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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
534/580

40 アサイラム・レイド(3)


「OOOOOOOOOOOOOooooo! MORTI、MONSTROOOOOOOOOOOO!」

「Sekvu-La-Kavaliron! STUUUUURMIIIII!」

「VIVU-LA-Nova-homaro! AAAAAAAAAAAAAAAAH!」


 空から死をお届けに飛び降りれば、そこは白き民たちが作る乱戦の場だ。

 ぶち破った門から堂々たる訪問を果たした甲冑姿が、取り巻くソルジャーたちを雪崩れ込ませてる。

 俺が落ちていくのはその真っただ中、抜かりなく丸盾を構えながらの重い連打をメカに浴びせる場面で。


「――上から失礼! *お前の墓場*アサイラムへようこそ!」


 ノーマークの頭上に正々堂々ご挨拶した。もちろんブーツの底を使った奴だ。

 そいつは兜の切れ目に垣間見えるのっぺり顔が見上げる瞬間と重なり。


 ――ごしゃっ。


 メイスを振り上げるポーズを迷わず踏んで潰した。

 足にじんじん伝わる鎧の防御力が、アサイラムの土地に派手な背中転びをもって着地地点に変わり。


「OOOOO……!? Cu-Cu-Vi-Estas……!?」


 皮肉にも防具に引きずられた重たそうな大の字がここに完成だ。

 打ち倒されたナイトはじたばたしだして、武器も手放しに足首を掴んでくる。

 重たそうなくせしてすごい力だ、気を抜けば振り落とされそうなほどガクガク揺れるが。


「よお、空から来て悪かったな。今度から頭上注意の看板でも立てとこう」

「もう大丈夫、怪我はない?」


 ちゃんとついてきたニクがべきっ、とそいつのバイザーを蹴って剥がす。

 兜からむき出しになった白い面がもがくも、そこに突撃銃の銃剣を刺突。

 鎧の中もけっきょくは硬いゴムを張ったような肌だ、ざっくり届けば間もなくその身が溶けていく。


「だっ……だんなさま!? 危ないところをありがとうございます……って横! 横から来てますっ!?」

「La-Kreinto-Venis! Mortigu! Mortigu!」

「Kio-Estas-Ci-Tiu-Ulo!? S、Subtenu-La-Kavaliron! Iru!」


 足元で撃破を感じてると、メカのふわっとした声に敵のざわめきが混ざった。

 雪崩れ込んできたナイトやソルジャーたちが戸惑い混じりで矛先を向けてくる。


*PAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAkinK!*


 お出迎えだ、近づく足取りを雑に構えた突撃銃でフルオート射撃。

 ところどころに太矢の生えたプレートアーマー姿が衝撃にひくひく煽られた――貫通はしてないが衝撃は伝わったか。

 連射の暴力性を頼ってお供の軽装まで巻き込めば、弾倉一本分の制圧力が大きな抜け穴を作り。


「お先にどうぞ、やってこい」

「ん、行って来る」


 まずニクの背中を見送った。空弾倉を弾いて交換しつつ追いかける。

 愛犬の行く気に、弾を食らいつつもまだ動きのいいナイトが立ちはだかるも。


*Baaam!*


 槍を構えた、と見せかけての不意打ち射撃だ。

 これだけ近ければ良く当たる距離だ、308口径の初速と質量が仕留めた。

 がらんと崩れた鎧にソルジャーたちが続くが、真っ先に突き出された敵の短槍と穂先の打ち合いになり。


「ご主人、手伝ってくれる?」

「そのつもりだ。援護するから突っ込め」


 その場面へ銃剣つきの銃口を持ち上げた、ニクがするっと横にステップ。

 敵の動きがそこを追いかけるも、こっちにはっと気づいた敵に狙いが重なる。

 トリガを引いた。金属音がぱきぱき混じった短連射が身体の勢いを奪う。

 数発刻みで他を撃ち抜けば、向こうで一人が片手の丸盾を振りかぶった。


「――OOOOOOOooooooッ!」


 あろうことかこっちに投げてきた、かなりの勢いで飛んでくる。

 照準の中で避けるか防ぐかの二択が咄嗟に突きつけられたが。


 ――がきんっ!


 聞き心地のいい衝撃音がそれを阻んでくれた、横からメイドの大斧だ。


「だんなさま! あ、あたしもっ! お守りしますっ!」

「手伝ってくれてどうも、このままクソ客を追い出すぞ」

「は、はいっ!」


 一息整えたメカが叩き伏せてくれたらしい、足並みをそろえた。

 わん娘が別の敵を串刺しにしていた、ご同類が迎え撃つもひねり倒して回避。

 代わるように鉄条網慣れした白き民がそこにどんどん押し寄せてくるも。


『あの馬鹿突っ込みやがった! 乗り越えてくる奴らに矢を浴びせろ、援護!』


 背後で誰かの声がクロスボウをまた斉射させた。

 頭上を追い越す感覚が増援の勢いを貫いて、駆け込む姿が次々転んだ。

 周囲の乱戦の様子にも、オリスの矢とハナコの氷の槍が混じってこちら側を有利にしていき。


「いくぞお前らッ! 敵が怯んだッ!」


 この瞬間だ。ゲート近くで綻んだ一団へ突っ込んだ。

 落とした姿勢のまま突撃銃を抱え込むように突き進む。

 咄嗟に突き出た槍がぐりっと肩の防具を抉るが知ったことか、思い切り詰めた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおらあああぁぁぁぁぁぁッ!」


 勢いそのままに柄を辿って、先頭の槍持ちの懐に突っ込んだ。

 退く青ざめた顔を追いかけて、胸鎧の防御から逃れた腹に――銃を持ち上げる!


「HA――Haltuッ……AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaah!?」


 そのまま下から上に串刺しだ、白い腹をぶち抜いた。

 ファクトリー製の武器に白き民一人分の重さがじたばた伝わるが、お構いなく地面を踏んで。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」


 勢いを使ってそいつを持ち上げた、乱戦の中で派手なシンボルが立つ。

 周囲の注意が困惑混じりで集まれば、奥仲間めがけてそいつを突き出していく。


「Ne、NE-Homoj-De-La-Malnova-Mondo!? Monstro……!」

「Gi-Estas-Monstro! Ci-Tio-Estas-Malbona!?」

「Ne-Venu!  NE-VENUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」


 攻め込んできたやつらがじりりと一歩退く……という瞬間に駆け寄った。

 向こうの剣やら戦斧やらの間合いに、串刺しにした白き民を落として。


「さっそくで悪いけど俺たち別れよう、お友達によろしく――じゃあな!」


 そんな短い付き合いに爆発するクナイをブッ刺した。

 固いゴムみたいな背を飾ってピンも抜いてダブルで絶交だ、なおさら暴れる白き民を後押ししてやった。


「AAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!? He-Hepo……!」

「HALTU! NE-VENU!?」


 感動の再会に向こうは大慌てだ、仲間ごと破片と爆風に変わった。

 アーマーに余波を受けつつ突っ切れば、ゲート向こうで腰が引けたやつが数人。

 するとに剣持ちが躊躇い混じりに突っかかってきた。

 斬り払いを横に踏んで回避、下に構えた銃剣で足をざっくり払う。


「ハッハァ! ロアベアの真似だぁッ!」


 あー、イイ感じだ。突撃銃を大きく薙いで、跪く首を銃剣でぶった切った。

 手ごたえ通りだ、支えが途切れて頭がオーバーに仰け反った。

 すかさず半分翻り、銃床でその顎をぶん殴る――首がだらっともげた。


*PAPAPAPAPAPAPAKinK!*


 次の兵士も銃剣、とみせかけて至近距離のフルオートで死ぬほど弄んでると。


「イチ様ぁ、うちだったらもっと上手にやってるっす~」


 噂をすればなんとやら。ロアベアが仕込み杖を手に追いついてきた。

 すっ、とどいてやった。ちょうど向こうは仲間をやられて孤立したナイトだ。


「誰かと違っていい趣味してなくてな、斬首の素人だ。大目に見てくれ」

「じゃあプロに任せるっすよ。お客様ぁ、【ゲイルブレイド】をどうぞっす」


 そいつが「OOOOOOOO!」とくぐもった勇ましさを見せたその時だ。

 いい感じに得物を振り上げたところに、メイドのアーツが宙を斬る。

 ぴくっと硬直したかと思えば重たげに首が落ちた――お見事、隙間を狙ったか。


「任せてよかったと思う、エクスキューショナーは伊達じゃないな」

「この鎧、頑丈みたいっすけど関節が弱いっすねえ。っていうかうち、何気に白き民初撃破じゃないっすかこれ」

「あーそうかおめでとう、後でご褒美をやろう。エナドリでいい?」

「じゃあうち専用の部屋が欲しいっす~♡」

「なんてわがままなやつだ調子に乗りやがって。メカ、こんな風になるなよ!」


 対価はロアベア専用のお部屋らしい、贅沢なメイドめ。

 追いかけてくるメカに悪い例を教えると、あいつも大斧を引きずるように突き出てきて。


「あっ、あたしっ、だんなさまに尽くせればそれでいいですからっ! ご褒美なんてそんな……っ!」


 ごがんっ。

 盾を構えてじりじり動くソルジャーを、その防御ごとぶっ叩いた。

 ちびメイドのパワーと斧の質量があれば十分だ、片腕を通じてバランスを崩した。

 続く横払いが空いた胴を掻っ切り、青ざめた身体を完全に打ち倒す。


「――面白そうじゃないか! 私も混ぜろ、ずるいぞ!」


 またソルジャーが突っかかってくるが、今度はその首元に矢が生えた。

 拠点をすばしっこく抜けてきた俺たちの知るダークエルフだった。

 クロスボウ片手に射貫いた敵を足払いにして、近くの槍持ちを押し倒す。


「OOOOOOOOOOOOOOOOooo……!? K、KIO……!?」


 せめてもの抵抗の穂先が外れれば、あとはクラウディアのなすがままである。

 白き民の身体に蛇さながらに絡んで、いつもより深々首を掻っ切ってすぐ離脱。

 別のソルジャーたちが武器で追い回すも逃げられた――が。


「いきなり二匹撃破か、せっかくだし誰が一番倒したか勝負でもするか?」

「おお、それは面白そうだな。ところでお前たち、合流した矢先に悪いが伏せた方がいいぞ」

「来るなり伏せろっていうのもいきなりだな。お前何しや……ん?」


 あいつはそこらの盾を手に戻ってきた、敵の方に備えながらだが。

 よくみるとソルジャーの首に見覚えのあるクナイが刺さって……おいまさか。


*BAAAAAAAM!*


 爆発しやがった。有刺鉄線手前の一団が崩れるが、思うにあれは人のクナイだ。


「おい! サプライズで爆発させるのはいいけどあれ俺のだよな!?」

「たった今借りたぞ、私も真似したくなってな。いい武器じゃないか」

「今度から事前にやってくれ、盗んでくれてありがとう!」


 こいつめ、人の腰から勝手に拝借してくれたらしい。

 向こうの戦果と度胸とドヤ顔に免じて許してやる、一塊になって更に敵中を進んだ。


『な……なんだよあれ、倒しまくりじゃないかイチ先輩たち……!?』

『タカナカ先輩! あの人暴れてますけどいいんですか!?』

『あいつは初対面の頃からああだから諦めろハナコ! くそっ、俺たちも行くぞ! 逆に押せるチャンスだ!』

『わはは、そうか逆に突っ込むか! よっしゃカウンター突撃じゃ、急げ急げ遅れんな!』

『冒険者稼業って血の気盛んじゃないと務まらないんですねえ。クロスボウ持ちの方々とばっちり援護しますので、どうかお気をつけて』

『おお、怖い怖い。地上の下々は野蛮に戦っている、弓使いのエルフは高みの見物に限る』

『す、すごい……あの人たち、白き民を押し退けてる……!?』

『なにあの一際強い集団……やっぱり殺人パン屋さんってどこかおかしい気がする……』


 後ろで援護してた連中も口々にしながら続いてきたみたいだ。

 改めて周囲を見れば、アサイラムの戦況はだいぶ持ち直したように見える。

 敵は南の森からまだ続いているものの、有刺鉄線の絡みがあいつらを近寄りがたくしてくれてる。


『ヒャッハー! いいぞ、白き民ども! 逃げるやつも逃げないやつも歯向かうやつもみんな敵だ、ここは天国だぜようこそ死ね!』

『馬鹿もん撃ちすぎじゃ! 銃身焼きつかんように数発刻むで撃たんか!』


*BRtatatatatatatatatatatatam!*


 東側の監視塔あたりでは、幼馴染のご機嫌さと発砲炎が接待中だ。

 もう片方のクロスボウ部隊と一緒に()()()やつらで的当てに興じていて。


『こっち側にも敵が流れてる! みんな、二人一組で確実にやれ!』

『行くよヤグチ! タンクは任せたー!』

『今度は俺がナイトやるッス。セイカ、サポートよろ』

『森からまだ援護来てるから気抜かないようにねみんな、んじゃやっちゃうか』

『念願の鈍器のアーツを覚えたので実験台にしてあげましょう。行きますよ!』

『イクエ姉ちゃんがマシマシで怖いぜ……! うおおおおおお【ライトニング・ショット】!』


 そうして鈍った白き民を、ヤグチの率いるチームが迎え撃つ仕組みだ。

 流石だ、ここ最近数の多さを相手にしただけあって他とは動きが違う。

 ソルジャーが来ようがナイトが来ようが、それぞれが得意な戦い方で見事に抑え込んでる。


「あっちは大丈夫そうだな、あいつらすっかりいい連携だ」

「防御は破られたけどぼくたちで守れてる。勝てるかも」

「皆様ここ最近で白き民に慣れてるみたいっすねえ。それにしても敵の数がすごいっすよ、ほんとに百は行ってるんじゃないんすか?」


 こっちはこっちで、壊れた出入口の先まで進んでた。

 まっすぐ来る相手を突撃銃で足止めし、鉄条網を踏み越えるやつらはニクとロアベアが仕留める。

 遠くから来る次の集団も単発射撃でパキパキ追い払う、5.56㎜弾を喰らえ。


『……まったくお前は。けっきょく敵前に突っ込むとは、俺から言わせてもらえばそういう病があるとしか思えんな』


 メカがまた誰かを「ええい!」と可愛らしく斬り倒すと、俺たちの頭上を何かがくるくる追い越していく。

 柄付きのライトニング・ポーションだった。

 次の一団が爆ぜるような電撃に巻かれた――お医者様の処方は的確で適切だ。


「クリューサ、じゃあ質問はこうだ。なんでその現場に来たんだ?」

「遠目に見てもここが患者だらけなものでな。説明に足る理由だろう」

「みんな、こいつが言うには俺たちも患者ってことらしいぞ」

「ん、元気だけど……?」

「あひひひっ♡ うちカフェインやめられないから病気っすねえ」

「失礼だぞクリューサ! 良く食ってるし良く寝てるし良く戦ってるからいたって健康だ!」

「お前らといい、あの白くて気味が悪い化け物といい、共通の目的は俺の安眠の妨げか? 早く片付けてここの睡眠環境をどうにかしろこの馬鹿ども」


 お医者様からの要求は騒音問題の解決らしい、背後で九ミリのリボルバーがどこかの誰かを撃った。


「ご主人、魔法がきた……!」


 俺たちが誰よりも前に突き出ていると、ニクが森の暗さに犬耳を立てた。

 ()()から炎の弾が飛んできた。

 放物線を描いたそれが、夜を照らしながら白き民たちを追い越し。


 ――どんっ!


 横の土嚢に当たった。グレネードランチャーほどの威力が赤く散っていく。

 それが何発も飛んでくれば、アサイラムのあちこちに爆炎がぼふぼふ立った。

 見張り塔を狙った一撃なんて屋根を吹き飛ばしてしまってる。なんて威力だ、魔法ってのは。


「今のなんだ!? 40㎜グレネードか!?」

「おー、あれって【ブレイズ・スフィア】っすねえ。炎属性30のスペルっすよ、最初の範囲攻撃魔法っす」

「んなもん気軽に撃つとかどうなってんだ! タカアキ! 森の方に制圧射撃しろ、撃ちまくって詠唱させるな!」

『俺の心配はねえのかよ! お兄さんを信頼してくれてありがとう!』


 ロアベアのによによは良く知ってる模様だ、あれもMGOの魔法か。

 赤く彩られた塔から銃撃が再開すれば、今度は敵の後ろから矢だ。

 飛翔物が飛んでくる。ニクが槍で払ってくれたが、ヘルメットにがつっと直撃を感じた。


「いっっっ……たああああああああ……!? 矢、刺さった……!」

「全員気を付けて、また敵の援護が始まってる!」

「また外からおかわり来てるよ! 崩されないように固まって!」


 それでもここの守りを押し返せないのは、傍らにあるヒロインたちの戦いぶりによるものだ。

 見た目も実力も優れた人外たちの振る舞いが白き民からここを守り通してる。

 

 チビエルフたちの連携が、頭上からの矢と光魔法に続いて雪崩れ込む。

 狐耳の姉ちゃんの率いるチームが、ナイトだろうが打ち合って強引にはっ倒す。

 居残り組のヒロインたちだって鳥だのヘビだのスライムだの、種族大きさ問わずに間違いなく敵と渡り合っていて。


「い゛たっ!? は、離して! いやっ、この、気持ち悪い……! このおおおおおおおお……!」


 信頼できる周りに東西の守りを任せて、鉄条網越しの敵に狙いを定めた時だった。

 横の土嚢からチアルの切羽詰まった声がした。

 来客に銃弾を浴びせつつ向けば、そこで群がる白き民に引きずられる場面だ。


「Ooooooooooooo! Mortigu! NE-LASU-GIN-ESKAPI!」

「Desiru-La-Flugilojn!Faru-Gin-Rapideeeee!」

「い、いやああああああああああっ!? たすけっ、痛っ、やだぁぁぁ……!? あーしの羽、引っ張ら……痛い痛い痛い痛い!? 助けて……ッ!?」


 二メートルはあろうやつらが何人も戦乙女を引っ張りあってた。

 逃げようとする腕も力づくで押さえれば、背中の羽を掴んで引き抜こうともつれ合っており――


「お前ら、綺麗に助けるぞ。お先いただき」


 その場を抜けてするっと方向転換、突撃銃を降ろしてクナイに手をつける。

 一番槍は俺が貰いだ、チアルの腕を抑え込む横合いのやつに投擲。


「Bonvolu-Me-Las――Hooooooooooooooo!?」


 右脳に飾りが増えたみたいだ、たまらず手放して崩れる。

 左手でもう一本投射、羽を引っ張る背中のやつの知能を地獄に落とした。

 もっと欲しいだろ? 「Kioッ」と気づく横顔をぶち抜き、逃げようと動く四人目の背中を捉えた。

 クソお客様、俺からの【ラピッド・スロウ】をどうぞ。


「ん、チアルさま大丈夫……?」


 サプライズ・クナイに戸惑う残りへニクが続いた。

 残りの腕がようやく離れるも、追いかけにきた穂先が胸元を抉ってダウン。


「こらー! 戦乙女いじめると罰当たるっすよっ! こんな風にっ!」


 最後の生き残りもロアベアが一閃、腕がぼとりと落ちた。

 これでもう女子を掴めない身体になったはずだ――まあ、返す刀で首がすっぱり宙を舞ったが。


「女の子の前で生首切り落とすかお前」

「いやあ、確実にやったほうが安心じゃないっすかね?」

「あ、あっ……? あり、ありがとね……!? こ、怖かったよ……!」


 戦乙女救出大会に優勝すれば、少し呆然としたチアルが駆け寄ってきた。

 いつもの余裕もなければ泣き出しそうなひどい顔だった。

 好き放題にされた羽がばさばさに荒れた上に、変な方向に曲がってる。

 あの野郎ども、なんてことを。まだ転がったままの白き民に素早く5.56㎜弾を撃ち込む。


「おい、羽がその……痛そうだぞ、大丈夫かチアル?」

「だ、だいじょーぶ……! 魔法かけてもらったら、すぐ直るし……ほんとにありがとね、いっち?」

「できれば次からしまっとけ。一旦下がって回復してもらえ、仕返しは任せろ」


 背中が痛々しいが本体はまだ元気だ、そこらに撃ち込みながら下がらせた。

 チアルの仲間も敵を払ってきたらしい、黒い狐耳の姉ちゃんが肩で息をしながら駆けつけて。


『チアルさん! どうして一人で勝手に突っ込んだの!? 無茶しないでっていつも言ってるのに……!』

『ご、ごめんね……? 他の子が危なかったから、あーしが助けようと思ったんだけど……』

『身代わりになっちゃ意味ないでしょ!? イチ先輩、ありがとう!』


 ヒーラーの元へぞろぞろ連れて行った、どうかお大事にチアル。

 ボロボロの羽がどうも心配だが、俺にできるのは代理の報復だ。


「オラァッ! あいつの羽むしり取るとはいい度胸だな!? お礼にてめーらの命千切り取ってやらぁ!」


 潰れた鉄条網を迂回して側面へ向かう一団を発見、連射で追いかけて塞ぐ。

 そこにミナミさんの指示でクロスボウが一斉射撃、もう走るやつはゼロだ。

 ところがいいところでガチっと弾切れ、予備弾倉もゼロだ。片手撃ち中のクリューサに投げ渡した。


「おい、いきなりそんなものを渡すな。お前は俺の荷物持ちじゃないはずだが」

「っ、はあああああああああああああああっ!」


 そのままマチェーテを抜いた途端、坊主頭が横を追い抜いていった。

 タケナカ先輩が押される白き民たちに向かっていく姿だ、ほんとに来たか。

 ちょうど両手剣をひっ下げたナイトがどしどし走ってくるところだ、見事に鉢合わせになるわけだが。


 ――ぎんっ!


 走り込む勢いを乗せた一撃が、振り上げられたばかりの大剣を短く弾いた。

 怯んだナイトのわずかな後ずさりに乗せて、首元に【ハイスタブ】をぶち込んだ。

 戦いのペースを持ってかれた挙句、刺し貫いた刀身が中を抉ってとどめになった。


「タケナカ先輩、また強くなったとか周りに言われてないか?」

「俺が分かるのは苦労が増えたことだ。今みたいにな」


 しかも軽口をたたく余裕があるほどだ、こっちに足をあわせてきた。

 二人でさらに防御線を追い越せば、外を駆けてやってくるソルジャーたちのタゲが向く。

 慌てず片手間の自動拳銃で迎え撃った、タケナカ先輩もクロスボウに切り替えての速射だ。


「Ooooooooooッ!?」「AAAAAAAAAAA!?」「Fi――Damnu-Gin!?」


 45口径と太矢が何人か勢いを削いだ、それでも鈍ったその足でくる。

 こっちに長い戦斧の振りがびゅん、と押し迫る。

 慌てず後ろに避けた、相手も足踏みにならって得物で追いかけてくる。

 ソルジャーの力強さは舐めちゃいけない。手にしてるのがデカい得物だろうが、一撃一撃が早くて重いのだ。


「――しっ!」


 じゃあこういうのはどうだ? 構えると見せかけてマチェーテを投げた。

 当たりだ、次の一撃にあわせた先端の鋭利さが顔を串刺しにした。


「Venu、Se-Vi-Volas-Veniiiiiiiiiiッ!」


 が、続いたソルジャーが片手振りの斧で殴りかかってきた。

 慌てず左手の【ガントレット・ブロック】の動きで払った。

 タクティカル・グローブにがつっと重みだけが伝わった、後ろによろけた格好に自動拳銃をばばばっと三連射。


「白き民の攻撃を手で弾くとは度胸があるな、やりやがる」

「そっちもな、そんな戦い方はまだ俺には早そうだ」

「なあに、おっさんの俺ができるならお前にだってできる話だ」


 その点、タケナカ先輩は片手剣で素早く二人を仕留めてた。

 打ち付けられた剣を弾いて【チャージドスマッシュ】でぶった斬り、横から槍をくれば【ハイスタブ】で突き返す。

 ついでに人の得物を蹴ってよこしてくれた、手近なやつの首を叩き斬った。

 あんたもフランメリアにすっかり染まってるな。お互い笑った。


「う、うああああああああああああああああっ! 俺だってええええええええええッ!」

「ホンダがやかましくしてごめんなさい! 私たちも来ました! 【アイシクル・ジャベリン】!」


 冒険者の力を遺憾なく発揮してると、今度は近くから氷の槍が飛んできた。

 また侵入して来たばかりの白き民に命中、肩口を抉って動きが止まる。

 続くホンダの戦士姿が押し入って、片手剣でやたらめったに斬り伏せたようだ。


「ホンダ君、初々しいっすねえ。勇ましいんだかびびってるんだかの曖昧さに突き動かされてるみたいっす」


 次の敵へ立ちふさがると、横並びのメイドが自動拳銃を抜いた。

 5.7㎜の乱射で敵が怯んだ、その隙にマチェーテで兜ごと頭を斬って叩く。


「その点ハナコは冷静だな、氷属性の魔法使ってると性格もああなるのか?」


 その場からサイドステップで射線を作れば、【ゲイルブレイド】がソルジャーの首を狩る。

 悔しいがこいつとの相性は抜群だ、今ならそこに切り込むタケナカ先輩もセットで。


「こんな時にあいつらを分析してるんじゃねえ、それとそんなこと言うからハナコに厳しく言われるんだぞお前は」

『聞こえてますからねイチ先輩! 今の言葉一生覚えて上げます!』


 次の敵も袈裟斬りにされて、こんな会話ができる余裕が生まれた。

 ちなみに俺の発言は本人にばっちり届いてたらしい、今日もハナコが冷たい。


「ん……だいぶ押してる?」

「敵の勢いが引っ込んでるぞ! もっと押すんだ!」


 ダメ押しでニクとクラウディアが更にこじ開けた、迫るナイトを穂先で怯ませて首を串刺しだ。


「スピリットタウンの件といいブルヘッドの件といい、お前と付き合うと激戦に巻き込まれる呪いがあるようだな。まじない師にでも見てもらえ」

「だんなさまっ! あたしにまかせてください……!」


 なんやかんやついてくるクリューサも九ミリ弾を撃ち込んで、追ったメカの斧がソルジャーを縦に叩き割る。


「待たせたのう! 急造手榴弾お待ちどうってやつじゃ!」


 戦いの場を押し広げてると、俺たちの開けた道にスパタ爺さんたちも駆けつけた。

 箱に何個か収まった手榴弾が手土産だ、木製の柄にずいぶん大きな弾頭がある。

 雑に絡んで固定するワイヤーが特に品質を語ってた――爆発部分先端には信管らしいキャップつきだ。


「大急ぎでなんてもん作ってるんだ!? 投げてもいいんだな!?」

「余った爆薬かき集めて作ってやったわ! 先端の信管からキャップ引っこ抜け! 摩擦で点火するから五秒以内に投げろ!」


 忙しい説明でいかに急ぎの品なのか判明したが、その通りに掴んだ。

 どんだけ爆弾が籠ってるのかずっしりと重い。

 弾頭の先をしゅっと引き抜けば、導火線が燃える手触りがして。


「全員気を付けろ! フラグ投下!」

「わはは! フラグ投下じゃ!」

「あの世に送ったるわ! 吹き飛べぇい!」

「ドワーフからのプレゼントだ、食らった感想後でよろしくな!」


 だいぶ勢いが削れた白き民の波へと、ドワーフの腕力に混じって放り投げた。

 くるくる重たげに散らばった即席手榴弾が東西をカバーするように届けば。


*zzzZBbbbaaaaaaaaaaaam!*


 絶対に普通の手榴弾とは縁のない、下品な爆発が横並びに立ち上がる。

 だが破片が足りちゃいない。見た目は派手だが削げたのは突撃の勢いだけだ。


「RE……Retirigi! RETIRIGIIIIIIIIIIIIII!」


 と思ったその瞬間だ、白き民たちの動きが変わった。

 謎の言語が高々と広がれば次第に止まって、森の方へと行き先を変えていく。

 要は逃げたってことだ。無防備に背を向けて引っ込んでしまった。


「……俺の見間違いか? あいつら引いてくぞ?」


 目で逃げる姿を追撃していると、やがて姿は暗がりに溶けてしまった。

 矢も魔法も飛んでこない。俺も、誰も、もしや「やったか」という感じで顔を見合わせると。


*ずずんっ……*


 代わりに不吉な音を感じた。

 森の奥からずん、ずん、と足音にも思える激しいリズムだ。


「ご主人! 何か妙なのが来た……!」


 ニクが耳と尻尾で全力の警戒心を見せて、そこでようやく気付く。

 ずっと遠くだ、踏みならされた草木の裏から堂々と姿を見せるやつがいた。

 その振る舞いに双眼鏡を覗けば、いい鎧を着たやつが馬鹿正直に現れた――『キャプテン』だ。


「…………おい、なんだあれは!? すごく大きいぞ!?」


 そんなものに目を取られてると、クラウディアがひどく驚きだした。

 無理もなかった、それより存在感を圧倒する何かがすぐに見えたからだ。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――ッ!』


 拡大されたキャプテンを何倍も追い越す、ひたすらに大きな奴がいるのだ。

 ノルベルトを難なく追い越して、アサイラムを飾る牛鬼に匹敵する高さがある。

 その上で言おう――あれは間違いなく白き民だ。


「……おいみんな、あれって見間違いじゃないよな? スペシャルサイズの白き民がいらっしゃらないか?」


 夜空の下で映えそうな青白さがそうだろう、骨も肉もみなぎる巨体にはあいつらの特徴がある。

 それにしてもおかしいのは腕だ、脇腹に一回り縮小した両腕が生えてた。

 総じて四本の腕はしっかり武装していて、小回りの利く盾を二つも持ちつつ、馬鹿でかい剣を二刀流という欲張り具合である。


「おい、馬鹿でかい白き民がいやがるぞ……!? スパタ爺さん、ありゃいったいなんだってんだ!?」


 ざわめきにタケナカ先輩も加わるが、この世界の事情を知ってるであろうスパタ爺さんを見るも……。


「あんなもん初めて見るわ!? 馬鹿デカくて腕が四本生えた白き民なんぞ知るもんか、初対面じゃぞ!?」

「長らくフランメリアで暮らしとったがあんなの今まで見たことなかったぞい! なんじゃあのガチバケモン!?」

「初めて見るタイプじゃねえか!? 逆に俺たちが教えてほしいぐらいだ、一体何事だありゃ!?」


 ドワーフの総意からしても「想定外」らしい。

 あれはもう白き巨人だ。アサイラムの民意も「なんだあれ」で呆気に取られてしまうが。


 ――ば゛きんっ!


 まさにその時、右後ろから粉砕音が響いた。

 ミナミさんたちの悲鳴も聞こえた、向けば見張り塔が壁ごとぶち破られていて。


『皆さん! 前です! 前から大きなクロスボウが……!』


 冴えない中年狩人の注意があって、ようやく異変に追いついた。

 向こうの景色から大きな黒影が飛んできたのだ。

 かと思えば、今度は後ろで土嚢がばふっと弾ける。

 そこに視線が集えば、丸太を大胆に削ったような『杭』が袋に刺さっていて。


『WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!』

『MORTIGI! MORTIGI! MOOOOOOOOOOOOOOOOORTIGI!』

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……ッ!』


 森からあのずんずんとした足音が、三人分の巨体と共に飛び出てきた!

 剣だの盾だの、両手に棍棒だの、挙句にアホみたいに大きなクロスボウを握っていたりと彩りクソ豊かだ。


「――こっちに来るぞ! 見とれてないでいったん引けお前たち!」


 その悪い意味で真新しい光景に一喝を処方してくれたのはお医者様だった。


「あー……医者的にもやべえらしいぞ! 撤退だ! 畜生なんだあのバケモンは未来の俺の仕業か!?」

「ふ、ふざっ……! 全員下がれ! ホンダ、ハナコ、土嚢で射線切って遠くに逃げろ!」

「わしらも知らんわあんな規格外のバケモン!? 離れろお前さんら、あのバリスタみてえな奴に当たったら五体不満足じゃぞ!?」

「ノルベルトより屈強なのがいるとは信じられんぞ! 下がるんだみんな、このままじゃ押しつぶされるぞ!」


 驚く暇もなくなった、全員で急いで拠点の中へ雪崩れ込む。

 けれども振り返れば、あのでかい図体から来る歩幅がやすやすと迫っており。


 がこん。


 ちょうどその先だった。

 クロスボウ持ちが立ち止まり、四本腕で再装填した矢をこっちに向けてくる。

 アサイラムをぶち壊したあの威力が間違いなく俺を狙ってた。


「おっ――おいおいおいおいふざけんな」


 ぐぐっと力が籠めるのすら見えた。もう駄目だ避けるしかねえ!

 逃げる流れに反して振り返れば、軽々構えた巨大な得物に睨まれた。

 左か? 右か? 動こうとするも、顔のない頭はそれすら逃がさんとばかりに視線を送っていて――

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここはアラモ砦じゃないんだぞと言わんばかりの激戦っぷりと新手の白巨人(しかも3匹) ニシズミから百鬼取り寄せないと(無茶ぶり)
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