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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
542/580

48 汝、白色に備えよ。クリーム色の火薬と共に。


「つまりだ、俺たちは想定外を二つ三つも重ねて今に至るわけってか? 今日はとんだ厄日に変わっちまってるじゃねえか……」


 帰還して間もなく、タカアキ先輩からすげえ嫌そうな顔をされるのも仕方ない。


「この際デカブツの足取りは仕方ないとすっ飛ばすにしてものう……先の襲撃と件の廃墟は間違いなく絡んどって、しかもそこでまだ戦力たっぷり抱えて余裕そうに構えとるとか悪い知らせにもほどがあるじゃろ」


 隣に同じく、ちっちゃな髭面のお爺ちゃんもだった。

 飯によし話し合いによしの便利な広場は今やみんなの悩みが募ってた。


「足跡がそこから来てたってことはさ、あれだけ倒したのにまだまだ敵が控えてるんだよね。また昨晩みたいなことが起きてもおかしくないんじゃ……」


 こうして嬉しくない知らせに同席したヤグチも困った様子なら。


「わたし、何か妙だと思うよ……? ()()()()なんてフランメリアで初めてだって言われてるし、どうしてあんなのがいきなり現れたのかな? もしかして、向こうも強くなってるとか……?」


 報告を聞きにきたミコだってこの頃の白き民の生態系を心配するほどだ。

 せっかくの土産話は謎をいたずらに深める悪い知らせだったか。


「タケナカ先輩、なんであれお持ち帰りしてきた事実はシンプルだ。またあいつらがお邪魔しにくるとしたらまたでっかいお友達連れてくるぞ」

「あの巨人が白き民と仲良くしてやがったなんてひでえ知らせだ。それでついでに聞くが、チアルのやつが送ってきたこの記念撮影現場は何だ?」

「せめて嫌なムードを払拭しようっていう誰かさんの気の使い方だ、よく撮れてない?」

「嫌な知らせをバックに余裕ぶっこきやがってお前らは。この芸術点の高さは徹底的にやってやるっていう気概として受け取ってやるよ」

「そう思ってくれ。とにかく持ち帰れた情報は()()()()が来てもおかしくないってことだけだ、向こうにそれくらいの戦力があった」


 調べた結果をまとめると、景気の悪い空気が流れるのも仕方ない。

 南の森を抜けて先にある砦を追い越し、長く直進したところに敵の拠点があるのだから。

 そして進軍の痕跡はそこからこっちへ続いていた。ということは――


「現状はっきりしてるのは、間違いなくあの廃墟が敵の出所で、もう一度おんなじことをしでかす余裕があることを目の当たりしてしまったことですねえ。またやってくる可能性は極めて高くなってますよ」


 地図をなぞったミナミさんの皮手袋が示すままだ。

 小さな山々に囲まれた町から長く進んではるばるやってきた痕跡がある以上、そこからまた押し寄せてくる見込みは十分だ。


「あいつらがアホみたいに突っ込んできたのはまだあんなに余裕があったからか? なんであれ今の俺たちでまたあんなレイドイベントだなんてごめんだ、あそこはデカいの二人と元気な隣人多数が最低保証されてるんだぞ」


 俺はアサイラムと白き民の拠点の距離感を見た。

 あんなに倒したはずなのに飽きずに雁首揃えてやがるのだ。

 何度見たって変わらぬ事実だけど受け入れるしかない、あの数は俺たちに向けられてる。


「それでも何かしら策を講じなければ駄目だぞ、イチ。今回いろいろと発見はあったが私が特に気になった点はここだ」


 でもクラウディアの言う通りか、だからこそ何かしなくちゃいけない。

 褐色のしなやかな指が廃墟を眺めたあの砦のあたりをさしていて。


「奴らが進軍してきたというのは間違いないぞ。だが、私たちが訪れた砦はご覧の通り奪還されずにそのままだったな? これは妙だと思うぞ」


 続く言葉通りに妙なものがあった。あれは手つかずで残ってたし素通りされてた。

 攻め込む片手間で奪い返してまたあいつらの拠点になってもおかしくないはずだ。


「奪い返さずにほったらかしにした挙句スルーして直行か。俺たちを舐めてるのか抑える余裕がなかったかどっちだろうな? それとも建築デザインが気にくわなくて素通りか?」

「あそこを押さえれば攻撃の足場としてこちらへ押しかけるのも楽になるはずだぞ。だがなぜそれをしなかったのかが気になるんだ」

「そうだよな、ついでで奪還してもいいはずだ。いや、それだったらそもそもチアルたちに制圧された後にすぐ取り返せばよかったよな? なのに今まで放置プレイ食らってたんだぞ?」

「……もしかしてだけど、向こうにとっても急なことだったのかな?」


 どうして砦が放置されてたのか気になるも、ミコの手がほんのり上がった。

 あの攻勢はあいつらからしても()()()()だったのか?


「ミコ、あの夜分遅く遊びにきたのがあいつらにとっても急だったって言いたいのか?」

「う、うん……聞いたんだけど、ここにみんながきたとき、白き民の足跡があちこちに残ってたんだよね?」

「ああ、俺たちより先に思い出を刻んでたみたいだ。やっぱりこの土地を狙ってたらしいぞ」

「そこだと思うの。ここに人がいっぱい来たのが、向こうにとって想定外だったんじゃないかなって」


 しかしまあ、そこからの言い分は確かに絡みそうな何かがある。


 このあたりで見つかった足跡から察するに、ここを先に見つけたのは白き民だ。

 きっと下見が終わったら拠点でも構えるつもりだったんだろう。

 ところが思うが儘に開拓して冒険者やらをぞろぞろ連れてくるやつが現れた。

 言うまでもなく俺だが、その影響はここら一帯の白き民を順調に駆逐するほどだ――そうなれば?


「……そう色眼鏡をかけちまうと白き民からすりゃお前は死神、疫病神、災厄のどれだかろうな。住もうとした土地を奪う挙句、ご同類を次々減らしてくる邪神みてえなもんだ」


 真っ先にタケナカ先輩のひでえ例えが出た。


「それって俺たちからするとすごく頼もしいけど、向こうからしたら恐怖でしかないよな。もしかしたらここ数日であいつらを刺激しすぎたのかも……?」

「いい得て妙じゃのう……ミコの嬢ちゃんの言う通りかもしれんぞこりゃ。わしらが居座って一仕事始めてからまだ間もないが、割と早いペースで周りの土地を制圧しとるしな?」

「すごい勢いで白き民しばいてますからねえ。しかも日に日に参加者も増えてますし、敵から見ればどんどん脅威が増えてるように見えてもおかしくないのでは」

「なるほどな。もしかしたら私たちの勢いにかなり慌てているかもしれないということか。であれば、あの奇襲はある意味やつらにとってアクシデントだったかもしれんぞ」


 畜生、ヤグチもスパタ爺さんも納得してるし、ミナミさんもクラウディアも俺が原因みたいに言ってやがる。

 「邪神……」と若干納得してるミコの後ろじゃ冒険者揃ってそんな目線だ。


「フハハ! ということはだ、やつらは世にも恐ろしき敵の親玉に力を合わせて戦いを挑みにきたわけだな。まあ想定を上回る戦力を前に返り討ちにされたようだが、なるほど確かにこれは不慮の出来事だろう?」


 さりげなく混じるノルベルトも乗ってくる具合だ。

 オーガ的表現で「魔王に挑む白き勇者たち」ってところらしい。


「つまりお前らの総意はこうか? 向こうはストレンジャー討伐クエストでもおっ始めたと? 途中にある砦の奪還も忘れて、大急ぎで戦力ぶつけにくるぐらいの意気込みでな」


 さんざんな物言いに返すが、この頃の行いが絡んでるのは間違いなさそうだ。

 俺たち冒険者が動きだしてからあいつらは変わってきた。


「いちクンのせいかどうかは分からないけど……あの巨人とかが出たのも、わたしたちのせいで何か変化があったんじゃないかな。そんな気がするよ」

「俺もちょうどそう考えてたところだ。あいつらに変なひらめきでも与えたんじゃないってな」


 ほら、ミコもそう口にしてるほどだ。


「何かが変わっとるのはわしも感じとるさ。フランメリアがこうなってから、あいつらの動きもまた活発になっとるからのう」


 スパタ爺さんも次第に「うむ」と俺たちに頷いてる。


「ドワーフ的な目線からして前はどうだったんだ?」

「昔はアホみたいにおって毎日毎日あいつらと戦うのが当たり前じゃったが、いろんなやつがぶち殺してえらく減ったはずなんじゃがのう。ここ最近急にまーた元気になっとるわ、これもフランメリアに再び火がともった証拠なのかもしれんさ」

「オーケー、俺たちのせいで白き民がまた元気になったのは確実だ。このノリだと巨人が出た原因も冒険者由来かもな」

「なに、デカかろうがこの世に資源とマナを落とす奴に変わらんさ。図体の分だけ徳もたんまり持っとるからお得じゃろ?」


 近頃の白き民に対してフランメリア人らしいコメントをしてくれた。

 冒険者がもたらした変化に関する話はおしまい、次は「じゃあどうするか」だ。


「仮に俺たちを脅威と見てミスを犯したするならだ。あの砦が制圧された当時の状態で残ってるのはいい知らせかもしえねえぞ」


 その第一歩をタケナカ先輩が切ってくれた。

 いまだに奪還されてない砦のどこにいい知らせがあるんだろうか。


「むーん、確かにそうかもな? もし奴らが本当にこちらに焦って急な攻め方をしてきたとなれば、再度の進行に備えるついで、今度は砦を確保してからことを始めるはずだぞ」


 するとオーガの強い顔も挟まってきて、あれが敵の内情を映してるとのことだ。


「その通りだ、お互い挟む形で砦があるってのに手を出さねえんだぞ? つまり場合によっちゃだが、あそこが手に落ちてない=まだ向こうに攻め時が整ってない証拠にもなるわけだ」

「うむ、その通りだ。今度は二度目の進行のきっかけとしてあそこを奪うかもしれんが、それが成されていないということは次の襲撃までの猶予にも見えんか?」


 となると砦をどうするかに話が傾き。


「そうだとしてもどの道、白き民の引越し候補になってるのは確かだろ? せっかく制圧したんだし砦の処遇をどうするか決めた方がいいんじゃないか?」


 そこで俺は言った、あの砦をほったらかしにするかどうかだ。

 いつか敵が奪い返す可能性がある以上、壊すなり俺たちが使うなり早く決めるべきだ。


「でしたら私から提案が。今回の件を報告したところ、狩人ギルドから増援をよこせるようになりました。我々があそこで向こうの動向を監視しましょうか?」


 するとミナミさんが手を挙げた。まさかの狩人による砦の再利用だ。

 つまり現状一番敵に近い場所で監視してもらうことになる。ありがたいけど大丈夫なんだろうか?


「そりゃ助かるけど、あそこは向こうが動いたら真っ先に触れるデリケートな場所だぞ?」

「おいミナミさん、申し出は嬉しいが危険な場所だってことを忘れてねえか? アサイラムからどれだけ離れてるか分かってんのか?」


 さすがにタケナカ先輩も気にかけたようだ。

 けれども冴えない狩人のおっさんは大丈夫そうな振る舞いで。


「せっかく冒険者の皆様が制圧してくれたんですし、それを無駄にするなんてもったいなくありませんか? そもそも私たちはこういうのが仕事ですので任せてくれませんかね?」

「っていってるぞタケナカ先輩」

「そりゃあ、あそこに居座って敵の様子を見てくれりゃ助かるがな」

「どの道敵ははっきりしてるんです、あそこを押さえておけば今後の対応も楽ですよ。その代わり砦までのルートを作って少しでも行き来を円滑にしていただけませんか? それとできるなら砦の補強や物資の補給もお願いできれば助かりますが」


 本当に砦の確保をやるつもりだ。一体何がそこまでこの人を突き動かしてるんだろう。


「本気でやるなら手伝いたいけどな。でもなんでそんな乗り気なんだ?」


 だからお前正気かと聞いてみた。

 どう反応が返ってくるかと思えば、冴えない日本人顔はへらっとしたまま。


「どうも狩人ギルドはこのほぼ手つかずの土地に興味があるようでして、今後我々の活動の場とするためにも助力は惜しまないそうなんですよねえ。それにほら、個人的にあの砦はお気に入りなんですよね? ここらが落ち着いたらあそこでのんびり南側の風景を見渡したいものでして?」


 と、緊張感なく伝えてきた。

 つまりこの人は狩人ギルドの思惑と個人的な理由で命をベットしてる。


「だってさ、理由が二つあるみたいだけどどうする?」

「しょうがねえ。その代わりやべえ時はすぐ逃げろの精神を厳守できるやつだけだぞ」

「オーケー、採用だな。砦までの道づくりは任せろ、必要な物資やらは後で教えてくれ」

「お任せください。あとはそうですね、何名か冒険者の方もお手伝いしていただければ」


 だったらひと働きしてもらおう。今後の敵の動向はミナミさんに任せた。


「あの砦はミナミのに任せるんじゃな。そーなると今度はあのあぶなっかしい廃墟はどうするべきか……」


 だが今後一番の課題は、そう、あの廃墟そのものだ。

 いわば問題の集大成、現在最大の敵の本拠地なんだぞ。


「敵がいっぱいいる以上、わたしたちが守りに徹してたらなんの解決にもなりませんよね……」

「そうだな、あれは放っておけばどんどん増えていく奴らだ。いずれ奴らを叩きに行かない限りは延々と防戦を繰り返すだけになるぞ、ましてあの数ではな……」


 ミコとクラウディアが悩まし気なように、あんな気味の悪い場所をそっとしておく選択肢はなしだ。


「ま、この手の話題は他の冒険者どもが元気に帰ってきてからじゃな。バサルト坊主にもこのことを伝えて、必要なら廃墟を攻略するために冒険者をアホみてえに送り込んでもらうってのもありじゃ。今は敵の情勢がはっきりしたことを喜ぼうじゃないの」


 でもスパタ爺さんはなんというか気楽だ、硬い雰囲気を崩しにきた。

 言われてみればそうか、まだ手が届かない場所で今悩んだって仕方ない。


「もどかしいがその通りだ。今はあいつらの本拠地にもどかしくするより、俺たちなりに身なりを整える方が大事だろうよ」


 話にとどめを刺したのはタケナカ先輩のそんな一言だ。

 内情知れぬ敵本拠地をとりあえずぶっ潰そう、なんてまだ過ぎた話か。


「分かった。みんな集まってくれてどうもありがとう、いやーなお知らせパーティーはひとまず解散だ。てことで、できる範囲で整地するから誰か木の伐採手伝ってくれ」

「おう、こっちは砦での監視補助に当たってくれる奴を募っとくぞ。今後も考えてアサイラム南方面の調査も誰かに頼んどくべきだな」

「悪いニュースじゃったが次の手立てに繋がったのは間違いなかろう。お前さんらも気を明るくもてよ、こういうのは気をどんよりさせちまったら負けるぞ」


 俺たちは席を立った。アサイラムの主はいつだって忙しい。



 大斧担いだオーガとメイドを連れてしばらく砦への道を作った。

 馬鹿力と切れ味二つ揃えば拓くのも簡単だ。切り株も解体すればさっぱりである。

 更にハウジング機能で未舗装の道を這わせた、草地が踏み固められた道に変わっていくのは実に気持ちいい。


 限界距離まで道を伸ばせばあっという間に時間は溶けていく。

 昼飯も近いしそろそろ休憩を挟もう、そう思って広場に腰を掛けた時だ。


「……イチ。一息ついとるとこ悪いが、ちょっといいかのう?」


 そんな言葉通りの髭面をしたドワーフが絡んできた。

 黒ひげをさする姿も不安げな声もまさしく困ってる感じだ、どうした?


「どした? 人生の相談?」

「まあそんな感じ。ストレートに言うと火薬が足りん」

「火薬が足りないって?」

「うむ、いやな、わしら向こうから万能火薬をたんまり持ち帰ったつもりなんじゃが、銃弾にスティレットに資材取りの発破と想定以上に消費が激しくなってのう」


 言いづらそうに出たのはえらく不安げな「火薬」という単語だ。

 火薬。銃弾をかっ飛ばす役目から気にくわないものを爆破する所業までこなしてくれるやつである。

 剣と魔法の世界でも安定した殺傷力を叩きだすが、それが切れたとのことだ。


「おいおい、じゃあ現代的な火力とお別れしろってことか? 火薬ぐらい作れないのか?」

「イチ、確かに向こうでいろんな火薬の製法をぬかりなく調べてきたがな? そもそもわしらが自由自在にあれこれ作れたのは、何を隠そう万能火薬あってこそなんじゃよ」


 そして言うにはいつぞやブラックガンズで習った『万能火薬』のことだ。


 そいつは名にふさわしく自由自在に弄繰り回せる性質を持ってる。

 例えば酢を加えるとしよう。すると強い酸味に傾いて、乾燥させれば少しの衝撃で爆発する粉になる。

 これで銃の雷管に使える、もっといじれば爆薬の信管にだって化ける。

 ワセリンや植物油と混ぜると低感度の爆薬に――だから『万能』だってさ。


「万能火薬か。ブラックガンズでみっちり教えてもらったな」

「ちょっと手を加えりゃ面白いぐらい好き勝手にいじれることも分かっとるな?」

「ちゃんと教わった。プラスチック爆弾の作り方も知ってるぐらいだ」

「そう答えれるならこの問題も分かるじゃろうな。あのくっそ便利な火薬がもう残り少ないんじゃよ、あんな沢山持ち込んだってのに……」

「なら万能火薬を作れないかって話になるけど」

「それがなあ、現状わしらでもどうあがいても作れないんじゃよ」

「なんでもできちゃうドワーフの技術力でも無理なのか?」

「然るべき機材がありゃ作れるんじゃが、こっちに戻ってくる間に調達するはずが一つも手に入れなかったんじゃよ。戦前の貴重な技術ゆえそうやすやす手に入らない代物でな、アリゾナじゃファクトリーぐらいしかもっとらんかった」


 が、そんな便利な火薬は簡単に作れるものじゃないらしい。

 ファイアスターターから教わったけど、特別な工程をこなしてくれる機械がなきゃ作れないとかそういう話だった。


「そういえば俺の友達が作るのは難しいって言ってたな。なら万能火薬以外でどうにかできないのか? 他にあるだろ? 無煙火薬とか」

「そりゃあ炸薬に起爆剤に推進薬とあれこれ作る手立てぐらいは学んどるわ。じゃがな……んなもん一つ一つ作ろうとしても「はいそうですか」と簡単に作れるもんじゃないぞ、それに実用に耐えうるほど大量生産するにはもっとでかい設備と時間が必要なんじゃよ」

「今からじゃ間に合わない感じがひしひし伝わってきた。悪いニュースだな」

「よいか? 万能火薬一つありゃちょっとの手間でなんでもできちゃうのよ、それこそ銃弾から砲弾までなんでもじゃ。それがこっちに来てから火薬の製造に本腰入れるより早く想像以上の消費量になっちまったわけでな……まあ、その、寄り道しすぎちまったわけよ」


 そんなクソ便利なチート級の火薬がもうほとんどないとのことだ。

 「計画的に使えよ」なんて口にするつもりはないが、つまり手持ちの火器の食い扶持にも関わる。

 まずいな、この状況で現代兵器の恩恵を得られないのは痛い。


「いや、待てよ? そういえば俺――」


 しかしこうも悩みが増えた瞬間、ふとあることを思い出す。

 PDAからクラフトシステムを調べると……あった、リストに【万能火薬】だ。

 ファクトリーで貰ったレシピだ、あいつは特別なものとか言ってたな。


「クラフトシステムで火薬が作れたんだ。前にレシピをもらったんだけど、けっきょく今まで作らずじまいだったな……」


 そう思い出しつつ説明を見た。

 【砂糖】をベースに【木材】【布】【紙】のどれかを組み合わせて作れるらしい、そして文によれば――


【PDAに搭載した"コンストラクター"でカロリーを爆発力に! 木材、布、紙を触媒にほのかに甘くておいしい火力を生み出します! 注意-このクラフトは拠点内でのみ製作可能です。調理器具をお忘れずに】


 と語ってる。必要な道具も手元にあるから生産可能だ。


「なんじゃと? まさかお前さん、あれ作れるんか?」

「らしいぞ。砂糖に木材か布か紙のどれかでクラフト可能だってさ。どれどれ」


 ためしに木材と砂糖を対価にスタートを押せば。 


 ばさっ。

 

 すぐに目の前から何かが落ちてきた。

 分厚い紙製の袋だ。両足が突っ込めそうなほど大きいし、ぎゅっと紐で縛られてる。

 木と砂糖にどうひと手間加えればこうなるんだろ? 訝しく思いながら開くが。


「……のうイチ、なんか万能火薬できとらん?」

「……できてるな」


 スパタ爺さんと横並びで覗いて、次の瞬間に目を疑った。

 クリーム色の粉、手触り的に万能火薬の質感が袋に山盛りである。

 二人で疑わしく見つめ合うも、ひとまず判断方法は手に取って舐めることだ。


「…………味も万能火薬じゃね、これ?」

「…………万能火薬の味だな」


 ほんのり甘くてほのかな酸味だ。間違いなく万能火薬の味だった。

 じゃねえよ、指先一つで火薬作っちまってるぞ俺。

 ぽんと出てきてしまった物騒なブツにお互い少しの言葉が詰まって。


「とりあえずわしから言いたいことある。よいか?」

「是非いってくれ」

「悪いこと言わんから今すぐフランメリアの植林事業と製糖業にメルタ寄付してこい、砂糖ベースに火薬作り放題とかもうドワーフにとって神かなんかじゃ」

「ワーオ、これからいっぱい作れって感じのアドバイスだな」

「それからお主、アキのやつにこのこと伝えとくべきじゃぞ」

「アキ? なんであいつに?」

「そりゃあいきなり火薬作りだせるとか危険極まりないじゃろうが。お前さんほんとどうなっとんの、とんでもねえことやりおって……」


 とうとう何もない場所から火薬を生んだことを判明した。

 材料さえあれば弾薬にも爆弾にも化ける火薬をぽんぽん作れるんだぞ?

 これはマジでやばい、ずっと南で俺たちを悩ませる白き民タウンより深刻だ。


「いやはや、なんだか面白いことをしていたようですが、とうとう指先一つで火薬を生み出すお方になりましたか……流石イチ殿ですなあ」


 しかし噂をすればなんとやら、まさにその眼鏡エルフがゆるく現れる。

 アキの人を見る目は『魔壊し』に『爆破テロ犯』でも加えたようなものだ。


「ちょうどよかった。とりあえず言うことは一つだ、どうしようこれ」

「あちらの変幻自在な火薬をこうも容易く生んでおりますからなあ。もはや貴方は何時でもどこでも爆発させられる歩く火薬庫ですぞ、国の利益にも多大な害にもなりえる中間的存在と申しますか」

「じゃあお前の「ストレンジャーやべえリスト」に火薬作れますって足しとけ。ついでにフランメリアの利益のために悪用しませんってサインしとく?」

「はっはっは、律儀に申告していただいて助かりますぞ。こっちに来てからまた一段と過激になってますなあ?」


 なので悪用しないことを先に誓った。

 向こうは快い応じ方でさらさらっと手帳に何か記録したようだ。


「スパタ爺さん、火薬作っちゃったよ俺。どうなってんだこのPDA……」

「わしな、急に火薬の問題が解決しとるせいで頭混乱しとる。今すぐ仲間にこれ伝えてお前さん称えたいんじゃけどいい? 里に銅像建てる?」

「はずかしいからやめてくれ。マジでどうしようこれ」

「そりゃあ使うしかないじゃろ? でかしたぞイチ、わしお前さんとつるんでマジでよかった」

「なんて現金なドワーフなんだ、ひでえ話だ」

「そうとわかりゃここの未来は明るいぞ。おい、もう一度確認するが火薬の材料はなんじゃ? 何が必要かいってみ?」

「木材か布か紙、そこに砂糖があれば作れる。砂糖は甘いものなら大体分解できたな、飴だとかシロップだとか、原材料ほぼ糖分なら資源にできるぞ」

「よっしゃ、クラングルにおるやつらに材料調達させるからお前さん火薬作りまくれ! 木が必要ならそこらのやつノルベルトに叩き斬らせろ! どーせ白き民ぶっ殺したし今後生えまくりじゃあんなん!」

「……俺の人生がどんどんヤバくなってる気がする。間違えてもノンシュガーなやつとか砂糖漬けとか買ってこないでくれよ、あとはちみつはもったいないからやめとけ。あっそれから市民の皆さまのために砂糖買い占めるなよ」


 ひどい形だが火薬の問題は解決だ、材料さえあれば気軽に作れるのだから。

 アリフ・スィーン、お前はなんてものをプレゼントしてくれたんだ……。


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