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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
539/580

45 悩みを解くなら一つずつ、さながら偉大な一歩のように

 アサイラムにまた新しい一日が来たが、大きな課題は変わらずだ。


 そもそも、こんなところに冒険者が寄こされた理由はなんだ?

 突き詰めれば単純だ、根幹にあるのは白き民の脅威である。

 世紀末世界から都市の下に転移した地下構造が、よりにもよってそいつらのいる未開の地と繋がってたわけだ。

 その道のりは外敵が辿るのにも都合がよく、ならば潰そうという発想も難儀するほどに複雑な事情があった。


 よってこの()()は当初の目的通り、トンネル先の安全を確保することだ。

 しかし今やここには諸々の問題が絡んでしまった。

 突然の大軍に初めて確認された巨人型の敵はもちろんだ、周囲は危険な生物だらけ、西と東のはるか先には敵の居座る廃墟とスリルが間に合ってる。

 更に言えば【開拓者アバタールの復活】だとか巷に流れて、感づいたやつらがアサイラムの発展を期待するきらいすらある。


 あー、つまり、ここは前にもましてクソ面倒な場所だ。

 今日できることはお邪魔してきた敵について調べること、引き続き周辺を偵察し安全にすること、そして拠点を守ることである。

 ()()()()()()()()であいつらの落とした戦利品の分配やらも並行すれば、トータルでクソ忙しい一日の始まりだ。


「…………簡単なお仕事ってあったのに思いっきり抱えてるものが複雑じゃないですかあにさま!? 今のコノハたちそんなのに巻き込まれてるんですけど!?」


 この事情をそう広めたところで、最初にお返しされたのがコノハの一言だった。

 まあ、ちっこい狸耳ガールが申したとしても、ここに満ちた冒険者の前向きなざわめきに流されるだけだが。


「心配するな、俺も楽勝だって思ってたら見事に裏切られたタイプの冒険者だ。つまり一緒に頑張ろうね!」

「ただの一蓮托生ですよねそれ!? 一体どこへ向かって突っ走ってるんですかここは!?」

「おい、こっちだって街のため安全を確保しろって話だったけどな? 気が付いたらなんか段々とここの開拓を任されてるんだぞ? しかも断ろうにも俺が原因だからノーとはいえないし、最近は向こうからの支援もマシマシで逃げる場所がないんだよ」

「コノハたちはそんな怪しい雲行きの中に突っ込んじゃったと!? どうしてあにさまが向かう場所はいっつも混沌渦巻いてるんですか!?」

「文句は冒険者ギルドと市に言え。ほら、クナイあげるから落ち着け」


 そんな朝の広場をテーブルで共にしつつ、クラフトでクナイをごろっと作った。


 以前取った【アルチザン】のPERKのおかげか、それとも【制作】スキルが上がった成果か、だいぶ作り方が変わった。

 これまでは後は任せたとばかりに手元に材料が転がったものの、今ならほぼ完成したものが出てくる。

 布の巻かれた刃物がぽんと現れるので、後は勝手に動く手先通りに研ぐだけだ。

 砥石でしゃしゃっとひと撫でふた撫でするだけで完成するのは不思議だが、ちゃんと使えてるし問題ないだろう。


「……まあ、そもそもキャロルねえさまのパワーみ溢れるノリには逆らえませんからね。あの人、前々からあにさまのいるここに来ようと狙ってましたし」

「ああ、おかげで助かった。巨人撃破おめでとう」

「あれ、ほんとになんだったんですか……? みんな口を揃えて初めて見たって言ってますけど、コノハたち新種の敵と邂逅を果たしちゃってません?」

「今日はそいつについて考えるのも仕事のうちだぞ。今頃ギルドにも白き巨人の情報が届いて大騒ぎだろうな」

「それなんですけど。さっき九尾院の子たちから連絡入りましたけど、向こうはその話でもちきりらしいですよ? あんなのフランメリア史上初めてだとか」

「まあそうだよな。そしてぶっ倒したのも俺たちが初めてってわけか」

「あの時、いつものノリで倒しちゃいましたけどね……ていうかあにさま、コノハはここがこんなに賑やかなのにも驚いてます」


 ぴとっとくっつく距離感にクナイを十本引き渡すと、ニクほどじゃないジト目は周囲を気にしたらしい。

 というのも、俺たちのすぐそばでは冒険者たちがたくさん集っていて。


『弓50のロングスナイプ拾ったんだけど、誰か欲しい人いる? 値段はだいたい8000ぐらいで』

『ウィンド・サイス拾っちゃった……! 風魔法使う人はいるかな? 値段は要相談ってところかな?』

『あいつらゲイルブレイドをドロップしたぞ!? これいくらぐらいするんだ!?』

『刀剣、槍、鈍器のアーツいろいろあるよ! 良かったら見て行かない?』


 先日よりまた濃くなった人だかりが、アーツやらスペルやらの取引所として機能してる。

 その賑わいの深さは言うまでもなくやつらの戦利品由来のものだ。

 大挙してきた分だけ落とし物も残してくれたおかげで、とうとうここで店を開く奴すら現れてしまった。


『白き民の落とした武具は金属資源として需要ありじゃぞ! お主らが手に入れたら売るもよし、わしらに任せるのもよしじゃ!』

『買い手が増えたからどんどん持って来やがれ! 仲良く分配しろよ!』

『クラングルお住いの魔女どもから注文きとるぞー、なんでもここらでしか取れない薬草だの木の実だの集めろとさ』


 道路の隔てを超えた先には、ドワーフたちが戦利品を引き受けるスペースがある。

 なんでも、ここの噂が広がるにつれてその手の需要も強まったとか。

 地下交通システムと結ばれた冒険者ギルドにより、魔獣の素材から白き民の金属製品まで幅広く買い取られる始末だ。


「あちらをご覧ください。ちょうど経済的にも賑やかだぞ」

「買い取りがここまで回ってますよね……どれだけ期待されてるんですか」

「日に日に外のいろいろな場所と繋がってるってことは期待大だな」

「クラングルでアサイラムの噂が飛び交ってましたけど、まさかここまでとは思いませんでしたよ。コノハたちひょっとしてとんでもないところに来てしまったのでは?」

「とんでもないところへようこそだ。それにしても、あの奇襲だって何も悪いものばかりじゃなかったみたいだな」


 コノハの気だるげな眼が戻ってくるのに従って、ふと手元を見た。

 (アーツ)呪文(スペル)が板なり石なりの体で、じゃらっと寄せ集まってる。

 両の掌で持て余すほどの量だが、こいつはこの前の戦いの取り分だ。


 というのもあの巨人、まさに()()()()()をごろっと落としたくれた。

 人の拠点をぶち壊したのは腹立たしいがやっと美点を見つけた、それは確実に見返りがあることだ。

 どうにか倒せば最低でも四つほどの技やら呪文やらが保証されるほどで、チアルと半々にしてこの量である。


「未だかつてないぐらいアーツアーカイブとスペルピースが集まってますよね。九尾院で倒したやつとか、あわせて六つはドロップしましたよ」


 その恩恵はこうして狸系のダウナー顔が半透明な板をちらつかせるぐらいだ。

 急に駆けつけた奴らすら臨時収入が入って、皮肉にもここのモチベに繋がってる。


「良かったな、思うにあのデカいの小遣い稼ぎにいいんじゃないか?」

「確かにコノハはお小遣い稼ぎ目的で来た身分ですけれど、流石にあんなのとまた戦うなんてごめんですよ。精神衛生上悪いですあんなの」

「そのメンタルを不健康にする奴が今後もよろしくしにきやがる可能性があるからな、覚悟してくれ」

「うわあ……最悪です。あにさま、ここの人達とコノハのために娯楽施設を作るのです。悪いこと言いませんからそうしましょう?」

「俺もちょうどそういう気分だった。今日の仕事は拠点の整備だな」


 くっつくコノハとじゃらじゃらしてると、大柄な何かが近づくのを感じた。

 二人で見ればその通り、アラクネのジャケットを着たオーガが人混みをよけて(あるいは避けられ)やってくる。


「フハハ、ここは楽し気ではないか? 俺様もこの一員となれたと思うと胸躍るぞ!」

「ふはは! おえねちゃんだよ!」

「見ろイチ、なんだか小さな先輩もできてしまったぞ! あの時巨人を射止めたサキュバスの女子だ!」


 今までの物語的にノルベルト、肩に金髪ロリを座らせたお得なセットだ。

 約束を違わない性質上、宣言通りすぐに戻ってきた。もちろんオーガサイズの首飾りに【ストーン】の色を飾って。

 事細かに言うならおまけのキャロルはお偉いご子息を椅子にしてご機嫌だ。


「で、こっちはマジで冒険者になったわけか。加入おめでとうノルベルト」

「うむ、冒険者ギルドは良き場所だったな。始めて感じる雰囲気に俺様少し緊張したが、タカアキのおかげで難なく登録が済んだぞ」

「そりゃよかった、何かトラブルはなかったか?」

「最初は皆に警戒されたがな、イチという名を伝えたらなぜだか納得していたぞ。名が通っているようではないか?」

「どう思われてんだ俺。まあなんだ、何かお祝いの品でもどうだ?」

「ではあの投げ斧を作ってもらいたいところだな、あれほど手ごろな得物が欲しかったのだ」

「任せろ、ただし原材料は分解した白き民の装備だ。ちょっと待ってろ」


 特にトラブルもなく登録が済んだようで何より、記念にクラフトだ。

 あれから戦利品のほとんどは参加者に分配されたが、中でも損傷の強いものは【金属】に分解した。

 また皮肉にも資源豊かだ。ごとっと出てきた無骨な斧を砥石で軽く研ぐ。


「いや何してるんですかキャロルねえさま!? その人どこかのご令息とか言ってませんでした!? 大丈夫なんですかそんなことして!?」

「大丈夫だよコノハちゃん! 乗せてって言ったら乗せてくれたから!」

「案ずるな狸の少女よ、この程度では鳥が羽を休みにきた程度のことよ」

「狸の少女じゃなくてコノハです! なんですかこの癖も見た目も大きい新人さんは!? あにさまのせいで冒険者がまた色濃くなってますよ!?」

「こら! ノルベルトくんを見た目で判断するのは良くないぞ! すごく親切なんだよこの子!」


 二人でドヤ顔をもたらす姿にコノハも非常に困ってる、どうか慣れてくれ。

 そんな傍らで投げ斧が完成。研ぎたての重さを五本並べると、ノルベルトは好物でも見たようににっこりだ。


「む、前とデザインが変わったな。後で材料をくれた奴に返そうではないか」

「あれからも俺も成長したのさ。あて先はそいつの脳天にしといてくれ」

「丁重に届けてやろう。にしてもだ、お前にいつの間に姉ができていたとはな」

「ふはは! いちくんのお姉ちゃんだよ!」


 そのついで、あいつは肩乗せの自称姉ごと姿勢を落としてきた。

 良く見えるように近づいたキャロルはノルベルト以上に得意げだ。


「俺だってこんな角と羽生えた姉ができるなんて思ってもなかった。ところでノルベルト要素にやられてないかこいつ」

「――つまりノルベルトくんのおねえちゃんでもあるわけだね!」

「おい姉の魔の手が広がってんぞ、節操なさすぎだろこのクレイジーロリ」

「キャロルねえさま、得意げな顔でいきなりとんでもないこと言わないでください。初対面の方に失礼ですからねそれ」

「ふっ、俺様もずいぶんと小さな姉がいたものだな? もしオーガの腕が必要であれば気兼ねなく呼ぶがよい、弟として喜んで武器を振るおうではないか」

「困ったときはよろしくね! コノハちゃん、そろそろ探索に行くよ!」


 とはいえこうしてドヤ顔をまき散らしにきたわけじゃないみたいだ。

 そこに宿舎から白い衣を着た生真面目さが、うさぎの耳をみょいみょい揺らしながらやってくる。


「……みなさま、そろそろここを発つお時間でございます。東側には白き民が多数いると耳にしましたので、ご準備を抜かりなく」


 九尾院で一番おしとやかであろうそいつ、正しく言うならツキミは他のやつらの荷物を運んできたようだ。

 物言いからしてここから東、森と一体化した例の町へ向かうらしい。


「東側ってことは……あの森の中にある廃墟あたりか?」


 まさかこいつらが行くのか? そう首を傾げれば、その通りだとばかりに装備を整えてた。


「はい、今からわたくしたちは制圧したという監視塔の様子を確かめるついで、その廃墟とやらを調べてくるつもりでございます」

「まだこのあたりの勝手が分からないし、みんなで土地勘を掴むために行ってくるんだよ。おねえちゃんちょっと行ってくるね~♪」

「先の戦いでここの皆さんも少し消耗しているようですし、来たばかりのコノハたちが引き受ける形になったんですよね。ちゃんと事前情報は叩き込んでありますから心配いりませんよ」

「今日はお前たちが担当してくれるのか。でもあそこは想像以上にデカいのは分かってるよな? そんな人数で――」


 と、剣やら小刀やらしっかり身に着けてるんだから本気で取り組むつもりだ。

 こいつらは確かに強いけれども四人で大丈夫なんだろうか、そう思った矢先に。


「にーちゃん、ボクたちだけじゃないからね! ほらこんなにいっぱい!」


 人だかりからばさばさっと茶色い羽が羽ばたいてきた、八重歯眩しいピナだ。

 人懐っこく着地してくるが、後ろには遅れてやってくる顔もあって。


「キャラの濃い自称姉の率いるパーティに誘われた。以後我々は彼女と行動を共にする」


 そこにオリスの小柄さがちょこんとあった。

 白髪チビエルフの背には猫に魚に鬼にメイドに妖精と、ここ最近で親しみが増えたヒロインが勢ぞろいである。


「やーイチ先輩、九尾院の子たちに誘われちゃったから行ってくるね? なんだか意気投合しちゃったんだよねー」

「本当は川で泳ぎたかったんだガ、オリスが弓のアーツを試したいなどと言い出してナ。リーダーがこういうんじゃ仕方なイ、いってくるゾ」

「流石にこの面子で攻め込むというわけではありませんので、ご心配には及びませんよ。……なんだかいささか濃い面々になっていますが」

「あ、あたしもいってきますね、だんなさま……?」

「九尾院の人達にご一緒させてもらいます! レフレク、必ずやおにーさんに良い知らせを持ってきます!」


 すっかり身支度の済んだロリがぞろっと揃った。なんだこのロリだらけは。

 周りから浮くほどの密度は準備万端で、リーダー相当のキャロルは「ふんす」と得意げだ。


「――ということでいちくん、おねえちゃんたち行ってくるよ!」

「分かった、監視塔の状況やら気になるしな。作戦はおねえちゃんだいじにでいけ、無理するなよ」

「うん、何かあったらすぐに連絡するからね。期待するよーに! ということでみんな集合、装備のチェックするよー」


 可愛げのある子供たちはヒロインらしく出発前の軽い打ち合わせを始めた。

 こんなやつらだけど巨人を倒した実績もあるんだ、フランメリアは人は見かけによらないを良く体現してると思う。


「元気で逞しい子たちだな? 伊達にあの戦いを経ただけあって、その眼には力が籠ってるではないか」

「オーガ目線でも分かるか、あいつらすごいぞマジで」

「俺様も負けてはいられないようだ、もっと徳を積まねば」

「冒険者ギルドはとんでもない新人を招き入れたな。オーガパワーであそこのパワーバランスがひどいことになりそうだ」

「何、俺様一人で勝手に和を乱すような無粋な真似などしないつもりさ」

「そこがお前のいいところだ。せいぜいオーガらしく一緒に世に貢献してくれ」


 冒険者要素がなければ微笑ましい人外の集まりを、オーガと一緒に見届けようとしたわけだが。


「あ、あの……だんなさまー……?」


 なぜかそこを抜け出すやつがいた、水色髪なメカクレメイドの存在感だ。

 用意がまとまった一団からちょこちょこやってくると、虫一匹すら追い払えないようなか細い声で呼びかけてきた。


「メカか、どうした?」

「あの、えっと、い、いってきます……!」


 何かと思えば出発前のご挨拶だった。

 律儀なやつだ。手を振って見送ろうとするも、メカは内気にもじもじしたままだ。


「ふむ、ロアベア以外のメイドも侍らせるようになったとはな? イチよ、俺様の気のせいかもしれんが、この者が労ってほしいように見えるぞ?」


 その疑問もオーガの理解力と小さな笑みがヒントになった、あーそういうこと。

 おかげでメカが頭を前に期待してるのも伝わった、その通りにしてやろう。


「今朝はパワフルな戦い方をどうも。いってらっしゃい、気を付けろよ」


 ノルベルトのアドバイスに感謝だ、ブリム付きの頭を撫でてやった。

 ついでに頬も押さえればもちもちさらさら、メカはすぐにくすぐったさそうにごろごろした。


「あっ……♡ だ、だんなさま……っ♡ あ、あたし、幸せです……うぇへへへへへへへ……♡」

「んもークロナお前こいつになに教えたの……」


 見上げる表情を良く撫でてやると、それはもう幸せそうだ。


「――ずるい! おねえちゃんもやって欲しいな!」


 代わる代わるで自称姉がきた、得意げさが金髪を撫でてほしがってる。

 角付きの頭がぐいぐい迫ってきたので撫でてやった、しっとりさらさら。


「しれっと来るなよこの野郎。しょうがないなあ……」

「ふふーん♡ 存分になでるがよい!」

「なんで偉そうなんこいつ……?」

「にーちゃんボクも~!」

「……あなたさま、わたくしもいかがでしょうか? いえ、けっして無理にとは言いませんが」

「せっかくですしコノハもどうですか? 九尾院メインメンバーコンプリートですよあにさま」

「ああ、任せろ――いや九尾院フルで便乗しにくるんじゃないよ!!!!」


 ドヤ顔崩さぬ自称姉をなでなでしてると、ピナもツキミもコノハ縦並びで加わりにきてしまった。

 でも撫でてやった。もふもふ、ふわふわ、つやつやした加減をそっといじくればまとめて顔がとろけてる。


「はふう……いちくん撫でるのじょーずだなあ♡ おねえちゃんがんばるねー♡」

「えへー……♡ もっと撫でてー♡」

「あんっ……♡ 耳の根元をもう少しだけ撫でていただけますでしょうか……あっ……ふぅ……♡」

「ちゃんと律儀に撫でるんですねあにさま……んっ♡ ふふ……♡ くすぐったいですね、悪くありません……♡」


 俺、朝からなにやってんだろう。

 でも頼まれたからやるしかなかった。周りの目も気にせず敢行した。

 そうやって五人の髪質をさばいて自由になったと思いきや。


「我々も同様の行為を要求する。迅速に撫でてもらう」


 お次はタイニーエルフの白髪が膝下に迫っていた、お前もかオリス!

 いや違う、後ろにはトゥールもメーアもホオズキもレフレクも、なんならふてぶてしくも最後尾にまた並ぶメカもいて。


「お兄さん、わたしもどーお? ほら、猫の毛並みだよー♡」

「面白そうだナ、私も混ぜロ!」

「あの、これはリーダー命令によるものですので? けっして、絶対に、よこしまな気持ちで加わってるわけではありませんからね?」

「レフレクもどうぞー♡ いっぱい撫でてくださいねー♡」

「……も、もう一度撫でていただけませんか……?」

「ええ…………」


 ――えらいことになってる!

 でも断るのが怖いから撫でた、色々な種族に触れる機会だと思ってこなした。

 周りの目が痛いがノルテレイヤ、俺が何をしたんだ。


「……イチ、お前何やってんだ」

「うわあ、なんか面白そうなことしてるよシナダ。イチ君モテモテだね!」


 せわしくなでなでしてるとシナダ先輩とキュウコさんの目についてしまった。

 どう説明すればいいんだろう、とりあえずレフレクを指先でこしこししつつ。


「良かったらお二人も一緒にいかが?」

「はふー……♡ おにーさん、すごくいいですー……♡」

「しれっとんなもんすすめんな!? なんなんだこいつ!?」

「その状況で平然とこっちに振るとは流石だ……!」


 手のひらに乗った妖精をすすめてみた。やんわり断られた、全力で。


「それより偵察に行ってくるぞ、規定通りやべえ時は全力でずらかるからな」

「シナダをリーダーにキリガヤ君とかサイトウ君とか連れて西側調べてくるね、いってきます」

「いってらっしゃい、何かあったら気軽にこっちに連絡してくれ」

「あっ、だ、だんなさまー……♡ そんな、いろいろな人が見てるのに、もちもちするのひどいですっ……んぁっ……♡」


 シナダ先輩たちは拠点外を探索しにいくのか。

 また回ってきたメカの頬をもちもちしながら見送った。

 なんだかメカクレメイドを二度も撫でた気がするが、これでようやくロリどもは冒険にいった。

 ノルベルトが「忙しいな」という笑みだ。その通りだと鼻で笑ってやると。


「いっち~♡ あーしたちもやっとく~? 今ならお得だよっ♡」

「なんだか面白そうですね☆ この人形姫リスティアナもご一緒にどうですか~♪」

「な、なんでわたしも……!? え、えっと、いちクン、な、撫でる……?」


 ……チアルの陽気さが白い羽をばさばさしながらおかわりを連れて来た。

 好奇心旺盛なリスティアナと仲良き横並びの後ろで、ぐいぐい引っ張られる桃色髪の相棒がまんざらでもなさそうな様子だ。

 土地の主って大変だって誰かが言ってたけど、本当に大変だったんだな。


「――まさか今日からずっとこうなんか?」

「にひひひっ♡ くすぐったーい♡ ほら、もっと遠慮しなくていーしっ♪」

「うふふっ♡ 楽しいですねー♡ ミコさんもちゃんと撫でてあげてくださいねー?」

「ふあっ……♡ あっ、うっ……♡ ……ふふっ♡ 気持ちいいかも……♡」


 願わくば誰が止めてほしいが、居残り組の面々にストップをかけるやつはいない。

 タケナカ先輩たちは距離を置いてるし、ヤグチは面白がってるし、ノルベルトに至っては納得した様子だ。


「……いや待て何をしている貴様らはッ!? ここはそういう場所だったのか!?」

「良かったねセアリ、イチ君今日も変な路線貫いてたよ。面白いねあの人!」

「なんでいち君、あんな虚無顔で撫でてるんですか……」


 三人を平等に撫でてると、リーダーのあられもない姿を心配したミセリコルディアのやつらが揃いにきた。


「あ、どうもリーダー借りてます。大丈夫? こいつ揉む?」

「んお゛……♡ ほ、ほっぺた……くすぐったい……♡ いちクン、は、恥ずかしいからちょっと、待って……♡」

「やめんか貴様!? 私たちのリーダーをパン生地みたいに捏ねるな馬鹿者!?」

「いてっ」


 「撫でる?」とミコの頬をもちもちすすめたらエルの尻尾にべちっと叩かれた。

 拠点の空気もそろそろ仕事のお時間だ、俺もお勤めといこうか。



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