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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
552/580

57 我らの進む先で、奇人は一途に笑う。ハハハハハハ!


 背中に宿舎のベッドの心地よさがしみ込んできた。

 鼻の奥につんと眠気が籠ってた、脳みそが疲れてる。

 そこへ、ぐにゅう、と額に温かみを感じた――重くて柔らかい。


「ミコ様ぁ、前よりおっぱいおっきくなってないっすか~?」

「う、うん……フランメリアに戻ってから、ちょっと大きくなったかも……?」

「これは……うちの先輩といい勝負っす、100以上はあるんじゃないんすかこれ。おでこが埋もれてるっす」

「そ、そうかな……? でも、そういうロアベアさんだってけっこうあるよね? えいっ♡」

「あんっ……♡ イチ様好きになってから、うちもいろいろおっきくなってるっすから……♡ もしかして、触れた女の子を豊かにする能力でもお持ちなんすかねえ?」

「いちクン、シてるときにぎゅーって抱き着いてくるもんね……♡ ふふっ、ぐっすり眠っててかわいいなあ……♡」

「普段は九割狂戦士なくせして、えっちな時はなんやかんや恥ずかし気に甘えてくるんすよねえ……♡ ミコ様に抱きしめられて、お顔が蕩けてたっす……あひひひっ♡」

「あのまま三人で寝落ちしちゃったね……♡ まだ眠そうだし、もう少し寝かしてあげよっか?」

「ちょうど食堂が開く時間っすね、そういえば。うちはもうちょっとこのままでいたいっす~♡」


 人の頭上でそんなやり取りが飛び交った。女の子二人分の甘ったるい声だ。

 次第に感覚も戻ってきた。

 風にタコ殴りにされる機内の揺れは? 操縦席で騒ぎ立てる二人は? あれは夢だ、起きろ。


「みすかとにっくゆにばーしてぃ……!?」


 がばっと身体を起こした。左右に感じる肉の圧がばるっと弾んだ。

 まだ眠い。右にミコの薄桃色な髪と、左に首のない全裸がくっついてる。


「わっ……ご、ごめんね? 起こしちゃった? みすかとにっく……?」

「あっ、お目覚めになったっすよ。勢いのある起床スタイルっすね」

「――どういう状況だこれ」


 くすぐったくあくびをしつつ、とりあえずこの状況に理解を回した。

 ニクがぐっすり眠って、気分転換にシャワーに向かって、それで泡まみれの二人に――畜生、まただ!

 すぐ全てを思い出した。

 なんたって裸のミコが、人を飲み込んでしまいそうな白肌の実りを押し当ててるのだから。


「おはよ♡ 三人できれいになっちゃったね~? よしよし♡」


 むにゅりといろいろ当たった。

 膝に太ももの()()()()質量が絡んでる。

 長耳つきのおっとりな微笑みが色っぽく撫でてきた――頬がくすぐったい。

 とりあえず撫で返した、耳をぴこっと触れれば「んっ♡」とくすぐったさそうだ。


「……メインカメラはどこいった? どっかに忘れた?」


 次に背中にぴったりな首なし死た……ボディに振り返った。

 首のないメイドが馴れ馴れしくくっついてた。頭部パーツ行方不明だ。


「ちゃんとご存命っす、うちら相性良すぎっすよ……えへへ……♡」


 正面から堂々どっしりとメイドの豊満さがぶつかってきた。

 ふにゃっとした声はその更に後ろからだ、持ち主の首元でブリムつきの頭が熱っぽくによによしてる。


「気持ちよかったねー♡ また三人で入ろっか? ふふっ、幸せだなー♡」

「身も心もすっきりっす~♡ お部屋に運んでからもゆったりだったすね、イチ様もだいぶお上手になってて感心っす! ……ふひひっ♡」


 完全に思い出した。きれいにされた、以上。

 今日も俺が何をしたんだノルテレイヤ、まあそれはともかくとして。


「…………夢の中にニャルが出てきた。お告げ付きでな」


 ベッドから抜け出した。にやつく赤い奴の言葉がはっきり残ってる。

 どんな経緯でここにたどり着いたかなんてどうでもいい、脳に重要な情報がある。


「……ニャルさんが? 何かあったの?」

「あのうちと気が合いそうなにやにやしてるお方っすよね、何事っすか?」

「白き民に関してだ。ちゃんとあいつらにも親玉がいて、言うには巨人が出たのもそいつの仕業だってさ。しかも俺と良からぬ縁があるみたいだ」


 ニャルの口にしたことを思い出しつつ、窓の外を見た。

 戦車とトラックの前で忙しそうなディセンバーとドワーフたちがいた。

 エンジンも起こし始めてお出かけの準備だ。


「白き民に親玉……? それに、いちクンと縁があるって……どういうことなのかな?」

「ただ無尽蔵に湧くモブかなんかじゃなかったんすか、あれ。いったい何をお耳に挟まれたのか気になるっす」

「あいつの言葉をそのまんま使うならこうだ。あの白くてキモいやつらは絶対仲良くできないような敵で、後ろで動かしてるやつが今も俺たちを意識してるってことだ。大事な情報かもな、これ」

「ニャルさん、すごい情報教えてくれたんだね……!? 良かったら教えてほしいな? すごく気になるし」

「お目覚めになられたと思ったら、いきなりとんでもないお土産持って帰ってきたんすねえ……白き民の正体を掴んだ感じっすか?」

「タカアキとかにも話しておきたいからな、とりあえず話は着替えて飯食ってからだ」

「うん……そうだね、とりあえず朝ごはんにしよっか?」


 いきなり現れるなり、あのにやつく口から出てきたお話は白き民のお話か。

 素性も分からに何かが後ろにいて、そいつがニャルに何かをして、そして明確な敵意を俺たちに向けている――仲良くできないわけだ。

 もしあのにやつく顔から出た言葉を全部信じるならの話だが。

 

「……ところで一ついい? ここどこ?」


 このまま食堂へと向かおうと思ったけれども服がない、気づけば全裸だ。

 というか自分の現在地すら不明なぐらいだ。

 もしかしてこいつら、シャワー室からここに運んで来たのか?


「ここはシャワー室のすぐ近くにあるお部屋だよ。あ、いちクンの着替えはちゃんと持ってきたからね?」

「そちらのテーブルの上に置いといたっす! 一緒にお着換えっすよイチ様ぁ」


 拉致されたそうだ、そばのテーブルにご丁重な形でカーゴパンツやらがある。

 二人がゆったり着替え始める傍らだが、さっさと着て部屋を出ることにした。

 ミコが見せつけるように下着を着こなしてる――ワオ、白い紐パン。


「ふふっ……♡ またぎゅってしてほしいのかな? おいでおいでー♡」

「イチ様のメイドさんがいることもお忘れなくっす~♡ いいっすよ、うちと二度寝するっすか? あひひっ♡」

「お先に失礼」


 なんてこったこいつらまだやる気だ、やられる前にお邪魔しました。

 扉を開けた先に知る顔が立ってないことを願って、がちゃっと退室すると。


「おはよーいっち♡ へー、ほんとに女の子はべらせてるんだー♡ いわゆるえいゆー色を好むってやつじゃん? 昨晩はお楽しみだったんだぁ?」


 浅い茶髪が朝日を受けてきらりと神々しい……いや、チアルが待ち構えてた。


「――あの、ノーコメントでいいでしょうか」

「にひひっ♡ 顔そらすなしー♡ なにしてたのかなー? ん~?」


 いつから窓際でそうしてたのか、親し気なにやつきが紫混じりの青い瞳でじっっっとこっちを物色してる。

 それはさながら獲物を見つけた猛禽類のよう、じゃねえよ怖いわこの野郎。


「……ん、ぼくもわすれずに」


 かと思ったらニクも後ろから追いついてきた。

 じとっと見たのち腕をぎゅっと抱きしめてべったりだ。触れ方がいやらしい。


「お……おはようございます。だんなさま、朝ごはんのお時間です……」


 今度は階段あたりでちっこい青髪メイドが――メカが待ち伏せてた、すすすっとすり寄ってくる。


「あははっ♡ いっち好かれまくり~♡ ニクにメカっちおはよ♡」

「……ニャル、俺は白き民なんかよりこっちの方が深刻だと思うぞ」


 なんか最近、周りの子が積極的な気がする。白き民の勢い以上に。

 「どしたん~?」と絡んでくるチアルを背に食堂へ向かった。



「白き民に親玉がいるっていきなりだなオイ。いや、そもそもそいつがお前とニャルの共通の敵だってのが驚きだな。いきなり夢の中に現れてすげえことに伝えにきたなぁ」

「ニャルが言うにはそいつのせいで何か迷惑してるらしいぞ。もっと倒せばいろいろ都合がいいからどんどんぶっ潰せ、容赦するなとさ」

「簡単には言うけどよ、その話全部信じちまうなら俺たちのせいであいつらご立派になってるってことにならね?」

「どの道でっかいのが生まれるようなレールの上にいた、みたいなことはいってたけどな。なんであれ俺たちが相手どらないといけない迷惑なやつらなのは間違いないさ」

「この世に嫌がらせをするための存在ねえ。それがマジなら白き民も品揃え豊富になるのか、巨人の次は水陸両用か? それとも飛行仕様?」

「さあな、でもあれ以外に趣味悪いのが増えるってお告げだぞ。俺だってこんな話題を朝飯の場で信じたくないからな」

「でもよイチ、人工知能仲間のあいつがそうやって口に触れたってことはこうもハッキリしたよな? 白き民と戦い続けないといけねえってことだ」


 野外テーブルの対面先で、あの夢についてタカアキがひどくしかめっ面だった。

 我ながら話題を持ち掛けたと思う。俺はだし巻き卵をつついた。


「そう。俺とニャルが憎むべきっていう親玉さんとやらが、危機感もって強い敵キャラを作り出したってことにもなるわけだ」

「まあ確かにそうかもな。そいつがプレイヤーかなんかだとして、自信満々に送り出したキャラが見るも無残にぼっこぼこにされたらショックだろうしムキにもなるわな」

「今お前が言ったことがあてはまらないことを願ってるばかりだ」


 一口食べるとふんわり甘くてうま味がある。

 だけど教えられた話のせいでぼんやりしてた、ニャルのやつめ。


「……ニャルさん、そんなことを伝えに来たんだね。白き民を倒したから、その制限っていうのがなくなって……やっと話せるようになったのかな?」


 隣に座ったミコもそこにいた、こんな話のわりにけっこうぱくぱくしてる。


「ご主人が憎むべき相手って、どういうことなんだろう。そいつがこの世界を壊そうとしてるのかな?」


 反対側じゃニクもソーセージをもぐもぐしつつ、耳をぺたんと疑問形だ。


「なんかすごい情報持ってきたんすねえ、ニャル様。ってことは、あれってMGOに登場する予定のキャラとかじゃなかったんすかね?」


 そして幼馴染の隣あたりにロアベアでもいれば、ここはニャルの話でいっぱいだ。

 まさか声でかでかと「新しい白き民が出るぞ!」なんて表現するわけにもいかず、こうして話の分かるやつで席を固めてた。 


「ロアベア、俺の背後にある人工知能云々の話は知ってたか?」

「それなんすけど、前にヌイス様に教えてもらったっす」

「あいついつの間に――いや、なら話は早いな。思うにこいつは未来の俺が絡んでるだろうな」


 この首なしメイドの俺のめんどうな背景を把握済みか、どうもヌイス。

 おかげで頭に浮かんでた答えを出せた。

 思うに白き民は、未来の俺が関わる何かじゃないってやつだ。


「ヒントはお前とニャルの共通の敵ってか?」


 そう、目の前のタカアキがそういうように。


「なんかこう、直接言えないような深い理由でもあったような感じだったけどな。俺とあいつが同じ気持ちで恨める相手なんて、今はともかく未来じゃごまんといるんじゃないか?」

「あっちじゃお前、人気者らしいからなあ。未来のシューちゃんが配信中に湧き出たアンチじゃねえのは確かか?」

「性癖こじらせた末にできた縁なのは死んでもごめん被りたいな。でもニャルは確かに恨めしそうだったぞ、何かに対してな」

「お前と仲良く恨みを向ける相手ねえ……?」


 幼馴染の考える顔に、ちょうどブルヘッドにいた頃のことが重なった。

 夢に出てきてタカアキとのかかわりをぶちまけてくれた、あのニャルの話だ。

 あいつの恨みのこもった調子を信じるなら、こいつは恐らく未来の俺に何かをしたやつが絡んでる。


「俺とニャルが共通してるってことはだ、じゃあここにもう一人加えてみたらどうだ?」


 けれども、ここに未来の件に関わるやつを足せば?

 眼前のサングラス姿をまぜこぜにしてみると、俺たちにふとある考えが浮かぶ。


「幼馴染も混ぜて三人仲良く三角形ってか? そうなっちまうと、なんか共通してる点が浮かんできちまうな」

「……もしかして、ヌイスさんが言ってた軍事AI、だったり?」


 実にちょうどよかった。ミコが不安げに、まさにそんな感じで混じってきた。

 俺とタカアキにニャル、この三人が等しく持つものと言えばなんだ?

 そこに自称トリックスターの後ろめたい表情を思い出した。


「そういうことだ、三人仲良くそれ絡みのろくでもない経験をしてるだろ?」

「もっといや未来の人類様全員ろくでもない経験してると思うぜ。なるほどな、俺たち三人揃って、その軍事AI様にひどい目にあわされた仲ってか?」

「……そっか、ニャルさんが恨んでるっていうのは、そのことなのかな……? ねえ、でもそれだと……」


 あるとも。人類が生んだっていうあの軍事AIとやらだ。

 どこまでやばかったのかは分からないが、世を滅ぼすついでに俺とタカアキを死に追いやる程度の行いはしてくれたらしい。

 人様に拷問の機会と去勢を与えてくれて、もれなく幼馴染を穴だらけにさせた、だったか?

 じゃあそいつの仕業と仮定しよう、そうなると大きな問題があるわけで。


「ああ、行きつく先はクソみたいな考えだ。軍事AIっていうのがこの世のどこかにいるって話にもなっちゃいますよと」

「だよなあ……俺たちの死因が命根性汚く、まだどっかであきらめきれてないってことになるぞ? ちょっとやばくね?」

「……ちょっとどころじゃないと思います。それがあの時からずっと世界を滅ぼそうとしてる、なんて状態だったら大変だよ……?」

「ん……白き民を生み出してるのも、そのためなのかな? いたら、だけど」

「ニャル様が言ってた嫌がらせっていうのも、もしかしたらそれが何かしらしたんすかねえ?」


 あくまで「仮」で言わせてもらえば、この理論だと世界を滅ぼした大層なやつがご健在でまだやる気ってことだ。

 今までを絡めればそいつが世界を滅ぼそうと目論んでて、そのために白き民をけしかけてる――なんてクソみたいな話になる


「今のは「もしも」のクソ表現だ、その程度にしといてくれ。でもいたとしてフランメリアは健在だし、俺たちは呑気に朝飯食ってるだろ? 今日の今まで世界を滅ぼせてない証拠だ」


 でも、本当にそうだとしてもフランメリアは無事だ。

 白き民ども程度に屈しないお国柄がここにある。


「それか、まだ本気を出してねえか出せねえかって線も加えるべきだろうよ。ニャルのセリフを信用するなら巨人以外にも増える予定なんだろ?」


 同時にタカアキの言葉もあてはまるわけだが。

 準備をしていた、調子が出なかった、理由はいろいろあれどその()()やらが今に本腰を入れるのもありえる。

 ああくそ、厄介な話だ。

 正直白き民のクソフレンズが増えるのは別にいい、いくらでも殺す。

 でもそこに俺たちの因縁たる存在が絡んだら途端に最悪だ、この世のどこかにいらっしゃるなら、だが。


「軍事AI云々の話は抜きにするとしても、これから白き民で図鑑が作れるようになるかもしれないってのは頭にぶち込んどくべきだな。やっぱりあの巨人が出てきたのは何か意図を感じてる」


 どの道、俺たちにできるのはまだ見ぬ悪の親玉様の対処じゃない。

 白き民を狩るのはもちろん、これからあいつらの動きに注意深くなることだ。

 とはいえ仮の話だが、この世の裏にいたのがマジで軍事AIだったらどうする?

 ヌイスたちから話を聞いた上でいえば腹が立つのは確かだ、ニャルが「輝かしい未来を潰した」というのも頷けるさ。


「そうだな、あいつらは俺たちの知らねえもんばかりだ。これからその未知の部分をお披露目してくれる可能性だってあるしな――でもよ」


 俺の幼馴染も同じ気持ちか、見えないものより目の前の白き民だ。

 ところがそのついで、あいつはこっちをじっと見たまま何か言いたげにして。


「なんだタカアキ」

「ぶっ飛んだ考えになっちまったけどよ。ほんとに()()()が数千年前からご存命でまだやる気だったら、お前どうすんだよ? 俺とお前をぶち殺した犯人だぜ?」


 いざその口から出てきたのは、未来の俺たちに煮え湯をたっぷり飲ませてくれた軍事AIの処遇だ。

 世界の滅亡の片手間でだいぶひどい目に合わせてくれたやつに、あいつは気味悪そうな顔をしてる。

 ヌイスが言ってた。人間を襲う機械だの、健康に悪い化学兵器だのばらまいて地球を滅茶苦茶にしたらしいが――


「難しい話じゃない、そいつらぶっ殺すのに力が入るだけだ」


 もしもだ、本当にそいつの仕業が今もなお働いていたら?

 だったらなんてことはない、未来で世話になった分しっかり()()()()だ。


「おーこえーそんな顔で飯食うなよ、ムツミさんに失礼だぞ――正気かお前」


 さすがのタカアキも手にかけたお浸しを落とすほどだったらしい。

 でも考えてみろ、この卓上に浮かんだ話で言わせてもらうけれども、俺たちに白き民をぶち殺されまくったような相手なんだぞ?

 ニャルの言う通り焦るような相手だ、ミスができるならぶち殺す余地はある。


「むしろ俺は歓迎だ。それならそれで叩き潰してやるよ、世話になった礼ができるチャンスがわざわざ向こうから来てくれるんだろ?」


 だから俺は笑って見せた、腰のホルスターにある三連散弾銃と共に。

 未来の自分もさんざんやられて恨みでもあったはずだ。代わりに返してやるってのもいい話だろ?


「……いちクン、おばあちゃんに似てきたね」


 そう言いつつすっかり冷えたみそ汁を一気に飲むと、ミコに呆れられた。

 ボスにそっくりか。いい言葉として受け取ろう。


「そういう教わり方をしたからな。おかげで今度のアバタールは過激だ」

「なあミコちゃん、こいつすっかり逞しくなったな。お兄さん嬉しいけどおっかないよ」

「わたしはもう慣れちゃったかな……」

「ん、ご主人はこういう人。だから大好き」

「ご覧の通り攻撃力特化型なお方っすからねえ、イチ様。ですので未来は明るいっすよ、あひひひっ♡」

「いい理解者も作りやがって。ったく、お前の言うボスってやつのお顔を拝見したいもんだぜ」

「その時はお前紹介してプレッパーズに推薦してやるよ。でも考えてみろタカアキ、お前の敵討ちだぞ、生きてるけど」

「あ、そうか俺の敵討ちか、生きてるけど。ならひでえ目に合わせてくれた分、しっかりお礼返しとかないとな?」

「次からもっとでかい銃用意しとけ、今なら火薬製品使い放題だ」

「へっへっへ、自分の敵討ちなんて趣があるねえ? 俺たちのいい人生に乾杯」


 こんな話題でも明るくやれるのはあの人のおかげだ。

 死亡予定者同士、水入りコップで乾杯した。

 すると大きな影が降ってきた。見ればいつの間にノルベルトが強い笑みで。


「フハハ。話をつまみ食いさせてもらったが、何やら白き民相手に腕を振るおうという顔だな? 俺様も混ざってよいだろうか?」

「おはようノルベルト、いい人生について盛り上がってたところだ。お前もやるか?」

「うむ、オーガで良ければ手を貸そうか。やはりストレンジャーズとしている時はいいものよ、戦が舞い込んでくるではないか」

「見ろタカアキ、ご覧の通りでっかい友人もいるぞ。強さはだいたいエグゾ以上だ」

「あ、おはようノルベルト君……話、聞いちゃった感じだね……?」

「ん、おはようノルベルトさま。ぼくの隣に座っていいよ」

「おはようっすノル様ぁ♡ 朝から物騒な話でごめんなさいっす~、今日もスマイル強めっすねえ」

「あーうん、なんかこれから何があっても大丈夫な気がするわ。白き民も気の毒だなぁ」


 まあそうだな、例えろくでもない何かが垣間見えても、俺たちがこうも揃ってれば平気なもんだ。

 ブルヘッドで「イチ」を名乗ってからそうだ。

 たとえ困難が邪魔しようがストレンジャーは必ずお前をぶち壊す。

 周りにはそれなりに友が増えてるんだ。こんだけ明るきゃ暗い未来もやってこれないさ。


「……なんにせよニャルがこうして話してくれたんだ、朝飯食い終わったらこの世に白き民コレクションが増えるかもしれないって話を広めとくべきだな」

「白き巨人以外に出るというのか、それは心躍る知らせだな。ああそうだ、スパタ爺様はガソリンスタンドに廃車を回収しにいったそうだぞ」

「おーそういえばそうだったな、おじいちゃんども戦車の兄ちゃん連れて使えそうな車持って帰るとさ。ついでに爆破してくるいってたぜ」

「朝からご苦労なことで。そういえばミナミさんが交代で帰ってくるな、お土産の炭酸水楽しみだ」

「なんだよ炭酸水って」

「例の砦の地下で湧いてるんだってさ」


 フ俺はぬるい白米を焼き魚と一緒にかっこんだ。

 この西京焼とか言う料理はうまい。ごはんにあう深い味がする。

 白き民は世界を害するなんて大層な目的をお持ちのようだが、こうして呑気に朝飯を食ってるなんて笑える話だ。


「ああそうだ、なんならこの話には証拠があってだな? ニャルがすごいの見せてくれたんだよ。でっかいぶにょぶにょが……」


 おっと忘れてた、ニャルがスクリーンショット送ってくれるって言ってたな。

 DAを少しいじれば、画像フォルダにまさしくそれらしいものがある。

 どこかの機内で、雪に吹かれた外の光景がきれいに映ってる一枚が保管されてた。


【キミのトモダチ、ニャルフィスより♡】


 ……ただし肝心の山と黒い都市は「にやぁ♡」なニャルの半裸で台無しだが。

 指先で隠す大きな胸と、付与されたメッセージででっかいぶにょぶにょが後もう少しというところで隠れてしまってる。


「あの野郎ふざけやがって!? 誰がお前のエロ自撮り撮れって言ったよ台無しにしやがって!?」

「……いちクン、これどういう状況なのかな!?」

「ん……? ここ、どこなんだろう? 飛行機の中?」

「ああぶにょぶにょってそういう……じゃねえよ、飯食ってる時に変なの見せるな。どういう状況だこれ」

「確かにぶにょぶにょっすねえ♡ いつの間にこういうプレイしたんすか?」

「おお? これは確かあの時の……彼女もフランメリアにも来ていたのだな?」

「違うもん! ほんとにいたもん!!」


 やりやがったなあのニヤニヤ野郎、絶対に許さんぞニャルフィス。


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