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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
546/580

52 【71】コンビニエンスストア(1)


 カーゴトラックの六輪が力強く進んでいた。

 拠点を抜け、川にかけられた橋を渡り、拠点が見えなくなった頃合いだ。


 冒険者の努力のおかげでこの()()()はスムーズである。

 荷台からこの行方を見守れば、いつの間にタイヤは未舗装の道を踏んでいた。

 そんな緑を削り取ったような拓き方が気になると。


「名前通りに忠実なこった。確かに【風車の町】とかいうらしいけど、誰がここまでその通りにしろって言ったんだか」

「ほんとに風車でいっぱいだー……でも全部停まってるね、ここってどんな場所だったんだろう?」

「ん……向こうに大きな畑がある。家もいっぱい並んでるけど、昔はいろんな人がいたのかな……?」


 荷物、あるいは乗客の俺たちに整った軒並みが見えてきた。

 ミコとニクとで身を乗り出せば、草とコケにやられた石畳がおおらかな町へと続いてる。

 木材と石材をふんだんに使ったフランメリアらしさが住まいを表現してた。

 広い道を沿ってレンガの倉庫や民家がつらなる様子は、かつての盛況ぶりをほんのり残してる。


「おお、なんという光景だ……風車があれほどに連なっているぞ。一体ここはどんな町だったのだろうな?」

「お~……大きかったり小さかったりいろいろっすねえ。全部停まっちゃってるっすけど、なんなんすかねこの風車のカタログみたいなとこ」


 一際な存在感については反対で覗くノルベルトとロアベアのコメント然りだ。

 高くそびえる赤レンガ模様が四枚羽の風車を高々に掲げてた。

 小さかれ大きかれ、十以上は町のそばにある――もっともずっと停滞してるが。


「……その大層なものを抱えた町がどうしてこんな僻地で腐っているのか、俺にはまったく理解できんがな。フランメリア人はここで何をしたかったんだ?」


 それに関する所見は同行してるお医者様の顔色通りか。

 開拓精神がどれだけあろうが、こんな危険が付きまとう土地にわざわざ作る必要はあるのかと言いたげだ。


「でもあれを見るんだクリューサ、ささやかだが周りに畑や放牧地があるだろう? 恐らくここで農業都市に頼らず、自分たちで食い扶持を賄おうとしてたんだと思うぞ。せっかくの肥沃な地も今じゃ雑草だらけだがな」

「ついでにいや、ありゃあブドウやらオリーブやらをしぼるための風車じゃなあ……なるほど、ブドウ畑が近い理由もそういうことか。ここにいる連中は自活しようという気概で住み着いたに違いないが、ああもいろんな風車がほったらかしにされとるのはもったいないのう……」


 荷台のクラウディアと、車体の天井ハッチからずんぐり出てるスパタ爺さんもいれば、こんな廃墟でもだいぶ明るい。

 この「めっちゃ意気込んでました」感のする町は勢いとノリで発展したのか?

 置いてけぼりになった熱意はご覧の通り、死んだような静けさと荒れ放題な畑が応えになってる。


『はっきりしてんのは幽霊嫌いなやつはお泊りしないほうがいいってことだな。ここで未練抱えたままくたばった住民の方はいらっしゃらねえよな?』


 ああそうだ、ハンドルとペダルを任された幼馴染も忘れずに。

 タカアキの運転センスは当時から取り残された開拓精神を突破してるが、今のところそこに幽霊がいないのが幸いか。


「その時はミコに悪霊退散の呪文でも唱えてもらう、頼りにしてるぞ」

「……そういえばいちクン、お化け苦手だったもんね」

「タカ様ぁ、どうしてイチ様ってお化けこんなに怖がってるんすか?」

『どうしてって? それなんだけどよ、昔二人でとある観光地へ遊びに行ったらすげえ出来事があってさ。なんかこう、急に「白いドレスを着た女性がついてきてる」って言いだして――』

「おい馬鹿やめろ! そのとっておきの話は今するな! いいな!?」

「なっなにがあったの本当に!?」

「なんすかその白いドレスを着た女性って、気になるっす」

『たぶん見えちゃいけねえやつだよ、うん。しかもさ、記念で撮影した写真にご本人らしきやつが映ってて時間差で来やがったからな。人が運転してる時に悲鳴上げてスマホ叩き折りやがったんだぞそいつ』

「嫌なこと思い出させやがって畜生! 俺もう当分夜の見回りしない!!」

「わ、わあ……? 出会っちゃってる……!?」

「……ご主人、お化けに会ったことあるんだ」

「フハハ、それほどに霊が恐ろしいか? 案ずるなイチよ、フランメリアにその類の種はいれど、人を害する悪霊など多くはないのだからな」

「よっぽど怖い思いされたんすねえ。そういえばヒロインにも幽霊がいるっすけど、そんなホラー映画みたいな子じゃないっすからね。会っても怖がっちゃだめっすよ」

「なんだ幽霊が怖いのか。いいかイチ、その手の類と遭遇した時は堂々とするんだ。向こうの調子に乗せられず対等な間合いを取ればトラブルは避けられるぞ」

「お前はどうしてこう変なところで怖がるのか……いや、そうも馬鹿に勇敢なのはその幽霊とやらのおかげだろうな。戦車に堂々肉薄する自信がついたのも恐らくそいつの甲斐あってだ、感謝しておけ」

「そういやアバタールも幽霊怖がってたのう……あんなのどこが怖いんじゃ、それに魔壊しありゃ向こうも呪い殺せんわ」


 好き勝手言いやがってこいつらめ。

 目的地までの暇つぶしとばかりにあれこれいわれて腹立たしいが、『ストレンジャーズ』を乗せたトラックは進んだ。

 軍用車両の馬力もあればすぐで、幽霊が出そうな雰囲気とは早々にお別れだ。


 ――あれから準備が整い次第、すぐに俺たちはアサイラムを出た。


 考えてみればウェイストランドを旅にしたメンバーでの出発である。

 目指すはこの世に転移してきたガソリンスタンド、ただし白き民つきだ。


「……っていうか、さっきの町ってチアルたちが制圧したんだよな。あれを見るにそんなに大きくはないけど、もし白き民がいるとしたらそれなりの密度になるぞ? あいつら頑張りすぎじゃないのか?」

「でも、こうして何事もなく素通りできちゃってるよね……? 残さず全部やっつけちゃうとか、みんなすごいなあ……」

「しかも全員ほとんど『ストーン』だろ? やっぱヒロインって強いなと思う、なんてパワーバランスなんだ俺たちは」


 去り際に最後にもう一度だけ相棒と振り返った。

 良かった、白き民もいなければ、どこかで不気味に佇む幽霊すらもいない。

 こうしてチアルたちやシナダ先輩たちがこじ開けてくれた道を頼ってるのだが、けっきょくこの目的は様々なもので。


「――む。よいか皆の者、そろそろブドウ畑じゃぞ。フランメリアの風景を楽しむのも、幽霊を怖がるのもここらにしとけよ」


 例の『ブドウ畑』が横に見えてくると、スパタ爺さんが気を引き締めにきた。

 向こうにはなだらかさに枯れた木の並びと荒れ放題の草地がある。


「もうすぐか、トラックがあるとあっという間だ」

「うむ。狙うはガソリンスタンド、白き民がいるそうじゃがスクショ見る限りは有用そうなもんがちらほら見えたからの……こりゃほっとけんよな?」

「どこから引っ張ってきたのかは知らんけど、向こうに店舗移転してきたらしいからな。んでドワーフ的にはそこの残骸やら物資が欲しいと」

「わはは、何せ燃料蓄えとる場所があるんじゃぞ? ありゃあ、戦車のディーゼルエンジンに飲ませてやれるもんがあるかもしれんし?」

「でも考えてみれば150年ものだぞ? 提供できる商品がとっくの昔に切れてるかもしれないだろ?」

「なかったらなかったでしょうがないと思っとるさ。もう一つここらを安全にできて、わしらの使う金属資源やらが手に入るだけで御の字よ」

「どの道、俺たちが動けるうちにお早めにやるのが一番か。ここまで冒険してくれた奴らに感謝しとこう」


 車はそこに目にくれずに進んだ。

 ガソリンスタンド周辺にある廃車はドワーフ的にいい材料のアテだし、白き民を追い払えばこの土地も安全になる。

 残骸やらも『分解』すれば資源に回せる、俺たちにとっていいことづくめだ。 


「わたしも力になるからね? 白き民を少しでも減らせれば、みんなもっと安心できるだろうし……」

「お前も来てくれて助かるよ。これでストレンジャーズが集まったな」

「ふふっ、わたしもいかないとって思っちゃった。エルさんもフランさんもセアリさんも、拠点をしっかり守ってくれてるから安心してね?」

「なんだかリーダー借りて申し訳ないな、お詫びにいいお土産でも探しておこう」


 ミコは白き民相手に喧嘩を売ると聞いてついてきてくれた。

 気がかりな拠点の守りもエルたちが守ってくれてる、これで安心して出かけられるわけだ。


「フハハ、腕試しついでにドクターソーダがあれば言うことはないがな。そのあたりを期待して今日も皆で得を積もうではないか」

「向こうのコンビニってエナドリいっぱいおいてるんすよねえ。あったら根こそぎお持ち帰りするっす!」

「フランメリアの飯はうまいが、時にはウェイストランドにある「じゃんく」な食べ物も口にしたくなるからな! いざゆかん!」


 ……約三名、詳しくはオーガとメイドとダークエルフが本当にお買い物感覚でついてきてるが。

 そのついでで白き民を片付けてくれるのが救いか。

 緊張感のなさに「相変わらずだな」とミコと見合った。


「そして俺はそこの馬鹿エルフに引っ張られてきた。まあいいさ、どうせガス・ステーションには薬の材料になる車用品が置いてあるだろうさ」

『どうも、この顔ぶれ唯一のまともに運転できるお兄さんだ。それにしてもブドウ畑とか言うくせにひでえ荒れようだな、つーかなんかよく分からん果物生えてんぞあれ』

「……確かに、本で見るようなブドウ畑だな。実際に初めて見るものがあの荒れようとは気分が悪い話だ、あんな土地をほったらかしにするとはフランメリア人は馬鹿なのか?」


 今日も連れ回されるお医者様と、ストレンジャーズの足になってくれてる幼馴染がいればなんと豪華な面々か。

 それぞれの理由を荷台に、こうして白き民の元へと近づいていた。

 だが、この場でもっとも際立つ理由と言えば―


「様々な理由があれど、わしが楽しみにしとる一番の理由は()()()さ。そうじゃろうお前さんら?」


 スパタ爺さんが振り向きざまに見せる、にやりとした笑みの先だ。


「ん……これのこと?」


 もしその通りに振り向こうものなら、ちょうどニクが尻尾をぱたぱたさせてるそれが目に付くはず。

 一言でいえば、急ごしらえの台に固定された二メートルを超える体躯。

 難しく意識すれば、避弾経始を意識した灰色の装甲を部位ごとにあてはめて、お堅く作ったロボットさながらの何か。

 ウェイストランドを知るやつなら総じてそれをこう呼ぶはずだ。


「マジでエグゾと白き巨人をマッチングさせる気か。ひどいテストに付き合わされてる気分だ」


 なお走るトラックの上で、俺は目の前のエグゾアーマーまで近づいた。

 何度見てもステーションでテュマーが使ってたあの外骨格だ。

 もっとも今ではドワーフの計らいでだいぶ()()()をしたらしく、だいぶイメージが違う。


「ブルヘッドでのお前さんの活躍を信じてこそじゃよ。警備用のやつに軍用のパーツを流用した混ぜモンじゃが、中々良くできとると思わんか?」

「ちゃんと頭部パーツを変えてくれたあたりに気遣いを感じる」

「やっぱバイザーよか金属の安心感じゃろ? ちゃんとセンサーは本体と同期させといたから良く見えるはずじゃ」


 背中越しだが、警備用の『Security』な姿をじっくり眺める。

 市民受けの良さそうな流線型の装甲だったそれは、胴体と脚部を残して角の立った軍用のものに換装されてた。

 あの濃い緑も灰色に直されて、頭部も主砲をなくした砲塔みたいなものが頑丈に振舞うばかりだ。


「つまりここにエグゾが二つ分か、どおりで頼もしいわけだ」

「実をいうと二機とも調子が悪くての、しゃーないからニコイチにしちゃったのよ。でもこれで確実に動くはずじゃ」

『――おい、地平線の向こうにそれらしいの見えてきたぞお客さん。あれがどっかのガソリンスタンド、フランメリア支店じゃねえのか?』


 そこへゆるやかな停車が始まった。

 例のガソリンスタンドは間近らしい、向かう先に双眼鏡を向けてみると。


「まさしくあれがお目当てだぞ。ちゃんと新しい従業員も雇ったみたいだ」

「……巨人が二体いる?」

「スクショのズーム機能ではっきりしとらんかったが、こりゃたくさんおるのう……。つーかちょい待て、なんかでっかいの追加でおらん?」


 ニクとスパタ爺さんも交えれれば悪い意味でよく分かった。

 改装された店舗が強固に守られてるのは情報通りだが、内にも外にもうろつく白き民、そして巨人の佇まいが二人もある。

 ミコにも見せれば「うわあ」な声が漏れるのも仕方なく。


「……あの、一体だけだったよね? 倍になってるんだけど……?」

「バイト募集中だったんじゃないか? こっちに来てから景気が良さそうだな」

「おっきな新人さんっすねえ。新しいマスコットでもお雇いになったんすか?」

「ふむ、もしやブドウ畑が制圧されたことに気づいて警戒しているのか? まあ、半端に増えたところで俺様には関係などないがな?」

「私たちを脅威とみなしているのは確かだぞ。望むところだ、それくらいでコンビニの飯をあきらめると思うなよ!」

「言わせてもらうが、どうしてお前らと付き合うといつも敵の戦力が急に増えだすのか理解に苦しむぞ」

『でかいのが二体ってことは向こうの戦力は想定の倍だぞ。どーすんだ、このまま給油しにいってもあの世へ門前払いされそうだぜ?』


 全員で確かめてこうなのだ、間違いなく敵の質が強化されてる。

 たまたまであれクラウディアの言う通り警戒されてるのであれ、想定がずれた。

 しかも地形的に分が悪い。

 開けた土地が平たく続くのみで、奇襲を仕掛けるにも隠れる場所がないのだ。


「つまりこのままほっといたら、あそこからまた詰め寄ってくる可能性も上がったってことだよな? じゃあこの場を譲る理由はなしだ」


 決まりだ、なんにせよ敵がいる事実があれば攻める理由も事足りる。

 理解した次はエグゾの背中だ、腰回りのレバーを引くと装甲が開く。

 人型をかたどった緩衝材へ身を預けると、背でカバーが閉じて正常な装着を狭苦しく感じた。


「フハハッ! それでこそお前だ、よくぞ言ったな戦友よ。ああも堂々と構えられてしまえば、こちらも相応に振舞わねば不作法だろうさ」


 稼働したセンサーにクリアな視界が伝わると、オーガが何かを突き出してくる。

 銃だ。それもでっかい銃。エグゾ用にあわせた火器だ。

 しかも五十口径をそのまま小銃のガワに落とし込んだようなものじゃなく、人間の使う形に良く似せてある。


「それに手土産なしに帰るのもあれだしな? ここまで道を作ってくれた奴への感謝ってことでどうだ?」


 それを受け取りつつだが、俺は周りのやる気を確かめた。


「うん、見過ごしたらまた増えるかもしれないし……やるしかないよね?」

「ん、いつでもいける。おっきいのはご主人とノルベルト様に任せる」

「ではあのでかい獲物は俺様がいただこうか? さぞ徳も大きかろう」

「見た感じソルジャーがマシマシっすねえ、囲まれないように一体ずつ処理するっすよ皆様ぁ」

「高台のやつが厄介だぞ。ことが始まったら私が店舗の後ろ側から回り込んで仕留めてくるぞ」

「一応お前たちがわきまえたと仮定した上でなお言わせてもらうがな。燃料があればの話だが、間違えても地下タンクに響くほどの爆発などお見舞いするなよ。奴らは火気厳禁という言葉を知らんことにも気を付けろ」

「なあに、その点考えて爆発物なんぞ持ってきとらんさ、もし油の機嫌を損ねるようなもんもっとるやつがおったらここに置いとけよ。クリューサの言う通りあればの話じゃがな」

『ガソリンスタンドで一戦ねえ、引火するもんないことを願うばっかだ。オーケー満場一致で攻め込むって方向性だな』


 聞くまでもなかったか、ストレンジャーズは慣れたそぶりで得物を手にしてる。

 ミコが杖を抜けばお医者様だって不満そうにリボルバーの弾倉を開くのだ、これが俺たちである。


「決まりだ。タカアキ、準備ができ次第トラックで接近してくれ。どのみち隠れる場所がないならこっちから奇襲を作るしかない」

『あいよ、どんな風にお届けする? 俺はバックは苦手だが前から突っ込むのは得意だぜ?』

「横にある道路をまっすぐ進んでくれ、走行中に敵前で降車する」

『向こうにサプライズだな。転んで怪我すんなよ?』


 やり方はこうだ。

 隠れる場所がない以上、通り過ぎてもらうついでに一斉に降りて仕掛ける。

 後は適当、各々自分勝手に表現して壊滅を目指すのみ。

 俺たちに無駄に凝った前置きも大げさなはかりごともいらない、戦い方なんて自然と湧いて出てくる。


「俺たちにそんなヘマする奴はいないはずだ。ところでなんだこの銃? なんかいつもと違うな」


 幼馴染に無茶ぶりを受けてもらったところで、手元に渡った得物を寄せた。

 弾薬箱と弾帯を噛ませる()()()()じゃなく、弾倉の挿入口がちゃんと空いてる。

 横から伸びるチャージングハンドルは間違いなく人間使いを意識してた。

 五十口径を感じる長い銃身をすっぽり覆う突撃銃の形は、キャリングハンドルもついて今まで以上に機能性がある。


「すごいじゃろ? それな、わしらが作った新しいエグゾ用のカービンじゃよ。手持ち式にした五十口径よりもっと取り回しの良くて扱いやすいもんをイメージしたんじゃが、どーよ?」


 ドワーフ系のしてやったような顔が言うのだ、信頼できる品みたいだ。

 やがて目線は足元の木箱に向かった。中身は湾曲したデカい弾倉が幾つもだ。

 そいつをエグゾ用の()()()()にがぢっと差し込む。ハンドルを引くと重たい装填が伝わる。


「……生身の時と同じ感覚でいけるな。わざわざ作ってくれたのか?」


 弾倉のはまり具合を楽しみつつ尋ねてみたが、相手はそうでもなさそうな顔で。


「そりゃあ、お前さんが五十口径を銃でぶち抜くわ鉈でたたっ斬るわで二梃もぶっ壊してくれたからの。おかげで修理も難しいもんじゃから、ならいっそのこと機関部の一部だけ流用して大胆に作り直したのよ」


 と、俺の重機関銃破壊行為とのかかわりを教えてくれた。

 結果として生まれたのが今までより洗練された武器か、いい意味でぶち壊しにしたみたいだ。


「その結果がこの弾倉式か」

「そっちの方が戦闘中にカバー開いて噛ませて閉じての工程はいらんじゃろ」

「そりゃ便利だな、それに今までのとは違ってぶん回しやすい」

「他にもドラム型弾倉やらも作ろうかと思ったんじゃが、まずはそいつが実戦でどれだけ使えるもんなのか調べんといかんじゃろ? 弾倉はトリガ・ガードを下に押せよ、それで外せるからの」

「いい武器だ、名前は?」

「試作品ゆえに今は何も考えとらんが、しいて言うならエグゾ用カービンっていったところかの」


 ついでに弾倉の外し方も教わった、トリガの守りを押し込むと落ちていく。

 なるほど弾帯式よりお手軽そうだ。腰回りのマウントに予備弾を差し込んだ。

 エグゾ用カービンを振り回すと実にスムーズだ。両手で握れば狙いもよく定まる。


「……あの、おじいちゃん? もしかしてこれもエグゾ用ですか?」


 外骨格の力加減で得物を確かめてると、センサーにじいっと下を見つめるミコが当てはまった。

 やがてそこに混ざったノルベルトが何かを拾い上げたらしく。


「おお、ずいぶんと大きな剣だな? これはいかにもお前に使えと訴えているようではないか?」


 いい笑顔がそれを渡してきたのもすぐだ。

 それは――剣、というよりはナタだった。

 もしくはそれに似た鉄の塊と言うべきかもしれない。

 切れ味よりも頑丈さを追求した、とにかく無骨な直刀が柄と繋がっており。


「スパタ爺さん、このでっかい剣はなんだ? まさかこれでチャンバラしろと?」


 受け取ってみればエグゾ向けの迫力だ。

 ちょうどこの出力にしっくりくる獲物として手に収まった。

 取り回しはいいけど人間が使うにはデカすぎる、それかオーガ向けだ。


「まさしくそうじゃよ。そいつはエグゾ用のマチェーテじゃ、白き巨人が使っとった剣を切り出して作ってやったわ。まあ、いうならやつらへのお返しってところかの?」

「てことはこいつをあいつらに送り返せばいいのか?」

「うむ、あいにくそんなでかいもんじゃから切れ味よか重さでぶった切る得物になっとるがの。そいつはエグゾの腰にある弾倉用マウントに下げれるようにしてあんぞ、咄嗟に抜ける場所に収めとけよ」


 が、スパタ爺さんはひどい意趣返しを込めてるのだ。

 言われるがまま腰回りを探って差し込むと、がちゃりと収まった――今度はエグゾで白兵戦か。


「どう? 似合う?」

「なんだかいちクンらしいと思います……」

「ん、かっこいい」

「白き巨人のものをやつらに返すとは中々な皮肉ではないか。気に入った」

「イチ様とおそろいっすねえ。どんな威力なのか気になるっす~」

「エグゾで剣か、流石の白き民もたまったものじゃないだろうな。そいつで叩き斬ってやるといいぞ」

「ドワーフどもはこいつを日に日に凶暴にさせてる気がするんだが気のせいか? まさかそれであの巨人と打ち合えなどといわないだろうな」

『あー、お客様? そろそろ準備はいいか? ちょっと緊張してるからお兄さんの気持ちが揺らぐ前に決めてくんね?』


 ストレンジャーズの面々的にもお似合いらしい。

 そういうことならありがたく活用させてもらおう。

 エグゾ用の武器が揃う頃にはみんなも準備万端、腹もくくって戦の雰囲気だ――やるとするか。


「よし、そろそろ行ってくれ。俺たちが生きて降りれるスピードで頼む」

『りょーかい。では皆さま大変お待たせしました、これよりガソリンスタンドへちょいと寄ります、安全運転で突っ込みますのでどうぞご自由に蹴散らしてきてくださいってな!』

「わしはトラックの安全のためにこっから援護すんぞ。ぞんぶんに暴れてそいつの性能を確かめてこい!」


 一声かけるとトラックがいよいよ走り出した。

 軍用の足回りが、フル武装の面々を乗せたままにどんどん加速していく。

 足からかすかな伝わる草の柔らかさが、次第にアスファルト感に変わった。


『もうすぐだ! 敵に気づかれたぞ、でけえのがこっちガン見して歓迎ムードだ!』

「イチ! 一番槍はお前さんじゃ! その台ごと滑り落ちろ!」


 びゅおっ、とエグゾ越しにも分かる頭上からの飛翔音。

 まさかと向けば、二発目と言わんばかりの太矢がそばの道路を砕いた。

 「ひゃあっ……!?」と怯むミコを追い越せば、店舗前でバリスタを構える白い巨体との距離がまさに狭まっており。


「……嬉しくない一番乗りだな! 先いってるぞ、寂しいからちゃんとついてこいよ!」


 俺は言われるがまま、エグゾの出力に任せて地面を蹴った。

 すると荷台に固定されたフレームごと我が身がぐんぐん進んでいく。

 敷かれたレールをクソ律儀に辿って、外骨格の質量が走行中の慣性からはじき出され。


 がしゃんっ!


 衝撃を感じた瞬間、若干の滑走の後に足回りを支えていた台が割れた。

 結果、見事なバランスで着地することになった。

 もちろん敵前、それも四本腕で馬鹿でかい得物を扱う化け物の目の前だが。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――!』

「よお、一番槍だ。ガソリンはおいくらだ店員さん?」


 向こうもまさかいきなり詰めてくるとは思わなかったらしい。

 アホみたいに大きな十字型の剣を振り上げたばかりだ。

 降下の勢いのままくるっと対峙、片手のエグゾ用カービンで今日の盛況ぶりを尋ねた――

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