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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
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64 ヌイスとタカアキ


 どうにか今日も無事に拠点のゲートをくぐることができた。

 遺跡周りの安全をはっきりさせて、死者ゼロ怪我人多数の被害状況を確かめ、爆撃で台無しになったドロップ品を拾えるだけ拾っての帰還だ。


「わーお、なんだありゃ。ウォーカー・キャリアみてえだけど何積んでんだ?」


 帰宅の挨拶はタカアキの驚愕だ。

 宿舎を超えたあたりに、道路の半分を陣取る異質な大きさが目立ってた。

 幾つものタイヤに支えられ、平面の装甲板が張った軍用車両らしい出で立ちが注目を集めている。


「あれか? 豪華なキャンピングカーみたいなもんだ、ニシズミ社ってとこが餞別にくれた。中はヴァルム亭より快適だぞ」 

「ウォーカーじゃなくお家運んでるってか? ご立派な機銃までついて頼もしいこった、車泥棒も難儀しそうだな」

「ん……"ツチグモ"が停まってる。久々に見るね」

「わっ、ほんとだ……でもちょっと、見た目が変わったような気がするかも?」

「あの頼もしい姿は間違いなく久しきツチグモの姿よ。後で「すくりーんしょっと」で撮っておかねばな?」

「ていうかすっごい注目されてるっすねえ、あんなおっきな車があったら目立つっすよねやっぱり」

「ヌイスもこの世界で元気にやっていたんだな、良かったぞ。にしても、久々に見るとあの大きさは相変わらず圧巻だぞ」

「あにさま、このごっつい車なんなんですか……?」

「知り合いのマイカーだ」


 ストレンジャーの縁で近づけば、興味深そうにしてた冒険者がどいてくれた。

 みんな最新技術の質量に驚いてるようだ。ちょっと失礼と前に進めば。


『……見ろ、ちゃんと帰ってきたぞ。あいつらの癖の強さはどこだろうが変わらんというわけだ』

『はは、本当だ。奇しくもストレンジャーズのみんなが揃ってるね』

『お前の言うようにこの世界には振り回され続けてるが、それ以上に強烈なやつが引っ張ってくれるおかげで地に足はついている状態だ』

『私だってドワーフの里にいる親切な方々に支えてもらってやっとの人生さ。ブルヘッドみたいな快適さに慣れてしまって最初は大変だったけど、この世界の暮らしも悪くないさ』

『こっちは毎日何かしらあるような日々だ。あそこにいつもの大食いが見えるだろう、あいつのせいで生活スタイルから財布の中身まで引っ掻き回されたものだ』

『相変わらず仲良くやってたんだねえ、君たちもうまくやってて何よりさ』


 ツチグモの装甲によりかかって紅茶をたしなむ姿が二人分あった。

 不健康で気だるいお医者様はいつもどおりだが、懐かしさを感じる方のブロンド髪が横並びだ。

 実戦的に改造された白衣とジーンズを着こなし、鋭い目と穏やかな口元が不思議さを作る美女は一人しかいない。

 それになんだか前よりも雰囲気が柔らかい、楽しい人生を過ごしてそうだ。


「さっきは危ないところをどうも。ずいぶん荒っぽい再会のご挨拶だな?」


 俺は久々のヌイスに「いつもどおり」で接した。

 良く知るあいつは戻ってきたドローンを胸で抱っこしながら。


「また会えて嬉しいよ、アポなしでいきなり押しかけてしまってごめんね?」


 ティーカップを掲げた気さくな返しを見せてくれた。

 落ち着いた顔は集まった『ストレンジャーズ』にどこか嬉しそうだ。


「ちゃんと再会のご挨拶も持ってきたんだから文句なしだ。俺もまたお前に合えて嬉しいさ」

「まったく、ほんとはもうちょっとこう、穏やかな再会を望んでたんだけどね? 色々大変というか面倒というか、この世界は中々こじられた有様になってるよ」

「でも楽しそうな雰囲気だな、違うか?」

「ウェイストランドと比べて人付き合いはかなり穏やかだし、おいしい食べ物にこまらないおかげで身も心も豊かさ。この国の食文化にはびっくりだよ、向こうの食糧事情が大幅に改善されただけはあるね」

「俺も最初は向こうとのギャップの差に難儀してたな。元の世界にあるような和食も普通にあるからびっくりだ、ご飯とみそ汁のセットはもう食ったか? まだなら今度おごるぞ?」

「その必要はないよ、私が暮らしていた東地方にも冒険者の影響は根付いてたからね。日本らしい食事も今じゃ普通に食べられてるんだ」

「おいおい、俺たちの持ち込んだ食文化広がりすぎじゃないか?」

「日本人は食にこだわりが強いからねえ。ドワーフの里じゃカツカレーがブームなぐらいさ、おいしかったよ」


 調子を尋ねてみればその顔色のまんまだった。

 彼女なりにこの世界で満ち足りた暮らしをしてた証拠だ。


「おう戻ったかお前さんら。どうじゃった? 飛んだか?」


 するとツチグモの中から、ドワーフがスパタ爺さんらしく降りてきた。

 数多の敵をぶっ飛ばしたような満足のある機嫌だ。ノルベルトを促してキャプテンの兜を投げさせた。


「飛んだぞ。敵が震えあがってた、いいざまだ」

「フハハ。実に芸術的な爆発だったな? 見ろ、崩れたところに殴り込んで指揮官の命を頂戴してきたぞ」

「わはは! いきなり爆発物飛んできちゃあ、新種とやらもたまったもんじゃないじゃろうなあ。ドローンっつーのは便利じゃなほんとに」

「それに爆弾詰め込んでお届けしようとか思いついたのはどっちだ? 眼鏡の方? それとも髭?」

「当然わしじゃ。帰ってきたらなんかヌイスがおってのう、んでお前さんらの様子を見てもらったら窮地じゃったし? そこで爆弾の速達サービスってわけよ」

「考えてみれば迷わず爆撃しようって判断に行きつくのは爺さんぐらいしかいなかったな。向こうに巨人の落とし物とかあるから暇な時に回収しといてくれ」

「おう、今日も大量じゃな。しかしあんなとこに神殿があるとはのう……」


 適切な返事になったらしい、戦利品を手で弄んでにっこりだ。

 スパタ爺さんは空き地の戦車やらトラックやら、それからどこで拾ったのか外装のない車を指して。


「ああそうそう、ガソリンスタンドはしっかり回収したのち破壊しといたぞ。瓦礫がまだ残っとるから、今度寄る時に分解しとけよ」

「そりゃどうも。ところであの、なんかすかすかの車はどうしたんだ?」

「使えそうな部品かき集めて即席で組み立てたんじゃよ、足がまた一つ増えたぞ」


 しっかり働いたことを示して得意げだ。現地であんなのを作ったのか。

 いつも通りに無駄に高い技術力を生かしてくれたことに驚きだが。


「……イチ、あれこれ話してるところに口を挟んじまうが、この女性は何者だ? 外国人の女性らしいが、まさかさっきドローンを突っ込ませた奴とか言わねえよな?」


 さっきから驚き続きのタケナカ先輩が、ヌイスにさっきの所業を重ねてた。

 他のみんなもこの金髪白衣の人柄と関係を知りたがってる。

 どう説明したもんか。悩んだ末に同じくツチグモによりかかり。


「こいつはヌイスだ、まあなんていうか……親戚みたいなもんだな。別に爆弾魔でもないし悪の科学者でもないぞ、そこのお医者様と仲良くしてる通り俺たちの仲間だ」


 紅茶片手にクールな振る舞いを見せるところに並んだ。

 すでにクリューサといろいろ話してたところもあってか、みんなも「まあそういうなら」程度の反応だ。


「そこの逞しい君。今彼が言ったように、ウェイストランドの旅を共にした仲と分かってくれればそれで結構さ。色々と前触れもなく現れて申し訳ないね、みんな無事かい?」

「爆弾を突っ込ませたのはあんたか。おかげで墓に両足突っ込む奴はゼロ、俺からもありがとうだ。イチの知り合いは過激なやつしかいねえのか?」

「彼の暴れっぷりに振り回されてる物言いだね。私はヌイス、しがないホワイトカラーさ。どうかよろしく頼むよ」

「俺は冒険者のタケナカだ。色々聞きてえことはあるがあいつの知り合いってことなら話は早え、こちらこそよろしく頼む」

「その様子だと、もしかしなくてもイチ君に驚かされ続けたようだね」

「入って間もないのに生ける伝説だ。奇行にたびたび走ってお騒がせしてやがるが、もう冒険者ギルドの名物としてどいつもこいつも受け入れてる」

「彼が相変わらずで安心したよ、その首飾りは『スチール』かい?」

「ああ、そいつのおかげでここまでのし上がった証拠だ。まったくキャラの濃いやつばっか集まるな……」


 タケナカ先輩も俺を介してすぐにヌイスを理解したらしい。

 それから、長く整ったブロンド髪が作るクールさはこっちを眺めて。


「にしても、ストレンジャーズが勢ぞろいだったのは予想外だったかな? アサイラムの噂を聞いてイチ君が絡んでると確信してたけど、ノルベルト君といい知ってる顔がいっぱいで良かったよ」


 ここに並んだウェイストランドからの面々にやっぱり嬉しそうだった。

 特に目立つオーガと、それを取り巻く大小さまざまにくすっと笑うほどだ。


「ん。ヌイスさま、また会えたね。ご主人と毎日楽しくやってたよ」

「フハハ、そこに引き寄せられる何かがあるのだろうな? ウェイストランドから戻ってきてなお徳を積めるのだ、いい日々を過ごしていたぞ。また会えて光栄だヌイス殿」

「相変わらず麗しいっすねえヌイス様ぁ。うちもお屋敷で勤めつつ、イチ様にお仕えするようにと冒険者を兼業してるっすよ。退屈しないっす」

「なんだかイチの周りにみんなが集まるものだから、もしやお前もかと思っていたぞヌイス。どうだ、この世界は愉快だろう?」

「君たちがいるとやっぱり賑やかなものだね。クリューサ先生もフランメリアの暮らしになれてるようだし」

「またしてもこいつらの騒がしさに巻き込まれてるのが分からんのか」


 癖のある面々から気さくな言葉を受けて「うん」と深くうなずいてる。

 もちろん、その表情は見慣れない姿一つ分にも気づいたはずだ。


「えっと……ヌイスさん、お久しぶりですね? わたしのこと、覚えてますか……?」

『……彼女もミコの知り合いか何かのようだな』

『うわー……クールな美人さんだ……団長知ってるよ、眼鏡かけてる人ってことは頭良い人だ。白衣着てるしきっとそう!』

『ちょっと失礼ですよフランさん、でも眼鏡かけるとなんか知能スキルが著しく上昇したような見た目バフかかりますよね、分かります』


 トカゲと竜と狼の特徴に挟まれた、薄桃色髪鮮やかな美少女が一人。

 短剣だった頃と変わらない声もあれば、ヌイスもにっこり理解が及んだ。


「うん、元の姿に戻ったら見せてくれって約束と一緒にね。久しぶりだねミコ君、大層立派な美人じゃないか?」


 背後のクランメンバーは置いといて、元の姿の相棒にそれはもう嬉しそうだ。


「……ふふっ、びっくりしちゃいましたか?」

「びっくりだよ。君はそんな顔をしていたんだね、明るく過ごしている姿を見れて私は感無量さ。ところでその、後ろにおられるのはクランメンバーとやらかい? なんだかさっきから私の眼鏡に関していろいろ物申されてる気がするんだが」

「み、ミセリコルディアのみんなです……フランさん、セアリさん、眼鏡について触れるのちょっとやめようね……!?」

「やっぱり眼鏡か? 眼鏡かけてるから知能スキルも高めなんか……!?」

「最近セアリさんもファッションの一部として伊達メガネの購入を検討してましたがこれで決まりました、これでミセリコルディアの賢さも向上することでしょう」

「おい貴様ら、初対面の相手に失礼だろう」

「なんかストレンジャーズほどじゃないけど中々に濃い集まりじゃないか、うん。でもよかった、君をずっと待ってくれる友達がいて、また一緒に過ごせてるんだね?」

「……はいっ、あれからみんなで困ってる人を助けてますし、いちクンとも仲良くしてますからね?」

「良いことだよ。やっぱり君はえらいね、気高いヒロインだよ」


 ミコもたまらず飛び出したようだ。久しい再会に二人が優しく抱き合った。

 まあ、何から何まで大きい相棒に「おふっ」と埋もれてしまったが。


「……ミコ君、君すっごい……あっこれ私のデータに……おっふ……」

「あ、ご、ごめんなさい……!? 嬉しくって、つい……!?」

「流石ヒロインパワフルだ、っていうか、うん、包容力がすごいね」

「どうっすかヌイス様、それがミコ様の豊満さっす。太ももとか圧殺できそうな密度っすよ」

「ロアベアさん!? ここでそこに話を持って行かないで!?」

「こんな時に変な情報挟むなロアベアァ! あと離してあげなさいミコ、せっかくのヌイスが息しなくなるぞ」

「……ごっ、ごくじょうぼでぃ……くるしい……」

「あっ、ご、ごめんなさい……極上ボディ……!?」


 速やかにミコの肉圧とロアベアのによによ顔を引き離してやった。

 それよりもだ、もっと大事なやつがここにいる。


「……よお、感動の再会のところ悪いけどよ、こういうときは礼節をわきまえて初めましてから口にしたほうがいいか?」


 こんな場面でもスーツとサングラスの奇抜さを頑ななタカアキだった。

 誰かにとっては「死んでない方の」とつけるべきか。

 本来むごたらしく死ぬはずの幼馴染がこうして前に出ると、ヌイスも複雑そうだ。


「…………君、もしかして」


 いったいそこにどんな感情があるんだろう。

 そっと現れたタカアキに息も飲んで、信じられないような面持ちだった。

 思わず「こいつが――」と口が働くが、幼馴染腕は俺の顔を遮ってきて。


「おっす俺タカアキ! 趣味は単眼美少女、好きなものは単眼美少女、好みの女性のタイプはスリムで背があって包容力のあるミステリアスな単眼の女の子! 一途で清楚だとなおよし!」


 堂々たる自己表現兼本人確認が始まって場の空気も徹底的にぶち壊しだ。

 いきなり会った相手に一瞬の躊躇もなく性癖暴露しやがったこの野郎。


「よしタカアキ君だね。会ったばかりの相手にこんな恐ろしい口上をすらっと出せるのは彼ぐらいだ、最後に見た頃から変わらず原寸大で安心したよ」

「人目も今後の印象も気にせずこう言えるのは世に一人しかいないだろうな。つまりどうあがいてもタカアキだ」

「単眼美少女が普通にいて夢がかなって幸せです。とりあえずこうして実際に会うのは初めてだな」

「待って!? どんな確認のしかたなの!? それでいいのみんな!?」


 それで尋ねた側が深々納得するってことは、未来のタカアキは相当強烈なキャラ性だったんだろうな。

 品性を疑うミコはともかく、あいつはヌイスに軽い笑顔を返した。

 俺たちを流れる複雑な未来なんて受け入れた、なんて言いたげな鼻の笑い方だ。


「ニャルからいろいろ聞いたぜ、とりあえずお前にゃいろいろ世話になったみてえだな?」

「……やっぱりあいつが話したんだね。まあ、それなら自己紹介の必要もないかな? その手間を省いてくれたことは感謝してやろうか」

「おう、こいつ見りゃ一発で分かるだろ?」


 スーツをたくし上げてだいぶ使い込んだ防弾ベストを見せてきた。

 ハチの巣にされる未来に抗う気概に「よく分かったよ」とヌイスが苦笑いだ。


「どうよヌイス、今度のタカアキはいつでもきやがれって感じらしいぞ」

「死に方ぐらい自分で決めてえしな。単眼美少女に看取られて息を引き取るのが俺の理想なんだよ、邪魔はさせねえぜ」

「良かった、よく知るタカアキ君がそのまんまここにいるみたいだ。君たちがこうして仲良くしてて私は嬉しいよ」

「んで、二人で冒険者だ。最近くっそ大変だけどそこそこ稼げてる」

「さっきみてえにあぶねえ目にあったけどしぶといぜ。俺たちの腐れ縁はまだまだ続きそうだ」


 どうせだし肩も組んでこの頃の素行をアピールすれば、知的な顔も困ったようにほころんだらしい。


「はははっ、そっか……君たちは相変わらずなんだね? そうだ、リム様はどうしたんだい?」

「クラングルでお仕事中。いい加減真面目に働くってさ」

「でもたまにこっちに遊びに来るよ! 自由な人だよなほんと。ちなみにここの食堂にいるのはリム様がよこしてくれた料理ギルドの方々だ、おかげで助かってるぜ」

「あの人との縁もまだ一緒か。私もさ、あの人のご飯が恋しくなってたところだよ」

「じゃあ今度リム様連れて来ようか? メッセージ機能使えば両手いっぱいに芋抱えて飛んで来るぞあの人」

「おっとそうだ、良かったらフレンド登録しとかねーか? ヌイちゃんもできるだろ確か」

「あっ、そういえばヌイスさんもステータス画面、開けますよね……? 良かったらわたしも登録してほしいなーって……」

「ああそうだった。今君たちが言ってくれたおかげで思い出したけれども、なんだかウェイストランドから移った人たちがMGOのステータスを開けるようになってるようだね? 一体どうなってるのか見当もつかずに困ってたところさ」


 そして懐かしむような話が今現在の俺たちの状況に移れば、細長い指がするするっと宙をなぞった。

 話題通りにフレンド申請がきた。やっぱりこいつも影響を受けてたか。


「ならばお前はこれからもっと困るだろうな。知った上で来たかどうかについては知る由もないが、ここはややこしさが濃縮されたような場所だぞ」


 しかしこの世界の事情に面倒そうなのはクリューサも一緒だ。

 つられて白衣姿がくるっとあたりを見回せば――


「……うん、確かにその通りだ。一体ここは、というかこの世はどうなってるんだい? こんな未開の地にけっこう近代的なものが建ってるし、地下にレールは走ってるし、おまけに白き民なんて聞いたこともない化け物が跋扈してるなんて想像してなかったよ。この有様を説明してくれる親切な方が欲しいものさ――つまりなにこれ」


 そう重たげに溜息をつくのも仕方ないというか、それしかないというか。

 ハウジングでできた拠点に、転移した文明の姿、おまけに白き民に魔獣と危険が尽きない未開の地だ。

 そこに色濃い冒険者も集まれば「なにこれ」と目で訴えるのも当たり前か。


「見ての通りとしかいいようがないな。とりあえず今俺たちがいる場所について触れとくと、ここはG.U.E.S.Tのハウジング機能で作った拠点なんだよ。転移したどっかの町の一部をいじってこうなった」

「クラングルからの支援を受けて生活には困らない程度には快適だぜ。ようこそアサイラムへ」

「えーっと……何か説明すればいいんだろう? とりあえず、わたしたちがここにいる理由から話した方がいいのかな?」

「とりあえず君たちの様子から察するにここがかなりこじれた様子なのは理解したよ。良かったら軽くでいいから現状を教えてくれないかな」


 とりあえず今置かれている身について話そうという流れだ。

 ちょうどいい。俺もヌイスがいかに元気だったか知りたかった。

 戦いも終わって疲れた足で、いつもの広場まで案内しようとすると。


「あ、お、おかえりなさいませ……! あのっ、ムツミさまが、みなさまのために軽いお食事をご用意したそうです……?」


 食堂からメカクレメイドがちょこちょこっと駆け寄ってきた。

 初ヌイスにびくびくしつつ、ほっそい声と舌足らずで食事があるとのお知らせだ。

 そういえば昼をとっくに過ぎてる、昼飯を食い損ねたやつらのためにわざわざ作ってくれたんだろう。

 言われてみると小腹が空いたしいい頃合いか、メカを撫でてやった。


「ムツミさん、俺たちのために作ってくれたんか……なんか悪いな、仕事増やしちまって。報告どうも」

「うぇへへへ……♡ だんなさま、無事に帰ってきてよかったです……♡」

「あの人、そういう気配りエグいぐらいできてるよなぁ……言われてみりゃ腹減ったしありがたくいただくとすっかー」

「ん、たしかにお腹すいた……おにく食べたい」

「流石っすねえ、ではうちは食堂の方手伝ってくるっすよ。戦利品の分配は後でお願いするっす~♡」

「あ、あたしもいきます……!」

「ムツミ殿の仕事ぶりは素晴らしいものよ。どれ、その気配りにあやかろうではないか。ちょうど小腹も空いたところだしな」

「よし飯だぞみんな! 戦った後はしっかりと栄養を補給するんだ! この匂いはたぶんバニラの風味を効かせたパンケーキだな!」

「……見ろヌイス、ストレンジャーズは変わらず呑気なものだ。ところでお前たち、イグニス・ポーションを使ったそうだな。その有効性についても報告してもらおうか」

「そういうわけだ、軽く飯食いながらいろいろ話さないか? 昼飯は食ったか?」

「うーん、情報量がみっちりだねえ……まあ甘いものと紅茶にあやかれるなら上等さ、お互いの近況報告がてら腰を落ち着かせようじゃないか。ところで今のメイドさんはなんだい、まさか君に仕えてるとか言わない?」

「なんかメイド増えてた」

「ヌイちゃん、なんかこいつ知らぬ間にすげえメイド侍らせてるんだぜ。面白いことになってて笑うわこんなん」

「笑いごとじゃねーよ、おかげでリーゼル様のお屋敷がホラゲー状態だ」

「女の子と仲良くなりすぎて情報過多ですよあにさま……あっ、九尾院所属のコノハです、どうぞよろしくです眼鏡のおねえさま」

「あとなんか妹も増えた」

「ええ……」


 情報みっちりなアサイラムだが、今は甘い香りがふんわり漂ってた。

 発生源の食堂にチアルたちがわいわい向かうのを見て「行くか」と進んだ。

 看板には【おやつは特製パンケーキ】と可愛らしい表記だ、激戦の後でおやつが食べれるなんてフランメリアらしいだろう。



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