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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
547/580

53 【71】コンビニエンスストア(2)


*DODODODODODODODOM!*


 戦の作法は単純、先手必勝。それで勝ったやつが語り継いできた習わしだ。

 ハンドガードを抑え込んだ急ごしらえの射撃姿勢で連射、見上げる巨体を撃ってなぞった。


『KAVALIRO――OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!?』


 四本腕の胴に弾着の衝撃が目に見えた。

 45-70弾以上の力に巨人が揺らいだ。

 ところが想定外があった、そいつは初手でこれだけ食らいつつ、頭をかばうように身構えたのだ。

 腰も落とせば余分な腕で身を守り、掴んだ楕円形の盾も斜めに構えてきた――明らかに銃撃を意識してやがる。

 重ねて、刃渡り数メートルはあろう十字剣の幅広さが射線を妨げたら?


「ふざけんな、五十口径(こいつ)じゃ物足りないってか――」


 その結果は最低かつ不名誉だ、防御姿勢がお構いなしに迫ってくる。

 持て余すような腕もここぞとばかりに、あの馬鹿げた包容力で掴みにきた。

 気づけば目の前に白い光景だ、武器を降ろして避けようとするも既に遅く。


*がぎぎぎぎっ……!*


 捕まった。ラージサイズの白い指が外骨格の胴回りを鷲掴みだ。

 撃ち合いを意識したエグゾの装甲からばきっ、と不吉な粉砕音すら聞こえた。

 内部機構からくるアシストされた力に妙な浮遊感が混ざる――持ち上げられた。


「がっ……!? く、くそっ!? こいつ、この前のと動きがちがっ……!?」


 何か妙だ、動きが一味違う。脇腹の緩衝材越しに圧迫感が染み渡った。

 次第に白くて平たい顔がセンサー越しにどんどん迫っていく。

 最悪が続いてカービンがすっぽ抜けてた、金属的な悲鳴を上げる腰からはマチェーテすら抜けない、拳で叩くもうまく伝わらず。


「いちクン、じっとしてて! 【フォトン・アロー】!」


 こんな最悪な出だしだが、唯一の救いは後ろからの声援があったことだ。

 振り向かなくたって分かる、ガソリンスタンドいっぱいに響いたスペルがそれだ。

 ()に備えた直後、すぐ横を白光りする光属性の矢が通り抜け。


『Kepitis-La-Malami……OOOOOOOOOOOOOッ!?』


 叩きつけんとばかりに持ち上がる腕と、構え直した剣が視界に入った場面に横槍が入った。

 顔に魔法を喰らって気がそらされたようだ。

 しかし手の締め付けは緩まない、むしろぐぐっと横に振りかぶり。


「おっ……おいおいおいおい想定外二つ目だエグゾぶん投げるとか――」


 五十口径が防がれた、敵に捕まった、そんな不幸の連鎖に終わりが見えた。

 ぶん投げられる形でだが。仕上げの不幸で人様の抗議むなしく放り出された。

 外骨格すら貫く不吉な浮遊感に、カメラに映る横倒しの廃車がすぐそこまで迫ってくる。


「うおっ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 がんっ。

 最後はボンネットに固いキスを結んで、もしかしたら間抜けな音が響いたはずだ。

 緩衝材越しに部品のきしみも伝わった。あまりに見事な頭突きで横転した車がぐらぐら揺れてた。

 頭がくらつくがその程度で済んだ、地面を殴ってどうにか起きるも。


「La-Malamiko-Falis! Iru!」

「Servisto-De-La-Diino!? Mortigu! Mortigu!」


 くぐもった声が多数。背中にがしっと重たげな一撃を感じた。

 状況を理解したのも振り返ってやっとだ、白き民が集って追撃しにきてる。


「Malamika-Ataaaaaaaako! Mortigi-Lin!」


 同時に、一番に駆けつけた全身鎧姿が両手剣を振り上げる場面でもあった。

 人の背中をノックした馬鹿はこいつか、よくもやりやがったな。

 大剣の構えに逆に迫った。

 武器の振りをエグゾで遮って、白肌垣間見える兜へ機械の拳を叩きこむ。


「Oooooooooo! Ricevi――Uaahgagaga!?」


 機体出力込みの打撃だ、ナイト級の顔が防具ごとスクラップになった。

 出だしは最悪だけど()()()()()ぞ。

 続いて軽装の白き民が詰めてきた、長柄の槌を振りかぶりつつだ。


『ご主人、大丈夫!? あっちいけ!』

『イチ様ぁ、派手に吹っ飛んでたっすけど大丈夫っすか?』


 と、そこへニクの声だ。横合いにソルジャーを突き倒すわん娘がいた。

 ロアベアも人を気にかけつつ一体一体斬り捌いてる、しくじったのは俺だけか。


「調子狂わされただけだ! 今から上げていくぞ!」


 目の前の敵に駆け出して、無防備な胸へ拳を叩き込んだ。

 革鎧越しに白き民の硬い弾力が千切れる感触がした、吹っ飛んでもがきながら消滅だ。


「無事だったかイチ! お前もツイてないものだな!」


 愛しのわん娘と合流したところで、戦場にノルベルトの声が良く通った。

 デカい足音が余分に迫るのも同じくだ、見れば店舗奥からちょい足しされた巨人がサービスしにくる様子だ。

 片手に馬鹿らしいほど大きな棍棒を握って、残った三本腕であの()()()()を扱う欲張りなやつだった。


『MOOOOOOOORTU! Monstroooooooooo!』

「まだリハビリ不足だったみたいだ! でっかいのおかわり来るぞ!」

「この巨人、初めてお目にかかった時よりもよく動いているではないか! 俺様も負けてられん……なぁッ!」


 そこにオーガらしい勇敢さが混じれば、瞬きもしないうちに得物同士が触れあう。

 エグゾも叩き潰しそうな鈍器の一撃だが、そこへ戦槌のフルスイングだ。

 鈍器VS鈍器の結末はオーガの勝ちだ。がきんと豪快に巨人の腕が払いのけられた。

 相手も想定外だったに違いない、ぐらつきながらも棍棒を振り回して誤魔化そうとするが。


「フーッハッハッハ! どうしたどうした! 俺様に防がれたのがよほど悔しいのかぁッ!」


 でも流石はノルベルト、それを横に縦に、まっすぐに流して勢いを削ぐも。


『OOOOOOOOoooooooAAAAAAAHH! Sulta-Monstro!』


 巨人が大きく後退、かと思えば戦槌のリズムから外れてバリスタを構えた。

 痺れを切らして遠距離攻撃に切り替えたか――だったらこうする。


「一つ貸しだ! すぐ返してくれ!」


 またやってきたナイト級を殴り壊しつつ、足元の大剣を転ぶように拾った。

 エグゾに支えられる力をうまく合わせて構える。

 柄を握って刀身を槍さながらに向こうの巨人にあわせ――ぶん投げた!


『Ooooooooo――uuuuuuッ!?』


 出力を乗せた投擲がノルベルトの頭を追い越して、そいつの首元にゴールインだ。

 いきなり生えた剣に驚いたらしい。放つ寸前の得物が跳ね上げて、ガソリンスタンドの天井をぶち破っていく。


「助太刀に感謝するぞッ! せえええええええええええええええいッ!」


 最後は「おう!」と快く応じる一言だ。

 怯んだところにすかさず一撃、崩れた膝に乗って然るべき場所へ次を叩き込む。

 そして倒れた巨人の頭を殴る、叩く、突く、エグゾなんかよりもいい戦果だ。


「お~、ほんとにやっつけてるっすねえノル様ぁ。今度はうちもでっかいの狩りたいっす~♡」


 そこに白き民たちが殺到するも、遊撃に回ったロアベアが戻って防いだ。

 具体的には行く手を遮る斬首だ、仲間が処刑されたところに剣持ちナイトが斬って進む。

 打ち合いが始まったが、仕込み杖で弾かれてたたらを踏んだ直後にすれ違いの一閃だ。


「いちクン、怪我はない!? 【フォトン・レイ】!」


 いいタイミングでミコの声が戻ってきた。掲げた杖で敵の槍を防ぎつつだ。

 俺たちのそばへ寄るなりの詠唱が光の線を放つ。

 迫るソルジャーを貫くついで、向こうで剣を引きずる巨体を打ち据えた。


「エグゾがなかったらここが事故物件だったろうな! チェンジ!」

「ミコさま、こっちへ下がって!」


 交代だ、下がる桃色髪の相棒に変わってわん娘と前に出る。

 ソルジャーとナイトの剣と槍が追いかけてきた。

 さっそく使わせてもらうか、マウントからマチェーテを抜いて踏み込む。


『Aaaaaaaaaaaaaaaaaahhhhhhh!?』『OOOOOoooooo!? Ha-Haltuuuuuu!?』


 すると頭上から弓持ちが二人まとめて落ちてきた、犯人はクラウディアだ。

 唐突な白い姿と低い声に敵もびっくりだが、俺たちはその隙を逃さない。

 こっちの得物に合わせた剣先に飛び込む……とみせかけて、槍を構えるニクとするりと入れ替わる。

 次の瞬間には槍を意識した鎧姿だ、そこへ迫ってXLサイズの刀身を斜めに叩き込んだ。


「Ki――Kioッ!? Aaaaaaaaaaaaaaa!」「Uuuuuguuuuuuuu!?」


 さすがエグゾだ、防御ごとそいつの身体をぶつりと斬り落としてしまった。

 それと同時にニクの槍も一突き、飛び跳ねるような穂先が顎ごと脳天を貫通だ。


『すごい威力だな! ようやくオーガに並んだ感じだぞ!』

『Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!?』


 かと思えば『ていっ!』と誰かがまた降ってきた、ナイトとマジシャンが追加で自由落下だ。


「それって褒めてるのか!?」

「いちクン! 次来るよ!」


 また二名ほどが青く溶けきらないうちに、向こうからあの足音が重く響いた。

 人様をぶん投げてくれた白き巨人だ、ソルジャーたちと足並みを揃えてる。

 上等だ、来やがれ。ミコとニクを傍らにマチェーテを構えた。


 ――ぶおんっ!


 そんな時だ、トラックの走行音に野太いクラクションが混じった。

 振り向かぬ先からタカアキの操縦が来るのを感じた。

 おかげで対峙する群れが横に意識を刈りとられ。


『ハッハァァァッ! ちょっと横通りますよ、ついでにくたばれクソが!』


 幼馴染の賑やかな警告を込めて、軍用車両の重厚さが全力で道路を戻っていった。

 運転席から伸びた腕が短機関銃をばら撒きながらだが。九ミリ弾に煽られたやつらの身動きが固まり。


『五十口径じゃ決定打にかけるとか想定外じゃぞ!? せっかく直したってのにこのバケモンめ!』


 車体上部からの援護射撃もその場を襲った。

 スパタ爺さんが借り物のR19突撃銃をパキパキ撃ちまくってる。


『そこを動くな! まったく世話の焼けるやつらめ!』


 そして極めつけは荷台でお留守番のクリューサ先生だった。

 走るトラックにふらつきつつ、腰だめに構えた機関銃をこっちに向けていて。


*Brtatatatatatatatatatatatatat!*


 不用心に晒された白い横顔に308口径を処置してご退場だ。 

 医学的に正しい行いに敵の勢いが崩れて、その余波を食らった巨人も止まった。

 ついでとばかりにタカアキの煽りが中指一本で示されると、デカい敵の足は逃げる車へ迷いを見せ。


「楽しそうだなあいつら。ミコ、もう一発頼む」

「白き巨人が怒ってるような……!? いくよ! 【フォトン・レイ】!」


 ミコに任せた、勢いが止まった十人足らずの白き民に詠唱が向けられる。

 青の魔法陣がぱっと浮かんだ直後、狼狽するところに光の線がばしゅばしゅ解き放たれる。

 フォトン・レイ。聞いた話だと光属性魔法40のスペルだ、意識した相手に五発分のエネルギーを打ち込むそうだ。


「ナイスだ相棒! 行くぞニク!」

「ありがとミコさま、いくよ……!」


 相棒の攻撃魔法で足並みは総崩れだ、エグゾの出力とわん娘の素早さで駆けつけた。

 その先で白き民のソルジャーらしい風格が一斉に身構え直した。

 同時にニクの走りが少しが遅れた。そうか、お先にどうぞってか。


「おおおおおおおおおおらああああああああッ!」


 防御姿勢が揃う前に、一足先にマチェーテを大きく払う。

 剣と盾を硬く構える姿ごと重さで斬る。攻めも守りも砕いて叩きのめす。

 長柄持ち二人が長い間合いで続いてきた。それすらエグゾのパワーでへし折って、仲良く横からぶった斬る。


『Ki……Kio-Estas-Ci-Tiu-Fera-Monstr……!?』


 突貫した次に見えたのは、一目で分かるキャプテンの身なりだ。

 ソルジャーたちを食い破ったエグゾにさぞ驚いてるみたいだ。

 だからなんだ。慌てて取り繕う姿を、()()()()ごとねじきる。


「ん、露払いする……!」


 白い脳天を潰した矢先にニクが割り込んだ。

 後ろに控えた数人めがけて代わりに雪崩れ込むと、それはもう早かった。

 最初のソルジャーの足を払って崩れたところに胸を突く。

 傍らの敵から攻撃を避けつつ、すれ違いざまに首を穂先でひと撫で。

 仕上げは斧の振る舞いをしゃがんで避けて、脳天を斬り削いでトドメだ。


『――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』


 次に相まみえるは、お友達がいなくなって叫んでお気持ち表明中の巨人だ

 その一瞬の後、マチェーテを越す十字剣のリーチが床をばしっと叩いた。

 合図か威嚇か、なんであれ巨体相応の広い歩幅で飛ぶように詰めてくるが。


 ――ひゅおっ!


 エグゾ越しでも分かる、空気抵抗すら殺す飛翔音がした。

 次には人の頭上を追い越した投げ斧が巨人のデカい顔面を飾った。

 横槍、いや、横斧がその場に挟まった。きっと後ろじゃ得意げに笑うやつがいるんだろう。


『フハハ、確かに返したぞ! 遠慮などするな、ゆけっ!』


 ほらやっぱりあいつだ、借りっぱなしにはしないのがあいつの美点だと思う。


「だったら無遠慮にやらせてもらうぞ。今日もお膳立てどうも!」


 刺さった斧に構えが解けた様子へ堂々突っ込んだ。

 エグゾの駆動音に白くてデカい図体がびくっと構えたのも同時だ。

 丸太みたいに太い足がずんずん距離を取りだす。

 でも残念だったな、でっかいの。

 戦場は何時だって小回りの利く奴が有利だ、派手なロボットの小細工なんざぶち破ったようにな。


「でけえのなんざとっくの昔に経験積みだ××××野郎ッ!」


 当然、向こうは迎え撃ってくる。

 振りの重い剣をあきらめたか、片腕の盾をこっちにぶん投げてきた。

 お前が人間さながらに振舞う限りそんなの想定済みだ、姿勢を落としてひび割れた道路を滑り込む。


『――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!』


 向こうだって諦めない、後ずさる巨体がこっちに片足を持ち上げた。

 押し入るところに真っ白な足裏が頭上に重なった、だからこそ良かった。

 エグゾの出力を全力に肘で地面を殴って、起き上がるための慣性を捻り上げた。

 ふらつきながらもバランスを保って、そいつの棒立ちの片足まですがりつき。


 ――ばぎんっ!


 勢いを乗せて反転、踏み込みながらのマチェーテを足首に叩きこむ!

 特大サイズの得物のお味はいかが? 硬質のゴムみたいな質感ごと、極太の足をざっくり斬り抜いた。

 地面との縁はそれっきり切れたようだ、白き巨人が『Wo……OOOOOO!?』とやかましく後ろ倒れになっていく。


 ()()()はまだ終わってない、仰向けになった身体を踏みにじった。

 武器を手放さないままにじたばたするせいでひどく揺れたが、そんなものすらエグゾで踏んで均して。


「――よお、さっきのお返しだ! 笑え!」


 そいつの胸にたどり着くなり、こっちを見やる顔面を鋼の拳でぶん殴った。

 白いだけのつまらない表情が見事にへこんだ。

 抵抗とばかりの腕が包み込んでくるが、左右の連打で笑わせた。

 仕上げの一突きで眉間あればだがを潰した。ひどい凹みからくるスマイルのまま、足元から弾力が消えていく――


『Woooooooooooo……AAAAAAAAAAAHHHHH……!?』


 白き民特有の潰れ声も出ればもう十分だ、みるみるうちに巨大な質量が解けた。

 特注サイズの布鎧ごと地に足がつけば、ガソリンスタンドの内側は戦利品だらけだ。


「いちクン! コンビニの中からまた来てる!」


 やったか。そう思った直後にミコの注意だ。

 センサーに反応があった、【71】と看板を掲げる店内から白い雪崩がきてる。

 まさに白き民ラッシュだ。こんだけ騒げば駆けつけてくるか。


「好都合だ、今度こそこいつの性能を試せるチャンスだな」


 それにしても一体どんだけいるのやら、慌てず足元を探った。

 あった、道路の上にエグゾ用カービンが転がってる。


『Kio-Estas-La-Problemo!?』『Malamiko!』『Kio-Okazis-Al-Miaj-Amikoj!?』『AAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

「フハハハッ! 実によいぞ! さあ俺様たちはここぞ! 来るなら来てみろぉぉぉぉぉッ!」


 ノルベルトが強気に引き付けてくれたみたいだ、大声につられて群れの動きが揺らいだ。

 オーガの戦槌とメイドの剣術が叩いて潰して数を減らす間、俺は落とし物を拾って雑に構え――


*DODOODODODODODODOM!*


 白き民の集団めがけて外骨格越しにトリガを絞った。

 どどどどっ、と数発分のバーストを細かく浴びせた。

 軽装だろうが重装だろうが、五十口径の前には紙を破るようなものだ。

 給油機や屋根を支える柱ごと、けたたましい金属音もろとも、面白いように敵がごっそり削れていく。

 そのうちがぢっと弾切れ、弾倉交換と装填を済ませて目につく限りなぎ倒す。


「――イチ、あんまりコンビニを撃つな! お宝があるかもしれないんだぞ!」


 次第に減った数に一発ずつ打ち込むと、上からクラウディアが落ちてきた。

 ついでにソルジャーを道連れにしたみたいだ。踏みつぶして床に縫い留めると、ぷんぷんしながらその首を掻っ切る。


「もう大丈夫だよ、大体倒したみたい――【セイクリッドプロテクション】!」


 ミコも制止してきた、これでもう満足ゆくまで倒したらしい。

 相棒の防御魔法の行く先を見届けると、残りのアーチャーへ突っ込むニクがいた。

 防御魔法で矢の連射を防ぎながら肉薄、足を払って転ばせてからの脳天突きだ。


「これで開店セールはおしまいか? 全員無事か! この世からお別れしたやつはいないよな!?」


 二本目の弾倉を空にすると――戦いの騒がしさが引っ込んでいくのを感じた。

 硝煙漂う得物から弾倉を落としつつ、ストレンジャーズに問いかけてみるが。


「イチ様ぁ、地味にキャプテン撃破っすねえ。おめでとうっす~♡」

「おお、そういえば仕留めていたな? こちらは何一つ問題はないぞ、いい汗をかいたものだ」


 ロアベアとノルベルトはすっかりお買い物モードだ。

 大量の戦利品の上でいつもの余裕さを振りまいてた、死屍累々だ。


「やつらめ、まさか私が登ってくるとは思ってもなかったようだぞ。ダークエルフがいる時は背後に気を付けろとフランメリアで言われているのにな」


 クラウディアもコンビニの心配をしてるぐらいだ、なんならよだれが出てる。


「……すごい。ミセリコルディアのみんなよりもいっぱい倒してるんじゃないかな、これ……」

「ん……コンビニの中から揚げ物の匂いがする……!」

「ニクちゃん、切り替えが早いよ!? っていうかまた150年前の食べ物あるんだ……!?」


 ミコとニクは相変わらずだ、愛犬のじゅるりも元気な証拠である。

 それから何度見渡したって俺たちで貸切状態だ、ようやく武器を降ろした。


「……殴って殺すとかマジかお前さん。こりゃあ剣とかよりももっとダイレクトにやれるもんがいいかのう。しかし五十口径じゃよっぽど無防備なとこにぶちかまさんといかんとは、ちと予想外だったわ……」

『へっへっへ、ばっちり撮影しといたぜ? こりゃ次のニュースはエグゾで巨人を殴り殺した男って感じだな? お買い物と洒落込むか?』

「久々に揃って間もなく、ストレンジャーズはご覧の殺戮具合か。お前たちだけでこの未開の地の安全とやらを確固たるものにできるんじゃないのか?」


 トラックも行きの倍ほどの勢いで帰ってきたみたいだ。

 スパタ爺さんはエグゾに向けて悩みいっぱい、タカアキは巨人の落とし物ににっこり、クリューサに至ってはさっそく降りて戦利品漁りだ。

 そのうち、陽気なトラックは停まる場所を求めてのろのろ彷徨いだした。

 何せこの【71】はドロップ品いっぱいだ、駐車スペースがなくなってる。


「だったら任務完了だな。全員お疲れさん」

「お前さんもな、イチ。しかしあんな一撃食らってまだ動くとは流石エグゾじゃな……怪我はないかの? いや、あっても飯食えば治っちまうか」

『それより停める場所作っといてくれねえか? 給油機前空けといてくれ』

「これ、全部わたしたちがやったんだよね……? えっと、とりあえず誰か怪我してる人はいないかな……?」

「ん、フライドチキンのにおい……!」

『イチ様~、お店に弾が届いちゃってるっす~! お酒コーナーがカクテルコーナーになってるっすよ!』

『フハハ、だがソフトドリンクは無事だ――おおなんたる数だ! ロアベアよ、エナジードリンクも山のようにあるぞ!』

『イチ! お菓子コーナーがぐちゃぐちゃじゃないか!? 次からはもうちょっと上手に当ててくれ!』

「……こいつらがウェイストランドから変わらず傍若無人で安心したぞ。いいか、この手の店にはドライバー向けに医薬品が置いてある。有用そうなものは在庫ごと持ち帰るぞ」


 あとは俺たちならではの「人それぞれ」だ。

 トラックもろとも取り残された俺とミコはなんとなく見つめ合ってしまった。

 ここにはストレンジャーズの()()()()がある。二人して(片方エグゾ越しだが)つい笑った。


「良かったなミコ、俺たち相変わらずストレンジャーズだ」

「……ふふっ、ノルベルト君がきたからほんとにストレンジャーズだよね? またみんなで一緒にやってる気がするよ」

「全員揃ってこその俺たちだろうな、どいつもこいつもフランメリアでも自由にやりやがって――そうだジンジャーエールは無事か!? ちょっと確かめてくれみんな!」

『ご安心するっすよ、飲み放題っす~♡』

「よし、完璧な仕事だな! じゃあちょっと駐車スペース作るか」

「いちクンも大概だよ……!?」


 そしてジンジャーエールも無事だ、つまり完璧な勝利だ。

 荷台にエグゾ用カービンを放り込んで、給油機前の戦利品を片付けにいった。


【ようこそ【71】へ。当店は完全無人、万全のセキュリティ、戦車の突撃すら寄せ付けない堅牢なトイレ、そしてお住いの地域の皆さまの心を癒すアルコール飲料の取り揃えが自慢です。本日のガソリン価格は――】


 トラックがごろごろついてくると、そんな人工音声が出迎えてくれた。



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