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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
536/580

42 オーガは敵も味方も驚かす、そしてストレンジャーも


「お……おい!? あの化け物を殴り殺してる鬼みてえなやつは何者だ!? 見たところお前の友人みてえだが!?」

「わーすっげえ、あのでっかい兄ちゃん一撃で巨人さん沈めちゃったぞ。しかもお前の名前知ってるとかどういう縁だあいつ」


 挨拶がてら敵を相手取る戦友にタケナカ先輩とタカアキが驚くのも仕方ない。

 周りも戦槌と我が身で敵を手玉に取る存在に、理解を求めようとこっちを伺ってる。

 さて、あの戦場で得物を振るって喜ぶ奴をどう説明したもんか。


「ただの戦友だ、なあ?」


 答えは驚きと嬉しさ混じりのこの気持ちだ。

 白殺しの空薬莢を弾き飛ばしつつ、あれを知る仲に尋ねてみれば。


「ん、ぼくたちの戦友。だから大丈夫」

「ノル様っす~♡ 相変わらずすさまじいパワープレイ決めてるっすねえ、前より三倍マシでみなぎってるっすよあの人」

「おお、ノルベルトじゃないか! あいつめ、戦いの匂いでもかぎつけてきたか! よく来てくれたな戦友よ!」

「落ち着けタケナカ、あれはイチと並んでどうかしてるやつだ。お前の手に負えない気さくな化け物がまた増えたと思え」

「ああそうかよ! いきなり現れて大暴れしてるがあんなの敵に回したくたかねえさ、なんて友達作ってやがる!?」


 いつもどおりでそれぞれな意見が飛び交った。

 けれども医者的な声に少し愉快なものがかかってる。

 実際その通りに、あいつが「そぉれ!」と甲冑姿をこっちに打ち飛ばしていて。


「わはは! 後ろの連中から「援軍をよこす」などと返ってきたと思えばお前さんか、ノルベルト坊主!」


 金属音を奏でてきたそれを踏みにじりつつ、スパタ爺さんが豪快な笑い方だ。

 次は308口径の拳銃を重ねる様子だが、この事情について聞いてみることにした。


「なあ、その言い方からして救援要請でも送ってくれたのか?」

「お前さんらが空飛ぶ直前ここの防御が崩れての、やべえわと思ってクラングルに連絡入れたんじゃが……まさか真っ先にあやつが来るとは思わんかったわ!」

「たまたまあの坊主いたみてーじゃぞ! 喜べおぬしら、あいつとイチがおれば簡単にひっくり返んぞ!」

「挨拶も後回しに突っ込みやがってあの坊や! 良く来た、好きなだけぶっ潰せ!」


 回避不可能な脳天撃ちと同時に、ドワーフのたちの計らいだったことが判明した。

 ひとまずそれで全員がオーガを飲み込むと、ご本人はまた白き巨人に向かい。


『FORIGI! FOOOOOORIIIIGIIII!』

『紆余曲折を経てクラングルにたどり着いたばかりでなぁ! ドワーフの爺様どもが騒がしくて何事かと思えば、このありさまだっ……!』


 軽々と振り下ろされる馬鹿でかい斧に戦槌の柄を向け――防ぎやがった。

 がきっと豪快な音をもって食い止めるも、もう片方の得物が捻じり込まれる。

 想像以上に手強いのかあきらめてバックステップ、大きな背中で戻ってきた。


「確かにこのありさまだ。来てくれてありがとうこの野郎!」

「フハハ、会いたかったか?」

「あたり前だ、やっぱお前がいないとまだダメらしい」

「案ずるな、俺様もお前に会いたかったところだぞ」

「そうか、まったく「お久しぶり」の一言よりも先に楽しみやがって」


 向こうはオーガに惑わされていい迷惑をしてるようだ。

 わざわざ見せにきた強い笑顔に握った拳をぶつけて挨拶だ。

 それから、あいつは驚く周囲の様子にどこか心地よさそうにしつつ。


「ふっ、他の()()で楽しめるというのだ?」


 今日も戦場を愉快に見てる。いつも通りのノルベルトだ。


「そういうやつだったな、戦場へおかえりだこの野郎」

「うむ、戦場こそ我が庭よ。皆も息災で何よりだぞ、こうして共に足並みを揃えられるなど幸せなことよ」

「ノルベルトさま、また会えて嬉しい。元気そうで良かった」

「再開の第一印象は強烈っすねえ、イチ様と楽しくやってたっすよ~♡」

「見ろ、さっきので敵の足取りが鈍ってるぞ! 絶妙な頃合いでいい一撃を入れるのは流石オーガだな!」

「……思うにこの世界でいちいち驚かずに済んだのはお前の功績もあるだろうな。もちろん今のは皮肉も込めてるが、おかげでそれなりに医者らしくやってるところだ」

「フハハ! 何一つ変わっていないようだなぁ! ところでイチ、道中でいいものを見つけてきたぞ? こういうのは好きだろう?」


 こうして会えてどいつもこいつも嬉しいが、手土産を持ってきてくれたらしい。

 ジャケットの上に縛り付けられた……布包みの長い何かだ。

 自信に事欠かぬ顔でそれをごろっと投げだせば、後は開けてのお楽しみだそうで。


「……なるほど、人の趣味を突くプレゼント選びができるみたいだな?」


 敵の前で悠長に紐をほどいて、すぐにその得意げさが理解できた。

 長物の散弾銃だ。中折れ式を示す開閉レバーが古き良き道具を表現してた。

 ところがだ、よく見ると銃身が三角形を作るように三本も束ねてある。

 そして金属部分にはこう刻まれてる――トリプル・スレット(三本の脅威)と。


「うむ、お前といえばやはり()()()()()()()があってこそだろう?」

 

 ご丁重なことに、渾身のドヤ顔は散弾入りベルトもおまけしてくれた、

 ありがたく受け取って身に着けた、銃身を折る重みが懐かしい。


「よく分かってくれてるみたいだ。ちょうどいい時に持ってきてくれたな」

「今なら試し撃ちの相手にも事欠かないぞ、絶好の機会に来てしまったようではないか」

「じゃあ付き合ってくれ、あっちに射的の的がうじゃうじゃだ」

「もちろんだ戦友よ、積もる話はやつらを片付けてからだな?」


 三連散弾銃に12ゲージを三つまとめて装填、銃身を閉じて前を見た。

 再会を喜んでたところで敵も勢いづいたようだ。そいつらに凹凸の狙いを重ね。


「――クロスボウだの魔法だのまだ使えるやつは掘った穴に入れ! やる気があるなら塹壕代わりにして援護しろ! 心が折れた奴は帰って休んで元気になって帰ってこい!」


 そう広めつつ、隣の強い顔に負けない表情をこれでもかと作り。


「NI-PRAVAS! NI-PRAVAAAS!」


 真っ向で全力疾走する敵にポイント、剣を持ち上げる姿にトリガを引いた。


*zBaaaaaaaaaaaaam!*


 慣れた反動を身体に馴染ませる先、むき出しの頭が吹っ飛ぶ。

 散弾を食らって失速した身体を別の敵が追い越す、布鎧を着たメイス持ちだ。

 銃口に気づいた相手がずれるも逃がさない。胸を撃つ素振りから足を撃った。


「OOOOOOOOOOooooo……!?」

「はっ、いい銃だな。どこで拾った?」


 派手にすっ転んできたそいつにとどめの一発をくれてやった、二人ダウン。


「見事だ、銃も腕も良ければあれは妥当な死に様よ。旅路の途中で廃墟があってな、俺様が探し求めたドクターソーダのおまけだ」

「相変わらず好物だったみたいだな。そう言うと思って集めたドクターソーダはキープしといたぞ」

「おお、本当かイチよ! ここまではるばる来た甲斐があったぞ!」

「だったらますますここを片付けなきゃいけなくなったな」


 銃身を折って散弾を弾いて再装填、勢いのいい場所に次々打ち込むと。


「ぼ……ぼさっとしてる場合じゃありませんね!? まだ矢の残りがある方は穴に入って迎撃してください! 向こうの遠距離攻撃をまともに食らうよりマシです、早く!」


 そこで遅れて周りも動き出した。

 ミナミさんが矢をかき集めながら、率先して俺の掘った穴の中へと入り込む。

 見張り番たちはかなり迷ったようだが、左右に分かれて配置についていく。


「ここのまだやる気のある酔狂なやつに付き合うつもりのやつは残っていい、それ以外のやつはステーションいって帰れ! 俺はとことんやる気分だがな!」

「わはは、上等じゃ! 手の空いとる奴は倉庫から予備の太矢全部持ってこい! 命が惜しけりゃ下がっても誰も構わんが、お前さんらの手柄がわんさか来とるぞ!」


 付き合いのいい先輩も険しい顔を一変させて腹をくくった。

 その勢いに周りもやる気を取り戻したか、疲れも忘れて敵に構え始める。

 ドワーフたちもお手すきな冒険者に無茶を飛ばしつつ、そこらに落ちてた白き民の武器を手にやる気満々で。


「――いちクン! 【フォトン・レイ】!」


 またアサイラムの総意が戦い始めるその寸前、追いかけるような詠唱だ。

 後ろでミコの声がしたかと思えばその通り、ステーションからきた相棒がいた。

 桃色髪のあいつが突然と加われば、構えた杖を通して頭上にマナの青色を作り。


「ミコ! お前どうして……」


 その魔法の意味は、どうしてここにいるかの答えよりもずっと早かった。

 それが宙でうっすら青く輝く小さな円陣――いわゆる()()()へと変わったのだ。

 開いた掌で掴めそうなそれが何個も相棒の頭上を飾ったかと思えば。


 ――ばしゅっ!


 現れた一つから白い光の線が撃ち出された。

 オーガが誰かを殴り倒すところから抜け出したやつに命中、強く怯んだ。

 続けざまに別の魔法陣が光を解き放ち、標的になった数人が地にねじ伏せられ。


「お待たせイチ君たち、団長はミコの交友関係にびっくりです! 【ブレイジング・ランス】!」


 その横から、ドラゴン系女子も元気な姿を振舞いながらも呪文の詠唱を混ぜてきた。

 フランの一言とマナから生まれた炎の槍が、ぼうっと夜に陽炎を作りつつ弾け飛び。


「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaahhhh……!?」


 ノルベルトを避けて前進してきたナイトを焼いて溶かして貫いた。

 いやな死に方をすれば、それでも軽装重装問わずの白き民が混乱と共に現れ。


「なんなんですか、そのでっかい人!? ミコさんあんな濃い人と知り合ってるなんて想定外なんですけど説明してくれますかイチ君!?」


 二人の魔法にぎゅんっ、と続く青い影が一つ。狼系女子のセアリだ。

 ワーウルフの膂力をもってすれば向こうのペースより一段早く懐に飛び込み、攻撃を繰り出すソルジャーを蹴り飛ばす。

 文字通りの横槍も踊るようにかわせば、柄を引っ張り狼パンチで首を抜き。


「それが貴様らの言ってたノルベルトとか言うやつらしいな! まったくどんな交友関係を結べばあんな強い奴と知り合うんだ!?」


 すかさず彼女を狙ったナイトに、エルが横構えの剣ごと押し入る。

 トカゲな姿は巨大な槌を弾き、反転しつつ尻尾で一払い、怯んだところに勢いづいた袈裟斬りを込めた。

 その結果は鎧ごとざっくり斜め切りだ、アーツを乗せた一撃だろう。


「お前らフルメンバーで来てくれたのかよ!? 何がどうしてこうなった!?」

「わたしたちにも連絡が届いたの! そしたらノルベルト君がいて……とにかく、遅れてごめんね!? 今から加わります!」

「きてくれて嬉しいぞ! あいつも一緒だからな!」

「うん! また一緒だね!」

「フハハ、こんな形でまた会えるとは嬉しいものよ! 後でゆっくり今までについて語り合おうではないか!」


 これでミコたちも賑やかに加わった。おかげで向こうはもっとたじたじだ。

 そうとなれば俺のすることは以前変わらずだ。集まれストレンジャーの面々。


「ストレンジャーズ集合だな、ぶっ殺しに行くぞ」

「ふふっ、みんな集まっちゃったね? わたしも戦うよ、こんな時のために光属性の魔法練習してきたの!」

「ん、久々……! 行こ!」

「相も変わらず数多の敵に追われる運命にあるようだな! だが心配はいらん、俺様がいるからなァ!」

「あひひひっ、今度のミコ様は立っておられるっすよ~♡」

「今日も徳を積むとするか! ムツミさんの朝ごはんのためにここを死んでも守るぞ私は!」

「勝てる見込みが充分にあるなら話は別だ、こういう時はお前らのそばが逆に安全だと学んでいるからな」


 全員やる気だ、それぞれの得物を抜いてまた足並み揃えて進みだす。

 そこにクロスボウが飛んで敵が騒ぐ――ミナミさんの指示が勢いを削ってくれた。


「あの人たち敵に突っ込むつもりですか!? なんでここの人達はみんな突撃ばっかり……いやもう援護です援護! 我々で側面を押さえますからどうかご無事で!」


 が、東側から敵の突進。ドロップ品で潰れた有刺鉄線を踏みにじってくる。

 そこへタケナカ先輩が突っ走り。


「こいつは嬉しいこった! 聞けお前ら、ミセリコルディアが来てくれた! こいつらが来てくれるんだ、情けねえところ見せてる場合じゃねえぞ!」


 勢いを見計らって斜めから突撃した、その発破に他の面々もぞろぞろ続く。

 塹壕まっしぐらな行進を邪魔すると、誰もが思い思いの方法でブチ倒し。


「タケナカ! お前らがやばいって聞いたから駆けつけたらすげえ有様だな、おい!? ここが近代化してることにびっくりだが向こうの数と言いデカいのといい眠気もぶっ飛んだぞ!?」

「みんな大丈夫ー? お爺ちゃんたちから連絡があったから急いで来たよ、私が夜行性で良かったね!」


 まだまだ浸透してくる敵に、知ってる一団も混向かった。

 シナダ先輩と彼女のキュウコさんの仲の良い姿だ。

 勢いのある穂先がまとめてぶち抜き、曲剣の軽やか動きが勢いをせき止めると。


「うおおおおおおおおお待たせたなお前たちいいいいいッ!」


 熱血男の暑苦しい必死の全力疾走がそこに突っ込んだ。

 キリガヤが蹴りで更に押し退け拳で更に広げ、後にフード姿も連なって。


「本当は翌朝に俺たちも来るところだったんですが、急遽変更になりました。すごい数ですね……!」


 そこでサイトウもいることが分かった。

 バランスを欠いた敵を踏み台に、宙で奥の敵へまとめて矢を放つ。

 即席の連携で相手の動きがまた淀んだ、来てくれたのかみんな。


「お前らも来たのか! クソみたいなところになってるけどようこそ!」

「祭りと聞いて彼女連れて来たぜ! こっちは任せろ!」

「イチ君また面白いことしてるね! 気を付けてねー?」

「他にもいろいろ来てるぞ、もう大丈夫だ! ところでそのデカイ奴はなんだイチ、カッコいいじゃないか!」

「もっと落ち着きのある場所と聞いたんですが……まあ仕方ないですね、側面の敵は我々がやります」


 集会所の面々が流れてきたのを見守りつつ、俺たちは敵の勢いに逆らった。

 ナイトたちの重厚な姿が前進を取りやめにして、そこでじりじりと身構えてた。


「KIo-Okazas!? Plena-De-Malamikoj――」

「A、Atentu! La-Malamiko-Estas-Ci……!?」

「早いモン勝ちだ、お先に失礼!」


 敵の目の前でたじろぐとは馬鹿なやつらめ、これじゃいい的だ。

 足元に落ちてた手ごろな短槍を拾って――からの【ピアシング・スロウ】だ。

 じりじり剣と盾を向けてきたやつをぶち抜いた、腹に致死量の槍をどうぞ。


「ん、こういう時にこれ便利……!」


 続いたのはニクだ、腰だめに構えた槍で迫ったかと思えば仕込み銃を発射

 競り合うつもりだった大剣使いに制圧力が叩きこまれた。

 それでも得物を手に進むも、穂先の払いで転び更にもう一発。


「そちらの騎士様ぁ、ちょっと通るのでどいてくださいっすー」


 ねじ伏せられた相手側にメイドも軽やかに入っていく。

 急な肉薄にナイトが戦斧ではたくが、かきんっと早い剣筋が軌道を打ち上げる。

 後ずさりする様子はあいつは絶対見逃さない、得物の振りの内側に踏み込んで、得意な間合いでざっくり斬首。


「こういう相手は好きじゃないぞ! クリューサ、向こうの増援をどうにかしろ!」


 また一つ鎧の空きができると、最後の一人にダークエルフがすたっと割り込む。

 丸盾の殴りがあいつを迎え撃つが、滑らかに避けて脇腹にナイフを一突きだ。

 それが倒れれば、お次も白き巨人を連れて立て直したソルジャーたちである。


「医者に無理難題を押し付けるな馬鹿者。それで? 俺たちはどうしてあの巨人に向かって進んでるのか説明してくれる奴はいるのか?」


 こんなノリに付き合ってくれるクリューサも乗ってくれた、最後のライトニング・ポーションを掴んで放り投げる。


*Paaaaaaaaaaam!*


 巨体の足元で痺れる眩さが炸裂、取り巻きが電撃に巻かれて膝を折っていく。

 そこに全員で射撃だ。散弾、拳銃、クロスボウ、手持ちの火力を広げて散らす。

 さて、これには白くてデカい図体もない顔を覆ってまぶしそうに怯んだらしく。


『――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!』


 あー、逆上させたみたいだ。斧を掲げてどしどし突っ込んでくる。

 仲間も踏みつぶす荒ぶりようが巻き込まんとばかりに得物を振り回してきたが。


『うりゃーっ! いっちの援護ー!』


 ぎゅん、と空から何かが降ってきやがった。

 白い羽が輝かしい戦乙女の姿、詳しく言うならさっき空中をご一緒したチアルだ。

 剣の重さにバランスを欠きつつ、滑空からの切り付けが巨人の横顔を切り裂き。


『Ooooooooooooooooo……!?』


 ヴァルキリー辻斬りに足が止まった、反射的な斧の質量がチアルをぎりぎり掠る。

 あんまり無茶しないでほしいもんだ。三連散弾銃を抜いた。


「あれは戦乙女ではないか! イチよ、ここはあんなものも現れるのか!? なんと縁起の良い場所よ、ご利益があるぞ!」

「拝んでるところ悪いけど天然物の戦乙女じゃないぞ? ただの空飛ぶ知人だ」

「フハハ、なんであれこのような場面で皆の戦に手を貸すのであれば本物ではないか? しかしお前も縁が増えたようだな?」

「さっき一緒に爆撃機ごっこしてたよ。んなことよりあいつの足へし折れ」

『いえーいいっち見てるー! また一緒に空中デートしよーねー♡』

「……ふふっ、いちクン? デートって何かな?」

「それとノルベルト、縁が増えるとこうなる。いけっ!」


 後ろでひんやりした笑顔を感じたが、後の無事を祈ってオーガを突っ込ませる。

 ギャル系戦乙女に気を取られたのが運の尽きだ。

 顔のない頭が空を追いかけるその一瞬にあいつが詰め。


「さあて皆のもの! 俺様からのご馳走だぞ! 存分にぶち殺せええええええいッ!」


 ――ごし゛ゃっ!


 身体の捻りと得物の重みを加えたクリティカル・ヒットが片足に炸裂した。

 一瞬ノルベルトを睨むが手遅れだ、片足が歪に変わるほどの強打が、巨大さを保つ体幹ごと地べたに持っていき。


『O――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……ッ!?』


 ずずん、と重みの乗った音が立ち込めた。

 土を弾き飛ばしながらも、白き巨人が前のめりに倒れたのだ。

 実にちょうどよく俺たちの前にその大きな顔面を差し出すように、だが。


「全部お前に任せたい気分だ、ありがとう! さあ笑えでかいの!」


 倒れ伏せたままぎょろっとみてくるお顔に散弾銃をご馳走だ、ごりっと銃口を突っ込んで三発同時に発射。


*zzZBbaaaaaaaaaaaaaaaamm!*


 肩が引き剥がされるような反動だ。ハンドガードを押さえて受け入れる。

 12ゲージ弾を至近距離から一斉に喰らえば、無機質な青白顔に大きな黒ができて。


「……これ、頭を壊せばいいの?」

「切り落とせそうにないのが残念っすねえ、せめて一思いに楽にしてやるっす」

「こんな大きな白き民は初めてだぞ! 気味が悪い奴め!」


 すぐに三人が続いた。

 槍が身体の勢いを乗せてぶっ刺し、横合いからの【ゲイルブレイド】が切り裂き、脳天にクロスボウが叩きこまれる。


「ね、ねえ!? この大きいのは何なのかな!? わたし、こんなのがいるなんて今初めて知ったんだけど……!?」

「その得体のしれないやつを既に三体ぶち壊したやつがいるんだ、今更図体がでかいところでは気にならないがな」

「え、ええー……? ふぉっ【フォトン・アロー】!」


 ダメ押しとばかりにミコの光魔法と、クリューサの九ミリが入ってトドメだ。

 一瞬で持てる火力を叩きこまれた巨人が、無念そうに双斧を残して消えて間もなく。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMMMMM――!』

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAHHHHHHHH!』

「Tutaaa-Sturmoooo!」「Huraaaaaaaaaaaaa!」「Vivu-La-Nova virooooo!」


 ずんずんとあの足音が、取り巻く仲間たちと共に――もういい帰れクソが!


「……ミコ、そいつについてはご覧の通りだ。俺も初めてだしこんなに来るのも想定外だ、お前たちヒロインから見て何か分かることはないか?」

「……わたしもあんなの初めてだよー……っていうか、気持ち悪いよ……」

「ああそうだなクリンぐらいキモいのは間違いない。戦いが終わったら終わったらであいつに関していろいろ話し合わなきゃいけなさそうだ、クソ面倒くせえなオイ!」

「ご主人、またソルジャーがいっぱいきてる」

「懲りないっすねえ、でもさっきより間違いなく数も勢いも減ってるっすよ」

「実は白き民を始めて見るのだが、あれがそうなのだな? いやこうして実際相手取ってみると、意外とその身からポテンシャルを感じるのだが……まだまだ俺様には及ばんといった感じだぞ、惜しいやつらめ」

「ははっ、こんな時に敵を分析するとは余裕だなノルベルト。その調子でどんどんいこうじゃないか」

「あの気味悪いのを褒めてるのか下に見てるのかは知らんがどうであれ敵だ、感心するのはいいが俺たちを殺しにきてるのを忘れるな」


 ミコから気持ち悪いとお墨付きをもらうぐらいのやつらのおかわりだ、群れできた。

 巨人の頼もしさを得たソルジャーたちがまた横広がりに殺到してくれば。


「みんな、ここは任せて……! 【フォトン・レイ】!」


 相棒がまたあの光の魔法を唱えた、頭上に魔法陣が青く作られる。

 白い光線がまとめて五匹ほどの身体を一瞬で貫く。

 銃なんかよりもよっぽど効率的な攻撃がその動きを止めるが。


「うおおおおおおおおおおおおおおおッ! 俺たちも……ッ!」


 ごがんっ。突き出した盾で白き民にいい当たりの音を奏でるヤグチがきた。

 敵を突破した体で割り込むなり、迫る敵を押さえつつ剣で突いて確実に仕留め。


「東側、みんなで押し返したよ! 後もう少しだー!」


 ちょこっとついてきたアオがその隙に長柄武器を叩きこむ、頭を切り割った。


「クロスボウの人達弾切れしました! でも巻き返してるッス!」

「後ろからすごくぞろぞろ来てんだよね! これで勝ち確っしょ、頑張るよ!」


 ヤグチの盾から抜けた敵はハル……チャラオとセイカの出番だ、斧と大剣がせき止めて、完璧な防御を作り。


「こうなったのも何かの縁ですし、総意でご一緒することにしました! いいですよねイチ先輩!」

「そのでっかい兄ちゃんのおかげで俺たちいける気がしてるんだよな! うおおおおおおお【ライトニング・ショット】ぉぉぉぉぉッ!」


 ご一行の足並みが敵を押せば、イクエが守りを縫って鈍器をぶち込む。

 更にケイタの電撃が勢いを持っていく――いい連携で駆けつけやがって。


「最前線へようこそヤグチども! 紹介するぞ、このでかいのが俺の友人だ!」

「フハハ! なんと良きチームワークよ、見ていて気持ちのいい繋がりを感じるぞ! 俺様はノルベルトだ、よろしく頼むぞ?」

「な、なんかすごい強そうな人だね……? こ、こっちの世界の人かな?」

「まあそんな感じ、気にするないい奴だ――外まで押し返すぞ、気合入れろ!」


 誰が言ったか何かの縁だ、俺たちはヤグチの戦いぶりと一緒に進んだ。

 次々と敵を受けては押し通す隣で遊撃しつつ、キャプテンが待つ先へと進む。

 後ろではいろいろな冒険者たちが続いてくるやかましさがあった。

 少しでも振り向けば、その様子は一目で分かるほどで。


「――おねえちゃんだよっ! いち君がピンチと聞いてきちゃった!」


 熱々の散弾銃に弾を込めてると、戦場を駆け抜ける金髪ロリがいたからだ。

 道中あぶれた白き民をついでとばかりに切り払って、満面の笑顔でとことこやってくる姉を名乗る不審者がいる。


「うわっなんかキャロルいる……」

「む? あの子供は何者だ? 今姉と名乗っていたような気がするが」

「あれか? 姉を名乗る変なやつ」

「いちクン! さすがにその説明はキャロルちゃんに失礼だからね!?」

「にーちゃん! ここレイドバトルみたいだね! 助けにきたよー!」

「お久しぶりでございます、あなたさま。九尾院からも参戦させていただきました。助太刀いたします」

「ちょっと待ってくださいあにさま、何ですかこのカオス極まりない状況は!? 戦争みたいになってますよ!? コノハお小遣い稼ぎができるって聞いたのに騙されてませんか!?」


 そのついで茶髪揃いの鳥ッ娘と兎なお淑やかガールに、不本意な形で連れてこられたようなコノハも追いかけてくる。

 白き民を蹴る冷やす切り倒すなりして、ここまで敵をなぎ倒してきたみたいだ。


「……それとなんか妹も増えてる」

「フハハ、見ぬうちにずいぶんと家族が増えたようではないか? やはりフランメリアは愉快な場所だな!」

「いち君、そのおっきな人誰なの!? お友達かな!」

「ただの戦友だ! それよりそろそろデカいのくるぞ、やれるか!?」

「イチ君の周りってなんで女の子だらけなんだろうね!? っていうか後ろすごいことになってるよ! どんだけ集まってるのこれ!?」


 戦闘中にもこんなやり取りができるのは流石はベテラン等級だけあると思う。

 そんなことよりもだ、ヤグチの言う通り続々やってくる冒険者に――あの巨人がまた立ちはだかり。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』

『MORRRRRRR! TIIIIIIIIII! GIIIIIIII!』

『WOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

『Foriru-El-La-Lando-De-Dio!』


 馬鹿でかい剣を担いだ四人が、広い単縦陣をもって突撃してきたのだ。

 さすがにこれにはヤグチも「うわっやばっ」と足取りが後ろに向くが。


「えっちょっ、あにさまなんですかあれえええええええええッ!? コノハあんなの知りません、MGOにいちゃいけないバケモンじゃないですか!? あれと戦えと!?」

「もう何体も倒してるんだ、いける! それに――」


 コノハが滅茶苦茶びびってるが、こっちはもう大体慣れたような顔ぶれだ。

 俺は焦らず「ストップ」をかけて、左腕のPDAから【ハウジング・システム】を立ち上げ。


「よく考えたらここはまだ()()()()だ! ようこそ、クソ野郎!」


 この前ハウジング・テーブルを拡張しておいてよかった、青い画面が開く。

 そこは俺が手をつけられる範囲内だ。

 ハウジング限界距離を示す印はずっと向こう、手元には【掘削】のコマンドがある。


*じゃりっ*


 実にちょうどよかった。地面をえぐるざらざらとした音が間抜けに響く。

 そうなると指定した向こうの地面が四角形にくりぬかれる。

 間が悪いことに、今はその手前で巨人の足が持ち上がっていて――


『――WO、OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』


 大当たりだ、突然の落とし穴に足が引っかかった。

 想定外の障害を受けた一人目の巨人が、ずずんと俺たちのそばで武器も落として地べたにキスをし。


「いち君、今何したの!? おっきな落とし穴できちゃった!?」

「おっきな落とし穴作れるんだ説明終わり! ヤグチ! そいつらやれ!」

「えっ……え……!?」

「え゛っなにいって……ええいヤグチ、やるよ! 突撃ー!」

「何いってんだこの人はああああああぁぁぁ!? う、うおおおおおおっ!?」

「上等だよ、やっちゃえみんな! 頭を狙ってぶっ叩いて!」

「いいでしょうやりますよ! ケイタ君もう電撃魔法は駄目ですよ!」

「俺の武器杖しかねえよイクエ姉ちゃんっ! 畜生こいつで殴るしかねえっ!」


 チーム・ヤグチをけしかけた。次の瞬間にはアオを先頭に全員でタコ殴りだ。

 長柄の刃が、剣と盾が、斧が大剣が、鈍器に杖と順を追って転んだ巨人を攻撃するのを見送ると。


「おねえちゃん分かっちゃった! 転ばせて頭を叩けばいいんだねっ!」


 追走してくるキャロルが驚異の理解力を示してくれた。


「ああそうだな! あいつらは頭をやれば確実だ!」

「任せていち君! みんな、ちょっと転ばせてきてくれるかな!」

「いや待ってください何簡単に言ってるんですかこの二人!? コノハたち鉄砲玉じゃないんですよ!?」


 まあ、次はクランメンバーへの無茶ぶりだったが。

 約一名の抗議はあれど、けっきょく全員が素早く動いて。


「じゃあボク、囮になるね! 二人とも足よろしくー!」


 ぎゅん、とピナが八重歯を輝かせてからすっとんでしまった。

 羽をばさばさっとさせたロリボディが巨人を過ぎれば、ついでとばかりに足のつま先が顔をぶった斬り。


「片方はわたくしが。後はお願いいたします……! 【アイシクル・ジャベリン】!」


 意識が外れたところにツキミの氷魔法だ、不安定な片足を刺して不意をつく。


「ああもう! あにさま、なんて場所に招待してくれたんですか!? それなりの見返りを要求しますからね!?」


 不満もろともコノハもいった、素早いこなしでにじり寄って、忍者刀でずばっと足首を切る。

 そこで激しく揺れ出すも、仕上げは背面に回ったピナの蹴りで。


「一体撃破だねっ! うおおおりゃあああああああああああッ!」


 素早い連携の末、倒れてきたところへキャロルが大剣抱えて突っ込む。

 次の瞬間にはカチ割られる白き巨人の脳天だ、ごろんと得物ごと転んだ。


「――見事なり! あの少女たちもやるではないか! よきものを見たぞ!」

「将来有望だろうなありゃ、すごい姉をもったもんだ」

「やっつけちゃったね……あの子、ヒロインたちの中じゃすごく強いって言われてるよ……」


 そんな光景をノルベルトとミコとご一緒に見送ると、すかさず次の巨人だ。

 取り巻きも前より明らかに少ない。足を緩めて散弾で牽制すると。


「お待たせしましたっ! 手伝いますよー! 【ルーセント・ブレイド】ッ!」


 乱戦をこじ開けて人形なお姫様の掲げた剣も入り込んできた。

 リスティアナがロリどもを連れての参戦だ。

 手持ちの火器を全員で反射的に撃ちこんだ矢先だった、ちょうどいい露払いのあとに青い剣撃が炸裂し。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHH……!』


 強烈なマナ入りの一撃に足を弾かれて、背中から派手にぶっ倒れた。


「いけっ! 名もなきチーム突撃っ!」

「まさかこんなの相手にするなんてね、起き上がる前に仕留めるよ!」

「頭を攻撃するんダ! 周りのソルジャーたちに気をつけロ!」

「私たちでやれるのでしょうか……!? い、いきますよ!」

「だんなさま! ここはお任せくださいっ! えええええええええいっ……!」

「ふおおおおおおおレフレク全力ですっ! 【フォトン・アロー】!」


 リスティアナに続いてチビエルフから妖精さんまで倒れた身体を制すれば、少し可愛らしい集団リンチ現場の完成だ。

 代わりに近づく敵を排除しておくか、得物を構えた。


「どうだノルベルト! 知り合いいっぱいだろ!?」

「お前もフランメリアの良き混沌に恵まれているな! 羨ましいではないか!」

「女の子のお友達いっぱい増えてるっすねえ、あひひひっ♡」


 殺到してくる白き民を散弾で制圧射撃、そこへノルベルトの戦槌が横殴りだ。

 まとめて数人がこの世からぶっ飛ぶと、残りはメイドの斬撃が仕留めて。


「いちクン! 向こうに【キャプテン】が見えるよ!」


 更にストレンジャーズで押し入れば、とうとう敵の群れの奥深くだった。

 なぎ倒してきた数々の向こうにいたのは、あの得意げだったキャプテン級だ。

 今や後ろに控えていたはずの弓持ちや杖持ちと一緒にかなり戸惑ってたようで。


『RIッ! Rigardu-Tion!? MALAMIKO-ESTAS-PROKSIME! PROTEKTU-MIN!』 


 特に近づく俺たちには一目で分かる焦りようだ。

 後衛たちに指を使ってこっちを「やれ」と命じてる。

 最後の白き巨人も歩幅を強めて、その巨大な得物を――えらく馬鹿でかい刀を突きつけてきやがった。

 ……いや、刀だってふざけんな!?

 巨人サイズのそれが構えと共に迫ってきた、誰だあんなん作ったクソ野郎!


「……おい! あれは俺に対する嫌がらせか!? 何だってあんなアホみたいな刀もってんだあのクソモンスターめ!?」

「ご主人の嫌いな刀だね、すごく大きい……」

「お、おっきい刀……!? ねえ、本当になんなの、あの巨人……!?」

「フハハ、変わらず刀が苦手なようだな? また妙な相手に絡まれたものよ」

「お~、クソデカな刀っすねえ。あれ売ったらお金になるっすかねえ」

「イチ、まさかのお前の苦手なものの究極系だな! どうする!」

「ここにいると頭がおかしくなりそうだ。ウォーカーでもないくせにあんなもの振り回すやつすらいるとは、この世界は物理的な法則を無視しないといけないルールでもあるのか?」


 感想も口々に出るほどの迫力だが、俺からすればたまったもんじゃない。

 すると向こうでアーチャー級が、メイジ級が、それぞれの得意を構えるものの。


「――そいつが最後の巨人だ! こっちは任せろ貴様ら!」


 そんなやつらが背にする森の深みから、栗色髪の女子が勇ましく現れる。

 いつの間に回り込んだのか、エルが杖使いたちの中に混じって切り伏せ。


「今がチャンスだよ! 後ろは押さえとくからいっといでー!」

「みんな勇敢に戦ってますね! セアリさんたちも負けてられませんよこれは!」


 応戦しようと動く弓使いすら、フランごと落ちてきた槍と、群れを塞ぎまわるセアリが蹴散らしていく。

 向こうが最後の頼みを損ねれば、残るはカタナの巨人とキャプテンぐらいで。


「いくよみんな! 【フォトン・レイ】!」


 真っ先にやってくれたのがミコだった、光魔法をぶっ放す。

 魔法陣からの光に巨体が打ち据えられる。払い構えたカタナが鈍るも。


『――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMM!』


 向こうもしぶとかった、怯むどころか逆上して思い切り凪いできたのだ。

 全員の意識を感じるに「よけろ」だ、地面との隙間を、そのぎりぎりのリーチを、どうにかこの身で避けようと動くも。


「フーッハッハ! いいだろう、受け止めてくれるわああああッ!」


 一人違うやつがいた、何する気だノルベルト!?

 あろうことかあいつはたたんだ戦槌を構えて、それを刀の軌道にあわせ。


 ――が゛ぎ゛ん゛ッ!!


 この世で一番不穏な音を立てつつ……刀身がぴたりと停まったのだ。

 周りで戦うやつらも一目置いて唖然とするほどだ、本当に防いでしまった。


「マジでやりやがったぞあいつ!? い――いけえっ!」


 見とれる暇はない、ぎぎぎ、と食い止める姿勢に任せて突っ込む!

 次第に三本もの腕が刀身を押し、オーガも掴んで強引に斬り倒そうとしていく。

 散弾銃を捨てて白殺しを抜いた。力が籠もる足回りに近づき。


*BAAAAAAAM!*


 スケールの違う片足にぶっ放す、突然のストッピング・パワーに巨大さが揺れ。


「ん、足をもらう……!」


 ニクの槍がそこに突き立つ、同時に308口径の仕込み銃も炸裂だ。

 「ざっくりいくっす~♡」とによった声も混じれば、飛ぶ斬撃が片足のつくりを鋭くえぐる。

 そこで向こうは限界だ。片足のダメージにずしん、と重量を見誤って転ぶ。


『WO、WO、WO……WOOOOOOOOO……!?』

「あっ……ぶねえ! 全員移動! 倒れるぞ!」


 危うく巻き込まされそうになった、わーわー言いながら全員で避けた。

 足の間を潜り抜ければ、振りかえるところには倒れた巨人だ。


「イチ、トドメだぞッ!」

「巨人に殴り込むなど誰が想像したことか、こんな悪趣味なもの早く倒せ!」


 クラウディアとクリューサが九ミリやら太矢やら追撃をお見舞いしてた。

 四つの腕を駆使して今にも動きそうな背中へと、その要求通りに上り。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 それが九十度の壁になる直前、咄嗟のマチェーテをうなじにブッ刺した。

 揺らぐ身体にぐんぐん持ってかれるが、巨大な腕が異物求めて追ってくる。

 だが残念だったな、もう手遅れだ。


「――これで四匹目だ、記録更新おめでとう俺! さよならだクソ野郎!」


 慌て始める後頭部のくぼみに火薬の熱で熱くなった白殺しを押し込み。


*BAAAAAAAM!*


 撃った。脳天めがけて飛ぶようなルートで一発だ。

 これが決め手になったのか、今まで凛々しく構えていた巨体が膝から崩れ。


『――――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!』


 断末魔のような、それか無念の悲鳴か、悔しそうな声で消え始めた。

 次にはすっ、と足元からゴム質がなくなる喪失感だ。

 残った布鎧とカタナごと、俺は地面に落ちていき――


「うむ、やはりお前は巨大な敵を相手にする運命のようだな。大戦果ではないか?」


 待ってたのはノルベルトだ、またお姫様抱っこである。

 満足な笑顔につられてみれば、アサイラムに向かって数え切れないほどの戦利品が転がってた。

 そして疲弊しつつも呆然とこっちを見ている冒険者たちも。要は勝ったのだ。


「す、すごい……勝っちゃった……!? わたしたち、やったんだ……!?」


 ミコだって馬鹿でかいドロップ品のそばで、そう信じられなさそうにしてる。

 巨人を倒したリスティアナたちも、敵を遊撃していたキャロルたちも、身構えたままチーム・ヤグチも、誰もが顔を見合わせてた。

 もう攻め込む姿も気配もない、あるのはそいつらが落とした名残だけだ。


「……お前と組むといつも無理が通せるな。悪いな、最後の一匹貰っちまって」


 やり切った感じが広がるそこで、俺はやっと大地を踏んだ。

 こつっとジャケット越しの胸板を小突けば、気のいいオーガはニヤっと笑い。


「構わんさ。その代わりだが、あれは俺様がもらい受けても構わんな?」


 と、気持ちよく言いながら親指で向こうを示した。

 そこで仲間たちをやられたキャプテン級の立ち姿があたふたしてた。

 最後はヤケか、それとも逃げか、剣を握ったまま狼狽えたままだ――オーケー、もちろんだ相棒。


「やっちまえ、お前の手柄――」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお喰らえやあぁぁッ!」


 しかしそこで想定外が生じた。側面から回り込んできたマフィア姿だ。

 ものすごくやかましく我が存在をアピールすると、あいつは全力の走りでキャプテンの横顔めがけて。


「死ねッ! 必殺ラブ♡涅槃ッ!」

「MALE……AAAAAAAAAAAAAAAAAAH!?」


 愛を込めたドロップキックで弾き飛ばしやがった。

 顔なき頭に草地を舐めさせれば、肘枕を立てての横寝姿がすとっと着地だ。

 ドヤ顔際立つ寝姿の後ろで横取りされた敵が青く散った――台無しだこのアホ!


「……マジでごめんノルベルト、とりあえずお前に言っとくのはあの空気を読まないやつが俺の幼馴染ってことだ」

「フハハッ! あれがそうなのだな? 見事な蹴りで仕留めたな、オーガから見ても鮮やかな一撃だったぞ!」

「あ、どうもそいつの幼馴染のタカアキです。よろしくねでっかいの」

「……あの人、ノルベルト君の相手奪っちゃった……流石にこの流れでそれはないよ……」

「おいミコがガチでひいてるぞ馬鹿野郎! お前せっかくの再会に……いやもういい、そういうやつだお前は」


 流石に相棒と一緒に呆れるも、そこに【LevelUp!】の通知が重なった。

 敵がいなくなった証拠でもあり、また成長した瞬間でもあるいい知らせだ。

 レベル17おめでとう。とりあえず「ようこそ」とボロボロの拠点を紹介した。


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