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51 初めてのチュートリアルその1


「ここが射撃訓練所さ。うちの住人の強い要望でこんな派手なつくりになってるが、いい練習にはなるはずだよ」


 連れてこられた場所は街の南側にある大きな射撃場だった。

 テーブル上には、拳銃やら小銃やら散弾銃が対応する弾と一緒に並んでいる。


『……な、なんか……すごく本格的な場所だね……こだわりが強いっていうか……』

「もっとこじんまりしてるのかと思ってたけどさ、これは気合入れすぎだろ……」

「うちではか弱い女の子だろうが私みたいなババアだろうが、必ず武器の扱いを身体に叩き込んでもらうのさ。ここに銃が撃てないやつなんて一人もいないよ」


 標的は西の斜面に向かって一定の間隔で置かれていて、人型、動物型、廃車の中から覗く盗賊型とよりどりみどりだ。

 遠くではご丁重に距離を示すサインが100メートル単位でこちらに向けられており、手元には命中したかどうかを知るための双眼鏡もある。

 ……ここの住人の強い要望とやらを感じる。そりゃあんな好戦的になるわな。


「さて……まずあんたの腕を見せてもらおうじゃないか。この瓶を撃ってごらん」


 ボスが身を乗り出して、飲み干した瓶を十メートルほど離れた場所に置いてきた。

 さて、台の上にはこれから使うための自動式や回転弾倉式の拳銃が並べてある。


「……じゃあ、これで」


 少し吟味してリボルバーを手に取った。

 『Single357』と名前が表示された。ぶち壊された銃よりずっと重い。


 さて問題はどうやって……そもそもこれはどうやって弾を込めるんだろうか。

 カーブの効いた木製グリップを握るが、肝心の使い方がいまいち分からない。

 回転弾倉を横から押しても横にスイングアウトしない――


「……アレク、その坊やに装填の仕方を教えてやりな」

「分かりました。イチ、己れに少し貸せ」


 苦戦しているとため息をつかれてしまった。

 アレクが「しょうがない」といいたそうな顔でこっちに来ると、


「いいか、この銃はこうだ。まず撃鉄を半起こしにしろ、安全のためだ。次にシリンダーの後ろ――撃鉄の横のここだ、このローディングゲートを横に開けて、357マグナム弾を一発ずつ込めろ。いいな?」


 褐色の指が撃鉄をかちりと軽く起こした。


「あ、ああ……どうもありがとう」


 言われた通りにカバーの開いた回転弾倉の後ろから銃弾をかちかち詰め込んだ。

 そうしてる間にも視線が集まる、なにもたもたしてんだこいつ的なあれである。


「……よし!」


 六発装填、ゲートを閉じて半起こしになった撃鉄を起こし切って完了。

 そして右手で握った銃に左手を添えて、両手でしっかり構えて瓶を狙い――


「……なにが「よし」だい。早く撃ったらどうだい?」


 ……標的が想像以上に小さく感じる。瓶程度の大きさに照準がなかなか重ならない。

 いや、落ち着け、思い出せ。少し呼吸をして、凹凸の間に瓶を重ねて。


*Bam!*


 トリガを引いた。9㎜以上の炸裂音、予想以上の反動に銃身が跳ね上がってしまう。

 そして瓶は無事だ。後ろの乾いた地面から砂ぼこりが上がっただけである。


「当たるまで続けな!」


 そこに隣から声が飛んできて、すぐに意識を持ち直した。

 撃鉄を起こしてもう一度――照準の間のやや上にあわせて発射。

 また銃声と反動、持ち上がる銃身の向こうで、瓶が後ろに倒れる。


「……当たりました」

「ふん、まあいい方じゃないかい? 一発目は外したがいいリカバリーだったよ。次はライフルを持ちな、そこの小動物狩り用のやつだ。弾は5.56㎜だよ」


 言われた通りに拳銃を置いて、隣の小銃を見た。

 ずいぶん簡素な銃だ。木製部品に部品を最低限組み込んだようなもので、細長い銃身が伸びている。単発式らしい。


「今度は25m先にある人型に当てな! 三人だ!」


 射撃場を見ると人間の上半身を模した黒いターゲットが何人か立っている。

 置かれていたライフル弾を手に取って装填、ボルトを戻して構えた。

 ストックを肩に当てて簡素な照準に狙いを定める……拳銃より楽だ。


「……ここだ」


 狙いが定まった、人型の腹の部分、一番当たりやすい場所に凸型が重なる。

 撃った。軽い銃声と反動を受け止めると、かつん、と弾の当たる音がした。

 ボルトを引くと熱々の薬莢が飛び出す、弾を込めて装填完了。


 同じような感覚で狙いを定めて発射、着弾。

 弾を込め直してまた発射、どこかに命中、これで三人撃破だ。


「悪くないじゃないか、伊達に荒野をさまよっていただけはあるね。じゃあ今度は50mだ、斜面のはじめのところにある丸形のやつ」


 次の目標を探した、奥の方に丸型のターゲットがばらばらに設置されている。

 次弾を装填、照準を合わせるが――だめだ、さっきより小さくて重ならない(・・・・・)

 それにかなりブレる、肝心な時に変に力が入ったりして照準が定まらないのだ。


「……イチ、呼吸だ。深く息を吸って、軽く息を吐いたところで止めてみな」


 そんな俺を見かねたのかアドバイスが挟まれる。

 言われた通りに息を吸った、肺が新鮮な空気に満たされて気持ちよくなったところで吐いて、途中で止めると体が引き締まった。

 凹凸に丸いターゲットが触れる、いまだ。

 トリガを引いて撃つ。銃口の向かう先から一瞬だけおいてこつんと音がした。


「――どうでしょうか?」


 空薬莢をはじき出しながらボスの顔をうかがうと、


「……微妙だね」


 かなり呆れた様子でばっさりそういわれてしまう。

 苦労して当てたのにそりゃないだろと思った。


「微妙ですか」

「当たってるといえば当たってるさ。でもめちゃくちゃだ、それに遅すぎるんだよ」


 がっかりしてると双眼鏡を渡された。

 そんなにひどいのか、と思って見てみると、


「……ああ、うん。確かに微妙ですね」


 25m以降のターゲットの着弾痕が良く分かる。

 木板で作られた人型には当たってるっちゃ当たってる。辛うじてだが。


「まあでも当てたことには変わりないさ。ちゃんと伸びしろはあるよ」


 肩の付け根や下腹部まで、弾の当たった場所は大きくばらけている。

 50m先のターゲットに至ってはぎりぎりだ、掠っただけといってもいい。


「オーケー、手本を見せてやるよ。双眼鏡で斜面の奥の方、400mのサインが突き刺さってるところを見てごらん。シディ、貸してくれ」

「……ういうい」


 落胆してる暇もなく、今度はボスが銃を手にした。

 スコープのついていないただの小銃、たぶん今持ってるのより口径は大きいだろう。

 照準器を少し弄ると弾を込めて、がっしりとした長身で抱え込むように構え始めた。


「イチ、ターゲットが見えるかい? 何人いる?」


 400mのサインを発見――斜面の上に、盗賊を模した人型標的が何人か並んでいる。


「見えました、五人並んでます」


 肉眼で見てみるとほとんど何も見えないぐらいの距離だ。

 それをスコープもなしに当てるのか? 冗談だろ?


「よろしい。どれを狙う?」

「……じゃあ真ん中のゴーグルとマスクで顔を隠してるやつを」


 ボスの深い呼吸、それから浅い吐息の音が聞こえる。

 きっと構えて狙いを定めてるんだろう。周りも黙って様子を見ている。


「――こいつだね」


 そう短く言った直後、すぐ隣で強い銃声が響いた。

 308口径の爆ぜる音に双眼鏡の中が揺れる。

 ところが拡大された視界の中で、指定した目標の頭がはじけ飛ぶのが見えた。


「……マジかよオイ」

「もう一発当てるよ、今度はハートショットだ」


 驚いているところに、ボスはボルトを引いて新しい弾をロード。

 すかさず構えてもう一発――なんてこった、すぐ隣の標的の胸に穴が空いた。


「まあ、こんなものかね。これくらいできるようになれとは言わないが、小銃で100m先の相手に当てれれば上等さ」


 双眼鏡を降ろすと、涼しい顔でそういわれてしまう。

 400m先の斜面を肉眼で見てみてイメージしてみた。

 ぜんぜん見えないので狙えるわけないです、という答えしか浮かばない。


「……俺にできるんでしょうか」

「上達するまで訓練するに決まってるだろう? さあ、弾ならいくらでもあるんだから身体で覚えな。まずは50mクラスにちゃんと当てれるぐらいまでひたすら射撃だ」

「……マジですか?」

「当たり前だろう。夜までは基本的な撃ち方を掴んでもらうよ! ついでに装填のやり方もしっかり叩き込んでやるからね!」


 ああ、思い出すよ。

 むかしタカアキと『銃とか撃ってみたいなー』とかゲームしながら馬鹿なことを言い合ってた時があった。

 でもこうして夢が一つ叶ったわけだ、それが実際やってみるとこんな苦行同然だったなんて誰が思ったことか。


「……ミセリコルデ、うるさいけど我慢してくれ」

『う、うん……わたし、がんばるね……』

「何言ってんだい! ミコ、せっかくだからお前さんは銃声に慣れろ! さあお前たちもついでに射撃訓練だ! 思う存分撃て!」

『ひ、ひえー……』


 褐色肌の四姉妹と弟も各々適当な銃を手に、無言で構え始めた。

 姿勢も構え方も、表情も何もかも俺とは違う――戦士らしい姿だ。


「まずは50mの的にまともに当たるまで撃ち続けるんだ! あんたの使った銃は自分で整備してもらうからそのつもりでいな! サンディ、そいつに撃ち方を教えろ!」

「……いい、かな? ライフルを使う時は、こう……体に、引くように……」

「なんか背中に当たってるから距離を置いてくれないか!?」

「姉者……イチが困っているぞ、少し距離感を……」

「アレクうるさい」


 こうしてとんでもない射撃スキルを持つ老人の厳しい声と、サンディという女の子のぼんやりとした声に教わりながら夜まで撃ち続けた。

 全身に硝煙の香りが染みついたころには、どうにか遠くの人型にあたるようになった。


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