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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
545/580

51 大砲、戦車、ストレンジャー


「――良いニュース&悪いニュースでいえば、まず最初に言いたいのは悪い方だな。チアルたちが見つけてくれた放棄された町が白き民と巨人のパーティー会場になってたわけだけど」


 俺はテーブル上の青色をじゃらじゃらさせた。

 青く透き通った見た目はフランメリア特有の象徴だ。

 アーツアーカイブの板状と、スペルピースのひし形が混じってる。


「実際に現場に見た私からも言わせてもらいますと、そこが襲撃してきたやつらの出所なんですよねえ。ぱっと見ただけでも、もう一度ここを襲いに来てもおかしくない数でして……」


 あの戦いの戦利品をじゃらつかせてると、同席したミナミさんがよくない顔だ。

 その説明が重なるのは、目の前に広がるアサイラム周辺の地図である。

 持ち寄った情報が足された今、紙上の表現はなんとも複雑な模様だ。


「いや、とことん悪いニュースじゃねーか。あんだけ倒したのに向こうはまだ余裕たっぷりなんだよな? 俺はあの馬鹿みてーな突撃、あるもん全部ぶっこんだ()()()()()()だと思ってたんだぜ?」

「もう一回やぶれかぶれができそうな盛況ぶりだったな」

「ええ、しかも表面上だけであれですからね? 屋内や町の構造の奥に見えない数があるとすれば、実際はもっといるかと思われます」

「で、最低でもデカいのが二人も保証されてますよと。あいつらどっからあんな大きなダチ連れてきやがったんだよ……?」


 同じく話に加わっていたシナダ先輩はとても嫌な顔だった。

 しかめっ面もごもっともだが、その様相は集った主要メンバーにも伝染していき。


「しかもさ、巨人の足跡が途中で途絶えてたってなんだか妙だよね。あいつらって、南側からずっと歩いてきたんじゃないのかな……?」


 チーム・ヤグチを代表する高身長もここで悩ましくしていて。


「確かに妙。けれどもあんなものが群れを成して練り歩こうものなら、いくら森があれどその前兆は我々にも伝わるはず」

「どこかからいきなり現れた……とかじゃないよね? 廃墟で一緒にいたってことは、間違いなく仲間なんだろうけど……」


 隣に座ったミコ……と、その太ももにもっちり安らぐオリスもだ。


「あっ、それとね? あのでっかい白き民、東の町にもいたよ! 何体かずんずん歩いてました!」


 それから人の膝にちょこんと座って、羽をぱたぱたさせるキャロルも忘れずに。

 お腹を押すと「にゃあ」とないた。それはさておき情報まとめるに――


「お前らにあんまりこんなことは言いたかねえがな、この地図を見て思うにこう言わざるを得ねえんだよな。これじゃまるで……」

「フランメリアに何か起きとるとな? わしもそう思ってたぞタケナカの、こりゃ何か由々しき事態を感じるぞ」

「ああそうだな、間違いなく何か起きてやがる。理由なんざ知らねえがここ最近の白き民はどう考えたっておかしすぎるぜ」


 この土地には間違いなく、坊主頭とドワーフが口にするような異変が起きてる。


「今更白き民がご近所にいたぐらいで「ああそうかよ」って話だったけど、こりゃないだろ……あのデカいやつが南側以外にもいるだって?」


 そいつをあらためて目でじっくりと味わった。


 アサイラムがそこにあるとしよう。

 ずっと南に砦と、その離れで小山に囲まれた町――敵の拠点が構えられてる。

 南側に用心する理由はこれだ、更に東側の森の存在も忘れちゃならない。

 道中の見張り塔を超え、そこから道を辿ると森の中に町が現れる。


 その名も【風と緑纏う町エアロス・タウン】だ。

 名付け親に「やかましい」とののしってやりたいが、チーム・ロリの報告によればそこに巨人もいたという。

 なんなら証拠もあった、キャロルからのスクショを見ればその通りで。


「うん、あのね? 白き巨人が歩いてたの。建物の間とか、町の外とかを見回ってて、あそこを守ってるみたいだったよ?」

「デカい見張り番を雇用したみたいだな。タケナカ先輩、前に偵察しに行ったときにそんなデカくてキモいやつは見当たらなかったか?」


 俺はPDAに映った光景を振りまいた。

 大木が当然のように生えた自然の中に、取ってつけたような町並みがある。

 その繁栄ぶりは植物にすっかり飲まれて「緑纏う」のあたりに忠実だ。

 問題はこの風景にある。手前を横切る川とそれを渡す橋の向こうに、巨大な人型が白く背を向けてた。


「俺たちが行ったときに遭遇しなくて安心してるぐらいだ。こんな冗談みてえなやつがいたら尻尾まいて逃げてる」

「だよな。つまりこいつは、新手がスポーンしてる証拠ってわけだ」

「前はこのスクショに映ってる橋を渡って、少し町の中を見てきたんだが……その時は白き民が巡回してたぐらいだ。なのにアサイラムを襲った直後にいきなり現れたなんておかしすぎんだろ」


 ここへ向かったタケナカ先輩の報告を交えれば、ずいぶんおかしなことが起きてる。

 初心者の一団と共に調べにいったそうだが、巨人なんて大層なものはいなかった。

 でも今はどうだ? あのデカさが数体も闊歩してる有様だ。


 何かおかしい、襲撃をやり過ごしてから白き民たちに明らかな変化がある。

 それだけならまだしもだ。


「タケナカ、俺たちの報告も混ぜちまえばこっから東にデカいのがいるってのは()()()()じゃなさそうだ。西の【風車の町】とかいうのを超えた先へ向かったんだが――」


 ここには出発前の言葉通り、西へ西へと調べに行ったシナダ先輩がいる。

 そいつらの足取りと証言を混ぜれば、前にオリスたちが制圧した町の向こうまで向かったらしい。

 途中に【ブドウ畑】とあったそうだけど、今は大きな×がついて制圧済みだ。

 問題はその奥だ、【ガソリンスタンド】と書き込まれており。

 

「道中ブドウ畑と民家があって、そこに白き民がいたんだ。まあ俺たちが制圧したんだけどな、問題はその後さ」


 シナダ先輩はいやな思い出を表情に宿して、その状況を口にしてくれた。


「離れたところにガソリンスタンドがあってよ、転移したやつなんだろうが……見事に白き民と巨人が居座ってやがったぜ」


 続いて本人は画像を周りに送った。

 ぴこんと着信を感じれば、コンビニと一体化したガソリンスタンドが写されてた。


「ワオ、ずいぶんでっかい従業員だな。それともこいつはガソリンで動くのか? レギュラー? それともハイオク?」


 問題はその構図だ、一目見て思わず軽口が反射的に出るほどだ。

 何人かがくすっと笑う程度の余裕はあれど、どう見てもそこに白き民がいる。

 ズーム機能で少しぼやけてるものの、武装した人型が店舗を乗っ取ってた。

 そこらの廃材で防御陣地を作ったり、平たい屋根への足掛かりを作って監視所までこしらえる始末だ。


「……西にもいるんだ、この巨人」


 そしてミコのぼそっとした一言も挟まった。

 何せその外観には、放置された軍用車両を追い越す巨体が佇んでいたのだから。

 横倒しになった廃車がそこを囲っているのも、おそらくそいつの馬鹿力ゆえだ。


「しかもだ、他に周辺を探索した新入りどもからも報告があったんだが、白き巨人がいる廃墟がいくつかあったそうだ。これらを踏まえるに北側にも現れてるってことになるよな?」


 更にもう一押し、タケナカ先輩の嫌そうな口ぶりだ。

 他のチームも北方面まで足を運んだそうだが、結果は地図の情報通りである。

 例えば、以前制圧したっていう農場の奥で【伐採所】と記された場所だ。

 言うには森の手前に白き民がいたらしい――巨人と一緒に。


「ってことは、もう俺たちはどこ向こうが巨人と触れ合える状況か。そこらじゅうにあのデカいのがいるとか最高だな、ああ本当に最高」


 導き出される答えは、今こうして俺の口から出た毒づきそのまんまだろう。

 もはや東西南北、白き巨人がどこかしらにいるような状況だった。

 たった一晩でこれだぞ? いつの間にかあんなのが何体も現れてやがる。


「けれどもこれはあまりにも唐突過ぎる。そこで私はある懸念を抱いた」


 場の空気も悪い意味で最高だが、そこへオリスがミコの膝の上で一言。


「……懸念、ってどうしたの? オリスちゃん?」

「確かに白き巨人が一斉に現れたのは奇妙極まりない。では、この現象はクラングル周辺にも起きているのかという不安がある」

「それって……ここだけじゃなく、他の場所でも白き巨人が現れているかもしれないってこと?」


 最後に「そう」と頷いたおかげで、俺たちは次の不安へワンステップだ。

 そうだ、デカい図体はここらだけじゃなく他の地域にも表れてるんじゃ?


「その件についてですが、今のところはあちらで巨人が現れたなどという情報は出ていないそうですぞ。どうにもこの地方ならではの出来事らしいですなあ」


 全員の不安も当然だが、幸いにもアキの一言が混ざりにきた。

 白き巨人はこの未開の地の特産品らしい。

 ただしその眼鏡顔が訝しむように()()()()()()だが。


「そりゃ是非ここ限定であってほしいな、あんなのがフランメリアのあちこちに出てくるなんてごめんだ」

「私としてもそうですなあ、あの悪趣味で白くて大きなものがこの地をのさばるのも気持ちが良くありませんし。しかし今まで身を潜めていたような白き民がまた活発になるどころか、こうして新種を連れ出し始めるとは何が起こっているのやら……」

「今はっきりしてるのは南の連中がまた来るかもしれないって心配だ。残りは今度ご本人たちに聞いておこうか?」

「でしたら機会があれば是非、彼らの起源から理念まで尋ねておいてほしいものです。もっとも分かったところで、相容れない関係がどこまでも続くことかと思われますがね」

「こっちも今のところ仲良くなる予定ゼロだ。変なカルトが信じてるやつは気を許すなって経験済みなもんでな」

「はっはっは、あなたがそういうのでしたら間違いないでしょうな?」

「それに白き民もデカブツもだいぶ俺たちでぶっ倒してるんだ、今更仲良くしましょうが言えない仲だろ」

「しかし、巨人が出たという話はフランメリアの民に強く不安を与えるものには違いありませんな。あれがなんであれ我々を脅かすものが現れたことに変わりはありませんゆえ……」


 理解できるのは白き巨人が絶対に仲良くできない厄介者という点のみだ。

 あんなのが続々現れたら屈強なフランメリア人いえども迷惑極まりないだろう。


「あっ、でもね? さっきおねえちゃんたちが一体やったよ、すごいでしょ!」


 ……そう言った矢先「ふふん」と人の上で得意げにする自称姉もいたが。

 なんていったこいつ、尻をむにっと預けるキャロルが振り向きざまのドヤ顔だ。


「殴り込んだ挙句にあのでっかいのひと狩りしちゃったって意味だよな?」

「はぐれてるのがいたから、メカちゃんと一緒に足にどーん!ってやって、転んだところでみんなで囲んでやっつけたの!」

「そしてトドメは私がいただいた。無防備な頭部へ放ったアーツが決め手」

「なあミコ、やっぱりヒロインって逞しいんだな。これでよく分かった」

「み、みんなで倒しちゃったんだ……?」


 なんてやつだ、ロリどもの総力で仕留めてきたらしい。

 隣でふんすと得意げなオリスを見るに冗談の余地はない、何してんだお前ら。

 「いやはや流石ですなあ」とアキの関心も飛ぶが、次に浮かんだ話はこうだ。


「周囲に白き巨人がいるのはもう仕方ないの一言で済ませるにしてもだ、俺が一番気にしてる問題は南のやつらなんだよな。あいつらが一度攻め込んできたってことは、また来たっておかしくないだろ?」


 俺は例の南側の廃墟を見た。

 地形の高低差を挟んでそれなりの距離を置いてるが、あの数を見てからだとずいぶんと身近に感じる。


「それを言ったら東も、だよね……?」


 ミコの言葉も足せば東の森にもたくさんの敵が居座ってる。

 二方面に敵うじゃうじゃを抱えた最悪の環境ってわけか。

 そうまで分かればなおさら「どうすんのこれ」と総意が集うも。


「その点について一つ物申したい。東の連中は動きが妙だった」


 と、ミコの太もものもちもち加減の上でオリスが手を挙げた。

 当然みんなの視線が知りたそうに集えば、小さな白髪エルフは一呼吸おいて。


「妙って何がだ?」

「探索中に発見されたのだけど、町の外へ撤退したら向こうは追跡をあきらめて戻っていった。数も質も向こうが上というのに、この判断はいささか疑問を感じざるを得ない。まるでそこに固定されているかのよう」


 俺の疑問に答えを繋げてきた。

 追跡してこなかった? あの殺意しかないような白き民が?


「それって妙だよね……? 前に俺たちもあいつらに追われたことがあるけどさ、しつこく追い詰めてくるようなやつらだったし。それが大人しく引っ込むなんて想像できないよ」

「みすみす敵を逃すなんて確かにおかしいぞ。冒険者始めてから白き民のしつこさは身に染みてるからな、そいつがどんだけ妙なのかよく分かるぜ」

「追ってこない……? 普通だったら追いかけてくると思うんだけど……」


 ヤグチとシナダ先輩もさぞ信じられなさそうなご様子だった。

 ミコも「白き民が?」と謎めいてるのだから、何かおかしなものが働いてる。


「確かにおかしいですな。白き民は外敵に対して非常に敏感なものですぞ、よほどの力の差がない限りはテリトリーに近づいたものを決して逃すはずがないのですが……」

「よっぽどアホみてえな戦力ぶちかまして潰走させん限り、律儀に追撃してくるあいつらがほいほい戻ってくなんてのう……? 急にどうしたんじゃ、なんか変なもん食ったか?」


 フランメリアの古参たるエルフとドワーフもそういってしまえば、謎は嫌に深まるばかりだ。


「こういう考えはしたくないんだけどあえて言うぞ。東の白き民がお住いの地域を離れて突っ込んで来たら俺たちはおしまいだ、まして南にいるやつも同調して二方面ダブルで来たらもっとひどい話だろ? なのにあいつら、クソ律儀に拠点を守ってるってことにならないか?」


 そこで俺は今の謎を突き出した。


 そうだとも、東も南もさっさと攻め込んで来ればアサイラムはさぞ困る。

 両方があの戦いと同等の戦力をここに交差させようものなら、もはやここをあきらめてなかったことにするのがいいレベルだ。

 しかし現に来ない。あいつらはどうして町から出てこない?


「……確かにそうだよね、それだけいるっていうことは、戦力が揃ってるってことでもあるし。そういえば、南の方は前と比べて守りが強くなってたってチアルさんが言ってたよね?」


 が、ミコのぽそっとした疑問の声で思い出した。

 南の街は最初に目撃した頃より防御的になってるとか、チアルが言ってたな。

 その証拠に馬鹿でかいクロスボウを据えた見張り台があった、あんなもんなかったそうだ。


「ありましたねえ、でっかいクロスボウ……というかバリスタ? あんなの作るということは、やっぱり相応の脅威を警戒してるんでしょうか……」


 同じく目にしたミナミさんもあれに関していくらか考えがあるようだ。

 その通り、あの武器は間違いなくアサイラムにむけられてた。


「街の入り口に見張り台が二つ、でっかい武器を添えた何かが防御についてたな。こっちに向けて用心してた気がする」

「わたしたちのいる方向に、だよね。守りを固めてたってことは、今攻め込まれたら困るのかな?」

「なるほど、俺たちが来るのを恐れた証拠かもしれないってか?」

「うん、もしかしたら、だけど……攻めるより守る方が大事な理由があるんじゃないかなって。例えば、次の攻撃に備えて準備しないといけない、とか」


 チビエルフを乗せた桃色髪な相棒は50%ほどの自信でそう言い広めた。

 俺たちを恐れてるのか? それとも次の行動のために守勢に回ってる?

 どちらにせよ、そう考えると出てくる答えはどうも一つで。


「……もしそうだとしたら、だぞ? そろそろ楽観視させてもらうが、南にせよ東にせよ、俺たちのところに次の攻撃が来るまで猶予があるんじゃねえか?」


 最もたるものがタケナカ先輩の厳つい顔から出てきた。

 都合よく見るなら今攻め込まれるリスクは少ないということだ、それか――


「それかこっちから仕掛けるチャンスかもな。もちろん同じく楽観的に考えた場合だ」


 俺は手元の板とひし形をじゃらじゃらさせた。

 もし向こうが「お邪魔します」の準備中にせよ、手痛い反撃だったのか受け身になってるにせよ、戦力を動かさないなら攻め込むチャンスでもある。


「イチ、そいつは俺も考えてたぞ。戦いってのは主導権ってのがあるからな、ここが剣と魔法の世界だろうが防衛側が有利だってセオリーは変わりはしねえが、そりゃこっちの攻撃に適した守りがあってこそだ」

「でもこっちはえらく遠いところから建物ごとぶっ飛ばす手段があるよな」

「そうだ、こういう時だから頼らせてもらうが、()()()()()で一方的に攻撃すりゃ町一つ分の防御力なんざたかが知れてるだろ?」


 タケナカ先輩もウェイストランド帰りの身分をよく信じてくれてるらしい。

 現代兵器の火力を使えば、あいつらの手の届かぬ場所から攻撃を加えられるのがこっちの強みだ。

 するとスパタ爺さんは「ふん」と得意げな鼻息で。


「南に白き民がうじゃうじゃいるって耳に届いた時点ではなっからそのつもりじゃよ。それに火薬が調達できちまうって分かっちまったからには、わしらもあそこをただの廃墟として見過ごすつもりもないもんさ」


 ここ最近いったい何を考えてたのやら、ものすごい悪だくみの顔だ。

 続けてぴゅうっと太い口笛を奏でて誰かを呼んだ。

 そうして出てきたのは、そこらで暇そうにうろうろしてたタカアキで。


「タカアキ! あれ持ってこい! お披露目の時間じゃ!」

『オーケー爺ちゃん! おい誰か運ぶの手伝ってくれ、ノルベルトあたりがいい!』

『おおっ? 俺様をお呼びか? 任せるがよい!』


 訓練場からつられたノルベルトも加えて、倉庫の中へ潜ってしまった。

 その成り行きを見守れば、どうも二人は太い筒やら箱やらを担いできて。


「はーい、無反動砲と迫撃砲のお届けでーす。いつに間にこんなん作りやがったんだよほんと」

「持ってきたぞ! ドワーフらしい腕前を変わらず此方でも振舞っているようだな、中々良い戦いの造形をしているではないか?」

「お前さんらがここらを探索してくれたおかげでいろいろと資源を確保できてな。欲しくても中々手に入らんかったものもあって、作りたいものが次々出来ちまったわけじゃよ」


 次第にスパタ爺さんはテーブル横にごんごん置かれる品々に得意げだ。


 何度見直しても現代的な武器だった。

 キャリングハンドルのついた砲身と、ラッパ状になった後尾が特徴的な対戦車火器が特にそうだ。

 金属とは違う質感は軍隊的な緑色で、フォアグリップとピストルグリップの保持性はさることながら、光学照準器までマウント済みだ。

 更に81㎜ほどの迫撃砲一式に砲弾入りのケースもある、なんだこの悪質火力。


「おい、いつの間にこんなの倉庫にぶち込んだ?」

「ろけっとらんちゃー……!? 吹っ飛ばすんか、これで白き民やっつけちゃうんか……!?」

「お、おじいちゃん……? これって、どう見ても現代兵器ですよね……?」

「なんという。ドワーフは現代チートでこの世を征服する予定でも?」

「過去一番でとんでもない武器が出て来ちゃったよ……!? 大砲が二つもあるんだけどさ、まさかこれ使う気じゃ……!?」

「剣と魔法の世にこういうの持ち込んで無双するとか定番ですけど、今我々はそんな感じのそばに立たされてますねえ……」

「この爺さんども、ファンタジー世界でなんてもん作ってるんだか……無反動砲に迫撃砲だぞ?」

「おいおいおいおい……前々からいろいろ作ってるのは知ってたけどよ、こんなもん作るとか気合入れ過ぎじゃねーのか? 中東の兵器製造者も腰抜かすぜ」


 そこにあったのは現代的な武器だったわけだ。

 お前それ世界観間違ってるぞと言いたくなるような砲と弾薬が、間違いなく俺たちのそばで物騒さを振りまいていて。


「向こうが馬鹿でけえやつを連れてくるなら、こっちだって馬鹿でけえの用意したってわけよ。こいつでやつらの拠点相手に試し撃ちしてみろ、飛ぶぞ」


 こんなのを作った種族は、まるで白き民の町がいい実験台とみなしているようだ。

 なんならロケットランチャーが回ってきた。ミコが「わっ」と抱えた通りの重さだった。

 金属感がないし、スティレットより重いがこの手の口径にしては軽い。


「……まさかこいつはカール・グスタフか? んなもん作るとか冗談だろ?」


 タケナカ先輩の手にも渡れば、厳つい顔がひたすら驚くほどの出来だ。


「カール・グスタフ? 誰じゃそいつ? お前さんのダチか?」

「いや、気にしないでくれ。よくできるって誉め言葉だと思えば十分だ」

「わはは、お前さんも分かるかタケナカの。こいつはな、戦前の米軍とやらがつかっとった武器を参考に作らせてもらった武器じゃ。その名も『84㎜擲弾銃』といったところかの?」


 スパタ爺さんの説明は箱に詰まった砲弾までにも及びに行ったようだ。

 それはもう自信満々な様子で、軽々担いだ()()()もろともそこへ向かうと。


「イチ、あの時見つけた墜落現場は覚えとるな?」


 ひょい、と何かを拾って投げてきた。

 人間の前腕ほどに太い金属的なものだ。

 先が尖った弾頭と、底に張り出しがついた薬莢が――砲弾じゃねーか馬鹿野郎!

 「なにこれ」なキャロルから遠ざけてシナダ先輩にパス、「んなもん投げんな!?」と怒られた。


「覚えてるとも。あと砲弾を粗末に扱うとバチが当たるぞ、爆発したらどうするこの天才」

「お、おじいちゃんっ!? そんなものいきなり投げないでください!? キャロルちゃんいるんですよ!?」

「心配せんでもよいぞ、砲弾の雷管は側面についとるからの。その擲弾銃の大部分は旅客機をバラして回収した素材を使っとる。スティレットよか重いが口径は倍ほどの84㎜、つまり実質威力二倍じゃな」

「あれを有効利用した結果が威力二倍か。ひどい転生先だ」

「作ったはいいが弾が問題でのう。砲弾だっていくらギルドに作業機械置いたと言えども手間からしてそう簡単に作れんし、何せ火薬っつー問題が付きまとえばただのデカい筒じゃったが……」

「火薬の補給のアテができたから解禁しましたと」

「そゆこと。ついでに迫撃砲のコピーも作っておってな、迫撃砲弾も時間と材料さえありゃ多くはないが作れるさ。すげーじゃろ?」


 こいつはスパタ爺さんのドヤ顔相応だ、確かにすげー。

 色付けされた目的別の81㎜迫撃砲弾がサンプルとばかりに並んでるあたり、弾種のバリエーションも豊富みたいだ。

 ノルベルトが「どうだ?」といつぞやみたいに迫撃砲を抱えてた、親指で似合ってると答えておいた。


「榴弾に多目的榴弾に成形炸薬に……フレシェット……弾? スティングの戦いでこんなのがあれば、俺の戦車撃破数も捗っただろうな」

「わはは、白き巨人はスティレット防ぎおったが、こいつなら腕ごとぶっとばせるさ。慈悲はないがの」

「で、こいつでどうするつもりだ?」

「確実にやれるぐらいの火力を溜めてから南をぶっ叩く、それだけのことじゃよ」


 これらを総じて導き出した答えは「南を叩け」だ。


 ――がららららら……っ。


 更に異音も聞こえてきた。履帯の回る感じだ。

 フランメリアらしからぬ機械の奏でに拠点が騒がしくなれば、まさに()()()()()ゲートを通っていて。


「あれがそうなんだな、ようこそアサイラムへ」

「マジで来ちまったな……えらいもん連れて来やがって、頼もしいじゃねえか」


 タケナカ先輩と視線が揃った、実戦的な緑色が道路を辿ってる。

 ライヒランドから鹵獲した戦車が慎重に行進中だ。

 南を向いた主砲と、砲塔銃座についたディセンバーがひどく頼もしい。


『ストレンジャー、爺さん! 遅れてすまなかったな! みんな大好き【一号車】到着だ、傷一つなくお届けにきたぞ!』

「きおったかディセンバーのやつめ。これでわしらは戦車の支援も受けれるわけじゃ、冒険者の力もあわせりゃ南のやつらも楽勝よ」

『おー、戦車来てるっすよチアルちゃん。巨人来てもいちころっすねえ』

『わっ、まじで来てるし! これでさいきょーじゃん、記念スクショとろ!』

『いったいなんだねさわがしい……ってうわ、せんしゃじゃないか! とうとうガチめのやつがきちゃったのか、これはもはやせんそうだ』

『団長たち、これで安心して今夜過ごせそうだね……なんかファンタジーライフが順調に近代火力に侵食されてない? 気のせい?』


 突然の戦車の登場に、くつろいでいた冒険者も何事かと飛び出る騒ぎだ。

 それだけ頼もしい証拠だ。来てくれてどうもとハッチの車長に手を振った。 


「要約すると、向こうがやってこないうちに準備済ませて一気に叩く。これが今現在の()()か?」


 俺はアサイラムの景観づくりに一役買ったそれを含めて、場を伺った。

 傍らの重火器といい、向こうの戦車といい、こうも揃った攻撃力に冒険者の面々は肯定的な頷きで。


「それとイチ、お前さんのエグゾもあるぞ。よって冒険者に加えて砲に戦車にエグゾと火力マシマシの支援つきじゃ」


 更にダメ押しとばかりに、スパタ爺さんがエグゾを人様込みで提示してきた。

 あの外骨格が果たしてどこまで白き民に通用するのかはいまだ謎だ、それゆえにタケナカ先輩は特に疑問形で。


「爺さん、あのパワードスーツをえらく信用してるようだけどな、ありゃ一体なんなんだ? そんな戦況を大きく変えるもんには見えないんだが」

「あれは重機関銃すら軽々取り回す力を得られる機械の鎧じゃ。そこにストレンジャーあれば世にも恐ろしいことになるのをわしらは良く知ってる、それがあれの強みよ」


 あの人はなんて答え方をしてるんだろう、俺を指名した上でエグゾのすごさを語ってる。


「俺に何かさせるような発言だな、あってる?」

「当たり前じゃろ。とはいえ実戦でどこまで通用するかはまだ未知数よ、白き民なら余裕だろうが、巨人にどこまで痛手を食らわせるかが要での。こいつを実戦で調べようと思っとるんじゃが……」


 ほらやっぱり、なぜかこっちに視線をじいっと向けてきた。

 向こうで戦車に集まっていたドワーフたちも何故か(敏く)こっちを見てる、何かさせようとする魂胆でいっぱいだ。

 なんだったら短い腕が地図上のはるか西側をなぞっていて。


「あー、なんか話が読めてきたぞ爺さん。思うにこの流れは……」

「おじいちゃん、もしかしていちクンに何かさせるつもりですか……?」

「んで、ちょうどガソリンスタンドが見付かった訳じゃな? もしかしたらそこに燃料があるかもしれんし、材料になりそうな廃車もありゃ、おあつらえ向きに白き巨人が一体いるときた。実にわしらの都合にいいと思わん? 思うよね?」


 シナダ先輩の努力の甲斐あって、ドワーフの攻撃的な笑顔がこっちに当たった。

 それはエグゾのリハビリに付き合ってくれるとも受け取れるし、ドワーフの好奇心に付き合えという要求にも感じる。

 でも、けっきょくどう好意的に受け取ろうが要はこうだ。


「締めの言葉は「エグゾでさくっと片づけてこい」あたりか?」

「お前さんのリハビリ、物資集め、安全確保、エグゾの有効性テスト、一石三鳥どころか四鳥じゃぞ。いや、お前さんの拠点づくりの資源も集められりゃ五か? どうじゃ、いっきに得してみんか?」

「……どうせやることなかったしな、いいことづくめなら後伸ばしにしないで早めにやっちまうか」

「それでこそお前さんじゃ。よっしゃ、後ろのもんにエグゾ用の武器届けさせるからの。タカアキ! トラック出せるようにしとけ!」

「あらら急なお仕事。オーケー、ひと狩りいこうぜ!」


 アサイラムのため、大げさに言えばフランメリアのため頑張るとしよう。


「決まりだ、当面の目標は南の制圧だな。んで俺は今からガソリンスタンドにお買い物だ、コンビニもあるから欲しいモンあったらリストに書いといてくれ」


 やることができた俺は席を立った。

 軽いノリはすっかり行き渡ってるみたいだ、全員軽く笑って「オーケー」か。


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