと揚げたのですが、まるで川魚のようにあっさりとした一品になりましたので是非ご賞味ください。お肉やお野菜が食べられない方のためにもお野菜の天ぷらも多数ご用意しておりますからね」


 厨房を仕切るお淑やかなおばちゃんが恐ろしいことをふんわり広めていた。

 料理が立ち並ぶカウンターを黄金色に彩る天ぷらの大皿がそれだ。

 香ばしく揚げられた旬の野菜やらを押し退けて、指三本をまとめたぐらいのサイズがうずたかく強調されてる。


「ちびどもに返り討ちにされた挙句に衣つけられてこんがり揚げられるなんて壮絶な末路だな」


 まじまじと(何度も)見たが、こいつはご立派な天ぷらの盛り合わせだ。

 ただし主役を飾っているのはストライクリザードの天ぷらだった。

 何も知らなきゃ白身魚だろう。森の出来事も尻尾の所有者も知らなければ。


「こ、これが本物のストライクリザードのお肉なんだね? たしかゲームの中だと皮つきのまま料理されてたよね、ちょっと懐かしいや……」

「私の記憶ではトカゲ丸出しの料理ばかりだった気がするんだが、とても上品な天ぷらになってるな。良い意味で面影がないというか」

「あー分かります、素材の味そのまんまな丸焼きとかおもいっきりありましたもんね。それがどうしてこんなに立派な天ぷら盛り合わせに……」

「団長たちの知ってるストライクリザードじゃない! あ、っていうかさ? これエルが食べたら共食いにならない?」

「食事の場で変なことを言うな馬鹿者! というか貴様だって尻尾が生えてるだろう!?」

「団長はトカゲじゃなくてドラゴンですー残念でしたー」


 ミセルコルディアといえば天ぷらを前に四名揃ってかしましいし。


「持ち帰ったあれがどうしてこうも立派な天ぷらになっちまってるんだか……いや、確かにうまそうだがな」

「ムツミさんノリノリでバケモンの尻尾調理してなかったか。つーか魔獣って俺たちが食っても大丈夫なのか? ぱっと見白身魚って感じだけどよ」

「大丈夫だよシナダ。だって私たちが普段口にしてるお肉だってクレイバッファローとかガストホグとかの魔物なんだよ? お魚と思えばへーきへーき!」


 先輩ども(と猫系彼女)は物珍しそうにサクサクした見た目を眺めてるし。


「よもやこんな形で本物のストライクリザードと相まみえるとはな……。いや、しかしなんだこの補給が十二分に行き届いている有様は、ここにいるといろいろと感覚が乱れていく気がしてたまらん」

「ストライクリザードがこんがり揚げられとる……! でもおいしそうだね!」

「ゲームの中で見た時よりおいしそうだー! 食べていい?」

「ご立派な天ぷらでございます……。ですが私、お肉やお魚を食べられないのが悔やまれます……」

「ま、魔獣料理ってやつですね。言われなければ完全に高級感漂う天ぷらですけど……」


 ロリパラダ……駆逐隊や九尾院のガキどもははしゃいでるし。


「おお、これぞまさしく魔獣の揚げ物。けれども私は草食系エルフ、よって代わりにお兄ちゃんが食べてほしい」

「ムツミさんすごいなあ……ご馳走になっちゃってる。美味しそうだけど、最初の一口はお兄さんからだねー」

「中々に迫力のある見た目でしたが、こうも化けるものなのですね……」

「うまそうダ! 今度また取ってきてやるゾ!」

「かがやいてます……! おにーさん、いっぱい食べてくださいね!」

「す、すごい……でも、あの、だんなさま? 顔色が悪いような……?」


 ロリパラダイ……オリスたちも尻尾の化けように驚いてる。しかも俺に食わせる気満々だ。

 しかも何故かみんな、目の前の黄金色に手をつけようとしていない。

 じーっと俺に視線が集まる。まるでこの天ぷらを生んだ功績者みたいに見られてるフシもある。


「…………うん、すごいな、それじゃみんな、食べようか」


 そういって促すがまだ見られてる。

 え? これ食べろって? 最初にどうぞってか?

 仕草で伺うもそんな空気だ。何なら「どうぞどうぞ」という空気もある。


「なんかいちクンが最初に食べる流れみたいだね……?」

「ん、おいしそう。ご主人食べないの?」

「フハハ、お前が狩ったのだろう? であれば、その手柄を最初に食らうのが誉というものよ」

「イチ様ぁ、冒険者を代表して最初の一口をどうぞっすよ。あひひひっ♡」

「お前が仕留めた獲物だろう、さあ魔獣を喰らえイチ! お前に続いて私もいっぱい食べるぞ!」

「……何を戸惑っているか知らんが、お前が食わなければ先へ進まないような流れだぞ。早くしたらどうだ」


 ストレンジャーズの面々もそうやって俺の背中を押してるみたいだ。

 お前ら覚えてろ。諦めてニッコニコなムツミさんの期待に応えることにした。


「うふふっ、最初はお兄様に食べてほしいみたいですね? はいっ、どうぞ♡」


 すると目の前にはトカゲの変死……天ぷらを受け皿にのせて手にかけるホオズキだ。

 姫カットの黒髪の下でだいぶ穏やかな笑みがあるが、これで逃げ場は完全にふさがれた。

 分かったよ食えばいいんだろ。現実と向き合った。


「あー……う、うん、い、いただきます……」

(お兄様?)(お兄様?)(お兄様?)(お兄様?)

「熱いから気を付けてくださいね? あーんです、お兄様♡」


 みんな(お兄様?)と謎めいてる中、とにかく箸で持ち上がる黄金色に噛みつく。

 ニヤつくタカアキとロアベアがなんか腹立たしいが、口当たりはかなりいい。

 ゴマの香り漂うさくさくした衣に白身魚みたいな風味が広まった。クセはないし、ほのかな甘さが塩で際立ってる。

 想像の三十倍はうまい。ちょっとお高い魚のような味がする。


「風味づけにごま油で揚げてみましたが、イチさんのお口に合いましたでしょうか?」

「おいしいです……」

「いや、もっとおいしそうな顔して食えよお前。ムツミさんに失礼だぞ」


 結論から言うとおいしい。にやつくタカアキを一瞥してから、ついもう一枚手が伸びるほどだ。

 周りは毒……味見が済んだからという空気でやっと昼飯に手を付け始めた。

 みんなこの魔獣の天ぷらに釘付けだ。食堂はサクサク音を立てて賑やかだ。


「ふふふっ、良かったですね☆ イチ君の取った尻尾、とっても美味しくてご飯がすすみます!」

「ですねえ、なるほど爬虫類の見た目の癖にタイみたいな味がするようで……私も今度見かけたら狩ってみますか、楽しみが増えました」

「オーケー分かった、美味しいのは認めるから尻尾とか爬虫類とか言わないでくれ……」


 リスティアナとミナミさんが美味しそうにサクサクしてるが、やっぱり尻尾とトカゲがちらついて駄目だった。

 だけどムツミさんの笑顔のために食べることにした。今日は天ぷら定食だ。


「あ、お肉っていうよりお魚みたいだね……? 硬いイメージがあったんだけど、ふんわりしてて繊細な味……!」

「……ん、肉じゃない……? でもおいしい、ぼく好きかも」

「あんな見た目してるくせに上品な味で腹立ってるよ――うまいなこれ」


 まあ、ミコとニクも喜んで食べてるからいいか。

 三人で固まって天ぷら主体のセットに手を付けてると、今度は食堂の奥からとんがり帽子がみょんみょん揺れてきて。


「――ここで一味加えますわ! オラッ! ポテトッ!」


 誰がとは言わないが、皿いっぱいのフライドポテトがどんっと添えられた。

 正気かどうか疑ったが犯人はドヤ顔だ。ビネガー入りのボトルもスタンバイしてる。


「リム様待ってくれ。なんか組み合わせちゃいけない何かを感じる」

「さらにビネガーもどうぞですわ!!」

「もういいから!! とどめ刺そうとしないでくれ!!」


 芋に狂いし魔女の所業でお盆の上が異国にいってしまった。

 フライドポテトとこの天ぷらを合わせてみたらどうだろう、日本がだいぶ遠ざかってるはずだ。

 仕方がなく酢をかけてさっくり食べてみると――ワーオ、異国の味。


「ふっ、いかがかしら? 魔獣とジャガイモを掛け合わせてみましたわ」

「ああ、うまいし脳裏にどっかの女王様が浮かんだ気がするよ――ムツミさんに謝って来い」

「フィッシュアンドチップスになっちゃった……」


 得意げなリム様は満足してどこかにいったようだ、何なんだお前は。

 酢でさっぱりした揚げ物はやっぱり遠いどこかの味だ。金髪で棒を振り回す美女の姿もぼんやり浮かんできた。

 災難は去ったが、とにかく食堂は盛り上がってるみたいだ。

 みんなうまそうに食ってるし、まあいいか。狩った甲斐があったな。


 ずんっ。


 三人でサクサク食べてると、目の前に人の頭ほどの質量が乗った。

 どんぶりだ。熱々の米の上に、天ぷらの盛り合わせが乗った貫禄である。


「……こいつを見てくれ、天丼だ。いっぱい食って大きくなれよ」


 サングラスの顔が得意げだ。何をトチ狂ったのか天丼を仕上げたらしい。

 で、それを食えってさ。飯テロしやがってお前ら。


「タカアキ、お前からかってるだろ」

「あ、分かる? いやだってあんな面白い反応見せられてら乗るしかねえだろ」

「そのためにわざわざ大層な食器まで用意してくれたんだなありがとうこの野郎。畜生食ってやる」

「い、いちクン、それ食べきれるの……? わたしも一緒に食べよっか……?」

「頼む。まあ食うのも訓練だ」


 しかしいざ食べてみるとこれもうまい。ご飯と天ぷらが甘辛く調和してて、意外とするする入っていく。

 しかも卵の天ぷら入りだ。とろっと溶けた卵黄で味が俺好みに濃くなった。


「……でだ、俺がこうして近づいてきたってことはなんかあると思わん? そういう顔しとらん?」


 タカアキもどっしり座って天丼を喰らい始めたが、その様子はいかにも何かあった感じだ。

 天つゆと卵が絡んだそれを口にしつつ見るに、顔に深いトラブルはない。


「事件発生って顔じゃなくて天丼お見舞いして満足した顔だな」

「何かあったんですか……? 悪いことが起きたみたいじゃなさそうですけど」

「いんや、良くも悪くもってとこだ。聞くか?」

「天丼で機嫌がいいうちに聞かせてくれ。どうした?」

「あー、なんていうかその、明日ここに人が来るそうだぜ」

「人? 誰だ?」


 誰かが来るってさ。つい「人?」と三人で伺うが、タカアキは少し言葉にしづらそうなまま。


「お偉いさんの視察ってやつだな。うちのギルマスと、狩人ギルドのギルマス、あと商人ギルドからもここの様子を見に来るってさ。それからリーゼル様も」


 だいぶ化けたアサイラムの様子に向けてそう重ねていた。

 ほんとにお偉いさんがいっぱい来るみたいだ。いったいどうして顔ぶれが押しかけてくるのやら。


「ワオ、マジでいっぱいだ。少なくとも暇つぶしに来るわけじゃなさそうだ」

「……それってすごい人たちが押しかけてくるんだよね、どうしたの本当に!?」

「それがどーもこの土地についてここで話し合いたいんだとさ。まああれよ、クラングルの安全面についてとか経済的な話とかそういうのだ」

「わざわざここでおっ始めるってことは、俺を交えたいとかそういうやつか?」

「うん……だってわざわざこっちまで来るんだもん、絶対いちクンも絡んでると思います……」

「だよなあ……で、どうなんだタカアキ」


 そんなの向こうでやれと思うが、ここでやるってことは間違いなく俺が関わってる。


「その通りだ。それと以前から依頼に参加してる冒険者は明日をもって特別昇格だとさ、スチール等級以下限定だけどな。希望者はいろいろ免除してやるからしたい方はどうぞって話だ」

「しかも昇格の話つきかよ……」

「ええ……い、いきなりすぎるよ……」

「ここの戦果が向こうにガンガン伝わってるから、それを踏んでの『おめでとう』ってことらしいぜ」

「俺にはどーしても下心を感じる」

「……これ、絶対わたしたちを留まらせるためだよね」

「良かった俺もそう思ってた。昇格おめでとう、だから今後も街のために頑張れよって言ってるようなもんだろ素直じゃねえなぁ」


 とてつもなく面倒な話だ、アサイラムの依頼の延長がちらちら見えてる。

 いったん食堂の様子を見たが、みんなそうとも知らずに飯を食ってるようだ。

 ちびエルフともぐもぐしてたリスティアナがこっちに気づいた――にっこり手を振ってきた。


「今のところそんな話伝わってなさそうな空気だぞ、大丈夫か」

「さっきアキの兄ちゃんがしれっと教えてくれたんだよ。願ってなくてもあとで全員に伝わるぜ」

「なんか、ここの話が日に日に大きくなってるよね……どこまでいっちゃうんだろう?」

「担ぎ上げられるのがこんなに嬉しくないのって初めてだ。悪いニュースじゃないのかやっぱ」

「みんなうすうすそう思ってるだろ。まあしょうがねえわ、俺たちはよそ者で冒険者だから」


 せっかくの風呂の前にみんなの雰囲気が気疲れしそうで心配だ。諦めて天丼を食い尽くした。


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