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魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー  作者: ウィル・テネブリス
魔法の姫とファンタジー世界暮らしの余所者たち
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39 アサイラム・レイド(2)


「最悪のパターンを当てやがったなくそったれ! なんだってんだあの数は!?」


 あの厳つい先輩が大慌てで太矢を放つのも仕方がなかった。

 がしゅっ、と強く放たれたそれが強調された白い連中のどこかに吸い込まれた。

 すると茂みの裏から、木々の間から、一面に見える光景から「こそこそ」した白さが遠慮なく動き始め。


『Trovita! TRAROMPIIIIIIIIIIIIIII!』


 先頭の皮鎧を着た蒼白さが、あの理解できない潰れ声と共に剣を掲げた。

 夜中をつんざく一声に、背に控える仲間たちが駆け出した。

 その数は我ながら嫌な表現でいうなら()()だ。

 どこかで息を殺してたであろう顔のない長身が、森を攻撃的に進んでくる。


「組織的にお邪魔しにきてやがるのは確かだろうさ!」


 突撃銃に手を伸ばした、ライフルグレネードを掴むととニクに遮られて。


「ご主人、危ない……!」


 その言葉の通りになった、ひゅっ……!と不吉な音が広まる。

 照らした暗闇の向こうから重さが飛んできた――矢だ、周りに金属の尖りがかつかつ刺さってく。

 流れた幾つかを愛犬の穂先が払い落としてくれた、グッドボーイ!


「くそっ、そりゃ弓兵もいるか! どっから撃ってきやがるあいつら!?」


 矢の雨があちこちに広がる中、装填した擲弾を向こうに向けた。

 何処のどいつの仕業だ? 照らされる白き民たちの姿に狙いを定めるも。


 ――ばきんっ。


 横で不吉な破壊音。なんてこった、サーチライトがぶち抜かれた。

 向こうの狙いは適当じゃないってことだ。お返しの小銃擲弾を食らえ。


*BAAAM!*


 突撃銃をがっしり抱えて、最後に見えた姿を頼りに打ち込んだ。

 また暗闇に戻った森のどこかで、ぼふっ、と灰色が立ち上がる。

 そこで白い形が何人か吹っ飛ぶのも同じくだったが、なお止まらない勢いが有刺鉄線まで迫ってた。


「あいつらの後方だ! 森の中からこっち狙ってやがる!? イチ、全員たたき起こさねえとやべえぞ!?」

「今そうしてるところだ! とびきり騒がしくしてやるから身体隠せ!」


 タケナカ先輩も暗闇のどこかに矢を打ち込むも、目に見えた手ごたえはない。

 しかも狙いを強めた援護射撃がまた近づいてきた、急いで伏せると監視塔に無機質なノックが山のように重なった。


『て、敵だッ!? なんなんですか、あれ!? すごい数の白き民が……!?』

『驚いてる場合じゃないでしょホンダ!? 先輩がた、私たち寝てる人たちたたき起こしてきます!』

『ひ、ひいいいいいいいい……!? なにこの矢……!?』

『退こう! 私たち狙ってきてるよ!?』

『マジで来おったか!? なんじゃあのすげえ量!? 一面白き民だらけじゃぞ!?』

『あんなおるとかわしら聞いとらんぞ!? スパタ、南側に照明弾打ち上げろ!』

『南に備えといたのは正解だな! あいつらもう指向性地雷の間合いだ、早く起爆しろ!』


 今夜の見張り当番とドワーフたちは大騒ぎだ。

 ひゅんひゅん飛んでくる矢にまたサーチライトがぶち壊され、見晴らしの良さに立っていた奴らがたまらず逃げていく。


*Brtatatatatatatatata!*


 挙句に向こうじゃ銃声だ、タカアキが銃座の機関銃をどこかに撃ちまくってる。


『いっっっってええなあオイ!? やりやがったなこの野郎! おらっ! 数倍返しだこの二足シロアリどもが!』


 矢が滅茶苦茶に飛んでくる中、我も忘れて敵を追いかけてた。

 あの取り乱し方からして矢を食らったか? たぶん被害は脳と心臓以外だ。 


「地雷を起爆しろ! もう一番近いトコまで来てやがるぞ!」

『聞こえとるかイチ! もう射程内じゃ、早くぶちかまさんと無駄になるぞ!』


 矢をやり過ごしてると、タケナカ先輩とスパタ爺さんの指示が飛んで大忙しだ。

 南からかばふっ!と指向性地雷の爆発も響いた、発生源からしてかなり近い。

 矢の次は魔法だ、炎の赤や氷の青が拠点をべきべきっと害していく。


「起爆するぞ! ニク、その間にあの馬鹿落ち着かせてこい! あれじゃ弾の無駄だ!」

「ん、任せて」


 やみくもに撃ちまくる幼馴染はわん娘に任せて、こっちは客のお出迎えだ。

 立ち上げたPDAの信管コントールから数個まとめて選択し。


「――ようこそアサイラムへ、次は地獄に落ちろ!」


 起爆した。しかるべき場所に中指を立ててからだが。


*zzZBAAAaaaaaaamMmm!!*


 南でやかましい祝砲が派手に上がった。

 設置場所は鉄条網あたりだ、これで近寄ったやつらは三つの巨大な散弾銃に薙ぎ払われたはず。

 あわせてニクが走った、機関拳銃を敵に撒きつつタカアキを止めに行ったらしい。


「冗談だろ!? まだ後ろに控えてやがるぞ!?」

「おうおうアホみたいに来おって! イチ、わしらも全力で接待してやらんといかんぞこりゃ!」


 が、この状況にタケナカ先輩とスパタ爺さんが好ましくなさそうな顔だ。

 無理もなかった、数え切れない白き民が草原を踏みにじってるのがぼんやり見えるからだ。


「備えといて正解だったな! 夜分遅くに失礼しやがってあのクソ野郎ども!」

「だが時間は稼げたみてえだぞ! 足も止まった、今のうちに撃ちまくれ!」

「わはは、こんだけやかましくすりゃ皆のものもたたき起こされるか! そのまま騒いで眠気も吹っ飛ばしてやれ!」

『この派手な音は紛れもなく敵襲、我々も参戦せねば』

『い、イチ君!? この音はもしかして敵襲ですか!? 今行きますからねー!』

『白き民が来たぞ! 起きろみんな! 南の方だ!』

『敵だよー! 急げ急げー!』

『ほんとに来ちゃった……! 料理ギルドの人達をステーションに避難させないと、早くして!』


 振り向けば騒音で起きた冒険者の大慌て模様、いい目覚ましになったみたいだ。

 そしてドワーフの運んできた五十口径の弾薬箱に、元自衛隊員の手でがちゃりと薬室を検められる重機関銃――まさに都合よし!


「よう、ちょっと早いけどおはようお前ら! お先に騒がしくしてたぞ!」


 台座に支えられた12.7㎜の機関銃について、遠くの景色に向けた瞬間。


*zbBashmmmmm!*


 拠点の方から鋭い炸裂音、スティレットのものだ。

 すると森の上空でばつっと光が立つ――照明弾だ。


『もっと騒がしくしてやったぞ! やっちまえ!』

『いいぞいいぞ、これぞフランメリアってやつだ! 俺たちの住まいにきたことをあの世で後悔させてやろうぜ!』


 なるほど。後ろにいるドワーフたちの粋な計らいらしい。

 問題はそれで敵の正体が判明()()()()()()ことだ。

 宙で煙を引く作り物の太陽のおかげで、数えるのも嫌になるほどの白い人型がそこらを埋め尽くしていたのだから。


*Dodododododododododododododom!*


 木々から出てくる数体の動きに久々の五十口径をぶちかました。

 押したトリガから伝わる振動に身も足場も揺れまくるその向こうで、走り出そうとした敵が派手に裂かれた。

 いきなりの大口径弾に足が鈍るのがはっきりだ、どどどどっと短く撃ち込んで追いかけて食いとめた。


『Ne――Ne-HALTU! IRU! IRUUUUUUUU!』


 今度は森の奥から作り物の叫びが響いた。

 勇ましいようにも感じるそれに、白き民たちはアサイラムに向かって一斉に勢いづいていく。

 どこにいやがったのやら、どこにそんな体力があるのやら、武具を纏った長身が白い波さながらに迫ってきた。


『おっ応戦! 応戦しないと! 撃て撃て撃てー!』

『なんだよあの量!? だ、大丈夫なのかここ!? 俺たちやばいんじゃ!?』

『そんなこといってないで迎撃しないと! 落ち着いて狙って撃って!』


 こっちも巻き返し始めた、引っ込んでた見張り番が銃声を合図に戻ってきた。

 塔のつくりや通路の腰壁を身の守りにすると、慌ただしい様子でクロスボウを放つ。

 でもたかだか数人だ、そいつらが太矢を撃ったところで勢いが留まるはずもない。


「いたぞ、右側の森だ! 『メイジ』級がいやがるぞ!」


 どんどん近づく物量を銃弾でもてなしてると、タケナカ先輩がどこかをクロスボウで追いかけた。

 無防備に走る一体の頭に矢が刺さる場面から右にずらせば……見つけた。

 うっすらと照らされた人型が木のそばでマナの青さを組み立てていた、あれは魔法のモーションだ。


「あそこか!?」

「早くやれ! 来るぞ!」


 そいつに五十口径を振り回すのと、向こうで何かが発動したのは同時だった。

 冷気を纏った長い尖りがまっすぐ飛んでくる――【アイシクル・ジャベリン】か!


「心配するな、こちとら【魔壊し】だ。残念だったな?」


 生憎だったな、お前が相手にしてるのは魔法が効かない体質だ。

 氷魔法をひんやりを感じたが、そんなもの触れたところで粉々のかき氷だ。


*Dodododododododododom!*


 お返しは熱々の銃弾だ、木の幹ごと魔法の送り主をぶち抜いた。

 そこで気づいた。消えたメイジ級の後ろで何人かが西側へ回ろうとしてる――させるか。


「側面に回り込もうとしてるやつがいるぞ! 気を付けろ!」

「そりゃそれくらいするだろうさ! 逃がすんじゃねえぞ!」

「ったくなんつー数じゃ! いったいどんな気持ちでこんなデカい突撃かましとるんか気になるわ!」


 もちろんそいつらも撃ちまくった、先読みしたところに弾を落として防ぐ。

 その間、二人のクロスボウとレーザーライフルが正面側を迎え撃ったようだ。

 横目で分かるのは敵の勢いを多少削いだ程度だ、数が違い過ぎる。


「今分かるのはあいつらが本気ってとこだな! でなきゃあんななりふりで来るもんかよ!」


 そんな異様な質量に重機関銃をぐるっと向けた。

 ひどい光景だ。出所が謎の()()()ぶれが森をすり抜けてる。

 しかもざっくばらんに走ってるわけじゃない、こっちを意識してる。


 例えばその間隔。一見で雑に群がってるように見えるが、仲間と重ならないように絶妙な空きを作ってる。

 例えばその配置。盾を持ったり、良い防具をつけたやつが馬鹿みたいな体力で率先して囮を引き受けてる。

 例えばその支援。騒がしい前線の後ろで、また人影とマナの光が――


「Miiiiiiiiiii-Ricebis-Viiiiiiiiiiiiinnnn!」


 撃つにも狙うにも困らない敵の多さに迷いを感じた、その一瞬のことだ。

 見張り塔に顔のない白い上半身が這いあがってくる。

 前に見たあの気持ち悪いやつに違いない、小さな背丈やナイフがその証だ。


「畜生、また出たやがったなこのキモいやつ!?」

「そいつは【スカウト】だ! 一旦引け、近すぎる!」

「そういう名前だったか、一生覚えてやるぞこの野郎!?」


 俺が銃座を手放すのと、タケナカ先輩が剣を抜くのは同じだった。

 咄嗟にマチェーテを抜いたその瞬間、そいつが滑るように間合いを詰めてくるも。


「……ふ、ぅっ!」


 坊主頭の冒険者の装いが脱力から弾んで、俺たちに割り込むように踏み込んだ。

 姿勢を落としての突きの構えだ、よじ登ったスカウトが駆け出す寸前に引けば。


 ――ひゅっ!


 そんな空気を抜く音を立てて、素早い片手突きがそいつの顔を穿っていた。

 早い。避けられそうにない切っ先の一撃が仕留めたのだ。

 突かれたことに理解が追いつかないほどには――剣先から肉体が消えて、からんと刃物が落ちた。


「カッコいいフォローありがとう、今のはなんだ?」

「この前覚えた刀剣50の【ハイスタブ】ってやつだ、ここまで便利とはな……」


 どうもアーツらしい、一突き決めてくれた本人も戸惑ってた。

 ところが礼も言い合う暇もない、スパタ爺さんがレーザーの線をあちこちぶちかましながら退いてくる。


「まずいぞ! やつらいつのまにスカウト送り込んどる! 正面の派手なやり方に騙されんなよ!」


 状況のまずさも言葉で伝えてきたが、その通りだった。

 群れの合間合間に身軽に走るやつが混じってる。

 そいつは紛れもないスカウトの身振りで、仲間を追い越すに飽き足らず鉄条網までも飛び越えてた。


『敵が侵入してます……! 皆さん、ついてきてください! 私が安全な場所まで誘導しますから!』

『左右からスカウトが入ってるよ! 早くやっつけないとヤバいよこれ!?』

『こっちは俺たちに任せろ! 手の空いてる人は南側の防御に回ってくれ!』

 

 その数は何十、しかも拠点の内側まで達してた。

 つい向いてしまえば、リスティアナたちが料理ギルドの面々をステーションまで連れて行くところだった。

 チアルやヤグチも不法侵入者相手に立ちふさがる様子も一緒だ。


「――Kreinto! MOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOORRRTIIIII!」


 そしてたった今、監視塔まで上り詰めた奴も一名だ!

 腰壁の裏から出てきたそれにマチェーテを突き出した、タケナカ先輩ほどじゃないが手ごたえあり。


「ほんとにどんだけいやがるんだあいつら!? 百超えてるんじゃないのか!? タカアキ! スカウトを集中して狙え!」

「くそっ、すばしっこい奴で防御突破させてやがるぞ! 後ろにも気を付けろ!」


 硬質のゴムを貫いたような感触に蹴りもおまけすれば、おかわりの数人がぎくしゃく上ってくる。

 キャットウォークまで這いあがった顔が「こんにちは」だ、レーザーライフルの熱量が速やかに焼き抜くも。


「【アイシクル・ジャベリン!】」


 見張り塔にすがりつく誰かが、そんな魔法の言葉で冷たく貫かれる。

 女性的な子供っぽい声を見ればハナコのやつが連絡橋から援護してくれた。


「う、うおおおおおあっ当たれええええええ!」


 そんな杖をまっすぐ構えるやつの後ろ、あたふた矢をぶっ放すホンダもいた。

 行き当たりばったりな速射が登頂を果たしたやつの背に大当たりだ、残りは外れまくってるが。


「そこで立ち止まられるとちょっと困りますよお二人とも! 大丈夫ですか、皆さん!」


 更に援護が追加だ、日本人顔が駆けつけるなり絞った長弓を放つ。

 ミナミさんの一矢は「なんだお前」といいたいげに振り向いたスカウトの頭を狩った、流石は狩人。


「助かった! スカウトに突破されてる、お前ら気を付けろよ!」

「やるじゃねえかお前ら、よし前向きな状況になって来やがったな。正面からクソみてえにきてやがるぞ、急げ急げ!」

「遅いじゃないの、お先にやっとったぞ! 周りこんどるかもしれんから側面にも気を使えよ!」


 頼もしい三人を見張り塔につかせて南側に銃座を構えると――うわあ、なんてひどい光景だ。

 有刺鉄線の防御まで迫ったやつらが、スカウトのもたらす混乱に乗じて突破を試みており。


「Iru-Antauen-Sendependeeeeeee!!」

「Iru-Iru! Mortigi-Homoj-De-La-Malnova-Mondo!」


 とうとうそこまで迫った先頭が、文字通り後続の足場になっていた。

 足回りを取られ、白い身体をトゲ刺しにされつつも抜け出そうともがくやつ。

 そんなの上等とばかりに手持ちの盾や甲冑を着た我が身で鉄線を潰し、橋として仲間に踏まれるやつ。

 我が身を捨てたような狂った進撃がそこにあった、まさに地獄絵図だ。


「う、うわあ……!? あ、あいつら……無理矢理すぎだろ……!?」

「き、気持ち悪い……あれでも必死こいて迫ってくるなて、あいつらそんなに私たちのことが気にくわないんですか? 寝る前にひどいもの見せられてる気分なんですけど」

「ファンタジー世界なのに現代戦の恐ろしさを発揮してますねえ……いや、感心してる場合じゃないですね、迎撃しないと」

「どいつもこいつも感想口にできるってことはまだここも大丈夫そうだな、こっちに来る奴を優先的に狙え!」


 これには加わったばかりの日本人顔も気味が悪そうだ、ハナコの冷ややかな嫌悪感が特にそう。

 だがあいつらは掘った穴も乗り越えて、ついに目下の土嚢までたどりついてた。

 南側のゲートからもがんがん、ばんばん、と馬鹿力による物理的な破壊だって感じる――見事に張り付かれてる。


*Dododododododododom!*


 鉄条網と愛を育むそいつらを追い越して、後続のやつらに掃射を浴びせた。

 地面を踏み鳴らすほどの白を、照明弾の明るみに出た森の輪郭ごと撃って薙ぎ払う。

 敵の援護射撃も仕返しに飛んできた。どこからともない矢が、火の魔法が、足場や腰壁を壊していく。

 タカアキはどうした? 東側を目で探ると、銃身が真っ赤になった機関銃だけが残ってた。


「タカアキがいないぞ!? まさかやられたか!?」

「ちょっ……あ、あいつら登ってる! 登ってきてますよ!? 壁も突破してます!」

「ちょっとまずいです! あいつらが中に……【アイシクル・ジャベリン】!」


 あいつの安否を確かめる前に、ホンダ&ハナコの慌てようが混ざった。

 氷の槍を追いかければ、土嚢の高さを克服したやつらがとうとう侵入してきた。

 しかもそんな時に弾切れだ! 弾薬箱を外して、気づいたスパタ爺さんが取り換えて――ええい、間に合うか!


「Mi-Trovis-Gin!」

「Preni-Kontrolon-De-Ci-Tiu-Lokooooooooooooooo!」


 あきらめて突撃銃に切り替えた途端、二段積みの四角い土嚢の向こうから敵の勢いをぞわぞわ感じた。


「Trarooooooooopu!」


 その通りだった、どずんっ……!と、その防御が唐突に倒れていく。


「おっ……おい!? あいつら土嚢ぶっ倒してないか!?」

「ヘスコ防壁を崩すとかマジか!? ありゃ気合と根性で倒されるもんじゃねえだろ!?」

「それかよっぽど力持ちなんだろうな! ふざけんなどんなパワーしてんだ!?」


 目を疑ったのは当然だ。あの土嚢、一体どれだけ重いと思ってるんだ?

 タケナカ先輩と手が止まるほどに気を取られると、土をまき散らしながら弾き飛ばされたその向こうで。


「Sekvu-Min! IIIIIIIIIIIIIIRUI!」

「Sekvu-Ci-Tiun-Ulon!」

「Vivu-la-Nova-Homo!」


 力に自信がありそうな大柄の【ナイト】が巨大な槌を担いで突入してきた。 

 5.56㎜をぱきぱき打ち込むも勢いが止まらない、気づけばその突破口を頼りにどんどん他が押し寄せてくる。


「……もらいですっ! 【ルーセント・ブレイド】!」


 そんな最悪の場面に、最高の頃合いであのスペシャルスキルの名が上がった。

 ムツミさんたちを避難させたその足でやってきたリスティアナだ。

 狭まりから一列にやってきたやつらは運が悪いと思う、マナ入りの強烈な一振りでまとめて吹っ飛んだ。


「リスティアナ! 待ってたぞ!」

「ごめんなさい、皆さんの避難と中の敵で手いっぱいで……! 遅ればせながらリスティアナ参戦ですっ!」

「そいつは俺の責任だ! 来たやつは片っ端からぶった斬れ!」


 明るい水色髪のお姫様は今夜もにっこりだ、おかげで突入した敵が消えた。

 かと思ったら別の方からも土嚢がずっしり倒れた――東側も突破されたか!


『さっきは良くもやってくれたなあオイ!? こいつは俺からのお返しの気持ちだ、たっぷり味わえよオラァァァッ!』


 かと思えば、一体何があったのやらタカアキの元気な声がした。

 姿が見えなかったが多分そういうことなんだろう、遠くでスティレットを抱えていて。


*zbbashmmmmmm!*


 迫る白き民たちに爆発が上がった、それも一発どころじゃなく何発もだ。

 まるで砲撃とばかりにそこらで派手な爆発が起きれば、拠点にすがりつこうとした足もそりゃ弱まる。


「おい、お前の幼馴染が一段とどうかしてやがるぞ!? 何やってんだあいつ!」

「勝手にスティレット持ち出してあんな撃ち出しおってタカアキめ!? あれ一応貴重品じゃからな!?」

「俺に言うな! 文句と請求書はあいつに突きつけろ! それより敵が鈍ってるぞ、反撃のチャンスだ!」


 あれこれ言われるが俺の管轄外だ、五十口径のカバーを開ける。

 鉄条網に食い込むやつが良く見えた、早く装填しないと突破されるぞ急げ!

 弾帯を噛ませてレバーを引きつつ「やれ!」とあたりに一声かければ。


「待たせてしまって謝意の言葉しか思いつかない。敵を追いかけるのに手間取った、直ちに私も支援に入る」


 したっ、といきなり小さなエルフが後ろから物理的に飛んできた。

 本当にいきなりだ。しかもその後ろからまた違う誰かがすとんと落ちてくる。


「今来たよお兄さん! スカウトはみんなで仕留めたよ、中はもう大丈夫だからね!」


 トゥールも半分猫らしい着地を決めて合流だ、人懐っこい物言いの後ろを追いかければ。


『だんなさま! こっちは任せてください!』


 ……おそらくヒロイン二人をぶん投げたであろう素振りのメカクレメイドが声を張ってた。

 あいつもあいつで背中の斧をよいしょと抜けば、崩れた土嚢を越えてきた敵に身構えたようだ。


「Foriru-De-Tie! Vi-Monstroj!」


 やってきたのはまたナイトだ。大剣をひっ下げながらずかずか突き進む。

 重機関銃を向けようとしたものの――くそっ、射角が足りない。


「あなたは向こうの敵を押さえてほしい、ここは我々の出番」


 が、オリスがあの自分ほど大きな弓をぎゅっと絞った。

 近づく敵に淡々と弦を放てば、普通じゃない風切り音がその大きな人間の佇まいに飛んで。


「K――!? Kioooooooo……!?」


 その膝を防具の硬さごとぶちぬいたのだ、間違いなくアーツが乗ってる。

 誰かのクロスボウも続いたみたいだ、跪いたナイトの頭に太矢が咲いた。

 もちろんその程度で怯む敵じゃない、後続のソルジャーたちが代わりを埋めて、森からは白い人型が現れては駆けつけてくる。


「くそっ! 五十口径で抑え込めないとかどんだけ来てんだよ!?」


 ロリどもを信じて向こうの景色を撃つ、森から現れる白さを銃で追い回す。


「皆さん、遠くの敵じゃなく動きが鈍ったやつを優先して狙ってください! 敵の勢いを削いで他の方たちを支援するんです!」


 そこへミナミさんが矢を放ちながらも一声だ。

 クロスボウを持たされた冒険者やらが追加で駆けつけてくる。

 向かうはちょうど鉄条網に捕まった白き民、中にはがんじがらめにされたやつもじたばたする有様で。


「聞いたな!? お前ら、良く狙え! どこに当てるかは考えんな、とにかく全員で撃って制圧しろ!」


 タケナカ先輩も混じれば、即席の射撃部隊が見張り塔から連絡路にかけて勢ぞろいだ。

 攻撃を揃える間にまた魔法が飛んできた。今度は火の弾だ――犯人を発見、南の木々の間か。


「敵の援護は俺が押さえる! タケナカ先輩の指示通り撃ちまくれ、いいな!」


 五十口径を数発切りの感覚でぶち込んだ、銃身が赤く染まって限界寸前だ。

 頭上にばんっ、と熱が叩きこまれて周囲がざわめいた。

 それでも揃った顔ぶれは得物を構え。


「――撃てッ!」


 厳つい声にならって、がしゅがしゅっと太矢が連なりを得て飛んでいく。

 応急的に作られた一斉射撃が囚われの白いやつを打ち据えるのは当然だ。

 囚われのご身分、仲間を踏みつけて向かおうとする輩、叩き切ったワイヤを超えるもろもろ、皆平等にぶち抜かれ。


「Malbo……Malbona!? Forta……!」「Ne-Cesu! Mortigu! Mortigu!」「AAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」「Damnu-Gin!」「OOOOOOOOOOOO!?」


 いきなりの統率の取れた攻撃に、敵は明らかに動揺していた。

 そこにまた「撃てッ!」を合図に第二射、さっきよりも定まった狙いで張り付いた敵を散らす。


「おー、お見事だね。それじゃオリスにイチ先輩、そろそろ行ってくるね?」


 弾幕が広がると、そばで機会をうかがってた猫系ヒロインがぴょんと飛んでいく。

 降りた先は――おい、ソルジャーのど真ん中だぞ。


「あいつ降りる先間違えてないかオリス!?」

「心配いらない、あれが彼女の戦い方。引っ掻き回すのが本望であり本業」


 重機関銃も一際強い熱を発して打ち止めだ、突撃銃を手に行方を追った。

 あの緑髪の猫系女子はすぐ下にいた、白き民たちの目と鼻の先だ。


「――ばあっ! びっくりした?」

「Malemi――KIO!?」


 するっと盾持ちの足元を抜けて、二本の剣で踊るように斬り付けていく。

 横腹をやられるか、咄嗟に防いで受け止めるか、なんであれそいつらは防御も崩してトゥールを追いかけ。


「まんまと引っかかりましたね、これが私たちの戦い方なんです。ご覚悟を」

「よそ見はいけないゾ、【ウォーター・ニードル】!」


 本当に嫌なタイミングでチーム・ロリどもの鬼ッ娘と魚ッ娘が追撃だ。

 メーアの水の太針が手前のやつを貫いたところに、追いかけるようなホオズキの一閃が割り込む。

 刀の振りで腹を斬られたやつが倒れれば、続く魚人の槍が振り向きざまの横顔を「ぐさり」だ。


「レフレクもいますっ! 【フォトン・アロー】ですっ!」

「援護ありがとねっ! いただきー!」


 そこへ頭上の妖精から光の矢が誰かを打ち、トゥールが剣で掻っ攫う。

 すかさず刀と槍のダブル攻撃が崩れた陣形を突いてぶった切れば。


「bone farita……! Sed-Jen! MORTU-CI-TIE!! Vi-MONSTROJ!」


 ナイトの佇まいがソルジャーたちをずんずんかき分けてきた。

 大剣と甲冑をセットにした大柄な身体が、どこか勇ましい謎の言語でロリどもの前に立ちはだかるも。


「――てええええええええええええええええいっ!」


 まさに今、そこに突っ込むやつがいた。

 小柄さから連想しがたい力で巨大な斧を振り回す、あのメカクレメイドだ。


 ――ごきぃんっ……!


 ある種の心地よさすら感じる、金属のぶつかり合う音が響いた。

 デカい得物同士に衝撃が走ったみたいだ。けれども分が悪いのはメカだ、背の小ささがよろめいてる。


「あたしっ……! もう、怖くないんだから……!」


 そんな細い叫びをあげて、あいつがぐるりと身体ごと斧を振り回した。

 そこへまた剣が一撃、遠心力込みの斧刃がまたぶつかって、とうとう火花すら立ち上がる撃ち合いが始まる。

 すさまじい迫力だった。敵も味方も、なんならクロスボウ部隊も一瞬手を緩めるほどで。


「……Malvigla! Ha-Ha-Ha-Ha!!!!」


 が、向こうだってそれなりの対応だ、笑ってやがる!

 重い一撃ずつを軽々と受け流すと、余裕の後ずさりで笑ったのだ。

 潰れた声が煽るような声色で、それでいながらもびゅんっ、と振り直した剣でまた身を固め。


「――油断、しましたね?」


 構えた向こうが進みだす、その時だった。

 引きずるような大斧動きがまた強打を食らわせる、と思いきや。


 ぶぉんっ……!


 馬鹿力を乗せた一撃を――手放しやがった。

 小柄さとフィジカルを生かしたハンマー投げの要領が、絶妙に嫌なタイミングでそいつに向かったのだ。

 メカの戦いぶりを舐めたばかりの様子は、まさかこうも遠慮なく得物を投げ捨てるところまでは気が行かなかったらしく。


「K、KIO!? N、Ne-Estu-Stulta……!?」


 ごぎんっ。一瞬見せた驚く姿に、そんな音と衝撃がぶつかった。

 回転と共にぶち込まれた太い刃の末路は、甲冑の厚みに守られたその胸だ。

 よっぽど強烈だったに違いない。自慢の防御ごと自信もぶち破られたのか、崩れて間もなく身体が消えて。


「……ごめんなさい。あたし、リーゼル様のお屋敷のメイドですから。お仕事の時は遊んじゃいけないって決めてるんです」


 ごろっと転がる自分の武器と敵の遺品に、なんとも冷ややかな声が向かった。

 クロナ、お前はあいつにどういう教育したんだ? なんであれよくやった。


「……今の見たか? どうも俺はあいつの雇い主らしいぞ?」


 拍手でも送ってやりたいところだが、今はこらえて周りにそういった。

 すると俺とあいつの関係性が分かってる周りの皆さまは、次第にくすくすと笑いだして。


「だったら怒らせないように機嫌を取るんだな、その方がいいぞ」

「おっかねえ子メイドにしたんじゃなあ、やるじゃないのあのキュクロプスめ。わし気に入ったぞ」

「俺ずっと気になってんですけど、なんであの子イチ先輩のメイドさんになってるんですか……?」

「ナイト、倒しちゃいましたね……イチ先輩、メカちゃんにセクハラしてましたけどほどほどにした方がいいですよ。首飛びますよ物理的に」

「ヒロインの力恐るべきですねえ、いやあいいもの見せてもらいました。見てくださいよ、みんな士気が上がってますよ?」


 みんな口々だが、あいつの活躍で周りが湧きたってるのを感じる。

 土嚢の間を潜り抜けた増援も化け物を見るように腰が引けてるのだ、メカの活躍が雰囲気を変えてる。


「やりましたねメカちゃん! このまま押し返しますよー!」

「メカすごいじゃん! あーしも負けてられないし! 行くよみんなー!」


 あの不名誉な死に方でヒロインどもなんてやる気いっぱいだ。

 リスティアナが手近なやつに切り込んで、チアルが剣先もろとも羽をばさばささせて接近していく。

 そのまま今夜の侵入者をご退場とばかりに巻き返すのだが。


『Oooooooooooooooooooooo!』

『Komenco-De-Sturmooooooo!』


 向こうだってしぶとい、南のゲートが破壊的な騒音でやかましくなる。

 かと思えばごがんっと重みのある衝撃が扉をへこませ――へし折れた。

 つまり突破されたってわけだ、威勢のあるナイトたちが獲物を物々しく掲げて突っ込んでくる。


「ヤバいぞ! いったん引けお前ら! ナイトが突入してきた!」


 咄嗟に突撃銃で牽制した。

 無数のクロスボウも連なって、かなりの弾幕が一斉にそいつらを襲ったはずだ。

 ところがびくともしないのだ、ソルジャーたちを相手取るヒロインたちの横合いに、お構いなしで迫っていき。


「あっ……きゃっ、きゃああああああああっ……!?」


 運悪く狙われたやつが出た、メカだ。

 応戦しようと構えたところにメイスを持ったやつが打ち込んできたのだ。

 あいつはもちろん斧で防ぐも、がんがんひどい音を立てて押され始めた。


「……おい! 機嫌取れって言った奴の責任だからな、行って来る!」


 ヒロインたちの白兵戦が連絡橋近くまで迫ったのを見て、俺はすかさずチャンスを感じた。

 何をするかって? どっかの先輩のアドバイス通りにするだけだ!


「……待てイチ! お前まさかその口ぶり」

「ご主人参戦ってやつだ! 行くぞニク! ついてこい!」


 おっかない新米メイドのご機嫌を取るべく、突撃銃に着剣して――跳んだ!

 それからわん娘もだ。

 「ん」と呼ばれてついてくるなり、白き騎士へのダイブに付き合ってくれた。


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